日々、当たり前のように行なっている「睡眠」。実は、私たちが健康に過ごすうえで欠かせない重要な役割を担っています。その仕組みや役割はもちろん、睡眠不足のデメリットから“質のいい眠り”を手に入れるためのアドバイスまで、医学博士の西野精治先生に教えていただきました。今回は、「午後の眠気対策」について。
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Q13.ランチを食べた後、午後に眠気を感じるのはなぜ?
医学博士
スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。日本睡眠学会専門医。ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)など。
A13.体内時計の自然な仕組み。日々の睡眠やカフェイン、仮眠で対策を
昼食後、しばらくすると体がだるくなって眠くなる──この眠気は、「アフタヌーンディップ(ポストランチディップ)」と呼ばれます。満腹になると消化器官への血流量が増えるため、脳への血流量が減って眠くなるという説を聞きますが、脳への血流は常に最優先で確保されるので、この説は正しくありません。
満腹感から気だるくなることはありますが、昼食をとらない日でも眠気は襲ってきます。つまり、午後の眠気は食事の影響ではなく、「体内時計(生体リズム)」の影響と考えるほうが自然です。睡眠や覚醒のタイミングを決定する体内時計のひとつ「概日リズム(サーカディアンリズム)」のリズムを見ると、14〜16時頃に強い眠気が現れることがわかっています。そもそもの体内時計の仕組みとして、昼間に眠くなるのは自然なことなのです。
では、アフタヌーンディップはどう撃退すればいいのでしょうか。実証されたもっとも効果的な方法は、 毎日の睡眠時間を少しでも増やすことです。また、噛むことには脳を覚醒させる働きがあるので、ランチをよく噛んで食べたり、ガムを噛んだりすることも日中の対症療法としては有効です。コーヒーなどカフェイン入りの飲みものをとるのもいいでしょう。
ただし、眠る前にカフェインをとるのは要注意です。就寝1時間前と3時間前にコーヒーを1杯ずつ飲むと、寝つくまでの時間が10分ほど長くなり、睡眠時間は30分ほど短くなるという報告があります。血中のカフェイン濃度が半分になるまでに4 時間ほどかかるともいわれます。眠る前にコーヒーを飲みたくなったときは、デカフェ(カフェイン抜きのコーヒー)を選んだほうがよさそうです。
強烈な眠気には、20分程度の「パワーナップ」もおすすめ
対症療法が効かないほどの強烈な眠気には、仮眠もおすすめです。生産性を上げることを目的とした短時間の仮眠は「パワーナップ」と呼ばれ、世界的な企業が積極的にとり入れています。
ある実験で、数日間連続して起きていても、12時間ごとに2時間の仮眠をとると、仮眠後のパフォーマンスが向上すると立証されています。日常生活で2時間の仮眠をとるのは非現実的ですが、1日20分程度の仮眠でも、ある程度の効果が得られることがわかっています。
パワーナップをとるときに、30分以上寝るのは避けましょう。眠りが深くなって睡眠慣性が出やすくなり、起きてからの集中力も低下してしまいます。また、これは子どもに顕著な減少ですが、夕方以降に眠ると夜に睡眠圧(眠りたい欲求)が上がらなくなり、夜遅くまで眠れなくなってしまう可能性もあります。それでも睡眠不足の大人は、できるだけ仮眠を心がけてください。
構成・取材・文/国分美由紀
出典/『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)