日々、当たり前のように行なっている「睡眠」。実は、私たちが健康に過ごすうえで欠かせない重要な役割を担っています。その仕組みや役割はもちろん、睡眠不足のデメリットから“質のいい眠り”を手に入れるためのアドバイスまで、医学博士の西野精治先生に教えていただきました。

教えていただいたのは…
西野精治

医学博士

西野精治

スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。日本睡眠学会専門医。ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)など。

Q1.基本的な睡眠の仕組みが知りたい。良質な睡眠につながる理想的なリズムってありますか?

Q1.基本的な睡眠の仕組みが知りたい。良質な睡眠につながる理想的なリズムってありますか?

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A1.睡眠中は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」が交互に繰り返されます

睡眠の状態には、「ノンレム睡眠(脳も体も眠っている深い眠り)」と「レム睡眠(脳は起きているが体は眠っている浅い眠り)」があります。睡眠中は、このノンレム睡眠とレム睡眠が交互に繰り返されています。

夜になるにつれて、眠りを促すホルモン「メラトニン」の分泌が少しずつ増えると、体温、 血圧、脈拍が下がり、自然と眠くなっていきます。さらに、起きてから14〜16時間ほどたっていれば「睡眠圧(眠りたい欲求)」も十分に高まっているので、多くの人はベッドに入って目を閉じてから10分程度で入眠します。

入眠後は段階的に眠りが深くなり、最初の深いノンレム睡眠にたどり着きます。ノンレム睡眠の深さは4段階に分けられ、入眠直後のノンレム睡眠はもっとも深く、長く続きます。ノンレム睡眠の持続は、一晩で4〜5回出現しますが、2回目以降のノンレム睡眠が1回目より深くなることはありません。

そして、ノンレム睡眠のあとに現れるのがレム睡眠です。レム睡眠時の脳は覚醒しているときと同じくらい働きますが、体は眠っているので筋肉は弛緩し、ほとんど動かず眠ります。その後、一定の周期でノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返し、朝を迎えます。

「黄金の90分」が眠りの質を左右する

質のよい睡眠を目指すうえで意識してほしいのが、入眠後、最初に現れるノンレム睡眠です。寝始めのノンレム睡眠は、睡眠周期の中でいちばん深く、およそ90分続きます。ここでしっかり眠れると、その後の睡眠もよい状態になります。睡眠全体の質を左右する最初の90分を、私は「黄金の90分」と呼んでいます。

入眠後、眠りが徐々に深くなることで、自律神経は交感神経優位から副交感神経優位な状態へと切り替わり、脳も体もリラックスします。自律神経が整うと、ホルモンバランスもよくなります。なかでも人の成長や新陳代謝にかかわる成長ホルモンは、最初のノンレム睡眠時に全体量の70〜80%が分泌されます。

つまり、最初の90分で質のよいノンレム睡眠が現れないと、ホルモンの分泌量を大きく減らしてしまいます。「黄金の90分」をいかに深く、快適に眠るかが、睡眠の質を高めることにつながるのです。

Q2.睡眠=単なる休息、じゃない? そもそもの役割を教えて!

Q2.睡眠=単なる休息、じゃない? そもそもの役割を教えて!

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A2.睡眠は脳の休息や自律神経の調整、記憶の定着など、重要な役割を担っています


睡眠には、健康に生きるために欠かせない5つの大きな仕事(役割)があります。


①脳をしっかり休ませ、体をメンテナンスする。
②自律神経やホルモンバランスを整える。
③記憶を整理して定着させる。
④免疫力を上げて抵抗力を高める。
⑤脳の老廃物を除去する。

睡眠が自律神経をリラックスモードに切り替える

自律神経は、心臓をはじめとする内臓の働きや体温、代謝などの調節を24時間休むことなく行なっています。交感神経と副交感神経があり、1日の中でも時間帯や活動状況によって、どちらか一方が30%ほど優位に働きます。

交感神経が優位になると、血圧が上がり、筋肉や心臓の動きも活発になるため、脳も体もアクティブな興奮状態となります。一方、副交感神経が優位になると血圧が下がり、心臓の動きや呼吸も穏やかな状態になります。健康な状態であれば、日中は活動モードの交感神経が優位となり、食後や睡眠中はリラックスモードの副交感神経優位に自然と切り替わります。

ところが、現代人のライフスタイルは、 緊張やストレスから交感神経優位の状態が続きがちで、脳も体も疲れやすくなっています。睡眠は活発な状態の交感神経を弱めて、副交感神経を優位にする役割を担っているので、その機能をうまく生かしたいところです。

睡眠はホルモンとの関係も密接です。代謝や体の成長を促進する「成長ホルモン(グロースホルモン)」は、入眠直後の「ノンレム睡眠(脳も体も眠っている深い眠り)」で分泌が活発になります。生殖や母性行動にかかわる「プロラクチン」は、入眠直後から分泌が始まり、睡眠の後半に増加します。つまり、正しい睡眠が自律神経を整え、正しいホルモンバランスをみちびくのです。

Q3.睡眠不足だと免疫が低下するって本当ですか?

Q3.睡眠不足だと免疫が低下するって本当ですか?

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A3.本当です。睡眠不足は免疫力を低下させ、感染症のリスクを高めてしまいます

免疫力と睡眠は、深く関係しています。カリフォルニア大学の調査では、健康な164人に点鼻薬で風邪ウイルスを投与し、睡眠時間別の発症率を調べたところ、睡眠時間が5時間未満の人たちは7時間以上の人に比べて、発症率がおよそ3倍にもなりました。睡眠には、細菌やウイルスに対する抵抗力、つまり自然免疫を強くする効果があるといえます。

風邪やインフルエンザにかかると、熱が上がって苦しくなり、とても眠くなります。これは免疫が正しく機能している証です。ウイルスが体内に侵入すると、その情報を受けとった免疫細胞が「サイトカイン」という生理活性物質の一種を出して、別の免疫細胞に指令を送ります。すると、指令を受けた細胞がウイルスに感染した細胞への攻撃を始めます。

サイトカインは、免疫細胞が十分に機能してウイルスと闘えるように体温を上げ、体を休めるなどといった指令も出してサポートしています。そのため熱が出たり、眠くなったりするのです。「風邪は寝て治す」としばしば耳にしますが、免疫が正しく機能するように、適切な睡眠で体を整えておくことも大切なのです。

さらに、予防接種をしても睡眠が十分でないと抗体反応が弱く、その効果が認められなかったという報告もあります。睡眠不足は感染症にかかるリスクを上げるだけでなく、感染からの回復も遅くさせてしまいます。日頃から十分な睡眠を確保して、免疫力を高めておくことが有効なのです。

Q4.「朝型」「夜型」「ショートスリーパー」の違いは、生まれつきの体質ですか?

Q4.「朝型」「夜型」「ショートスリーパー」の違いは、生まれつきの体質ですか?

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A4.遺伝的な要因がほとんどですが、「朝型」と「夜型」は環境的な影響も

朝から活動的な「朝型」の人と、夜ふかしが得意な「夜型」の人の割合は、それぞれ20%ずつで、極端な朝型と夜型が5%ずつの分布になっています。そして、残りの50%の人はどちらでもありません。

1日の体温の変化を比べると、朝型か夜型かがわかります。平均より前の時間帯にずれていれば朝型、後ろにずれていれば夜型ですが、その差はせいぜい2〜3時間程度です。朝型は、早朝から体温が上昇するので、覚醒の準備が早く整い、目覚めてすぐに活動を始められます。そして、夜になると体温が急激に低下するため入眠しやすく、眠りにつくまでの時間が短いのも特徴です。

一方の夜型は、夕方から夜にかけて体温の高い状態が続くので、夜遅くまで元気に過ごせます。その後、平均より遅い時間帯に体温が下がりはじめ、早朝にもっとも低くなります。朝の体温上昇も遅いので、覚醒レベルが上がるのも遅く、昼すぎくらいまですっきりしません。

極端な朝型と夜型は遺伝で決まっているケースが大半ですが、多くの人は年齢や生活環境などの影響も受けるので、朝型、夜型のタイプが変化することもあります。

ショートスリーパーは遺伝子で決まる特異体質のようなもの

短時間睡眠でも体はいたって健康で、生活への支障も一切現れないタイプの人は、一般に「ショートスリーパー」と呼ばれます。

ショートスリーパーはトレーニングをしてなれるものではありません。スタンフォード大学の研究で、6時間未満の睡眠でも健康を維持している親子に着目し、その親子の「時計遺伝子」に変異があることを突き止めました。さらに、この親子と同じ遺伝子をもつマウスをつくって調べたところ、ショートスリーパーは遺伝子によって決まる、生まれながらの特異体質のようなものだとわかったのです。 

Q5.最近よく聞く「睡眠負債」ってなんですか?

Q5.最近よく聞く「睡眠負債」ってなんですか?

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A5.「睡眠不足」が借金のように積み重なっている状態です

「人間は一定の睡眠時間を必要としており、それより睡眠時間が短ければ、足りないぶんが蓄積する。つまり、眠りの借金が生じる」
これは、私が在籍するスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所の創設者であるウィリアム・C・ディメント教授が1990年代から使いはじめた「睡眠負債(sleep debt)」の概念です。

ペンシルバニア大学が、21〜38歳の健康な48人を4つのグループに分け、それぞれに睡眠時間を決めて行った実験によると、次のようなことがわかりました。

◆6時間睡眠を続けていると、10日後の集中力や注意力は、1日徹夜したときとほぼ同じになる。
◆4時間睡眠を2週間続けると、集中力や注意力は3日間徹夜したときとほぼ同じレベルまで衰える。

徹夜した後なら、疲れや眠気によるパフォーマンスの低下を自覚できますが、ペンシルバニア大学の実験で4時間睡眠と6時間睡眠を続けたグループは、必ずしも脳の働きの衰えを自覚できていませんでした。

小さな睡眠不足が積み重なり、知らないうちに大きな「睡眠負債」におちいっていたのです。気づかないことこそが、睡眠負債の恐ろしさです。

蓄積された「睡眠負債」は、休日の寝だめでは返済できない

睡眠負債がたまると、脳や体にダメージを与える危険因子が蓄積されていくだけでなく、 眠りたい欲求(睡眠圧)も強くなっていきます。平日の睡眠不足を、「休日に寝だめして解消する」という人がいますが、これは、たまりにたまった負債のほんの一部を返済しているにすぎません。

休日の寝だめでは、長くたまった睡眠負債を完全に解消することはできません。“寝だめ”とは呼ぶものの、睡眠を前もってためておく預金ではなく、負債をほんの一部返済しているに過ぎないのです。

Q6.睡眠不足が続くと太るのはなぜ? ほかにも体へのリスクはありますか?

Q6.睡眠不足が続くと太るのはなぜ? ほかにも体へのリスクはありますか?

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A6. 睡眠不足は食欲にかかわるホルモンに影響します。肥満や生活習慣病、がんの発症リスクが高まり、瞬間的な居眠りも発生!

質の悪い睡眠や慢性的な睡眠不足は、日中の眠気や判断力の低下だけでなく、免疫力を下げ、 ホルモン分泌や自律神経に悪影響を与えます。

例えば、食欲にかかわるホルモン分泌に異常をきたすと太りやすくなり、悪化すると糖尿病や高血圧などの生活習慣病を引き起こします。心筋梗塞や脳血管疾患、がんの発症リスクも高まります。そのほか、うつ病など精神疾患のリスクを高めることもわかっています。

寝ていないことは自慢できることではありません。日本において、「睡眠が正しく管理されていないことによる経済損失は年間15兆円」という試算もあります。睡眠不足は産業事故をはじめ、社会全体で大きな損失を生むのです。どんな仕事も、十分な睡眠を確保できる働き方が求められます。

ホルモンバランスの異常で食欲が抑えられなくなってしまう

「短時間睡眠の女性は肥満を表すBMI値(体格指数)が高い」。これは、肥満と睡眠時間の関係について、サンディエゴ大学の研究報告によってわかったことです。夜ふかしをすると、つい余計なものを食べてしまいがちです。実際、スタンフォード大学の学生と実験を行なったときにも多くみられた典型的な行動でした。夜遅くに食べることも積み重なり、肥満につながっていくと考えられます。

なぜ、眠らないと食べてしまうのでしょうか。それは、起きている時間が長いから食べる量が増えるのではなく、睡眠不足により、食欲にかかわるホルモンが影響を受けているからです。

米国・ウィスコンシン州の住民を対象に行なわれた「睡眠時間とホルモン分泌の関係」についての調査で、睡眠時間が短いほど、脂肪細胞から放出されて食べすぎを抑制するホルモン「レプチン」が減り、食欲を増加させる胃のホルモン「グレリン」が増えていることがわかりました。つまり短時間睡眠によって、ホルモン量が変化し、食欲が抑えられなくなることで食べすぎてしまうのです。

Q7.「睡眠障害」の原因と症状を教えてください!

Q7.「睡眠障害」の原因と症状を教えてください!

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A7. 睡眠障害=睡眠の異常から生活に支障のある状態です

症状や病態はいろいろありますが、睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)では大きく次の7つに分けられます。

①不眠症:寝つきが悪い、ぐっすり眠れないなど
②中枢性過眠症群:ナルコレプシーなどの過眠症
③睡眠関連呼吸障害群(睡眠時無呼吸症候群など):睡眠中に何度も呼吸停止が起こって覚醒反応が生じる
④概日リズム睡眠・覚醒障害:適切な時間に寝たり、起きたりできない
⑤睡眠時随伴症群:夢遊病など睡眠中に異常行動を示す
⑥睡眠関連運動障害群:脚がむずむずしたり、ほてったりして よく眠れない
⑦その他の睡眠障害:睡眠にともなう頭痛やてんかんなど

一般に睡眠障害というと、寝つきが悪い(入眠障害)、夜中に何度も目を覚ます(中途覚醒)、早く目が覚める(早期覚醒)、熟睡した感じがしないなど、眠れない状態を想像しがちですが、これらはすべて①の不眠症の症状で、本人が自覚できるケースが大半です。

一方、日中強い眠気に襲われ、起きていられなくなってしまう②の過眠症も、不眠症と同じくらいよくみられます。過眠の症状でもっとも多くみられるのは、③の睡眠時無呼吸症候群による2次的な過眠です。就寝中にたびたび呼吸停止が起こって目が覚めるため熟睡できず、日中の眠気が発生します。

「睡眠時無呼吸症候群」は21世紀の現代病

睡眠障害のなかでも近年特に増えているのが、21世紀の現代病ともいわれる「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。眠っている間にしばしば呼吸が止まってしまう病気で、③の睡眠関連呼吸障害群に分類されます。

3つ以上当てはまったら要注意。睡眠時無呼吸症候群によくある状態

【起きているとき】
□寝ているはずなのに強い眠気がある
□だるさ、倦怠感がある
□集中力が続かない
□いつも疲労感がある
□朝起きたときに疲れがとれていない
□20歳のときより10kg以上太った

【寝ている間】
□いつも、いびきをかく
□いびきがよく止まる
□呼吸が止まることがある
□息苦しさを感じて起きる
□何度も目が覚める
□寝汗をかく
□何度も尿意で目が覚める

Q8.睡眠の「質」を高める方法が知りたい!

Q8.睡眠の「質」を高める方法が知りたい!

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A8.ポイントは「深部体温」と「皮膚温度」の差を縮めること

良質な眠りを手に入れたいなら、「体温」に注目してください。体温は1日のなかで上がったり下がったりと変化しています。通常、人の体温は「日中は高く、夜間は低い」ものといわれますが、これは深部体温(脳や内臓など体の内部の温度)に限った話です。

深部体温と皮膚温度の「温度差が縮まること」が、入眠のカギです。眠気は深部体温が下がるにつれて強くなりますが、それだけでは不十分なのです。深部体温と皮膚温度の差が縮まると眠気がさらに増すので眠りやすくなり、睡眠全体の質を左右する「黄金の90分」を手に入れることにもつながります。

眠る90分前の入浴で、体温を「上げて・下げて・縮める」

深部体温と皮膚温度の差を縮めるうえで、もっとも有効とされる方法が入浴です。皮膚温度は深部体温に比べて変化しやすく、冷たい水に手をつければ冷たく、お湯につければ温かくなります。とはいえ、恒常性(生命を維持する働き)が保たれているので、例えば40℃のお風呂に入ったとしても同じ温度までは上がりません。上がってもせいぜい0.8〜1.2℃です。

一方、深部体温は熱をさえぎる筋肉や脂肪などの組織で覆われているので、周囲の影響をあまり受けません。しかし、入浴には深部体温をしっかりと上げる効果があります。実際に私たちの実験では、40℃のお風呂に15分入ったあとで深部体温を測定すると、0.5℃上がりました。深部体温は大きく上がると、その分だけ大きく下がろうとします。この作用により、深部体温と皮膚温度の差が縮まって眠りに入りやすくなるのです。

0.5℃上がった深部体温が元に戻り、さらに下がり始めるには90分以上の時間が必要です。つまり、就寝の90分前までに湯船につかって深部体温を上げておくと、眠る頃には深部体温が下がってきてスムーズに入眠できます。入浴する時間がとれない場合はシャワーなどで済ませることになりますが、残念ながらその際の入眠効果は期待できません。足湯や靴下などもうまく活用しましょう。

【おすすめの足湯方法】
⚫︎就寝30〜60分前に行なう
⚫︎40〜42℃のお湯を使う
⚫︎10〜15分つかる
⚫︎ラベンダーなどリラックスする香りのバスソルトを使うのもおすすめ

【靴下の活用方法】
手足が冷えて眠れない人は手足の毛細血管が収縮しているので、靴下をはいて足を温め血行をよくすることで熱放散を促進できます。ただし、靴下をはいたまま寝ると足からの熱放散がさまたげられ、かえって入眠を妨害してしまうので、寝る直前には脱ぐこと。
⚫︎寝る1〜2時間前からはく
⚫︎締めつけないゆったりサイズのものをはく 
⚫︎ウールなど天然素材のものを選ぶ
⚫︎ストレッチや足のマッサージをすると、より血行が促進される
⚫︎入眠時には脱ぐ

Q9.どうしても朝が苦手です…すっきり目覚めるコツはありますか?

Q9.どうしても朝が苦手です…すっきり目覚めるコツはありますか?

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A9.温度差や感覚刺激は“最高の目覚まし”に!

眠りにつくと筋活動が低下し代謝も落ちるので、深部体温はさらに下がります。睡眠中に体内の熱は体外へ放たれ、深部体温は低い状態で保たれます。そして、明け方に近づくにつれて深部体温は上がっていき、覚醒がはじまります。

深部体温と皮膚温度の差を広げることができれば、眠気が消えてより早く脳が目覚めます。

深部体温と皮膚温度の差を広げるには…
⚫︎水で手や顔を洗う
⚫︎冷たい水で水仕事をする
⚫︎朝ごはんを食べる
⚫︎あたたかい飲みものを飲む

目や耳、皮膚への感覚刺激もおすすめ

目覚ましなどで無理やり起こされると、いつまでも頭がぼんやりして眠気やだるさが消えないことがあります。なかなか覚醒状態に切り替わらないこの状態を「睡眠慣性」や「睡眠酩酊」と呼び、起きるタイミングが悪いことが主な要因と考えられます。

そもそも、寝起きの認知機能は1日の中でもっとも低く、活動中のピーク時と比べると6割程度。このときの脳波を測定すると、目は開いていても脳は睡眠中とほとんど同じような状態となっています。

そんなときにおすすめなのが、感覚神経を刺激すること。朝起きたら、すぐに目や耳、あるいは皮膚などから感覚刺激を届けると、睡眠慣性が解消されてしっかりと目覚められるはずです。

感覚刺激の一例
⚫︎裸足で冷たい床の上を歩く(皮膚感覚を刺激)
⚫︎カーテンを開けて太陽の光を浴びる(視覚を刺激)
⚫︎音楽やラジオをかける(聴覚を刺激)

朝の光を浴びて活動モードに切り替える

目の網膜が光を感知すると、その刺激が視床下部の視交叉上核にある体内時計をリセットし、地球の時間と体内時計とのズレをなくすことができるのです。特に朝の光は強いエネルギーを持つため網膜まで達しやすく、覚醒への影響が大きいとされています。目覚めたらまず朝の光を浴びると、体内時計が整い、眠気を覚ましてくれるのです。

20分間隔のアラームで起床のベストタイミングを狙う

「1回の目覚ましでは起きることができない」「二度寝してしまう」「寝起きが悪い」──そんな悩みを抱えている人は少なくありません。すっきり目覚めるには、レム睡眠のときか、その前後で起きるのがベストです。ベストタイミングを外さないために、目覚まし時計のアラームは2度に分けてセットするといいでしょう。

Q10.睡眠時間は長いほどいいですか? マットレスや枕の選び方も知りたい!

Q10.睡眠時間は長いほどいいですか? マットレスや枕の選び方も知りたい!

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A10. 睡眠は「量」ではなく、「質」のほうが重要です

実は、睡眠時間が長すぎても健康に支障をきたすという研究報告も出ています。

2002年にサンディエゴ大学のダニエル・F・クリプケ氏らが実施した100万人規模の調査によると、アメリカ人の平均的な睡眠時間は7.5時間でした。この調査の6年後、同じ100万人を追跡調査したところ、病気で亡くなった人がもっとも少なかったのは、平均値の7.5時間睡眠の人たちで、短時間睡眠(3〜4時間)の人だけでなく長時間睡眠(9〜10時間)の人も、平均値の人と比べて死亡率がおよそ1.3倍も高かったのです。

長く寝すぎると体内時計のリズムが乱れ、かえって疲れやすさや頭痛といった不調を引き起こしてしまいます。特に、一晩に9時間以上寝る人は、活動量の低下を招き、結果として肥満や脳卒中、心臓病などのリスクが高まることがわかっています。

マットレスや枕は「通気性」で選ぶのがおすすめ

眠っても疲れがとれない場合は、寝具が体に合っていないのかもしれません。寝具でまず重要なのは敷布団です。就寝中の体を支え、寝床の温度や湿度を快適に保ってくれる存在です。最近は、低反発や高反発のマットレスが注目されていますが、それぞれに特徴があります。

新素材の高反発マットレスについて、ある寝具会社に依頼されて調べたところ、通気性のよい高反発マットレスでは、入眠直後から深部体温がスムーズに下がり、その状態が4時間持続したうえ、眠り始めに深いノンレム睡眠が多く出現していることもわかりました。

通気性の重要さは敷布団だけでなく、ほかの寝具にもあてはまります。例えば、脳の温度は脳が活動的なときに上昇していますが、深部体温と同じく睡眠中に下がるので、快適な入眠を促すには「頭寒足熱」の言葉通り通気性のいい枕で効率よく冷やしましょう。むしろ脳が冷えることで、よい睡眠がおとずれるといっても過言ではありません。

Q11.睡眠不足とメンタルヘルスの関係を教えてください。

Q11.睡眠不足とメンタルヘルスの関係を教えてください。

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A11.睡眠不足はイライラを増長させ、ポジティブな気持ちを減少させます

20代の健康な若者を対象に、「8時間睡眠を5日間続けた後」と、「4時間睡眠を5日間続けた後」で、さまざまな表情の人の画像を見せて脳活動の様子を調べました。すると、睡眠時間が短いと、恐怖や怒りなど不快な表情を見たときに気分を悪くしたり、不安になったりしやすいことがわかりました。

脳には、感情が暴走しないようにブレーキをかける「前帯状皮質」と「扁桃体」がありますが、睡眠不足の状態だと、それらのブレーキがかかりにくくなることが明らかになったのです。周囲の人のちょっとした言動になぜかイライラしてしまうときは、睡眠が足りていないのかもしれません。

体内時計を整えるために実践したい5つのポイント

質のよい睡眠を手に入れるためには、体内時計が正常に機能していて、日中のメリハリが保たれていることが前提です。私たちの体は朝がくるとともに覚醒し、日中は活動状態を維持し、夜がくると眠くなり、睡眠状態へと移行します。本来のリズム通り規則正しい生活を送ることができれば、心身の健康は保たれます。

体内時計を整えるためには、規則正しい生活を送ることが何よりも大切です。普段から、次の5つのポイントを習慣づけておくと、ちょっとしたズレなら問題なく調整できるようになるはずです。

⚫︎習慣① 起きる時間をなるべく一定にする
⚫︎習慣② 朝起きたら、光を浴びる
⚫︎習慣③朝食をきちんととる
⚫︎習慣④日中はしっかり活動する
⚫︎習慣⑤体温変化を活かす

Q12.ベッドに入ってもなかなか眠れないとき、効果的な対処法はありますか?

Q12.ベッドに入ってもなかなか眠れないとき、効果的な対処法はありますか?

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A12.「モノトナス」で脳を眠りモードにスイッチしましょう

脳は、ささいな環境の変化や刺激にも反応します。眠る前の脳には極力、余計なことを考えさせないようにしましょう。「考えるな」といわれると余計に考えてしまうものですが、例えば電車の車窓から変わらない風景を見ているとき、難しい本を読んでいるとき、静かな映画を見ているときには、なぜだか眠くなる人も多いのではないでしょうか。

これは、脳が「モノトナス(単調な状況)」に退屈して眠くなっているのです。退屈は、日常生活ではあまり歓迎されないものですが、よい眠りのためには有意義なことといえるでしょう。

【モノトナスの一例】
⚫︎難しい本
⚫︎クラシック音楽
⚫︎変わらない風景
⚫︎古典芸能
⚫︎静かな映画
⚫︎炎のゆらめき など

また、「眠れないときは羊を数えるといい」という話がありますが、その際のポイントは「羊が1匹、羊が2匹…」ではなく、英語で「Sheep,Sheep,Sheep…」と数えること。「Sheep」は発音しやすく、息をひそめるような響きもあいまって、自然と脳をモノトナスな状態にすることができます。

眠くないときはベッドから離れる

不眠には、心理的な要因も大きく影響します。不眠に悩む人は、「寝られない」「眠らなくては!」という不安にとらわれがちなので、眠れないまま長い時間をベッドで過ごしていることが多いのではないでしょうか。

そんなときは、認知行動療法を試してみましょう。認知行動療法とは、誤った思考のクセ(認知)や悪い生活習慣(行動)を修正・改善することで、不安な気持ちやネガティブな感情がふくらまないようにする精神療法です。専門のセラピストの指導のもと、睡眠の正しい知識を学んで理解を深めたうえで自分の睡眠状態を正しく把握し、間違った認識や行動パターンを改善する方法を探っていきます。

例えば、眠れないときには次のような行動を通じて、ベッドや寝室を「よく眠れて心地よい空間」と感じられるように認知と行動を変えていくのです。

【眠れない日のおすすめアクション(一例)】
⚫︎眠くなるまで、寝床に入らないようにする。
⚫︎10分ほどしても眠れないときは、いったん寝室から出る。
⚫︎夜中に目が覚めてすぐに寝つけないなら、一度寝床から出る。
⚫︎寝床で読書や食事などをせず、寝るだけの場所と体に覚えさせる。 
⚫︎日中昼寝をせず、夜は眠る時間と習慣づける。

Q13.ランチを食べた後、午後に眠気を感じるのはなぜ?

Q13.ランチを食べた後、午後に眠気を感じるのはなぜ?

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A13.体内時計の自然な仕組み。日々の睡眠やカフェイン、仮眠で対策を

昼食後、しばらくすると体がだるくなって眠くなる──この眠気は、「アフタヌーンディップ(ポストランチディップ)」と呼ばれます。満腹になると消化器官への血流量が増えるため、脳への血流量が減って眠くなるという説を聞きますが、脳への血流は常に最優先で確保されるので、この説は正しくありません。

満腹感から気だるくなることはありますが、昼食をとらない日でも眠気は襲ってきます。つまり、午後の眠気は食事の影響ではなく、「体内時計(生体リズム)」の影響と考えるほうが自然です。睡眠や覚醒のタイミングを決定する体内時計のひとつ「概日リズム(サーカディアンリズム)」のリズムを見ると、14〜16時頃に強い眠気が現れることがわかっています。そもそもの体内時計の仕組みとして、昼間に眠くなるのは自然なことなのです。

では、アフタヌーンディップはどう撃退すればいいのでしょうか。実証されたもっとも効果的な方法は、 毎日の睡眠時間を少しでも増やすことです。また、噛むことには脳を覚醒させる働きがあるので、ランチをよく噛んで食べたり、ガムを噛んだりすることも日中の対症療法としては有効です。コーヒーなどカフェイン入りの飲みものをとるのもいいでしょう。

ただし、眠る前にカフェインをとるのは要注意です。就寝1時間前と3時間前にコーヒーを1杯ずつ飲むと、寝つくまでの時間が10分ほど長くなり、睡眠時間は30分ほど短くなるという報告があります。血中のカフェイン濃度が半分になるまでに4時間ほどかかるともいわれます。眠る前にコーヒーを飲みたくなったときは、デカフェ(カフェイン抜きのコーヒー)を選んだほうがよさそうです。

強烈な眠気には、20分程度の「パワーナップ」もおすすめ

対症療法が効かないほどの強烈な眠気には、仮眠もおすすめです。生産性を上げることを目的とした短時間の仮眠は「パワーナップ」と呼ばれ、世界的な企業が積極的にとり入れています。

ある実験で、数日間連続して起きていても、12時間ごとに2時間の仮眠をとると、仮眠後のパフォーマンスが向上すると立証されています。日常生活で2時間の仮眠をとるのは非現実的ですが、1日20分程度の仮眠でも、ある程度の効果が得られることがわかっています。