心と身体のつながりに着目し、アメリカで誕生した「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」。年齢、身体の硬さなどに左右されることなく、誰でも簡単にでき、不調の改善を感じることができるエクササイズです。日本で唯一(!)の公認ハンナ・ソマティック・エデュケーターとして活動をしている平澤昌子さんに「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」について教えてもらいました。

平澤昌子さん

公認ハンナ・ソマティック・エデュケーター、公認心理師、臨床心理士、心理学博士

平澤昌子さん

心理学を学ぶためにアメリカに留学し、ヨガ心理学の講座で、ハンナ・ソマティクスを初めて体験。帰国後、精神科心理士として勤務しながら、ハンナ・ソマティクスのトレーニングを受講するため3年間、日本とアメリカを往復。2008年にトレーニングを終了し、公認ハンナ・ソマティック・エデュケーターとなる。2011年にはセイブルック大学院で心理学博士号を取得。現在は自身の主催するプレシャス・ソマティクスのオンライン講座を開催している。

「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」とは?

ハンナ・ソマティクス エクササイズ

——初めて耳にする人も多いと思うので、まずは「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」の起源から教えてください。

平澤さんアメリカ出身のトーマス・ハンナ博士によって生み出されたのが「ハンナ・ソマティクス」です。トーマス・ハンナ博士は、哲学者として現象学や実存主義に傾倒し、最終的に身体学にたどり着きました。そしてフェルデンクライス・メソッドから発展させた神経生理学に基づく独自の技法を1975年に開発したのです。

もともとアメリカに根付いていた西洋医学は、心と身体を切り離して考えるものでしたが、トーマス・ハンナ博士は、心と身体は密接につながっているものとして、身体を動かすときに、身体の中で何が起こっているのかということに意識を向けながら動くボディワークを提唱したんです。そして従来のエクササイズとは違う、心と身体の統一を目指したこのボディワークの総称として「ソマティクス」という用語を発案しました。「ソマ(soma)」とは、ギリシャ語で「身体」を意味する言葉です。

——具体的には、どのようなエクササイズなのでしょうか?

平澤さんハンナ・ソマティクスの目的は、筋肉のリセットです。慢性的に縮こまって硬くなった筋肉を、脳を使って元の柔らかい状態に戻す。そのために、最も有効な動きをします。

例えば慢性的な肩こりってありますよね。肩こりの人の筋肉には何が起こっているかというと、無意識に収縮をし続けている状態なんです。勝手に硬くなっていて止められないという状況。脳には意識的な随意運動を司る部分と、無意識的な不随意運動を司る部分がありますが、肩を勝手に硬くしているのは、脳の無意識の部分なんですね。それを止めるためには、脳の意識的な部分…「運動皮質」という部分を使って、無意識の収縮を止めなければならないんです。

具体的にどうするかというと、まずは一旦わざと筋肉を収縮させて、そこからゆっくりと、筋肉を意識的に緩めながら元に戻していきます。それを何度が続けていくと、無意識の筋肉の収縮が解け、筋肉の状態が変わり柔らかくなっていくんです。

——脳に意識をもっていく感覚は、すぐにとらえられるのでしょうか?

平澤さん:すごく簡単なので、やってみましょうか。まず肘を曲げてみてください。そうすると、腕の筋肉が盛り上がっていますよね。そのとき、筋肉が収縮している感覚を意識してみてください。そうすることで脳の感覚皮質が使われてます。今度は、曲げた腕を10秒くらいかけてゆっくり伸ばしていき、肘が伸び切ったところでラクにしてください。意識的に筋肉をゆっくり伸ばす時は運動皮質が使われます。これでまた脳を使いました。これが簡単な理論です。

普段の生活でこんなふうに身体をゆっくり動かすことはないと思うので、慣れるまでは少し疲れるかもしれませんが、数回やれば皆さん慣れてきます。

「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」はどんな人に向いている?

ハンナ・ソマティクス 身体 脳

——「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」に向いているのはどんな人なのでしょうか?

平澤さん:運動能力は関係ないですし、年齢も性別も問わずできますよ。しいて言うなら…やってみたいという思いがある人、でしょうか(笑)。身体が硬いけどできますか? という質問を受けることもありますが、もちろん問題ありません。動かしている部位を脳が意識できればいいので、動きは最小限で大丈夫です。むしろ身体が柔らかい人は、大きく動こうとして、意識して動かしている部位以外も一緒に動いてしまう傾向が強いので注意が必要です。自分の出せるパワーの半分くらいを使って動いてもらうのがベストです。

それから「ハンナ・ソマティクス」では、講師の動きは見せません。動きを見ながらやると、真似しようとして気づかないうちに無理をしてしまうこともあるので、言葉でガイドをしていきます。そうすることで自分の動きと意識に集中できます。

——心と身体の統一と聞くと、パッと思い浮かぶのがヨガなのですが、ヨガもソマティクスの一部ということでしょうか?

平澤さん:そうですね。ソマティクスというのはカテゴリーなので、心と身体を統一するワークはすべてソマティクスと言えます。ただヨガをやっている方たちが、自分たちがソマティックをやっているという認識があるかと聞かれればそうではないかもしれません。

また、ヨガは身体をストレッチで伸ばしますが、「ハンナ・ソマティクス」は筋肉を収縮させてから元に戻す動きをして、伸ばすわけではないので、そこは違いますね。

「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」をすることで得られる効果

ソマティック・エクササイズ 毎日の習慣

——「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」をすることでどのような効果が得られますか?

平澤さん:筋肉のリセットが目的なので、身体の凝りや痛みなどの不調は改善することができます。1回やるだけで効果を感じる人もいますが、継続して行うことでより効果を実感できるはずです。また筋肉がリラックスすることで自ずと心もリラックスした状態になるという2次的な効果を感じる方も多くいます。

また継続することで、身体が疲れているのか、緊張しているのか、こわばっているのかなどに気づきやすくなるのも特徴のひとつです。自分の状態がわかるとコントロールしやすくもなるので、広い意味で体調をくずしにくくなると言えるかもしれません。

——誰でも簡単にできて体調管理もできるなんて最高です! ぜひ初心者にオススメの「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」を教えてください。

平澤さん:もちろんです。「ハンナ・ソマティクス」は、忘れてしまった身体感覚を取り戻し、筋肉を自分の意思でコントロールできるようにするためのエクササイズなので、一部位だけでなく、さまざまな部位を動かしていきます。「キャット・ストレッチ」と呼ばれる猫がやっている動きを取り入れたストレッチを6つ、紹介します。15分くらいでできるので、ぜひ朝晩時間のあるタイミングで、テレビや音楽の聞こえない静かな場所で行ってください。


後編にて「キャット・ストレッチ」についての具体的なやり方をレクチャーしてもらい、yoi編集・木村とライター菊池が体験します!

【「ハンナ・ソマティクス・エクササイズ」やってみた】筋肉リセットで肩こり&疲れ目も改善!

イラスト/たかはしななこ 画像デザイン/前原悠花 取材・文/菊池美里 企画・構成/木村美紀(yoi)