一般的なマッサージとは違い、「ボディ=体」への働きかけによって変化がおきるといわれている“ボディワーク”。そしていま、体だけでなく心にまで働きかけるボディワークとして注目を集めているのが“ロルフィング®”。実はこのロルフィング®、「アレクサンダー テクニーク」、「フェルデンクライス メソッド」とともに、世界三大ボディワークとして名を馳せているのだとか!そこで今回は、日本でわずか150名ほどしかいない日本ロルフィング®協会・認定ロルファーから、池田円さんにロルフィング®の目的や効果を取材。実際に体験もしてみました!
日本ロルフィング®協会 認定ロルファー
ロルファー™️。ボディメイクサロン natural forme.所属。1973年2月27日生まれ。2児の母。北米でバイオダイナミック農法に魅せられ、カナダ東海岸やアラスカで農業に従事したのち帰国。カナダでレイキに出合い、その後米国でロルフィング®︎の資格を取得。英語メンターは海外ドラマ『SEX and the CITY』。
世界三大ボディワークのひとつ「ロルフィング®」とは?
ロルフ博士は、「筋膜は圧を加えると動く」こと(筋膜の可塑性)を見つけて以来、筋膜を「身体構造を形作る器官」として注目し、ロルフィング®は筋膜のネットワークに働きかける手技として発展してきました。
地球にいる限りどんな時にも体には重力が掛かり、姿勢の悪い状態でいれば、いつも体にムダな緊張が発生していることになります。
ムダな緊張が続けば、それが身体の不調やコンディションの低下、パフォーマンス低下、カラダの内側からの感覚やカラダの外側からの刺激への対応力の低下となって表れます。
ロルフィング®は、クライアントが重力と調和する切っ掛けを作ります。そして、重力と調和していることで、不調を改善し快適な生活を送ることがだけでなく、身体のさらなるケア、そして発展に繋がります。(ロルフィング®HPより一部抜粋)
池田さんと「ロルフィング®」の出合い
——池田さんと「ロルフィング®」との出合い、そしてこの世界に入るきっかけは何だったのでしょうか。
池田さん:私はもともと虚弱体質で生まれて、喘息やアトピーがありました。とはいえ、子ども時代は明るく元気に過ごしていたのですが、高校受験のタイミングで酷い肩こりに悩まされるようになって…。あまりのつらさにトンカチで肩を叩いていたほどなんですよ。
あらゆる治療法を試したものの、痛みは改善されず、何をやってもどこに行っても治らないまま。気がつけばそのまま大人になり、あるとき農業のワーキングホリデーでカナダへ行くことに。
そこで農家を転々としていたときに、何となく農家の人たちへマッサージをしてあげたんです。これまでたくさんマッサージや整体などに行っていたからか、見よう見まねでも何となくツボがわかって。そうしたら、気持ちがよかった!と、とても喜んでもらえたんですよね。
そんなある日、写真家・星野道夫さんの写真を見て憧れていたアラスカを訪れました。そこでもいつものようにマッサージをしていたら、「ロルフィング®に似ているね」と言われて。当然、え⁉ ロルフィング®って何?ってなりますよね(笑)。
そこからロルフィング®を学ぶための学校を調べようと帰国しました。すると、初めて日本でロルフィング®のトレーニングをするというチラシをくれた方がいたんです。
——導かれたかのような、ものすごいタイミングですね!
池田さん:それならば受けてみようと思い、ロルフィング®のトレーニングのモデルクライアントをしました。同時期に、友人が立ち上げた映画会社を手伝い始めたのですが、海外にいたときにはそんなに気にならなかった肩こりの症状が再び出始めて…。
ロルフィング®7回目に訪れた強烈な体験とは
池田さん:ある日、7回目のセッションを受けたときのこと。セッションが終わってマッサージテーブルから降りたら、自分の体が“ない”感覚なんです。確かに自分はそこにいるのに、体を感じない。
——瞑想でいう“無”の状態と同じようなものでしょうか。
池田さん:でも確実に起きているし、話もできる。体の感覚だけがなくて、何の境界線もないのです。「何これ⁉」となるものの、まわりのロルフィング®を学んでいる人たちは、「うんうん、そうだよね」という感じで誰も驚かない。こちらからしたら、青天の霹靂でした(笑)。
1年ほどロルフィング®を受けているうちに、ふと気づいたら肩こりの緩和のために毎週行っていたマッサージに行かなくなっていたんです。7回目のセッションのあとに感じた、肩こりどころか自分の体に一切文句がない、というその瞬間のインパクトが忘れられず、やっぱりロルフィング®を学ぼうと思ったわけです。こうして20年やっているのも、そのインパクトが続いているからですね。
——池田さんが7回目のセッションで受けた体感は、ロルフィング®を受けた人、全員が通る道のようなものなのでしょうか。
池田さん:皆さん仰ることが違うんです。ただ、共通しているのが「新しい感覚」「何これ?」「何かよくわからない」という感想です。
ロルフィング®の目的や効果は?
——ロルフィング協会のHPでは、ロルフィング®のゴール=重量との調和とありますが、ゴール、つまり目的や効果は具体的にどんなことか教えてください。
池田さん:今すぐ何かが起きるというよりは、ゆっくり少しずつ変化していくという感覚です。波打ち際の波が変わるように変化していきます。
10回受けていく過程は、ロルファーと一緒に皆さん自身が、新しい引き出しや、忘れていた大切な宝探しをしているような時間かもしれません。
何十年と蓄積された筋膜や結合組織の捻れが、10シリーズを受けることでいったんリセットされ、秩序のある体として整います。居心地の良い、全体性を感じる体になり、過去の習慣などに引き戻されそうになったとき、呼吸し、緩めることができる体、またリセットしようとする体に気がつくこと。自分を知り、自立する体がロルフィングの目指すゴールです。
——ロルフィング®は痛みを感じるものですか?
池田さん:痛いことはありませんが、敏感な人によっては感じ方が違うかもしれません。なので、「痛かったら言ってください」と声をかけるのですが、中には痛くても言えない人も。我慢して平気なふりをして息を止めてしまうんですよね。
でも、セッションを重ねて体が楽になっていくと、クライアントさんも明るく、感じたことを言葉にしてくれることが多くなってくるんですよ。
——受ける頻度は決まっていますか?
池田さん:その人にとって、ストレスがかからない程度の頻度をおすすめしています。小さいお子さんがいらっしゃる人は月1回くらいが多いですかね。ポンポンポン!と進めていきたい人は、週1回の人も。
ロルフィング®の10のセッション
——ロルフィング®の10のセッションについて教えてください。
池田さん:ロルフィング®は、基本的に1~10のセッションで構成されていて、セッションの目的は、すべて次のセッションのためにあります。
徐々に体を開いていくようなイメージで、1~3を「表層部(スリープ)の解放」、4~7を「深層部(コア)の解放」、8~10を「統合」と区別します。また、各セッションごとにテーマが設けられています。
「表層部(スリープ)の解放」
1回目…どこまでも広がる呼吸
2回目…地球の真ん中につながる
3回目…からだの真ん中は宇宙
「深層部(コア)の解放」
4回目…地球の支えが下半身の内側へ
5回目…大きなコアの確立
6回目…自由な背骨
7回目…頭蓋の解放
「統合」
8回目…上半身、または下半身の新しいつながり、統合
9回目…(前回行われなかった)上半身、または下半身の新しいつながり、統合
10回目…ひとつになる透明な体
実際にライターがロルフィング®を受けてみた
ゆらゆらと心地よい波の上を漂うような感覚に身を任せる
実際に、ロルファー池田さんの施術を体験させていただきました。
いざマッサージテーブルに横になり、目をつむると、池田さんがゆらゆらと、心地よい圧をかけながら、私の手足をさするように触っていきます。痛みは一切ありません。
マッサージテーブルと背中がくっついて、そのまま心地よく吸い込まれそうな感覚。そして、池田さんが触れたところから、不思議なくらい体が軽くなっていきます。
左手の施術が終わったときのこと。「いまどんなふうに感じますか?」と、問われると、左手がパン生地を形成しているように、ふわっふわに感じるのです。反対に、まだ施術を受けていない右手は、戦闘ロボットの鎧をまとっているのか、というくらい重い…!
その後も、ゆらゆらと心地よい波の上を漂っているような感覚が続き、ふと気がつくと、一瞬寝落ちしながら夢を見てしまうくらいリラックスしていました。
姿勢改善がゴールではないとのことで、施術後、姿勢よりも先に一番に感じた変化は“体の軽さと、呼吸のしやすさ”。実はこれまでも、整体院で横隔膜の使い方を指摘され、呼吸が浅くなっていると言われたことがありました。
それが、ロルフィング®を受けたあとは、空気清浄機を買い替えて真新しくなったかのように空気の吸い込み量が違うのです。
さらに、セッションから10日ほどたちましたが、それまでほぼ毎日服用していた頭痛薬を一度も飲んでいないことに気がつきました…!
実はこの猛暑のせいか、外へ出るたび、そして起きるたびに頭痛に悩まされるようになり、酷いときは1日2回も頭痛薬を服用することも。生活スタイルは一切変わっていないのに不思議です。
ロルフィング®2回目も、またぜひ受けたいと思っています。
撮影/井上果音 イラスト/Olga Strel/Shutterstock.com 構成・取材・文/木土さや