女性ホルモンのひとつ黄体ホルモンの分泌によって、女性は便秘や下痢をしやすく、痔になりやすい特性があります。女性だからこそ、気をつけたいこと、やってはならないことを外科専門医の今津嘉宏先生に伺いました。病院に行かなくても治る痔についても聞いています。

今津嘉宏(いまづよしひろ)先生

芝大門いまづクリニック 院長

今津嘉宏(いまづよしひろ)先生

藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学、東京都済生会中央病院外科副医長、慶應義塾大学漢方医学センター助教ほかを経て、2013年より現職。藤田医科大学医学部客員講師。日本外科学会認定医・専門医、日本消化器病学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学の双方に精通し、科学的見地に立った漢方診療を行う。主な著書に『健康保険が使える 漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)ほか多数。

下痢でも便秘でも痔になりやすい

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増田美加(以下、増田):女性に多い痔の種類は、ありますか? その原因を教えてください。

今津嘉宏先生(以下、今津先生):痔は一般的に、イボ痔、切れ痔と言われますね。イボ痔は、肛門にできるデキモノ、ハレモノのことです。専門用語では、肛門の内側にできるのが「内痔核(ないじかく)」、肛門の出口にできるものを「外痔核(がいじかく)」と言います。切れ痔は、肛門の粘膜が切れて、出血や痛みがあります。専門用語では「裂肛(れっこう)」と言います。


痔は、老若男女を問わず、西洋人にくらべて日本人に多い病気です。食生活や生活環境の違いもありますが、それだけでなく、解剖学的に骨盤の構造や形の違いなども原因になります。

それから、便通との関係もあります。下痢気味の方は、水様性の下痢で勢いよく排便することで、肛門の粘膜に負担がかかり、粘膜の下に出血を起こして「外痔核」や「裂肛」になり、出血と痛みをともないます。

便秘気味の方は、便が肛門の血流を滞らせるために「内痔核」になったり、硬い便をいきんで排便することで「外痔核」や「裂肛」になります。

産後の女性は、痔と尿もれの対策をすべし!

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増田:女性が痔になりやすい年齢やタイミングはあるのでしょうか?

今津先生:痔の男女比は、ほぼ半々ですが、妊娠中や産後の女性に痔が多くなります。生まれたての子どもは、よく痔になります。それはまだ組織が未発達のため、肛門の構造ができ上っていないことから「痔瘻(じろう)」を起こします。痔瘻は、腸と肛門をつなぐ部分が未発達なために起こる病気。成人になっても起きることがあります。

痔瘻が原因になって、「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」になります。肛門の周囲に膿にたまり、紅く腫れて痛みをともないます。皮膚から膿が出てくることもあります。

それから便秘は、痔の最大の原因。女性には便秘の方が多いので痔になりやすいのです。女性ホルモンのひとつである黄体ホルモンが排卵後や妊娠中に多く分泌されます。黄体ホルモンは、大腸の腸壁から水分を吸収する作用と腸の動きを低下させる作用があります。排卵後のPMSの時期に便秘が多いのは、黄体ホルモンの分泌が増えるためです。

この黄体ホルモンは、子宮の収縮を抑える働きがあります。それが腸を動かす筋肉にも影響を及ぼすので、腸管運動を鈍らせ、便を出にくくさせる一因になっています。痔にならないためにも、妊娠中の便秘には要注意です。

月経周期によっても、便通は変わります。月経前は便秘傾向になりやすく、月経後は下痢傾向になります。ですから、便秘になると「内痔核」「外痔核」になりやすく、下痢になると「外痔核」「裂肛」になりやすくなります。

また、産後の女性は、「内痔核」と「脱肛」になりやすいと言われています。妊娠中は、黄体ホルモンの分泌が大きく増えることも手伝って、骨盤の中で血流が悪くなり、足がむくんだり、便秘になります。

足の血流が悪くなることで下肢静脈瘤になるように、肛門周囲の血流も悪くなるため、内痔核ができるのです。内痔核=静脈瘤です。排便時に内痔核が飛び出してきたり、出血したりします。

また、「脱肛」は、肛門が飛び出る病気です。脱肛には2種類あって、ひとつは、高齢になると起こる「直腸脱」。この原因は、加齢によって内臓を支えている骨盤底が弱くなって肛門全体が外に飛び出します。もうひとつの脱肛は、内痔核が大きくなっていつも飛び出ている状態のことをいいます。

増田:産後、痔にならないようにするには、どうすればいいのでしょう?

今津先生:骨盤底筋を鍛えることが大切です。出産で伸びてしまった骨盤底まわりの筋肉やじん帯を鍛えることで予防や改善になります。骨盤底のトレーニングは、痔の対策にもなるし、尿もれの対策にもなりますね。また、便秘にならないように排便習慣を整えることも大切です。

もし産後、内痔核や脱肛になったら、クーリング(冷罨法)といって、痛いときにできるだけ早くお尻を冷やすと慢性化しません。保冷剤のようなもので冷やせばいいです。炎症や痛みが緩和します。

痔の自覚症状、大腸がんとの違いはどう見極める?

増田:肛門に出血と痛みを感じたら、痔の症状と思ってよいでしょうか? 大腸がんとの違いは見極められますか?

今津先生
:痔の自覚症状はさまざまです。排便を我慢する時間が長かったり、トイレに座っている時間が長かったりすると、肛門周囲の血液が停滞して「内痔核」になります。軽い場合は、症状はほとんどないのですが、場合によって軽度の出血があります。少し進行すると、毎回、排便時に出血があり、ときには痛みがあります。さらに進むと、排便時に内痔核が肛門から脱出する「脱肛」になります。常に飛び出ていますので、痛みはありません。


「外痔核」は、排便時に力を入れて排便したり、排便後に強くお尻を拭いたりすることでできます。痛みがあって、場合によっては出血をともないます。お尻を強く拭くのはNG。やってはダメです。

「裂肛」は、下痢でも便秘でも、強く力を入れて排便することで起こります。痛みと出血をともないます。「肛門周囲膿瘍」は、肛門から少し離れた部分に硬いしこりができます。急に腫れて痛みをともなったり、熱を持ったりします。赤く腫れた皮膚が破れて膿が出ると「痔瘻」と呼ばれる状態になります。皮膚から血の膿が出て、痛みをともないます。

「直腸脱」は、年齢とともに骨盤底にある筋肉(骨盤底筋)が弱くなるため、肛門から直腸が出てきます。痛みはありませんが、尿もれ、失禁など、生活に不自由が生じることがあります。大腸がんと見分けることは、残念ながらできません。がん専門医あるいは、外科専門医を受診することが必要です。

痔は病院に行かないと治らない? 行くべきタイミングは?

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増田:痔は、病院に行ったほうがいいのでしょうか? 薬局、ドラッグストアで販売している痔のお薬では治らないのですか?

今津先生
:軽い痔であれば、薬局で売っている痔のための軟膏、注入軟膏、坐剤などで治ります。もっと軽い痔は一時的な炎症なので、放っておいても72時間程度で治ります。切れ痔は、切れているから痛いですが、口内炎と同様、自然に治ります。お尻を強く拭くなど、拭き方が悪いと同じ箇所が切れますので注意しましょう。痔が慢性化すると自然には治らなくなります。その場合は、病院で治療することをおすすめします。痔の種類別に、治療の目安と治療についてまとめましたので参考にしてください。


 【病院へ行く目安と治療】


●「内痔核」


中等度までの内痔核は、生活習慣を変えたり、内服薬、外用薬などで治療することができます。また中等度でも、内痔核を固める注射薬で治療することができるようになりました。内痔核の従来の手術法は、2泊3日程度の入院治療が必要でしたが、この治療法は、日帰り手術になりますので安心して治療を受けられます。

●「脱肛」


内痔核を長期間放置するとなる病気です。できれば、中等度までに受診してもらえると、早期の対応ができて、治療も軽く済むし再発も防げます。進行すると外科的治療が必要になります。


 ●「外痔核」


排便習慣を改善することでよくなります。ただし、痛みが出てしまうと治療が必要となります。痛みが強い場合は、受診しましょう。以前は、外科的治療を行っていましたが、最近では、内服薬、外用薬などで治療することが増えてきました。ただ、痛みが強い場合は、緊急で切開する必要があります。

●「裂肛」


排便習慣を改善することで治ります。ただし、痛みが出てしまうと治療が必要になります。痛みが強い場合は、受診しましょう。内服薬、外用薬などで治療することができます。繰り返す難治性の裂肛の場合は、外科的治療をすることがありますが、非常に稀です。

●「肛門周囲膿瘍」「痔瘻」


いずれも、慢性化しやすい病気です。早い時期に受診することをおすすめします。痛みや発熱をともなう場合は、すぐに受診してください。潰瘍性大腸炎、クローン病があると痔瘻を合併しやすいので注意が必要です。いずれも、基本的に専門的な対応が必要となる病気です。必ず、外科の専門医を受診するようにしましょう。


●「直腸脱」


徐々に進行していく病気です。早い時期に受診しましょう。骨盤底筋の筋力低下が原因ですので、運動によるリハビリテーションが治療の主体です。場合によっては、外科的治療が必要です。

増田:痔で受診するのは、女性の場合、恥ずかしいという思いもありますが、何科を受診するのがいいのでしょうか?

今津先生
痔は、外科、肛門科が専門です。けれども近くにない場合には、かかりつけの産婦人科があれば、相談するのもいいと思います。皮膚科、内科、整形外科、美容形成外科などは専門外です。

痔になりやすい生活習慣

増田:生活習慣に気をつけることで、痔の対策や予防にもなるとのことですが、どんなことに気をつければいいでしょうか?

今津先生女性の場合は、特に、冷えとストレスに気をつけましょう。男性と女性では、解剖学的に骨盤の構造や形が違います。女性は蝶のように広い骨盤をしていて、子宮と卵巣があるため、血液の流れが豊富です。しかし、運動不足によって、骨盤の血流が停滞して冷えやすくなり、骨盤内がうっ血します。骨盤内の血流が悪いと、肛門の機能も低下するので、特に内痔核になりやすくなります。適度な運動をして、冷やさない生活習慣にも気をつけましょう。

ストレスには、肉体的なものと精神的なものが関係します。肉体的ストレスが重なると腸の動きが悪くなり、下痢や便秘になります。また、精神的ストレスも腸の働きに大きく影響を与えますので、ストレスケアも痔の予防と対策のためには大切ですね。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加