痔は、病院へ行かないと治らないのでしょうか? 恥ずかしくて病院へ行きづらい肛門トラブル。排便習慣や生活習慣を改善することで、自分で治すコツと市販薬を使う際の注意の仕方、選び方を取材しました。肛門を治療するのは外科医。外科専門医である今津嘉宏先生に伺いました。

今津嘉宏(いまづよしひろ)先生

芝大門いまづクリニック 院長

今津嘉宏(いまづよしひろ)先生

藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学、東京済生会中央病院外科副医長、慶應義塾大学漢方医学センター助教ほかを経て、2013年より現職。藤田医科大学医学部客員講師。日本外科学会認定医・専門医、日本消化器病学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学の双方に精通し、科学的見地に立った漢方診療を行う。主な著書に『健康保険が使える 漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)ほか多数。

痔は自力で治せる?

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増田美加(以下、増田):痔などの肛門トラブルは、自力で治せるのでしょうか? やはり、病院で治療しないと、一生つき合っていく病気になってしまうのかと不安になります。


今津嘉宏先生(以下、今津先生):痔などの肛門のトラブルは、ほとんどの場合、生活習慣を改善したり、便通をコントロールしたりすることで治すことができます。軽いうちなら薬局やドラッグストアの市販薬を使ってもOKです。ただし、痛みが強く、症状が我慢できないときは、医療機関を受診することをお勧めします。 

女性に多い肛門の中にできる「内痔核(ないじかく)」(→詳しい説明はVol.97に)は、血流障害がおもな原因です。長時間座っていたり、お尻を冷やしたりすることが悪化要因になります。

内痔核の初期から中期は、市販の肛門周囲の血流をよくする内服薬や、便通をコントロールする内服薬を使ってもいいでしょう。数日から1週間程度で改善します。外用薬は、軽い痛みや出血がある場合に使います。こちらも数日から1週間程度で改善します。

もしも、内痔核が腫れてしまって、排便すると内痔核が脱出する、あるいはいつも脱出してしまっている場合は、内服薬ではなく外用薬を使います。市販の外用薬を1週間使っても、よくならない場合は、医療機関を受診することをお勧めします。


肛門の外にできる「外痔核(がいじかく)」といわゆる切れ痔の「裂肛(れっこう)」は、排便習慣がおもな原因です。下痢や便秘で、肛門に負担をかけることが、悪化する要因になります。(→詳しい説明はVol.97に)

痛み、出血をともなう場合は、外用薬を使います。数日で改善します。痛みが強い場合は、鎮痛剤などの内服薬を使ってください。

さらに痛みが強く我慢できない場合は、病院を受診してください。緊急処置として外来で、外科治療を行います。局所麻酔で切開するだけですので、30分程度で終了します。

「痔瘻(じろう)」は、解剖学的な体の構造が原因のことがほとんどです。「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」(→詳しい説明はVol.97に)も含めて、慢性化しやすい病気ですので、早い時期に医療機関を受診することをお勧めします。病院では、痔瘻、肛門周囲膿瘍で痛みがあり、発熱をともなう場合は、解熱鎮痛剤と抗生物質の内服薬を使います。数日から1週間程度で症状が軽減した後、検査を行って治療方針を決めていきます。恥ずかしがらず、早い時期に医療機関を受診しましょう。

「直腸脱」(→詳しい説明はVol.97に)は、肛門まわりがうっ血しやすくなることで起こりやすく、骨盤や体の構造がおもな原因です。出産や加齢によって、症状が進行します。直腸脱は、骨盤底筋に対するリハビリテーション(骨盤底トレーニング)が重要です。腟や肛門を締めたり緩めたりをくり返します。毎日コツコツと骨盤底トレーニングを行いましょう。

痔を改善する市販薬の選び方のコツ

増田:市販のお薬を使ってもいいとのことですが、選び方のコツはありますか? 

今津先生:痔の場合は、市販の内服薬なら漢方薬の「乙字湯(おつじとう)」が一般的に使いやすいでしょう。肛門の血流を改善する成分と便通をコントロールする成分が主体になっています。

市販の外用薬は、肛門の皮膚や粘膜を保護する成分と炎症をコントロールする成分が主体となっています。外用薬は、ステロイドが含まれている場合がありますので確認しましょう。いずれにしても外用薬は、1週間程度を目安に使いましょう。それで治らないときは病院を受診してください。

市販の内服薬(西洋薬)は、下剤が含まれている場合がありますので、便通の状態に注意して使います。外用薬の場合は、肛門の皮膚や粘膜にアレルギーを起こす場合がありますので、使っていて違和感があれば中止しましょう。

いずれの市販薬も、個人の責任で購入することになりますから、心配な場合は、薬局の薬剤師さんに相談するか、病院を受診しましょう。

漢方薬で治せる痔もある!

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増田:市販の漢方薬の「乙字湯」を紹介していただきましたが、漢方薬で痔は治せるのですね?

今津先生
:初期から中等度の内痔核や外痔核は、漢方薬で症状が軽減する病気です。漢方医学では、内痔核や外痔核を血流が滞る「瘀血(おけつ)」の症状のひとつと考えます。瘀血を治す漢方薬で治療することが多いです。よく使われる漢方薬は、「乙字湯」「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」などです。

裂肛も、漢方薬で症状を軽減できます。裂肛の多くは、便通異常(便秘や下痢など)によって起こるため、便通を調節する漢方薬を使います。よく使われる漢方薬は、「桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)」「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」などです。

肛門周囲膿瘍と痔瘻は、外科の専門医が治療する病気です。外科的な治療を行うとともに、漢方薬も併用できます。特に乳幼児に起こる肛門周囲膿瘍と痔瘻には、「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」「黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)」などが使われます。

直腸脱についても、漢方薬を使うことができます。直腸脱は、骨盤底筋などの筋力低下が原因になるため、体力を向上させる漢方薬を使います。よく使われるのは、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」などです。

便秘や下痢を改善することも、痔の治療と予防になる

増田:痔は、便秘や下痢が原因にもなるとのことですが、便秘や下痢などの排便習慣を改善することが痔の予防にもつながりますか?

今津先生
排便習慣と肛門の病気は、密接な関係があります。女性は便意をもよおしても、人前でなかなかトイレへ行けず、我慢してしまうことがあると思います。仕事の日と休日で、排便するタイミングが異なることもあるでしょう。このようなちょっとした習慣が、肛門に負担をかけていることになるのです。


便器に座って長い時間いきんだり、トイレットペーパーでゴシゴシとこすったりしていませんか? これらはすべて痔と関係します。痔に関係する注意したい日常生活のポイントをまとめました。


1・排便は1〜3日に1回、朝出ていますか?
食べたものが大腸まで到達する時間は、12〜48時間です。排便が3日以上滞っている場合は、便秘です

2・便の硬さは、バナナのような硬さですか?
便の硬さは、下記の図のような「ブリストルスケール」で分類されています。1~7のうち、3〜5が好ましい便の硬さです。それ以外ですと便秘か下痢で、改善すべき便の状態です。

便の状態 消化時間 違い

3・トイレに、座っている時間は長くないですか?
長く座っていると、肛門がうっ血してしまい、便が出にくくなりがち。強く力を入れて、排便すると、肛門に負担がかかり、出血の原因になります。


4・お尻を拭くとき、力を入れ過ぎていませんか?
ゴシゴシとこすりすぎると、肛門を傷つけてしまいます。ウォシュレットで洗い過ぎるのもよくありません。蒸れてしまい、肛門周囲のかゆみの原因になります。もし、蒸れてかゆみが出たときは、洗い過ぎに気をつけましょう。粘膜にはかゆみが出ないので、かゆいのは皮膚です。清潔にしておけば治りますが、かゆいときは皮膚に市販のワセリンを塗ってもいいでしょう。

生活習慣で痔を予防するコツ

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増田:痔にならないようにする予防法は、排便習慣を整えてお通じをよくすることと、ほかに食事や運動、生活習慣で気をつけることはありますか?

今津先生
腸内環境や排便は、ストレスによっても影響を受けます。心穏やかな生活を送ることが大切です。お尻を大切に感じて、いじめないようにしましょう。特に長時間、座ったままにしていると、肛門周囲の血流が悪くなります。寒いところに長時間いるのも、お腹も冷えるし、肛門にも良くありません。また、刺激の強い食事は、消化管粘膜に炎症を起こしやすく、肛門にも刺激が強すぎますので注意しましょう。


【お尻を大切にして痔を予防するポイント】


●冷えを改善すること
血流をよくして、冷えないように心がけましょう。体を温める食材(生姜、ネギ、ニンニクなど)を取り入れましょう。唐辛子や胡椒などの刺激物は、控えめに。早歩きや、運動をすることで、血行を改善することも大切です。


●便通を整えること
便通は、消化管の働きによって調節されています。消化管は、副交感神経がつかさどっています。精神的ストレスが加わると、副交感神経の働きは抑えられるため、便秘になります。睡眠不足や疲労などの不調があるときも、副交感神経がうまく働かなくなり、便秘になります。逆に、交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまうことで、下痢になる人もいます。便通を整えるためには、食事だけに気を配るのではなく、精神的ストレスにも注意が必要です。そのために、良い睡眠を心がけることも大事ですね。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加