急に気温が下がってきて、体調を崩し風邪をひきやすくなっています。急激な気温の低下によって起こりやすい病気と、その予防・対策について、呼吸器専門医の大谷義夫先生に伺いました。
池袋大谷クリニック院長
群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、米国ミシガン大学留学、東京医科歯科大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授などを経て、2009年池袋大谷クリニックを開院。全国屈指の呼吸器内科の患者数を誇るクリニックに。呼吸器のスペシャリストとしてテレビ番組にも多数出演。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医。おもな著書に『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(日経BP)、『1日1万歩を続けなさい 医者が教える医学的に正しいウォーキング』(ダイヤモンド社)ほか多数。
気温が3℃下がると喘息発作も起こりやすい!
増田美加(以下、増田):寒暖差によって呼吸器の不調が出やすいのですが、なぜなのでしょうか?
大谷義夫先生(以下、大谷先生):そうですね。たとえば、前日と比較して3℃以上気温が低下した場合や、5時間以内に3℃以上気温が低下した場合に、喘息発作が起きやすいというデータがあります。
気温が低下すると、生理的に気道が収縮しますので、喘息の人はこの現象がなおさら起こりやすいのです。気温が下がれば下がるほど喘息のリスクが上がり、高齢の方になると、救急搬送が増えるとも言われています。
春や秋の季節の変わり目は、喘息シーズンと呼ばれています。特に、気温が急激に低下する秋は、喘息による入院が1年で最も多いため注意が必要です。理由はいくつかありますが、おもに、気温の急激な低下、アレルゲンの飛散、ウイルス感染症の増加が挙げられます。
喘息(気管支喘息とも言います)は、気管支がデリケートな炎症状態にあります。ですから、ちょっとした刺激で気管支が狭くなり、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった発作が出ます。本格的な寒い時季を迎える前に、普段からきちんと治療しておくことが大事ですね。
大人の喘息は年々増加しています
増田:喘息は増えているのでしょうか?
大谷先生:大人の喘息患者さんの数は年々増加しています。2017年の調査では成人の10.4%が喘息症状を患っているという結果があります。特に、最近は煙草がおもな原因となる慢性閉塞性肺疾患(COPD)と喘息を合併した患者さんが増えています。
大人の喘息の症状は、患者さんによってさまざまです。典型的な症状は、咳と息苦しさや、呼吸時に「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という喘鳴(ぜんめい)です。喘息の患者さんでは、呼吸するときの空気の通り道である気道にアレルギーによる炎症が起こって気道が狭くなり、呼吸が苦しくなる状態を繰り返します。症状がないときでも、炎症を起こして過敏になっていて、何かのきっかけで気道が急に狭くなり、発作のように症状が起こります。
症状の例として
・呼吸のときに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音が出る
・走ったり運動をしたあと、咳き込んだり息苦しい
・夜間・早朝に症状が出やすい
・咳や喘鳴、息苦しさで目が覚める
・風邪をひいたあとに咳が長く続く
・天気がよくないときや台風など気圧に変化があるときに息苦しい、咳き込む
・疲れているとき症状が出る
・些細な刺激で咳や喘鳴が生じ、発作となることもある
などがあります。このような症状があったら、医療機関を受診してください。喘息(気管支喘息)は吸入ステロイドを中心とした適切な治療をしないことで、年間約1000人の方が死亡している病気です。ぜひ気になる症状があれば、受診していただきたいです。
喘息の予防と対策は?
増田:喘息にならないようにする対策はありますか?
大谷先生:まずは、風邪をひかないようにすることです。インフルエンザワクチンを接種することも大切です。発症リスクを下げて、もし、かかったとしても軽く済みます。
インフルエンザの予防には、部屋を暖かくして加湿器をつけて湿度を上げることがいいとされています。湿度は50~60%を目標に加湿しましょう。
睡眠も大切です。7時間睡眠と6時間未満の睡眠を比べると、6時間未満では4.2倍、風邪にかかりやすいとするデータがあります。風邪予防には、睡眠時間が6時間を切らないようにする努力も大事です。
軽い運動は免疫力を上げて、風邪をはじめとする呼吸器感染症に罹患するリスクを下げます。ウォーキングなら、1日30分程度を習慣にして継続することです。1日1万歩を目標にできればいいですね。ただし、運動習慣がない人が急に激しい運動をすると、免疫力を落として風邪をひきやすくなるので要注意です。
口腔ケアは怠らないようにしましょう。しっかり歯磨きすることで、インフルエンザの発症率が下がり、風邪ウイルスも気道に入りづらいと言われています。特に、寝る前はしっかり磨きましょう。
いま、日本人でアレルギー体質の人は2人に1人と言われています。喘息のリスクは、誰にでもあると思って、風邪対策を心がけてください。また喘息が発症すると、吸入ステロイドを中心とした長い治療が必要ですので、専門医を主治医にすることが重要です。
寒暖差で起こるくしゃみや鼻水は「血管運動性鼻炎」
増田:寒暖差があると、くしゃみや鼻水などの鼻炎も起こりやすいのですが、これは気温差に関係するのでしょうか?
大谷先生:血管運動性鼻炎と呼ばれる鼻炎の一種が考えられますね。血管運動性鼻炎の特徴は、季節の変わり目に、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりなどアレルギー性鼻炎によく似た症状が出ているけれど、検査をしてもはっきりとアレルギーを引き起こすスギ花粉やダニなど特定の原因抗原が見つからない、花粉症のような目の掻痒感は認めないというものです。
ちまたでは、寒暖差アレルギーと呼ばれていることもありますが、血管運動性鼻炎は鼻炎の種類のひとつですが、アレルギーの病気ではなく、アレルギー性鼻炎とは区別します。
血管運動性鼻炎の原因は、まだはっきりと解明されていません。だいたい7℃気温が下がると、冷たい空気が刺激となって、自律神経のバランスが崩れることで、身体の調節機能がうまく働かず、鼻の粘膜の血管が広がって腫れることで、症状が起こると考えられています。
自律神経のうち交感神経は、身体を活発に動かすときに、副交感神経は身体を休めるときに働きます。互いがバランスを取りながら身体の調整をしますが、そのバランスが崩れることで、身体や精神的な症状が起こると言われています。血管運動性鼻炎もこの自律神経のバランスの乱れから起こることがあります。この血管運動性鼻炎は、男性より女性に多いとされています。
「血管運動性鼻炎」の対策は?
増田:血管運動性鼻炎の有効な対策はありますか?
大谷先生:血管運動性鼻炎を防ぐには、温度差を少なくすることが大切です。 また、自律神経のバランスの崩れを防ぐような生活習慣も意識しましょう。
・温度差を少なくする工夫
外出のときには、すぐ羽織れるカーディガンなどの衣服などを携帯し、こまめに体温調節できるようにしましょう。寒い部屋はあらかじめ暖めておきましょう。 手袋、マフラー、帽子、ひざ掛けなどを利用することも有効です。マスクをすることで冷気を直接吸い込むのを防ぐことも出来ます。
・自律神経のバランスの崩れを防ぐ工夫
自律神経は不規則な生活、ストレスでバランスが崩れやすくなります。睡眠、食事、運動といった生活習慣を整えることが大切です。 バランスの良い食事もとても重要です。特に、エネルギー源になるタンパク質や身体の調子を整えるビタミン、ミネラルなどもバランスよく摂るように意識してみましょう。風邪予防と同様、ストレッチやウォーキングなど軽い運動を行いましょう。
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加