寒くなると、のどがイガイガして咳が出たり、風邪をひいて咳込んだりします。しかし、咳には「止めないほうがいい咳と止めるべき咳がある」と呼吸器専門医の大谷義夫先生。長引く咳の対処法についても伺います。
池袋大谷クリニック院長
群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、米国ミシガン大学留学、東京医科歯科大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授などを経て、2009年池袋大谷クリニックを開院。全国屈指の呼吸器内科の患者数を誇るクリニックに。呼吸器のスペシャリストとしてテレビ番組にも多数出演。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医。おもな著書に『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(日経BP)、『1日1万歩を続けなさい 医者が教える医学的に正しいウォーキング』(ダイヤモンド社)ほか多数。
咳はむやみに止めないほうがいい!
増田美加(以下、増田):寒くなると、のどが腫れて、咳が出やすくなるのですが、免疫力が弱くなっているのでしょうか?
大谷義夫先生(以下、大谷先生):のどが腫れるのは、のどが強い証拠です。リンパ組織である扁桃腺で外から侵入する異物(ウイルスなどの病原体)をブロックし、下気道に侵入して肺炎になるのをのどで防いでいるのです。また、咳は異物を体外に出そうとする防御反応ですから、これもまた、大事な身体の働きです。
のどがイガイガしたときに咳が出たり、風邪をひいたときに咳が出るのは、異物を排除するために、外に吐き出そうとしている身体の防御反応です。風邪の際に生じる咳は、異物(ウイルスなどの病原体)を気道の外に出す反射ですから、むやみに止めないようにしましょう。下痢と一緒で、異物による炎症が収まれば、咳は軽快します。痰を出すために咳をしていることもありますから、去痰薬で痰を切れやすくするのは有効です。
呼吸器専門医が風邪のときにむやみに咳止めを処方しないのは、異物を気道から外に出している咳は、止めないほうがいいからです。咳が出るということは、気道が若くて元気な証拠です。
2週間以上続く長引く咳は止めることも検討します
増田:咳が長引くと体力も落ちるし、つらいことがあります。長引く咳も止めないほうがいいのでしょうか?
大谷先生:異物を体外に出す咳は、むやみに止めないほうがいいのですが、2週間以上続く、長引く咳の場合は別。原因によりますが、炎症を抑えて咳を止めるように治療することもあります。風邪なら2週間以内に咳は治まります。2週間以上、咳が続く場合は風邪以外の原因である可能性が高くなってきます。肺がんや結核の可能性、肺炎など重症化しうる疾患も鑑別しないといけません。
咳喘息は、長引く咳を起こす最も頻度の高い病気です。咳喘息は、アレルギーなどの炎症による咳で、咳が出始めるとなかなか止まりません。咳が出だすと止まらない、立て続けに咳が出る、話をすると咳き込む、夜ベッドに入ると咳き込んで眠れないなど、呼吸をするのもつらいことがあります。咳喘息が疑われる場合には、呼吸器とアレルギーの専門医を受診できれば理想的です。
咳喘息を診断するためには
増田:呼吸器科では、どのような検査をするのでしょうか?
大谷先生:問診、聴診をしたあと、胸部レントゲンを撮って、咳の原因となりうる肺がん、肺結核、肺炎など重症化する可能性のある病気を否定します。胃食道逆流症や副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎による咳の可能性も検討します。
咳喘息を診断するためには、肺機能検査で肺活量や一秒量、呼気中一酸化窒素濃度測定(FeNO)で気道の炎症状態を把握、モストグラフで気道抵抗を測定します。血液検査でアレルギー検査をさせていただくこともあります。
咳喘息は、咳のみがおもな症状であるのに対し、気管支喘息では、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)があります。
咳喘息の30%は、喘息に移行します。喘息に至ると完治が難しくなってきますので、咳喘息のうちに吸入ステロイドなどで治療していただきたいです。吸入ステロイドで気道の炎症を抑えることが重要です。経口ステロイドは、糖尿病、高血圧、免疫低下などの副作用が問題になりますが、吸入ステロイドは気道にしか作用しないため、全身的な副作用を心配する必要はなく、妊婦でも使用可能な極めて安全な薬です。
【喘息(気管支喘息)と咳喘息の違い】
・喘息は気管支が「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」する喘鳴を伴いますが、咳喘息はありません。
・咳喘息になると、空咳(からぜき)が1か月以上続き、治療がうまくいかないと1年以上、咳が続くことがあります。ただし、喘鳴や呼吸困難、発熱、痰などの症状は起こりません。
マスクを正しく使っていますか?
増田:咳喘息を防ぐためには、どうしたらいいのでしょうか?
大谷先生:いちばんは、風邪やインフルエンザ、新型コロナなどの呼吸器感染症に罹患しないように気を付けることです。また、室内にダニや花粉などのアレルゲンを増やさないよう、こまめに掃除機をかけたり、寝具を乾燥、洗濯したりすることも大切です。
風邪は飛沫感染と接触感染、インフルエンザは飛沫感染、接触感染、一部エアロゾル感染、新型コロナは飛沫感染とエアロゾル感染が感染経路として重要です。接触感染予防には、石鹸での手洗いやアルコール手指消毒、エアロゾル感染予防には換気が重要です。飛沫感染予防に、屋内や車内でのマスクはとても有効です。マスクの効能は、飛沫を防止する、のどの乾燥を防ぐ、マスクをしていると顔を触らなくてすむ、という点です。
コロナ禍でマスクは身近なものになりましたが、ここでマスクの正しい使い方を復習しておきましょう。
【風邪やインフルエンザ予防のための正しいマスクの使い方】
①正しいサイズのマスクを選ぶ
飛沫感染を防ぐためには、鼻と口をピッタリ覆うことが大事です。横から見て、鼻からあごまでしっかりと覆い、頬にフィットするものを選びましょう。鼻を出す口マスクはもちろんNGです。
②マスクをつける前に手を洗う
ウイルスのついた手でマスクを装着すると、ウイルスだらけのマスクを口にくっつけることになります。接触感染の原因に。
③つけ外しはゴムひもをもって行う
マスク表面に触らないようにします。とんでくるウイルスをマスクで止めているわけですから、そこを触っては意味がありません。注意するのは、外すとき。ゴム紐だけを持って表面に触れないようにして、その後は手洗いを忘れずに。
④マスクは使い回さない
ウイルスが付着しているのですから、マスクは頻繁に交換することが予防のためには大切です。ぜひ1日1〜2回は交換して、使い終わったマスクは再利用することなく、使い捨てを徹底してください。
風邪予防のうがいは水? それとも、うがい薬?
増田:うがいは、風邪やインフルエンザ予防に有効でしょうか?
大谷先生:うがいは、インフルエンザや新型コロナ予防には有効とは言えません。しかし、風邪予防には有効です。うがいの仕方ですが、まず、口をクチュクチュとゆすぎます。口の中のウイルスや細菌を吐き出して、のどにもっていかないためです。そのあとで、ブクブクとのどのうがいをします。
風邪予防には、うがい薬はいりません。正常な細菌叢をうがい薬で殺してしまうので、風邪をひいていないときのうがいには、水のほうが有効です。ヨード液でうがいをするのは、風邪をひいてしまってからです。
のどの奥にある気道の刺激は避けたいです。喫煙や受動喫煙は、絶対にNGですが、その他にも冷気を吸い込むことや、強い匂いを嗅ぐことも、なるべく避けるようにしましょう。
加湿も重要です。乾燥の時期はのど飴もいいですね。のどのために、加湿器で湿度を50~60%に保っておくようにしましょう。ストレスや過労も、気道を過敏にさせる要因となるので、無理をせず、睡眠や休息を十分とって、生活リズムを整えましょう。
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加