「スワイショウ」という言葉を聞いたことはありますか? 「スワイショウ」とは太極拳の準備体操に位置づけられ、どんな人でも、どんなときでも手軽に実践できるメリットだらけの健康法。今回は、スワイショウのやり方や効果を、太極拳を指導する楊玲奈さんに教えてもらいました!
楊名時太極拳師範
日本に太極拳を広めた祖父・楊名時、母・楊慧のもと、幼い頃から太極拳に親しんで育つ。太極拳の楽しさを世界に伝えるため、指導やメディア出演など幅広く活動。日本呼吸ケアリハビリテーション学会会員でもあり、太極拳がもたらす心身の健康効果について研究を行っている。
手を振るだけで、心も体も整う。スワイショウって何?
──まず、「スワイショウ」とは何かを教えてください。
楊玲奈さん(以下、楊):スワイショウは、腰を回転し、手を前後や左右に脱力して振り続けるシンプルな動作で、太極拳の準備体操のような位置づけで行っていますが、動きがシンプルなので、老若男女問わず、運動が苦手な人でも、誰にでもできる本当に簡単で続けやすい健康法なんです。
漢字だと「甩手」と書き、「甩」(シュウェイ)という字には、「いらないものを放り投げる」という意味があり、雑念や体の緊張を取り払うことを目的としています。
頭いっぱいを埋め尽くしている不安や考え事を手放すようなイメージで動いていくと、心身の緊張が緩んで、リラックスすることができます。
太極拳では、上半身に余計な力みがなく、下半身がどっしりと安定している「上虚下実(じょうきょかじつ)」が理想の姿勢といわれています。
しかし、日常生活では目や耳でたくさんの情報を受け取り、頭でたくさん考え事をして、「イライラして頭にくる」「緊張して胸が苦しい」など、「上虚下実」とは逆の状態になりやすいですよね。
そこで、まずスワイショウをすると、頭や胸の緊張、肩の張りやひじのこわばりが取れ、体が緩むことで精神的な緊張もほぐれ、全身のバランスが整う。結果として、運動する準備が整った姿勢へと、自然と導かれるようなイメージです。
──スワイショウをすることで得られる効果について、詳しく教えていただけますか?
楊:まず、腰を捻り、手を大きく振ることで血行がよくなり、冷えや腰痛、肩こりの改善につながります。
ほかにも、スワイショウでは、右足左足、交互に重心をかけながら、大きく体をねじるので、続けていくと体幹が鍛えられて、バランス感覚向上も期待できます。また、スワイショウではウエストを起点に捻っていくので、ウエストのシェイプアップにも◎。
そして、最初にもお伝えしたとおり、緊張が取れるというのが一番の特徴で、体のこわばりが取れることで呼吸がゆったりと深くできるようになり、それが自律神経の調整や、疲労回復などにもつながります。
多くの方が、日常生活で常に緊張していて、いざ呼吸をゆっくりして「力を抜かないと」と思っても、なかなか脱力ができない方が多い。その点、スワイショウなら無心で手を振るという動きの中にリラックス要素があるので、気がついたら脱力ができちゃうんです。
瞑想やヨガなどで思考が働きすぎちゃうという人にもスワイショウはいいかもしれません。活力を養うための、積極的な休息をスワイショウは助けてくれます。
──スワイショウを実践するのに、おすすめのタイミングはありますか?
楊:いつでもOKです。朝なら体がほぐれて、一日を気持ちよくスタートできるし、仕事の合間にすれば気分転換や肩こり、腰痛予防にも。寝る前にすれば、不安を手放して床に入れるし、ほどよく血流がアップするので、睡眠の質も上がります。
本当にやる気がない、何もしたくないというときには、椅子に座って、ただ手を振るだけでも、だいぶ体と心がほぐれて楽になりますよ。
とにかく手軽で続けやすいのがスワイショウの魅力。続けることで心と体の変化を感じられると思うので、気軽に隙間時間にやってみてください!
スワイショウのやり方を解説&実践!
──ここからは、スワイショウの実践方法を教えてください。
楊:腰を軸に、両手を振るという本当にシンプルな動きです。腰の回転に合わせて、体をそよがせるようなイメージで動いてみましょう。
また、落ち込んでいるときや、気圧の変化、生理などでとにかく動きたくないというときは、椅子に座ったまま腕を振るだけでもOK。気分転換&やる気アップにつながるはず。
スワイショウのやり方
【やり方】
① 鼻からゆっくり息を吐き、肩ひじの緊張をゆるめる。
② 足を肩幅に開き、脇の下に少しゆとりを持たせる。両手のひらは自然と後ろに向け、それぞれの手指は自然に離す。
頭頂はつられているイメージで引き上げ、足首、膝、股関節は少し緩め、全身の内側にハリを感じつつもリラックスした立位=自然立ちの姿勢を作る。
③ 息を吸って両手を横から持ち上げたら、左右交互に体を捻って振り返るように腕を大きく振っていく。右に振り返るときは、左足、左に振り返るときは、右足に重心をのせる。
1分程度〜自分が心地がいい時間、腕を振り続ける。
④ おへその下に呼吸と動きを収めるようなイメージでゆったりと動きを止めていく。
ポイント
・視線は水平を意識。動きに慣れたら、視線で動きを先取りする。
・ウエストを運ぶようなイメージで腰を捻る。
・膝とつま先はだいたい同じ向きに。
・膝を緩め、しっかり重心を移動する。
目線が下がると、自然と前傾姿勢になってしまう。視線を平らかにして、自分が思っているより、姿勢を起こすのがコツ。
バリエーション① 腕を前後に振るスワイショウ
左右に視線を動かすのがつらいときは、腕を前後に振るスワイショウのやり方も!
① 横に手を振るスワイショウの①・②と同じように自然立ちの状態を作る。
② 腕を前後に振り、自然な重心移動を感じる。
③1分程度〜自分が心地がいい時間、腕を振り続ける。
④ おへその下に呼吸と動きを収めるようなイメージでゆったりと動きを止めていく。
バリエーション② 椅子に座ったスワイショウ
動くのが億劫なときは、座ったままのスワイショウも。
① 椅子に座り、頭頂を引き上げる。肩とひじは緩めながらも、脇の下に少し張りを持たせるような意識で、軽くスペースを取る。両手のひらは自然と後ろに向け、それぞれの手指は自然に離す。
② 息を吸って両手を横から持ち上げたら、左右交互に体を捻って振り返るように腕を大きく振っていく。右に振り返るときは、左尻、左に振り返るときは、右尻に重心をのせる。
1分程度〜自分が心地がいい時間、腕を振り続ける。
③ おへその下に呼吸と動きを収めるようなイメージでゆったりと動きを止めていく。
エディターがスワイショウの実力を体感!
楊さんの指導のもと、エディターの長谷がスワイショウを体験してみることに。まずは呼吸を整えながら、自然立ちの姿勢に。普段の姿勢のクセで、視線が落ちてしまい、前傾姿勢に…。
「視線は下向きのほうが落ち着くので、どうしても下向きになりやすいのですが、前傾姿勢になってしまうのと、思考が働きやすくなってしまいます。目の前に広がる山や海を眺めるようなイメージを持つといいですよ」と楊さんからアドバイスが。
視線を上げると、慣れないせいか少しソワソワ…。呼吸と姿勢が安定したら、ゆっくりと腕を上げ、体を捻って腕を振っていきます。
腕を振り始めてまず感じたのは、背骨がねじれて気持ちいい! 肩甲骨がボキボキと音を立ててほぐれていくのを感じます。しばらく動かしていると、どんどんスムーズに動けるようになり、巻き肩になっていた胸が開き、呼吸が深まるのを実感。
ゆったりと動きを止めて、体と心を観察すると、巡りがよくなり、デスクワークで緊張していた部分がリリースされたのがはっきりと感じられ、気分も爽快!
場所も時間も選ばずに手軽に実践できるので、寒くて、運動が億劫になりがちな冬には特にぴったりだと感じました。そして“続ける”という何よりも大切だけれど、難しい部分をクリアしやすいのがスワイショウの魅力。
運動が苦手な人、不調に悩む人、精神的に落ち込んでいる人、どんな人にもフィットするスワイショウ、皆さんもぜひ、実践してみてください!
写真/三浦晴 企画・構成・取材・文/長谷日向子