膀胱炎は女性に多い泌尿器の病気です。「なぜ、膀胱炎にすぐかかるのだろう?」と不安に思っている人もいると思います。女性の泌尿器を専門に診ている女性泌尿器科の平本有希子先生を取材しました。

清澄女性泌尿器科クリニック 院長
東京慈恵会医科大学卒業。同大学附属病院泌尿器科に在籍。女性医療クリニックLUNAネクストステージ、対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座、四谷メディカルキューブ勤務を経て、2023年現クリニックを開院。日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医・指導医。日本性機能学会認定性機能専門医。日本排尿機能学会認定排尿機能専門医。
膀胱炎が女性に多い理由は?

増田美加(以下、増田):どうして膀胱炎は女性に多いのですか?
平本有希子(以下、平本先生):女性は、尿道が男性と比べて短いため、膀胱炎を発症・再発しやすいのです。膀胱炎とは、膀胱に炎症が起こることで発症する病気で、「急性膀胱炎」と「慢性膀胱炎」の2種類にわかれます。
急性膀胱炎は、おもに細菌の感染によって起こるものです。おもな症状には、残尿感や頻尿、強い排尿痛、血尿などがあります。 慢性膀胱炎は、頻尿や残尿感、排尿痛などの症状があって、糖尿病や膀胱がん、尿路結石などの病気が潜んでいる恐れがある膀胱炎です。症状が軽くても、受診することをお勧めします。
女性の膀胱炎でいちばん多いのが、細菌性膀胱炎です。 人の体が健康な状態だと、菌は尿と一緒に体外へ流されます。けれども、疲れがたまって免疫力が下がった状態だと、細菌が尿道を通って膀胱の中に侵入し、感染することがあります。これが細菌性膀胱炎です。
増田:膀胱炎を疑うべき症状は、どんなものがあるのでしょうか?
平本先生:「トイレに行く回数が多くなった」「排尿した後にしみるような痛みがある」「尿を出すときの不快感」「血尿がある」などの症状は、膀胱炎の可能性があります。
【膀胱炎を疑う症状】
頻尿 … 膀胱炎では、尿意を感じやすくなるため、トイレに行く回数が多くなります。1回あたりの尿量が少なくなることも。症状が重い場合、10分前後に1回の頻度でトイレに行きたくなる上に、残尿感を伴う人もいます。
排尿痛 … 排尿の際に、膀胱や尿道のあたりに痛みを感じます(排尿痛)。尿道の出口や下腹部の痛みも起こり、排尿している途中よりも、排尿の後半に痛むことが多いです。
尿混濁(にょうこんだく) … 炎症を起こした膀胱の粘膜が剥がれたものや白血球が混じると、尿が白く濁ります。尿の中で細菌が繁殖するためで、膿っぽいものが混じる尿もあります。尿の臭いも強くなりやすいです。
血尿 … 膀胱の粘膜が細菌によって傷つけられると、粘膜から出血し、血尿になります。膀胱炎が原因で起こる血尿は、排尿の後半や最後の尿に血が混じることが多いです。我慢して治療せずにいると、排尿以外でも下腹部痛が起こりますので受診しましょう。
また、膀胱炎は放っておくと、腎臓に細菌が侵入して、腎盂腎炎を起こすことがあります。腰痛や発熱などが起こります。その場合は、すぐに! 受診してください。
細菌が原因でない「間質性膀胱炎」という病気も

増田:膀胱炎の原因は、細菌とのことですが、自分の大腸菌で炎症を起こすのですか?
平本先生:膀胱炎の原因になる細菌は、直腸に存在する大腸菌がほとんどです。先ほど話したように、女性の尿道は男性と比べて短く、3~4センチ程度の長さしかありません。体の構造上、菌が膀胱内に侵入しやすくなっているのです。
普段は、大腸菌が多少、膀胱に入ってもなんともありませんが、体調が悪いときに侵入されると病気を発症するというわけです。 また、細菌性の膀胱炎以外にも似たような症状を起こす病気があります。
それが40代以降に起こりやすい間質性膀胱炎です。間質性膀胱炎は、膀胱に原因不明の炎症が起こり、膀胱や腹部に痛み、頻尿、残尿などが現れます。 頻尿や尿意切迫感などの症状、膀胱あたりの痛みがある、特に尿が溜まってきたら下腹部が痛むという人は、間質性膀胱炎の疑いがあります。
間質性膀胱炎は、難しい病気で、検査をしても異常が見られることはほとんどありません。まれに、膀胱鏡検査で、特徴的な病変が診られた場合は、間質性膀胱炎と確定診断がされることがあります。 治療の難易度は高く、水圧で膀胱を拡張する水圧拡張術や、薬による治療などを行いますが、効果が出ないこともあります。
気をつけたいのは、細菌性膀胱炎と診断されて、長期間、抗生剤や過活動膀胱の抗コリン剤を使っていても、症状が改善しない場合は、間質性膀胱炎を疑って泌尿器科専門医を受診してください。医師が間質性膀胱炎を疑わない限り、診断されることがないため、専門医を受診することが大切です。 ほかにも、膀胱炎で抗生剤などの治療を受けても症状が改善しない場合は、性感染症の可能性もあります。
くり返す膀胱炎の対策には…

増田:膀胱炎をくり返すのはどうしてでしょうか?
平本先生:トイレを長時間、我慢し過ぎるのはよくありません。尿がパンパンに溜まってお腹が痛いほどなのに行かない、というくらいです。ただし、前回紹介した、頻尿気味の方、過活動膀胱の方は、できるだけ膀胱に尿が溜められるほうがいいので、膀胱に尿が溜まるまで、2~3時間は間隔を空けられると良いですね(⇒vol03)
それから、セックスのときに妊娠を望んでいない場合は、コンドームを使うことを忘れずに。低用量ピルで避妊していても、性感染症の細菌やHPV(ヒトパピローマウイルス)はうつります。避妊はピルで、性感染症予防はコンドームで。
膀胱炎を予防するためにもコンドームをできるだけ使用しましょう。また、セックスの前後にはシャワーを使って清潔にすることも忘れずに。 また、更年期以降の閉経後の女性に多い、閉経関連尿路性器症候群(GSM=Genitourinary Syndrome of Menopause)の人も、繰り返す膀胱炎になることがあります。
GSMは、閉経にともなって女性ホルモンが減少することで、尿路や性器に起こるさまざまな不快症状です。性器症状には、腟の乾燥感、かゆみ、におい、灼熱感、性交時痛。排尿症状には、頻尿、尿意切迫感、繰り返す膀胱炎などがあります。
GSMは、閉経後女性の半数に起こると言われています。恥ずかしいと放置せずに、泌尿器科を受診して適切な治療をすることで症状を改善できます。 治療には、保湿のための女性ホルモン剤の入った軟膏、骨盤底筋体操、レーザー治療などがあります。
トイレで洗い過ぎない&拭くときは前から後ろに

増田:膀胱炎のときにやってはいけないことはありますか? 入浴、シャワー式トイレ、セックスはどうなのでしょう?
平本先生:泌尿器科で尿検査をして膀胱炎とわかったら、細菌が入りやすいので、治るまでセックスはやめておきましょう。膀胱炎のときは水分をしっかり摂って、数日間はトイレが近くなってもいいので、我慢せずにトイレに行きます。
トイレで洗い過ぎもよくありません。尿のときは、シャワー式トイレは使わないで、トイレットペーパーを軽くあてる程度で十分です。大便のときは、大腸菌が尿路に来ないように、前から後ろに拭くように心がけます。
入浴で体を温めるのはいいことです。体は冷やさないようにしましょう。十分な睡眠とストレスを溜めないことも大切です。
増田:膀胱炎は、ドラッグストアなどの市販薬を使ってもいいのでしょうか?
平本先生:市販薬で治るなら、使ってもOKです。漢方薬の「五淋散」「猪苓湯」などは市販薬に使われています。ストレスで免疫力が下がっているときの予防には、「補中益気湯」なども効果があります。
市販薬で治らないときは、すぐに泌尿器科を受診してください。たまに、手持ちの抗生剤を飲んで受診する方がいらっしゃいますが、そうすると尿検査で菌が特定できず、正しいお薬が処方できないことがあります。抗生剤は飲まずに来てください。
そして、処方された抗生剤は、症状が良くなったからといって途中で中止せずに、繰り返す膀胱炎を予防するためにも、必ず最後まで飲み切ってくださいね。
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加