東洋医学を基にした治療法として、古来から伝わるお灸。鍼灸院で受けるイメージが強かったけれど、実は自宅で手軽に取り入れられるらしい! そんな“セルフお灸”について学ぶべく、yoi編集部員の木村&ライター中西が、老舗お灸メーカー「せんねん灸」のショールームを訪問。お灸の効能から、ツボの探し方、セルフお灸の方法まで、詳しく教えてもらいました。
- そもそも、「お灸」とは?
- 「ツボ」とは、体のどの部分を指す?
- セルフお灸とは?
- 鍼灸院で行うお灸とセルフお灸の違い
- セルフお灸の種類
- 外出先でも使える「火を使わないお灸」が人気NO.1
- セルフお灸のツボはどのようにして探す?
- ガイドを参考にしつつ、自分で痛い・気持ちいいところを探す
- セルフお灸の基本のやり方
- STEP1:シールを剥がす
- STEP2:指先に貼り、火をつける
- STEP3:お灸をツボに貼る
- セルフお灸で気をつけるべきポイント
- ①お灸を据える時間は、熱さをチェックして決める
- ②お灸をしているときは、呼吸をリラックスさせる
- ③頻度は毎日〜好きなタイミングで
- ④火を使うお灸は、必ず目の届く範囲で
そもそも、「お灸」とは?

木村:まずは、お灸の定義について教えてください。
小泉さん:お灸とは、ヨモギの葉から作られる“もぐさ”を燃やし、その熱でツボを温める治療法です。起源は中国と言われており、その歴史は少なくとも2500年以上。紀元前500年頃に書かれた文献には、当時の人々が、一般的な治療法としてお灸を嗜んでいたことが描かれています。
中西:なぜ、もぐさを使うのでしょうか?
小泉さん:もぐさを使う理由は、ゆっくり燃えて、かつ燃焼する温度が低いため、お灸をした時に心地よさがあるからです。他の葉も使われたようですが、熱の伝わり方や心地よさでヨモギから作られたもぐさへ淘汰されたものと思われます。
「ツボ」とは、体のどの部分を指す?
中西:ツボとは、体のどういった箇所のことを指すのでしょう?
小泉さん:私たちの体は、全身に巡る血液とともに栄養や熱が体のすみずみまで運ばれ、健康な状態を維持しています。しかし、さまざまな体の機能をコントロールしている内臓や精神的な働きが不調になると、血液の流れがとどこおり、血行不良が起きます。とくに皮膚へポイントとして現れる血行不良が、ツボです。
木村:ツボは後天的に現れるものなんですね! 足裏マッサージに行き、足裏全体に臓器のエリアが描かれた図を見たことがあります。例えば胃に不具合がある場合、胃に最も近い皮膚だけではなく、手や足にツボが現れるのはどうしてですか?
小泉さん:ツボは、血液の流れに沿って現れるものなので、患部と流れを同じくする血管に沿ってに現れます。胃に不具合が生じた場合は、胃の血行と同じくする血管に沿って血行不良が起きていますので、そこにツボが現れる、という仕組みです。

手前にある緑のもぐさをほぐして繊維状にしたものが上のもの。
木村:なるほど! 手足にツボが集結しているのは、なぜですか?
小泉さん:体幹部を流れる血管は太いのでツボの分布が広がりますし、手や足の末端に近づくと血管は細くなりますのでツボの分布が狭くなります。そのため手足にツボが集まっているように見えます。
つけ加えると、お灸を据える場所として、手足に現れるツボが理想的なんです。患部に繋がっている血管に沿って、ツボは全身のあらゆる箇所に現れます。同じ患部を刺激するツボであれば、体幹部の太い血管ではなく、体の末端である手足の細い血管を温めた方が効率よく、刺激がより届きやすいんです。
中西:ツボを温めることで、どのような効能があるのでしょうか?
小泉さん:血行不良が起きているツボに熱をダイレクトに与えることで、血液の流れがよくなり、血行不良が改善されます。それによって、患部が刺激され、不調の原因を根本から解決することができます。
“湯船につかって体を温めるのと何が違うの?”という質問をよく受けますが、お風呂に入ると全身が均一に温まるため、患部を刺激するスイッチが入りません。ポイントであるツボだけを温めるとスイッチが入り、体が変化して症状が改善される、というイメージです。
中西:皮膚をポイントで温めることが大事なんですね!
小泉さん:その通り。皮膚をポイントで温めることで、患部へつながる血液の流れがよくなり、患部が刺激されて、変化しようと働くんです。
セルフお灸とは?
鍼灸院で行うお灸とセルフお灸の違い
木村:鍼灸院で行うお灸と、セルフで行うお灸には、どんな違いがあるのでしょうか?
小泉さん:鍼灸院では、鍼灸師の資格を持っている者が問診を行い、患者さん一人一人の体や肌の状態を見ながらツボを探します。治療法も、米粒状やゴマ粒状に小さくしたもぐさを直接、肌の上に据えて火をつける方法から、スライスした生姜の上にもぐさを乗せて火をつける方法まで、さまざま。
一方で、セルフで行う際には、ネットや本の情報を参考に、不調ごとに現れやすいツボを探してお灸を据える方法がポピュラー。いつでもどこでも好きなときに、不調を改善できる点がメリットです。
セルフお灸の種類

中西:セルフお灸に使える商品には、どんなものがありますか?
小泉さん:最もベーシックなのが、直径1.5cmほどの台座に設置したもぐさに火をつけて、台座ごと皮膚に据えて使用するタイプ。「せんねん灸」の商品は、温熱レベルごとにさまざまな商品を用意しています。
中西:温熱レベルとは…!?
小泉さん:お灸から皮膚へ伝わる熱の高低を5段階で分けています。皮膚が薄いと低い温度の熱でも刺激が届きますが、皮膚が厚いと熱による刺激が届きにくい。セルフお灸を長く続けていらっしゃる方は、ツボごとに温熱レベルを使い分けています。初めてセルフお灸を試す方は、まずは温熱レベル1から使いはじめることを推奨しています。

木村:香りも、さまざまな種類があるんですね!
小泉さん:もぐさのナチュラルな香りを楽しめるベーシックなシリーズのほか、「はじめてのお灸moxa」シリーズは、はなのかほり(バラの香り)、くだもののかほり(りんご&レモンの香り)、香木のかほり(白檀・桂皮・丁字の香り)、緑茶のかほり(茶葉の新芽の香り)といった4つの香りから選べます。煙が苦手な方には、煙の少ない「せんねん灸の奇跡」がおすすめです。
外出先でも使える「火を使わないお灸」が人気NO.1

木村:こちらはなんですか?
小泉さん:カイロのように使える「火を使わないお灸」シリーズです。 大きさは、直径3cmほど。表面のシールを剥がすと発熱し、42〜43度の気持ちよい温熱効果が約3時間、持続します。火を使わないため、髪の生え際や、背中、肩など、目の届かない場所に貼っても安心。衣服の下に貼って、そのまま外出も可能です。実は、「せんねん灸 ショールーム銀座」で人気NO.1の商品はこちらなんですよ!
木村:そうなんですね! それは便利です。私は会社やお店の冷房が強くて体が冷えてしまうことがよくあるので、ぜひ持ち歩きたいです。
セルフお灸のツボはどのようにして探す?
ガイドを参考にしつつ、自分で痛い・気持ちいいところを探す

中西:セルフお灸をする際、ツボはどのように探したらいいですか?
小泉さん:「せんねん灸」のサイトでは、体の部位や症状別に現れやすいツボを紹介しています。それらを参考に見つけたツボの位置を、まずは、指で撫でてみてください。記事の後編でよくあるお悩み別にツボを紹介しています。
少しヘコんでいる、皮膚がカサついている、軽く押して痛み(圧痛)・心地よさを感じる、といった特徴があれば、そこがツボの可能性大です。人によってツボが現れる位置に微差があるため、もしツボ図に記された位置にこれらの特徴がなければ、その周辺を探ってみてください。
木村:ツボを見極める方法はありますか?
小泉さん:ツボが現れる箇所は、血行不良によって熱を感じにくいんです。ツボを探したら、試しにお灸を据えてみて、熱く感じるか、感じないかが見極めるポイントになります。すぐに熱さを感じたら、そこは血行が良いのですぐに外しましょう。じんわり心地よいぬくもりが持続して熱くならなかった場合は、血行不良が起きているツボに据えられていると判断します。
セルフお灸の基本のやり方
中西:では、実際にお灸を据える方法を教えてください!
STEP1:シールを剥がす

小泉さん:まずは、台座の裏から黄色いシールを剥がしましょう。
STEP2:指先に貼り、火をつける

小泉さん:台座の裏を指先の腹につけて、もう片方の手に持ったライターで、もぐさの先端に火をつけます。ツボに据えてから火をつけようとすると、角度によって火がゆらいで火傷のリスクがあるため、必ずこの方法を守ってくださいね。
STEP3:お灸をツボに貼る

小泉さん:もぐさから煙が立ったら、火がついたサイン。指先からはずして、ツボの上に貼り付けてください。この際、もぐさに直接指が触れないように、横から2本の指を近づけて台座を摘まみ移動させましょう。
セルフお灸で気をつけるべきポイント
①お灸を据える時間は、熱さをチェックして決める
木村:お灸は何分ほど置いておくべきですか?
小泉さん:皮膚に熱が伝わるのは、煙が立たなくなってからです。もぐさの火が消え、台座に触れて冷めていたら、台座の縁を摘んではずしてください。じんわり心地よい温かさを感じたら、ツボが温まっている証拠。もしもまったく温かさを感じない場合は、血行がだいぶ滞っていると思われるため、同じツボに連続で2、3回ほどお灸を据えましょう。回数を重ねると少しずつ皮膚の温度が高まって、熱を感じるはずです。
「熱い」と感じたら、血行不良が改善したサインですので、火が消えていなくてもすぐにはずしましょう。
②お灸をしているときは、呼吸をリラックスさせる
中西:セルフお灸をしている最中、意識するべきことはありますか?
小泉さん:ゆっくり息を吐いて、体をリラックスさせると、より良い効果を実感できます。人はストレスや焦りを感じていると息を吸いすぎてしまう傾向にあり、息を吸う行為は、体の緊張感を高めて体のコリにつながるんです。日常的に息を吐くことを意識すると、体がコリにくくなりますよ。
③頻度は毎日〜好きなタイミングで
中西:どれくらいの頻度で行うべきですか?
小泉さん:頻度のルールや制限はなく、毎日行っても大丈夫です。肩がこりやすい体質の方、冷えやすい体質の方は、定期的に行うことで悪化の防止につながります。
④火を使うお灸は、必ず目の届く範囲で
木村:そのほか、セルフお灸で、注意するべきことはありますか?
小泉さん:セルフで火をつけるタイプを使う場合は、自分の目が届く範囲のツボに据えると安全にお灸ができます。目の届かない部分に据えたいときは、火を使わないタイプにするか、ご家族に据えてもらうなどしてください。
撮影/wacci 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)