20代30代の5〜6人に1人は、やせ過ぎで栄養失調気味と言われ、今、日本女性のやせのリスクが叫ばれています。「どんな人がやせ過ぎなの?」「やせ過ぎだと何が危険なの?」「どうすればいいの?」を健康情報科学の専門家で医学博士の女性健康科学者、本田由佳先生に聞きました。

本田由佳(ほんだゆか)先生

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任准教授

本田由佳(ほんだゆか)先生

女性健康科学者・健康情報学者・博士(医学)。順天堂大学スポーツ健康科学部卒業後、タニタで体組成計や睡眠計のアルゴリズム開発と商品企画に携わる。2018年〜2021年まで国立成育医療研究センターでプレコンセプションケアと女性の健康の包括的支援政策研究事業の政策研究を行った。現在は、データサイエンティストとして産科婦人科舘出張佐藤病院、慶應義塾大学SFCに所属。Femtechコミュニティモデルの構築やウエルビーイング健康教育プログラムの開発・研究・啓発を行う。著書に『価値創造の健康情報プラットフォーム 』(慶應義塾大学出版会)ほか。

今の20代30代は戦後より隠れ“飢餓状態”!?

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増田美加(以下、増田):20代、30代の日本女性のやせ過ぎ(低体重・低栄養)が問題になっていると聞きますが、やせ過ぎかどうかは、どのように判断したらいいのでしょうか?

本田由佳先生(以下、本田先生):現代の若い日本女性は、戦後よりカロリー不足、飢餓状態とされています。見た目が痩せているから問題、というわけではなく、いろいろな指標がありますが、わかりやすいのは、BMI(Body Mass Index:体重 (kg) ÷ 身長 (m)の2乗)です。BMIが18.5未満だと「やせ(低体重)」です。

BMIが18.5 〜 25 未満が「普通体重」と定義されていて、BMI25以上が「肥満」です。 20代、30代の日本女性は、5~6人に一人がBMI18.5未満のやせ過ぎなので、2025年4月、日本肥満学会が過度な「やせ願望」に警鐘を鳴らしました。

さらに日本女性は細身の体形(平均BMIが20.7)にもかかわらず、「今より4.4㎏やせた体形が理想」と言っているデータもあります*1。やせの割合は、先進国の中で日本が最も高く、先進国でやせ過ぎ女性の割合は1位です。

20代女性でBMI18.5未満を理想とする日本女性が88%もいることがわかっています。 日本女性が飢餓状態だというのは、20代女性のエネルギー摂取量をみてもわかります。2002年以降、必要とするエネルギー摂取量に達していない、カロリー・栄養不足の状態なのです。

*1 厚生労働省「国民健康・栄養調査」2019年、1998年

20代 エネルギー 摂取量 女性 グラフ

出典/厚生労働省 国民健康・栄養調査データを基に本田先生が作成

海外では、やせ過ぎのファッションモデルも問題に

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増田:日本女性がやせ過ぎている理由は、なんでしょうか?

本田先生:日本では、ボディイメージや自己肯定感をもつ教育がまだあまり行われていないことなどがあります。やせを好む価値観の普及も影響しています。

メディアの影響も少なくないため、海外(イタリア、スペイン、フランスほか)では、やせ過ぎのモデル規制を行ない、BMI18.5以下のやせ過ぎたモデルはファッションショーやテレビなどへの出演を禁止しています。

しかし、日本ではいまだに何の規制も行われていません。 また、日本女性にやせが多いのは、美意識の問題だけではありません。女性の社会進出が進んだことで、忙しくて必要な栄養とエネルギーをとる時間や環境が減ってきているのです。

残業をすると夕食の時間が遅くなり、翌朝食欲がわかず、朝食を欠食するという悪循環に。食事は、コンビニのインスタント食品やクッキー、チョコレートなどのお菓子で済ます人も増えています。

学校教育の中で食育を通じて生活習慣に関する正しい知識は教育されていますが、自分の身体の形、肌の色、性別、障がいの有無に関わらず、自分の身体を愛して、大切にする意識を育むポジティブボディイメージ教育はされていないため、日本人の健康・セルフイメージへの知識・スキル・認識不足ということも課題です。

月経不順、疲れやすい、肌荒れ、さらに骨折や不妊のリスクも

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増田:やせ過ぎだと、どのようなリスクがあるのでしょうか?

本田先生:やせ過ぎは、カロリー不足と栄養不足であることを表しています。現在の不調に加えて、将来の病気のリスクも上がります。 まず、やせ過ぎによる現在の不調で多いのは、月経不順(正常周期(25~38日)から外れる)、無月経(3ヵ月以上月経がこない)、疲れやすい、冷える、肌や髪の調子が悪いなどがあります。

代謝が落ちて、肌や髪にも悪影響です。 また、見た目はスリムでも、骨密度や筋肉量が少ない「隠れ肥満」「フレイル予備軍」(寝たきりの一歩手前)の可能性もあります。隠れ肥満だと生活習慣病になりやすく、将来の病気リスクが上がります。

糖尿病リスク1.9倍、骨粗しょう症リスク1.6倍、骨折リスクとフレイルリスクはどちらも2倍もあるのです。若い人のやせ過ぎは、肥満の人と同じくらい糖尿病リスクがあるというデータもあります*2。

さらに不妊症になりやすく、妊娠したとしても妊娠高血圧症の発症リスクが上がります。お母さんのやせ過ぎは、生まれてくる赤ちゃんにも影響が及びます。

低出生体重児(2,500グラム未満)として生まれやすくなり、小さく生まれた赤ちゃんは、将来、糖尿病や高血圧などになりやすく、身長が低くなる可能性があるとも言われています。

*2 JClin Endocrinol Metab.2021;106(5):e2053-e2062

タンパク質、カルシウム、ビタミンBとDも大事

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増田:やせ過ぎている(低体重:BMI18.5未満)女性の不調は、栄養不足から来ているのかもしれませんね。若くても骨粗しょう症になり骨折しやすいというのは、驚きます。健康のため、骨のために、どんな栄養をどのように摂ったらいいのでしょうか?

本田先生:健康で美しい骨をつくるのためには、食事、運動(ジャンプ)、日光浴が必要です。その中で栄養は、カルシウムだけではダメなのです。特に必要な栄養素を挙げるとすると、タンパク質、カルシウム、ビタミンB、ビタミンDですね。

タンパク質は、大豆、肉、魚、卵、牛乳などから。カルシウムは、小魚、ヨーグルト、牛乳など。ビタミンB(葉酸)は、イチゴ、緑色野菜、ケールにもたくさん含まれています。

ビタミンDは、普通に生活して日光を浴びていれば体内で合成できるのですが、UVケアをしっかりしている人は不足気味の場合もあります。サケ、干ししいたけ、きくらげなどに多く含まれています。 

増田:これらの栄養素を上手に食べる方法を教えてください。

本田先生
:最初は、朝昼晩のどこかで1回でもいいので、意識するところから始めてもいいと思います。海のもの(海藻や魚介類)をとると、タンパク質もビタミンDもミネラルもとれるのでおすすめです。

わかめやしらす、かつお節でもいいのです。1日おきでもいいからとれるといいですね。それから、栄養不足を回避するためには、朝食をとることがとても重要です。朝食を食べないという人は、まずはヨーグルトとバナナからでもいいので始めてみてください。

バナナはミネラル、ビタミンのバランスもよく食物繊維も豊富で、甘味があってもGI値(グライセミック・インデックス)が低いので血糖値も上がりにくい果物です。果物で言えば、パイナップルも食物繊維、ミネラルも豊富でお勧めです。

最後に、朝は忙しいので包丁や火を使いたくないという人にお勧めの朝食レシピを紹介します。 

簡単豆乳リゾットレシピ

簡単 朝食 レシピ 栄養 

レシピ考案・制作:慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアムTeamROSE(本田由佳・山口紫乃)
写真提供: 慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアムTeamROSE(栄養士 山口紫乃)

① スープボールに即成のしじみ味噌汁の素を入れ、少量のお湯で溶いておく。
② ①に豆乳約200mlを入れて軽く混ぜ、レタス1枚位ひと握りをちぎり入れ、ミニトマト3つ、チーズ少し、ご飯(または冷やご飯)大さじ2~3を入れてかき混ぜ、レンジで1分半〜2分程温める。
③ ②を取り出して、オリーブオイル少々、貝割れを入れて、お好みで胡椒を加える。

参考資料/厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加