原因不明の肌あれや副鼻腔炎がなかなか治らない......もしかすると、それらのトラブルの原因は「虫歯」や「銀歯」にあるかもしれません。「これも歯が原因!?」と驚く意外な症状について、歯科医師の長谷川陽一先生に伺いました。
1988年生まれ、栃木県出身。2013年昭和大学歯学部卒業。大学病院の補綴科(ほてつか/義歯や被せ物などを用いた治療が専門)や都内近郊の歯科クリニックで約10年間研鑽を積み、一般診療をはじめ口腔外科やインプラント・矯正治療まで、幅広い知識と技術を習得。2024年に「御茶ノ水つばめ歯科・矯正歯科」を開業。
Q1.虫歯や歯周病、銀歯が全身の健康状態に影響するって本当?

A1.口の中の細菌が血管を通って全身に広がり、さまざまな疾患の原因になることがあります。
長谷川先生:虫歯や歯周病は口の中で発生する細菌の感染症ですが、実はこの細菌や炎症性物質が血流に乗って全身をめぐり、口以外の場所にも影響を与えることがあるのです。
具体的には、
・副鼻腔炎など耳鼻科領域の疾患
・妊娠中の早産、低体重児出産など産婦人科領域のリスク
・心筋梗塞、脳梗塞など循環器内科領域の病気
など、全身で起こるさまざまな問題の原因となりえます。
また、治療の一環で施した銀歯によって、
・金属アレルギーやアトピー性皮膚炎など皮膚科領域の疾患
が生じるケースも報告されています。
Q2.虫歯が原因で副鼻腔炎になるって本当?

A2.薬を飲んでも治りにくい・繰り返す副鼻腔炎は、原因が虫歯にあるかもしれません。
長谷川先生:上の奥歯は、その根元が上顎洞(じょうがくどう/頬骨付近にある骨の空洞)の近くにあります。
歯ブラシが届きにくい奥歯は、虫歯になりやすい部分のひとつです。
ここで虫歯が進行して歯の根元に膿がたまると、上顎洞にも感染し「歯性上顎洞炎」というタイプの副鼻腔炎を引き起こすことがあります。
副鼻腔炎は、鼻づまりや頭痛、頬のあたりの痛みなどが主な症状です。
なかなか副鼻腔炎が完治しない患者さんを診ていた耳鼻科の医師が「もしかしたら虫歯が関係しているかもしれない」と疑い、歯科の受診を勧めたことで判明したケースもあります。
耳鼻科で治療をしてもあまり症状が改善されない場合は、虫歯が原因となっているかもしれません。
Q3.銀歯のせいで肌あれすることがあるの?

A3.治療後の経過年数や本数に関係なく、銀歯によって金属アレルギーを発症する可能性があります。
長谷川先生:銀歯に使われる金属には金・銀・パラジウム・銅などが含まれています。
それらが唾液によって少しずつ溶け出し、血流に乗って全身をめぐることで金属アレルギーの反応を引き起こすことがあります。
アレルギー反応は、顔や手足の皮膚の乾燥・赤み・湿疹・かゆみなど、銀歯が直接触れる口の中以外にも生じます。
ただし、治療から何年もたってから発症する場合もあり、発症までの期間にはかなり個人差があるようです。
診察時に患者さんからの申告がなければ、アレルギーテストをせずに銀歯の治療を進めてしまうことは今でも珍しくなく、もともとアレルギーの自覚がなかった方にとっては、何気なく入れた銀歯の影響で症状が出ていても、その原因に気づきにくいかもしれません。
肌あれの原因をひとつに断定するのは難しいものですが「銀歯を入れたことがあり、原因不明の肌の不調が続いている」という場合は、一度歯科で状態を確認してみることをお勧めします。
「コンポジットレジン」というプラスチック素材を選べば、保険診療内で銀歯から白い歯へつめ替えることも可能です。
実際に金属アレルギーがあるかどうかは、皮膚科やアレルギー科でパッチテストという検査を希望すれば確認することができます。
治療に金属を使わない「メタルフリー治療」を推奨している歯医者さんもありますので、ぜひ相談してみてください。
Q4.歯科疾患の予防のためにできるセルフケアのコツは?

A4.口内環境を酸性→中性へとリセットすることがポイントです。
長谷川先生:人間は食事をすると口の中のpH値が中性から酸性へと傾きます。虫歯菌は酸性の環境を好んで繁殖するので、できる限り早めにリセットできると虫歯予防に効果的です。
毎食後すぐに歯磨きをするのが理想的ですが、忙しくて難しいときには、マウスウォッシュを使ってうがいをするだけでも効果はあります。
食事の時間が不規則であったり、間食が多かったりすると、それだけ口内環境が酸化する時間が増えてしまうので、食生活のリズムを意識して整えることも大切です。
歯磨きをする際には、自分に合う歯ブラシやデンタルフロス・歯間ブラシに加えて、予防効果の高いフッ素が高濃度で配合されている歯磨き粉(国内での濃度の上限は1500ppm)を使用するのがおすすめです。
口の中は自分では直視できない死角も多いので、3カ月〜半年に一度くらいのペースで定期検診を受診すればより安心できます。
構成・取材・文/月島華子 イラスト/川添むつみ