大豆から作られたお肉や豆腐でできたチーズ、豆乳やアーモンドミルクなど、植物由来の原材料を使用した「プラントベースフード」が今、大きな進化を遂げているのをご存じですか? ヴィーガンやベジタリアンなど目的が限られた人だけのためのものではなくなってきているのです。そこで、そもそもプラントベースフードとはなんなのか、メリット・デメリットは? などの基礎知識を、専門家の先生に伺いました。
プラントベースフードアドバイザー講師
シニアオーガニック料理ソムリエの資格を持ち、プラントベースと暮らしの研究室「プラントベース・ラボ」の立ち上げを進めた主席研究員。マクロビオティックとの出合いをきっかけにプラントベースなライフスタイルを実践しており、国内外のプラントベース事情に精通している。
『プラントベースフード』とは?
浅倉先生:プラントベースフードとは、動物性の原料を使わず、植物由来の原料で作った食べもの、またそれを自由に取り入れるの食習慣のことをいいます。アメリカでは『プラントベースフードアソシエーション』という団体により、“100%動物性食材不使用であること。そして、これには一歳の例外は認めない”と定義付けられています。
しかし日本では、製品を加工する段階で動物性の食品を混ぜていることも多く、完全な植物性ではないものもあります。その場合は“一部に動物性原料を使用”などと注意書きがあるので、気をつけて見てみるといいかもしれません。
私たち『植物性料理研究家協会』では、“強制されたり我慢することなく、誰もが自由に楽しむことができる選択肢のひとつ”として、プラントベースフードを広めていく活動をしています。
鎌倉時代には、すでにプラントベースフードが浸透していた?!
浅倉先生:動物性のものを食さない、いわゆるヴィーガニズムの考えは、“ヒッピー文化”が全盛であった1960年代頃から、アメリカで流行りはじめたといわれています。その後、2009年に歌手のポール・マッカートニーが、“毎週月曜日は肉を控えよう”という活動、『ミートフリーマンデー』を提唱。もともとこの『ミートフリーマンデー』は、第一次世界大戦において兵士の食糧を確保するために実施されたのが発端だそうですが、2000年代には、宗教や食料源のためではなく健康や環境のために肉食を控える、という選択肢が本格的に世界に広まりはじめました。
ちなみに、日本で菜食やプラントベースが浸透しはじめたのは、仏教とともに精進料理が中国から持ち込まれた鎌倉時代だといわれています。精進料理は肉類を使わないため、満足感を高めようと、肉を模した“もどき料理”が活発に作られたそうです。これが日本におけるプラントベースフードの始まりといえるのではないでしょうか。現在も食べられているがんもどきは、この“もどき料理”のひとつです。1957年には、『不二製油』という油のメーカーがすでに大豆ミートを開発していました。
プラントベースフードを選ぶ6つのメリット
では実際に、プラントベースフードを選ぶとどのようなメリットがあるのでしょうか? 浅倉先生に聞いてみました。
1.摂取カロリーや脂肪分を抑えられる
浅倉先生:肉や魚などの動物性食品に比べると、植物性の原料を使用したプラントベースフードは摂取カロリーや脂肪分を抑えられます。そのため、食事制限中の人や健康のために食事管理をしたい人にも向いています。
2.美容にプラスになる栄養素が豊富
浅倉先生:例えば牛乳をアーモンドミルクに置き換えると、抗酸化作用を持つビタミンEや食物繊維が摂取できるため、美容にも効果が期待できるといえます。私は以前、実験的に半年ほど動物性の食品を控え、“8割プラントベース生活”を続けたことがありますが、肌のハリを感じたり、くすみがはれたような実感がありました。
3.アレルギーを持っている人の選択肢が広がる
浅倉先生:卵や牛乳のアレルギーを持っている方、肉や魚が体質に合わない方でも、安心して食べることができます。
4.環境に優しい
浅倉先生:食肉が食卓へ届くまでには、育成や加工など多くの工程が踏まれており、大量の水や穀物を要します。また、牛のゲップにより排出されるメタンガスは、環境破壊の一因になっていることが明らかになっています。そのため、プラントベースフードの選択が広がることで、食肉加工に使われる水資源の大量消費や、飼料のための森林伐採、メタンガスの排出を抑えることができます。
5.サステナブルである
浅倉先生:2050年には、食肉によるタンパク質の供給が需要に対して足りなくなる「プロテインクライシス」が起こるといわれています。これもプラントベースフードが注目を集めている大きな理由のひとつ。持続可能なタンパク源が、今後さらに求められることになるでしょう。
6.体への負担が少ない
浅倉先生:動物性の食品と比較して、プラントベースフードは消化器官のエネルギー消耗を抑えることができます。そのため、体の調子が悪い日などに取り入れることで、体への負担を減らすことができるといえます。
プラントベースフードを選ぶ2つのデメリット
たくさんのメリットが挙げられましたが、もちろんデメリットもあるそう。
1.摂取しにくい栄養素がある
浅倉先生:オメガ3脂肪酸、ビタミンB12、鉄分、亜鉛、カルシウムといった栄養素は、動物性のタンパク質以外から摂る場合、いろいろと食材選びに工夫が必要になります。中でもビタミンB12は、植物性食材からとることが難しいとされています。そのため、プラントベースのみの食生活を選択している場合は、サプリメントなどで補う必要があります。またタンパク質量も肉や魚のほうが多いため、植物性の食品のみで補おうとすると、かなりの量を摂取しなくてはなりません。
2.大豆原料の製品が多く、特有の風味が強いものもある
浅倉先生:大豆でできたお肉「ソイミート」をはじめ、日本のプラントベースフードは大豆を原料としているものが多く、製品によっては独特のにおいが気になる人もいます。「食材の味をそのまま楽しむ」というよりは、味つけをしっかりするほうが、おいしくいただけるはずです。
1日からでも、十分効果を感じられる!
浅倉先生:私が以前試した“半年間、8割プラントベースフード生活”では、肌のトーンアップやハリ感アップなど見た目にも変化を感じられましたし、一緒に実践していた夫は、余分な体脂肪が減り、コレステロール値が減少、ボディラインも引き締まりました。
ただ、プラントベースフードの生活を続けるのは、簡単ではありません。なので、まずはファスティングのような感覚で、1日からトライしてみるのもおすすめ。SNSでは、“#週一プラントベース”というハッシュタグも流行っているようで、人によってはそれだけでも体の変化を感じられると思います。
野菜を多くとりたい、健康や環境に配慮したい、という目的で始めるなら、ぜひ無理のない範囲で、自分のペースで続けてみてくださいね。
新しい「食」の可能性
浅倉先生:最近では、スーパーでもプラントベースフードの製品が増えてきていますし、飲食店などでもインバウンドの需要に伴い、プラントベースの選択肢が増えていますよね。ウーバーイーツなどのデリバリーサービスでも簡単に注文できます。
日本ではまだ大豆を加工した製品が主流ですが、プラントベース先進国ともいえるアメリカでは、大豆以外にも様々な植物原料をベースにした商品が続々と開発されています。またアメリカでは、毎日植物性食品だけを食べる訳ではないプラントベースライフスタイルの人が多いこともあり、プラントベースの食品ではありませんが、培養肉でできたパティが開発されたり、動物性と植物性のいいとこ取りをした、50%肉・50%プラントベースで作った、ハーフ&ハーフの“ハイブリッド肉”なども販売されたりしています。
カフェなどでアーモンドミルク、オーツミルク、ソイミルクが選べる楽しさが広がったように、宗教や健康上の理由だけでなく個人の好みやその日の気分に合わせて、もっと気軽な選択肢としてプラントベースフードが広く受け入れられれば理想的だな、と考えています。
取材・文/堀越美香子 企画・編集/種谷美波(yoi)