英国発のライフスタイルブランド『ジョー マローン ロンドン』。香りで日常を彩るフレグランスやキャンドルなど、ホームグッズやギフトとしても喜ばれるブランドとして世界中で愛されています。
実は『ジョー マローン ロンドン』は、本国イギリスでは、「メンタルヘルス」という言葉がまだ社会に根づく前から10年にわたり、メンタルウェルネス向上のための活動を支援してきました。そして、5月20日に新発売されたキャンドルとともに、その活動が日本でもスタート。活動のビジョンや内容について、詳しくお話を伺いました。
荒れてしまった庭園の再生からメンタルヘルスに向き合う
『ジョー マローン ロンドン』は「A Culture of Kindness」の信念のもと、CSR(企業の社会的責任)活動として、心の健康に課題を抱える人たちとともに荒廃したガーデンを再生し、メンタルウェルネスの向上をサポートする「チャリティガーデン」を2012年にロンドンからスタート。そこで培ったノウハウを他国へも展開していくにあたり、アジアの中でも特に日本で活動の可能性を探り続けてきたといいます。その経緯について、ジョー マローン ロンドン マーケティング マネージャーの鬼澤直美さんにお話を伺いました。
「私たちの活動のミッションは、花や植物など自然との触れ合いを通じて、人々のメンタルウェルネス向上をサポートすることです。その想いと共鳴するパートナーを探すのはとても慎重な作業でしたが、ある国際的なレポートを通じて、『若い世代のサポート』に目を向けるようになりました。そのレポートは、“人生のどこかのタイミングで精神疾患を抱える人の割合は、世界中で4〜5人に1人にものぼる現状があり、その半数が15歳までに発症している”というものでした。そこからたどり着いたのが、今回のパートナーであるNPO法人『みらいの森』です」(鬼澤さん)。
児童養護施設の子どもたちをサポートする『みらいの森』とは?
日本におけるCSR活動のパートナーとなった『みらいの森』は、児童養護施設で暮らす子どもたちにアウトドアプログラムを提供し、生涯の糧となる「生きる力(ライフスキル)」が得られる体験を創出してサポートするNPO法人。5月20日に発売されたチャリティキャンドル「ホワイト ライラック & ルバーブ ホーム キャンドル」は、その売り上げの75%(税抜)が『みらいの森』へ寄付されます。今後は寄付にとどまらず、ボランティア活動などの取り組みを通じた継続的な支援も予定しているのだそう。
「自然が与えてくれる豊かな感情や優しさに着目している点、そして、子どもたちのメンタルヘルスをサポートする多様なプロジェクトを展開している点において私たちのミッションと親和性が高く、素晴らしいパートナーに巡り合えたことに感謝しています」(鬼澤さん)
#ShiningALight で世界に広がる、癒しの灯火と香り
ホワイト ライラック & ルバーブ ホーム キャンドル 200g ¥9,900/ジョー マローン ロンドン
活動のシンボルにキャンドルが採用されたのは、その炎の揺らめきや穏やかな香りが私たちの心を癒すリラックスモーメントを演出してくれるから。
「キャンドルを灯すと、グラスに描かれたボタニカル柄のシルエットが浮かび上がります。炎の揺らめきややわらかな光を体感できるキャンドルは無条件に心を解放し、リラックスさせるアイテム。キャンドルと過ごす時間から得られる優しい気持ちが、自分や周囲に伝播していくきっかけになればと考えています。SNSでも『#ShiningALight 』というハッシュタグを使って、その思いを発信・共有していく予定です」(鬼澤さん、以下同)
ホワイト ライラックやローズに爽やかなルバーブを加えた香りは、まるで初夏のガーデンに佇んでいるよう。
「上質なフレグランスオイルを使っているので、1時間ほど灯すだけでもしっかり香りが広がります。心地よい香りに満ちた空間でのんびり過ごしたり、バスルームの照明を消してキャンドルを灯すのもおすすめです。また、蓋を開けたキャンドルをエントランスや寝室に置けばブーケ代わりに。コロナ禍で緊張感が続いていたり、疲れている方も多いはず。ぜひ香りを身近においてご自身をケアしていただけたら」
折れない心より起き上がる力を。『みらいの森』が考える生きる力
小中学生はプログラム参加者として、高校生には自立に焦点を当てた「リーダー実習プログラム」参加者として、卒業生には卒業生プログラムを通して、横断的にサポートしている『みらいの森』。さまざまなプロジェクトを通して培われる「生きる力」とは、今まで経験したことのない状況や問題に対してきちんと考え、自ら解決方法を見つけ出し、困難を乗り越えられる力のこと。
「施設に住む子どもたちのほとんどが、高校卒業と同時に完全な自立を強いられますが、施設の職員やサポートスタッフがそれぞれの子どもたちに対して、起こりうるすべての問題への対応策を教えることはできません。だからこそ『みらいの森』では活動を通して、折れない心ではなく“起き上がる力(レジリエンス)”や柔軟性を学び、生きる力を身につけるための種まきをしています」と話すのは、同団体のエグゼクティブ・ディレクターを務める岡こずえさん。その種まきのひとつがアウトドアなのだそう。
「自然という非日常かつ差別や偏見のない環境は、自分のことに自分で責任を持つことや、自分なりに考えて行動する力を育みます。例えば、アウトドアキャンプでは苦手なものが食べられたり、一人で長距離を歩くことができたり、シャイな子が人前で堂々と発表できたりと、子どもたちが自分の可能性を引き出していく場面が数多く見られます。私たちが『キャンプマジック』と呼ぶその一面を日常生活にもつなげられるよう、失敗を恐れずチャレンジできる場所であることを大切にしています」(岡さん、以下同)
身近にロールモデルが少なく、将来の展望を想像しにくい子どもたちにとって、国籍もバックグラウンドもさまざまなスタッフが集う『みらいの森』は、多文化や多様なロールモデルに触れられる貴重な場でもあります。
「スタッフが英語でコミュニケーションを取る姿を見て、不登校だった子が『英語を勉強したい』と学校へ行き始めたケースもあります。多様な生き方や価値観に触れることで多くの選択肢に気づくきっかけになれたらうれしいですし、子どもたちが自立したあとも、気軽に帰ってこられる“居場所”として活用してもらえたら」
『みらいの森』エグゼクティブ・ディレクター
大学でアウトドア教育を学び、スウェーデンに1年間留学。帰国後、『みらいの森』の活動に共感し、アルバイトとして参加したのちに正規スタッフに。現在はエグゼクティブ・ディレクターとしてプロジェクトの運営を牽引している。『みらいの森』公式サイトはこちら。
児童養護施設の子どもたちが抱える心の問題と社会的孤立
貧困や両親の離婚・死別、虐待など、さまざまな事情によって親と離れて児童養護施設で暮らす子どもたちの数は、およそ2万5000人。子どもたちは施設で生活していることや施設出身であること隠したがる傾向があるといいます。その理由は、周囲からの差別や偏見。背景には、児童養護施設に対する正しい理解が普及していないという現実があります。
「重要な社会問題なのにタブー視されたり、“親に捨てられたかわいそうな子どもたち”といった思い込みから差別やいじめが起きているのだと思います。施設に暮らしていることを隠したい子は、例えば、保護者が施設長の名前になることでまわりに知られるのを気にしたり、授業参観に若いスタッフが来ると『お姉ちゃんだ』と嘘をついたり。大人にとっては小さなことかもしれませんが、子どもにとっては一大事なんです」
それらの経験は、子どもたちの自己肯定感の低さや失敗することへの恐怖心などを悪化させ、孤独感を強める悪循環を招く原因に。子どもたちの心を守るためにも、まずは“偏見なく正しく知ること”が重要だと岡さんは言います。
「正しい理解を広めることで子どもたちへの接し方や配慮が改善されたり、児童養護施設は特異な場所ではなく、社会全体で子どもを育む大切な場所のひとつだという認識になっていけばいいなと思います。また、『みらいの森』に携わったことで初めて問題を知ったという人もいるので、活動を続けることの大切さも実感しています」
知ることから始まるサステナブルなサポートへの第一歩
「社会問題」と聞くと、自分とは遠いことのように感じるかもしれません。けれど、私たちの日常すべてが社会問題に直結するテーマであり、かかわり方のバリエーションもさまざま。
「気になったキーワードを調べてみる、『みらいの森』でボランティアをしてみる、誰かと問題について話してみるなど、一人一人に合わせたサステナブルなかかわり方がたくさんあります。今回のチャリティキャンドルのような温もりのある商品を通じたメッセージの発信も、社会的養護を知ってもらえるいいきっかけになると思います」と岡さん。
子どもたちとかかわるうえで大切なのは、「児童養護施設の子ども」というラベルなしに、一人一人と向き合うこと。彼らの夢をサポートする気持ちを持つこと。そして、支援する私たち自身の心の健康も大切だと岡さんは言います。
「何より自分自身が健康でなければ、誰かをサポートするのは難しいもの。サステナブルなサポートをするためにも、自分の心に正直に、心地よく過ごせる環境を大切にしてほしいと思います」
誰かをサポートするために必要なのは、お互いの想いを循環させること。その第一歩として、自分の心のめぐりを整えることから始めてみませんか。
取材・文/国分美由紀 企画・編集/高戸映里奈(yoi)