仕事、人間関係、恋愛、健康…毎日を過ごす中で、なんだかモヤモヤと心が重くなることって、ありますよね? 心が疲れたら、ひと息ついてもいいんです。臨床心理士のみたらし加奈さんと、ちょっと甘いものでも食べながら、お話ししませんか? メンタルヘルスをもっと身近に考えるためのヒントをお教えします。

繰り返す夫婦ゲンカの出口が見えない…。臨床心理士・みたらし加奈のブレイクトーク連載「ちょっと甘いものでも。」#3【前編】_1

臨床心理士

みたらし加奈

総合病院の精神科で勤務したのち、ハワイへ留学。帰国後は、フリーランスとしての活動をメインに行いつつ、SNSを通してメンタルヘルスの情報を発信。現在は一般社団法人国際心理支援協会所属。NPO法人『mimosas(ミモザ)』の副理事も務める。著書に『マインドトーク あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)がある。

♯3前編  結婚10年目。最近夫婦間のケンカが増えて、すぐにイライラするように。
ふたりで話し合っても出口が見えません。

繰り返す夫婦ゲンカの出口が見えない…。臨床心理士・みたらし加奈のブレイクトーク連載「ちょっと甘いものでも。」#3【前編】_2

今回の相談者さん
プリンさん(夫)・モンブランさん(妻)夫妻

結婚10年目の、ともに30代の夫婦。結婚後、夫・プリンさんの仕事の関係で九州→海外→東京と、家族で引っ越しを繰り返してきた。現在は二人の子どもたちと4人で暮らす。

今回ひと息つきにきてくれたのは、プリンさん、モンブランさん(ともに仮)ご夫妻です。夫・プリンさんの仕事の関係で、夫妻の実家からは遠く離れた東京で、二人のお子さんと4人で暮らしています。出会ってからの年月を数えると15年以上ともに過ごしてきたというご夫妻ですが、ここ1、2年は、ケンカが絶えなくなっているそう。その原因を探るべく夫婦での話し合いを何度も繰り返してきたものの、なかなか出口が見えません。そこで、第三者の意見を聞きたいと、みたらしさんのもとにやってきてくれました。


引っ越し、コロナ禍の在宅勤務、専業主婦から共働きに…変化とともに生まれた夫婦のズレ

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※これから行われる対話はカウンセリングではありません。

みたらしさん 今日は「カウンセリング」ではありませんが、ご夫婦一緒にお話をさせていただくカップルカウンセリングがどのようなものなのか、少し雰囲気をつかんでいただけたらと思っています。おふたりは今日、話したいトピックなどありますか?
 
プリン(夫)さん 僕たちは結婚して10年になるんですが、最近夫婦でケンカすることが増えまして。3年前に東京に引っ越してきて、二人目の子どもが生まれたくらいから、細かいことでもめたり、言い合ったりすることが多くなったんです。第三者に話を聞いてもらえたら何か助けになるかもしれない、と相談に来ました。

お互い九州出身で、もともとは九州在住。その後、東京に来るまでは3年ほど、僕の仕事の関係で海外に駐在していました。ずっと仲良くやってきたのに、何が今までと変わったのか…話し合ったりもしたものの、結局そこでも言い合いになってしまって。

みたらしさん おふたりで話し合いができる関係性はありつつ、環境の変化も伴ってすれ違いが多くなってきたんですね。おつき合いをされていた頃は、ケンカをされることはあったんですか?
 
プリン(夫)さん つき合っていた頃は、ケンカはほとんどなかったと思います。
 
モンブラン(妻)さん 子どもができてからかな?
 
プリン(夫)さん うーん、一人目が生まれた九州在住の頃はほとんどしてないと思う。海外に駐在していた頃もそんな印象はなくて。やっぱり東京に来てからじゃないかな。

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みたらしさん モンブランさんはどうですか? 環境の変化とともに関係性の変化を感じることはありましたか?
 
モンブラン(妻)さん 私は正直、土地や環境の変化を意識したことはありません。ただ、確かに東京に来てからのここ1、2年は、お互いに対してイライラすることが頻繁にあって。
 
プリン(夫)さん いちばんの変化は、コロナ禍で僕の在宅勤務が増えたことかもしれません。在宅になったことで、子どもの保育園の送迎ができるようになったり、パパ友ができたり…これまで妻だけが参加していた子育てコミュニティに自分も参加することで、共通の話題ができて、最初は楽しく過ごしていたんです。
 
みたらしさん うまくいっていたのに、イライラするようになってしまったきっかけについては何か思いあたりますか?
 
プリン(夫)さん 平日も僕が家にいて、家事育児に全面的に参加できる態勢にようやく慣れてきた頃に、また出社が始まったことです。そこからお互いに、「僕の/私の大変さをわかってよ」と思うことが増えたんじゃないかという気がします。

僕は仕事だから当然、会社には行かなきゃいけない。でも妻は、「え? 会社行くの?」という態度。それに対して「生活費を稼がなきゃいけないのは僕なんだし、家にいるのが当たり前とは思わないでくれよ」とモヤモヤしてしまって。それでつい、ちょっとしたことで言い方が強くなって、口論することが多くなったのかな、と。

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みたらしさん モンブランさんの視点からだとどうでしょうか?
 
モンブラン(妻)さん 私は自分の気持ちがまとまっているわけではないんですが、夫の話を改めて聞くと、そうだったかも、という気もします。夫が自宅で仕事をするようになって、彼の日々の仕事のスタイルが見えてきたんです。そうすると「このタイミングは手が空くんだな、だったら家事や育児を手伝ってほしい」という思いが出てきて。実際に、それを強く求めたかもしれません。
 
1年前から、私もアルバイトをするようになったんです。夫が言っていたように、それまで生活費はすべて彼が稼いでくるという状況だったので、自由にお金を使えないことがちょっと苦しくて。だから外に出て自分も稼ぎたいなと思って、育児の合間に働くようになりました。
 
それによって「私も稼いでいる=お互い仕事をしてるんだから家事育児の分担も対等」という気持ちが芽生えたというか…。「僕は仕事で忙しい」「いやいや、私も仕事してるんだし忙しいのはお互いさまでしょ」と、“忙しいアピール”合戦になってしまって、ギクシャクしはじめちゃったのかなと思いました。
 
最初は夫婦を代表してプリンさんが説明をしている様子でしたが、みたらしさんが「モンブランさんはどう感じていたのか」と振り続けることで、次第にモンブランさんも「自分の言葉」で気持ちを話し始めました。そこで、みたらしさんがふたりの関係性を掘り下げていきます。

「家族っていいね」から始まった結婚生活。“仕事”と“家事”の価値観は…?

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みたらしさん 少し時系列を前に戻したいんですが、おふたりがおつき合いをするに至った、なれそめをお伺いしてもよろしいですか?
 
プリン(夫)さん 共通の知人を介して知り合いました。紹介されてから1カ月くらいでつき合うようになり、1年後には同棲していたので、最初からフィーリングが合ったんだと思います。
 
みたらしさん 結婚を決めた経緯はなんだったのでしょう?
 
プリン(夫)さん あるとき、彼女の家族とお酒を飲んだんです。その時間がすごく楽しくて、「家族っていいね」という話になり、それで「結婚する?」と聞きました。
 
みたらしさん モンブランさんも、同じ気持ちだったんですか?
 
モンブラン(妻)さん そうですね。私はもともと結婚願望がなかったんです。なんのために結婚するのか、よくわからなくて。でもいい人だし、私も彼と一緒にいたいなと思ってはいて…。「家族っていいね」という話をした際に「子どもがほしいな」という思いが芽生えたので、自然と結婚しようという気持ちになりましたね。

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みたらしさん お子さんは結婚後すぐに授かられたんですか?
 
モンブラン(妻)さん はい。ありがたいことに、結婚して1年もたたないうちに妊娠が発覚しまして。それを機に仕事も辞めました。
 
みたらしさん それまでは、どんなふうに働かれていたんですか?
 
モンブラン(妻)さん 新卒で入った会社で数年営業職を経験しました。結婚、妊娠と環境が変わってきたなかで、子育てに集中したくて仕事を辞めました。その後、夫の海外赴任、二人目の妊娠を経て、数年ぶりに仕事をするようになったのが今のアルバイトですね。
 
プリン(夫)さん 妻は、結婚後はフルで働いていたことはなくて。その代わりに「家のことは全部やってよ」というわけでもないんですが…僕はけっこう昭和的なところがあって、そもそも“生活費は男が稼いでくるもの”という考え方なんです。
 
みたらしさん 「家計は自分が支える」という思いが強いんですね。モンブランさんは、そんなプリンさんの思いをどう感じていますか?
 
モンブラン(妻)さん 確かに結婚当時は「俺が守ってやる」という感じではあったんですけど、二人目の子どもができてからは、「お前も働けよ」的なプレッシャーを感じるようになった気がします。
 
ふたりの関係を振り返るうちに、小さな気持ちのズレが見えてきました。ここから、この小さなズレが少しずつ大きくなっていたことが徐々に明らかになっていきます。

華やかな海外駐在から、余裕のない東京での生活へ

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プリン(夫)さん 「東京に来てからケンカが増えた」と感じた理由につながるかもしれないのですが、二人目ができたことに加えて、東京は物価も高くて何かとお金がかかる。だからどうしても、僕がお金にうるさくなってしまったというか。九州にいた頃は物価が安く、海外にいた頃は海外赴任手当もあって生活に余裕があった。でも東京では物価も高くて余裕もないんですよね。そんな中で、「家がほしい」とか言われると、「そんな金ないじゃん」って反発してしまって。男としてのプライドもあるので希望はかなえてあげたい思いはあるけど、わかってくれよ、という気持ちが態度に出ていたかもしれません。
 
モンブラン(妻)さん いや、「家がほしい」とは言ってないよ。家計を考えたら、23区内で家を買うのは現実的ではないと、私にもわかります。ただ、夫の会社の家賃補助の期間があと数年で切れるので、その後どこで暮らすのか、家を買ったほうがいいのか、といった“相談”をしたつもりでした。私としては「絶対家がほしい」というつもりはなかったんですが、言葉の選び方、伝え方でそう感じさせてしまったのかな、ということに今気がつきました。
 
海外駐在時はけっこう派手な生活を送っていたんです。そのバブリーな感じを引きずったまま東京に来てしまって、金銭的な余裕はなくなったのに、前の生活感から抜け出し切れていない部分もあったのかもしれません。夫からすると不安だらけだったのに、「家をどうするのか」という話をされて、嫌だったんでしょうね。
 
プリン(夫)さん やっぱり、お金に関する口論は多いと思います。もちろんそれだけではないんですけど、そのせいでずっと「東京は住みにくい」という思いが募っている部分はありますね。
 
そもそも今住んでいる家が4人で住むには手狭で。空間の狭さ=心の狭さというか、それがイライラにつながっているところもあるかもしれません。

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みたらしさん 例えばローンを組んで広い家に住み替えるなど、選択肢はいくつかあるのかなと思いますが、家賃補助をもらって現在のおうちに住み続けるほうがトータルとしていいと判断されているんですよね?
 
プリン(夫)さん ローンを組んでその返済に追われるようになれば、金銭的なことを理由にいろんなことを諦めなければならなくなることは目に見えています。だったら今の家に住みながら幸せな生活が送れるようにしたい。でも在宅が増えて、結局、狭い家のなかでイライラを募らせてしまいました。
 
同時に、コロナ禍で上の子どもが小学生になって、習い事も始まって。そのタイミングで妻が働き始めたので、妻からするといろんなタイミングが全部一緒に来てしまった。さらに僕が会社に行きはじめて手伝ってくれなくなった…というので、余計にストレスをためることになっちゃったのかなと思います。
 
モンブラン(妻)さん 夫は年齢的にも、会社での立場が上がったり部下が増えたりして、彼の忙しさや大変さも理解はできるんですが…ここ1年くらいはなんとなく、仕事でのいら立ちを家庭内でも引きずっているように感じたり、「今、僕は仕事で忙しいんだからモンブランが子どもたちの迎えに行ってよ」みたいなプレッシャーを感じるようになって。直接口にしなくてもそう思ってるんだろうなと思うと、言いたいことも我慢するようになりました。それが募って爆発して、またケンカになる、の繰り返しですね。
 
みたらしさん モンブランさんは、ストレスをためたときの発散方法って何かありますか?
 
モンブラン(妻)さん 私はストレスを発散したいときこそ、家族で過ごしたいんです。「夫が飲み会で帰ってこないほうが楽」なんて話も聞きますが、私はストレスがたまったときこそ、家族でごはんを食べて、休日なら家族で出かけて、家族水入らずで過ごしたい派。でも夫はどちらかというと、ストレスがたまったときはひとりで過ごしたい人なんですよね。休日も自分の予定を優先することがあって、それがまた、こちらにとってはストレスになることもあります。
 
みたらしさん それぞれストレスの感じ方/発散の違いがどのような部分にあるのか見えてきましたね。ここからは、もう少しおふたりの関係の成り立ちについて、会話をしていきましょう。
 
従来、「カップルカウンセリング」における臨床心理士の役割は「ファシリテーター」と話すみたらしさん。双方のコミュニケーションにおける「詰まり」を押し出して、円滑に会話が流れるよう、場をまわしていきます。今回も、みたらしさんが双方「自分の言葉」で話ができるよう促していくことで、徐々におふたりの考え方・価値観の違いが浮き彫りになってきました。
 
中編では、そんなおふたりの価値観がどのように作られ、夫婦間のコミュニケーションにどのような影響を与えているのか、「イライラ」の本当の原因は何かに迫っていきます。

撮影/花村克彦 illustration by Tyas drawing/istock/Getty Image plus 取材・文/千吉良美樹 企画・編集/高戸映里奈(yoi)