何か心が落ち込んだり、傷ついたりしたとき、立ち直るのが早い人と時間のかかる人がいます。その違いはいったいどんなところにあるのでしょうか? そのカギとして最近注目されているのが、「レジリエンス(resilience)」です。

その言葉の意味やストレスとの関係、また、気になるレジリエンスの高め方について、臨床心理士の伊藤絵美さんに伺いました!

レジリエンスの高い女性のイメージ

実は誰でも持っている力。レジリエンスとは?

伊藤さんによると、「レジリエンス」とは、「回復力」のこと。「生きていれば、仕事や人間関係、環境の変化などさまざまなストレスがあり、それを避けることはできません。落ち込んだり傷ついたりしたときに、そこから回復する力があれば、ストレスと上手につき合っていくことができます」

日々、たくさんのストレスを抱えがちな私たちは、それによって心身に不調をきたしてしまうこともあります。健康に生きていくためにも、レジリエンスを手に入れたい! と思う人はきっと多いはず。いったいどうすればいいのでしょうか。

実は、レジリエンスは誰もが持っているものです。ただ、そのなかにはさまざまな要素が含まれていて、個人差がある。例えば、性格や物事のとらえ方、ストレス対処法をどれだけ使えているか、まわりのサポート体制がどれだけあるか、といったことが、その人のレジリエンスの高さに関係しています」

つまり、もともと備わっている自分のレジリエンスを高めることができれば、ストレスを感じやすい環境にあっても心身のバランスをうまく保つことができるのです。

レジリエンスの高い人のイメージ

ポイントは柔軟性。レジリエンスが高いのはこんな人!

では、「レジリエンスが高い人」とはいったいどんな人なのでしょうか? 伊藤さんが挙げてくれたのは、こんな性格的要素。

楽観的に物事を受けとめることができる

●自分の気持ちをうまく表現できる

●状況に応じて柔軟に対応策を考えられる

「まずは、楽観的な性格であること。これは自己効力感にもつながりますが、『自分はできるんだ』『乗り越えられるんだ』という信念があると、多少の障害があっても落ち込みづらくなりますよね。

それから、自分の気持ちを上手に外に出せることもポイントです。何かトラブルがあったときに、『私がいけないんだ』と思ってしまうのではなく、相手にちゃんと自分の意見を言える人は問題解決がしやすいと思います。そこで必要なのが、柔軟性。『どんな言い方をすれば受け入れてくれるのか』『そもそも自分に受け止める余地はないのか』『いったんここから離れて気分転換してみよう』などと、状況によって最適な方法を多角的に考えられる人は、レジリエンスが高い人だといえます」

とはいえ、ストレスを受けたときに取り乱さず、視野を広く持って対応するのは、なかなか難しいことにも思えます。伊藤さんによると、そのために役立つのが「コーピング」だそう。コーピングとは、降り掛かってくるストレスに対して起こる、イライラや気分の落ち込みなどの反応を、自分の思考や行動パターンによって解決するストレス対処法。

「『イライラしてきたからちょっとチョコでも食べよう』『ネガティブな思考を反芻しているから、空でも眺めよう』など、ストレスに対して自分がどんなふうに対処すればいいのかを知っていれば、それほど慌てずにすむはず。コーピングをうまく使いつづけることが、結果、レジリエンスを高めることにつながります

ストレスと上手につき合うために。頑張るだけじゃないレジリエンスの高め方

レジリエンスを高めるためには、自分で取り組めるコーピングのほかに、まわりのサポートを得ることが欠かせないと伊藤さんはいいます。「自分が頑張るだけでなく、助けてくれる人や相談できる人など、サポート資源を増やすことが、レジリエンスを高めるためにはとても重要です。直接話をできる知人や家族のほかに、公的機関を頼ってもいいですし、それが難しければ、自分を勇気づけてくれるマンガやアニメなどのキャラクターだって構いません。

スポーツ選手やアイドルなどを応援する『推し活』もいいですね。『推し』の存在からたくさんの喜びや幸せを得られるだけでなく、ファン同士のつながりもできるので、それは立派なサポート資源になります。また、使い方には注意も必要ですが、SNSで趣味の合う仲間を見つけたり、言葉を交わし合ったりすることも、周囲とのつながりを感じられる手軽な方法のひとつです」

また、伊藤さんによると、こうしたサポート資源を探す行為自体が、コーピングにもなるのだとか。自分を助けるための手段として、周囲のサポートを増やすことも意識していきたいですね。

自分を“ヨシヨシ”する、セルフ・コンパッションを身につけて

レジリエンスには「回復力」という意味があるとお伝えしましたが、伊藤さんによると、今現在受けているさまざまなストレスに対してだけでなく、過去に受けたDVや虐待、暴力といったトラウマからどう回復するか、という視点からも重要視されているそうです。

「ただし、長年、専門家としてカウンセリングを続けてきた身からすると、傷ついた心を癒すのは、そんなに簡単な話ではありません。『回復しなきゃいけない』と、レジリエンスに執着すると、なかなか立ち直れない自分を悲観したり、責めたりしてしまうことも。ストレス耐性があるのはいいことですが、一方で、『レジリエンスが高いほど素晴らしい』と、思いすぎないようにしていただきたいんです」

そこで、目を向けてほしいのが、「セルフ・コンパッション」だといいます。「今、心理学でもとても注目されている概念で、簡単に言うと“自分に優しくすること”です。傷ついている自分に対して、『そんなんじゃダメ』と否定するのではなく、『つらかったね』と受けとめてあげる。そうすることで、ネガティブな感情に支配されず、上手にストレスをコントロールできるようになっていきます」

自分に優しくする女性のイメージ

なかには自分に優しくする感覚がわからない、という人もいるかもしれません。「例えば、ぬいぐるみを抱きしめて“ヨシヨシ”と可愛がってみてください。そしてその感情を今度は自分に向けてほしいのです。すると、自分に対しても“ヨシヨシ”する感覚がつかめるはずです」

また、伊藤さんによると、“自分へのご褒美”もセルフ・コンパッションになるのだとか。「私の場合は、頑張った日にはおいしいケーキを食べたり、疲れた日にはお気に入りの入浴剤を入れたお風呂に入ったり。そういう他愛のないことでいいのです。自分に優しくする癖をつけることこそが、広義のレジリエンスになると思います」

他人には優しくできるのに、自分にはなかなかできないという人は多いのではないでしょうか。レジリエンスの高い人を目指すためにも、まずは今日頑張った自分をねぎらい、“ヨシヨシ”することから始めたいですね。

伊藤絵美

公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士

伊藤絵美

洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。専門は臨床心理学、ストレス心理学、認知行動療法、スキーマ療法。精神科クリニックにてカウンセラーとして勤務したあと、民間企業でのメンタルヘルスの仕事に従事。2004年より認知行動療法に基づくカウンセリングを提供する専門機関を開設し、カウンセリング歴は30年以上。著書に『セルフケアの道具箱 ストレスと上手につきあう100のワーク』(晶文社)、『コーピングのやさしい教科書』(金剛出版)、『つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。』(医学書院)などがある。

構成・文/秦レンナ イラスト/いとうひでみ