「親の差別発言にモヤモヤ」「結婚して子どもを産むべきと言われて困っている」「転職に猛反対された」など。親との会話のなかで生まれたモヤモヤはどうやって解消したらいいのでしょうか。『「親がしんどい」を解きほぐす』(KADOKAWA)の著者であり、臨床心理士・公認心理師の寝子さんにアドバイスをいただきました。

寝子

臨床心理士・公認心理師

寝子

スクールカウンセラーや私設相談室カウンセラーなどを経て、現在は医療機関で成人のトラウマケアに特化した個別カウンセリングに従事。トラウマの中でも、親子関係からのトラウマケアと性犯罪被害者支援がライフワーク。臨床業務の傍らXで心理に関する発信や、ブログ「心理カウンセラー寝子の寝言」も人気。著書に『「親がしんどい」を解きほぐす』(KADOKAWA)がある。

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「親がしんどい」を解きほぐす(寝子)/KADOKAWA

時代に合わない差別発言を、サラッとする親。放っておくべき? 注意すべき?

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Q. 親が特定の人種やジェンダーに関して差別的な発言をするのが、本当に嫌です。考え方を変えてほしいけれど、今さら長年の価値観を変えられる自信もありません。自分のモヤモヤを親に伝えるべきなのか、放っておくべきなのか。どうするのがいいでしょうか?

A. 親が変わることを期待せず、自分が嫌な気持ちにならないことを最優先に

寝子さん 特に50代〜60代の親世代は、「こうあるべきだ」という画一的な価値観を刷り込まれ、多様な生き方や価値観に触れる機会がなかったという人が多いのではないでしょうか。そのため残念ながら、自分の考えを伝えても、その考えを理解してくれる可能性は高くないかもしれません。ここで大事なのは、親にわかってもらおうとするのではなく、“どうしたら自分が嫌な思いをしないか”に意識を配ることだと思います。

TVを見て親が差別発言をしているんだったら、親と一緒にTVを見るのをやめるとか、話題を変えるとか、自分が嫌な気持ちにならないようにしてみるのはどうでしょうか。もし、親へのモヤモヤやイライラが募ったらXに呟いてもいいし、運動でストレス発散してもいいかもしれません。

とはいえ、わかり合えなくても気持ちを伝えたいという思いが強いのであれば、必ずしも我慢する必要はありません。「わかり合おうと努力して伝えたけれどわかり合えなかった。だったらしょうがない」といい意味であきらめがついて、親と心の距離を取れるかもしれません。

「結婚すべき」「子どもを産むべき」と価値観を押しつけてくる。自分の人生に干渉されたくない

Q. 「一生独身はやめて」「結婚式は絶対に挙げるべき」「子どもは産むべき」など、結婚や出産に対する考えを押しつけてきます。自分の人生は自分で決断したいと親に伝えたいのですが、どのように伝えるのがいいのでしょうか?

A.  家以外の場所で気持ちをストレートに伝える。それでも変わらない場合は、物理的に「バウンダリー」を引いて

寝子さん この場合は、「あなたが言いたいことはよくわかるけど、自分の人生は自分で決めます」とストレートに言っていいのではないでしょうか。こういう大切な話をするときは、家以外の場所で行うことがコツです。家だと互いに安心感があり、相手との距離が掴みにくくなって、言い争いに転じる可能性があるからです。もしその場でハッキリ言えない場合は、気持ちを整理して、電話やメールで伝えるのも、お互いが冷静に気持ちを伝えるには、いい方法です。

親自身、それが口癖のようになっていて、子どもにどれだけ不快な思いをさせているか自覚していない可能性もあるんです。冷静に気持ちを伝えてもまた同じようなことを言ってきた場合は、「やめてほしいと言ったのにその気持ちを無視して何度も同じことを言うのなら、しばらくは会うことをやめましょう」と言って、物理的に会う頻度を減らすのもいいかもしれません。

言葉で伝えることに加えて、電話に出ない、メールの返信を遅らせるなど、態度で示すのも効果があるかもしれません。「あれ、いつもと違うぞ」と気づいてもらうことで、バウンダリー(境界線)を作ることになり、「子どもの人生に口を出しすぎた」と親が自覚するきっかけになります。

安定した職業を望む親に、それ以外の働き方を理解してもらうには?

Q.  安定した職業からの転職を決めたとき、親に猛反対を受けました。正社員に対する信頼度が高すぎる母と、働き方や資格の有無で生活の質は測れないと思う私。今の時代の働き方をどう親にわかってもらえばいいでしょうか。

A. 時間をかけて、自立した自分を見せることが説得力に

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寝子さん
 「自分の人生は自分で決めていい」ということを大前提に、このことを本質的に親に理解してもらうには、時間をかけるしかないかもしれません。50代〜60代の親世代は、特に仕事については画一化された価値観の中で“世間の常識”を盲信している方もいらっしゃり、こちらが必死に伝えても、実感がないが故に理解できないことも。

この場合は、自分が新しい働き方を実践し、「私は正社員でなくてもこうしてしっかり生きているから大丈夫だよ」と示すことが親を安心させる一番の材料になると思います。そもそも不安なのは親よりも子ども本人のはずですよね。自分の人生は自分のもの。何よりも、「私は大丈夫」と強く信じてください。

タトゥーを入れたい私と入れてほしくない親。分かり合うにはどうしたらいい?

タトゥーを入れたい私と、タトゥーだけは絶対に入れるなという親。これだけは絶対にわかり合えないのですが、どうたらいいでしょうか。

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A. 自分の人生で何を大事にしたいか。優先順位を考えてみて

寝子さん 親がものすごく反対していて、そのことにすごく悩んでいるのであれば、親の気持ちを優先してタトゥーを我慢するか、それを上回るほどタトゥーを入れたいのか、どちらが自分にとって優先順位が高いか考えるといいかもしれません。

人によっては、タトゥーだけでなく、美容整形、男性がネイルすることや化粧をすることに拒否反応を示す方もいますよね。親は自分とは違う人間なので、すべてをわかり合おうとしなくてもいいと思います。自分の人生で何を大切にしたいかを、よく考えて決断することがポイントです。

容姿を指摘し続ける親に、やめてほしいと伝えたい

Q. 昔から容姿を指摘されて傷ついてきました。やめてほしいと伝えるには何と言うのがいいでしょうか…。


 

A. これは完全なハラスメントです。自分を守る行動を最優先にしましょう

寝子さん 相談者さんが思っている以上に、これは許されない行為です。親は自分の発言がどれだけ攻撃性があるのか、トラウマを与えるものなのか自覚していないかもしれませんが、これは間違いなく言葉による暴力です。そのような相手に「やめてほしい」と伝えても、「冗談で言ったつもりなのに」とか「そんなムキにならなくても」と言い方を変えて別の形で傷つけられる可能性もあります。親が変わることを期待するよりも、親と接触する回数を減らして、傷ついた自分を守る行動を取ってほしいです。絶対に自分を責めず、国や民間の機関に相談したり、カウンセリングを受けることを考えてみてください。

どうしても親と関わらなくてはいけない場合は、窓口を変えてみましょう。「体調が優れない」など、理由はなんでもいいので、他のきょうだいや親戚、自分のパートナーなど、連絡がある場合は自分以外にコンタクトを取ってもらい、なるべく接触を減らす方法を取って。まずは今の自分を大切にして、絶対に自分を責めないようにしてください。

取材・文/浦本真梨子 イラスト/kyoko 企画/種谷美波(yoi)