禅の世界や仏教の教えを言葉にした禅の言葉たちには、現代を生きる私たちの心を軽くしてくれるヒントが詰まったものがたくさん! 臨済宗龍雲寺住職・細川晋輔さんに、メンタルに効く“禅ワード”(禅語)について聞くシリーズ。今回は、まずは、「無力感」に効く“禅ワード”を教えてもらいました。

細川晋輔

龍雲寺住職

細川晋輔

1979年東京生まれ。東京都世田谷区、臨済宗龍雲寺住職。佛教大学卒業後、京都の臨済宗妙心寺の専門道場にて九年間の修行。2013年に龍雲寺住職に。著書に『禅の言葉とジブリ』(徳間書店)、『迷いが消える禅のひとこと』(サンマーク出版)等。

無力感に効く“禅ワード”(禅語)は…「諸行無常」

禅語 諸行無常

「諸行無常(しょぎょうむじょう)」の意味は?
あらゆる現象は変化してやまない。

仏教の根本理論。

「物事はうまくいかなくて当然」そう教えてくれる言葉

臨済宗龍雲寺住職・細川晋輔さん 禅語 禅ワード 諸行無常

細川さん仏教では1/75秒ずつさまざまなものが変化していると言われています。すべてのものは移り変わっていく。一瞬たりとも留まるものはない。

これは医学的な話ですが、私たちの肉体の細胞も、1年半後にはすべて入れ替わっていると言われてますよね。つまり、変わらないものなどない。老いたくなくても老いてしまうし、死にたくなくても死んでしまう。そのままにしていたくても、すべてのことは絶対に変わってしまうのです。

無力感に苛まれたとき、この「諸行無常」を心に止めておくことが、とても重要です。「物事は思い通りにはいかなくて当然だ」「すべては移ろいゆくものだ」と悟ることができ、心の安らぎを得やすくなるでしょう。

すべては変わるからこそ、目の前のものを大切に

臨済宗龍雲寺住職・細川晋輔さん 禅語 禅ワード 諸行無常 2

細川さん無力感を感じるとき、または「自分は何もできない」と思ってしまうときに、ぜひ思い出してほしい言葉です。

何かのトラブルや立ち行かない問題が起きたとき、自分が無力であれば落胆しますよね。「諸行無常」という言葉の意味を知っている方も多いとは思いますが、いざ出来事に直面すると、無力感に苛まれることもあるでしょう。

例えば、お気に入りのコップが割れてしまった。仲がよかった人と縁が切れてしまった。部署異動でまったく違う部門に異動になった。大切な人が亡くなった……。生きていると、自分が大切にしていた何かや誰かを失うことはよくあります。そしてそれが、自分の力ではどうにもできないものであることも多いです。

しかし、永遠に割れないコップもないし、死ぬまで同じ友達、同じ同僚、同じ部署で生きていくことなんてできません。そして、死は誰にでも必ずやってきます。

それが「諸行無常」です。自分の体すら泡沫のものなのですから、自分の思い通りにできることなんて、実はなにもないのです。

己は無力だと感じたときは、「無力感を取り払う」のではなく、「人はすべての物事に対して無力である」と知ることです。「人生は諸行無常だ」と立ち止まり、今目の前で起きている現象を大切にしてみてください。

また、「諸行無常」を意識して生きていると、「変わる前」を大切にすることもできるようになります。人生のビッグイベントが起きてしまう前に、……つまり失う前に、大切な人を大切にできるようになるはずです。

今日、今、会っている人は、これが最後かもしれない。そんな可能性の中で私たちは生きていることを忘れないようにしましょう。

撮影/干田哲平 画像デザイン/前原悠花 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)