禅の世界や仏教の教えを内包した禅の言葉たちには、現代を生きる私たちの心を軽くしてくれるヒントが詰まったものがたくさん! 臨済宗龍雲寺住職・細川晋輔さんに、メンタルに効く“禅ワード”(禅語)について聞くシリーズ。今回は「タイパ・コスパ疲れ」に効く“禅ワード”です。

細川晋輔

龍雲寺住職

細川晋輔

1979年東京生まれ。東京都世田谷区、臨済宗龍雲寺住職。佛教大学卒業後、京都の臨済宗妙心寺の専門道場にて九年間の修行。2013年に龍雲寺住職に。著書に『禅の言葉とジブリ』(徳間書店)、『迷いが消える禅のひとこと』(サンマーク出版)等。

タイパ・コスパ疲れに効く“禅ワード”(禅語)は…「担雪填古井(ゆきをにのうてこせいをうずむ)」

禅ワード 禅語 担雪填古井

「担雪填古井(ゆきをにのうてこせいをうずむ)」の意味は?
雪を担いて古井を填める。
古い井戸を雪で埋めていく、という意味。

効率重視をしないことで見つかる答えも大切に

臨済宗龍雲寺住職・細川晋輔さん 禅ワード 禅語 担雪填古井

細川さん:合理的に考えれば、古い井戸を埋めるのであれば砂利やセメントですよね(笑)。絶対に効果的ですし、いちばん効率がいいでしょう。それは間違いのないことです。

でも、「雪でもいつか埋められる」と信じて雪を運び続けるような、純粋さも人生にはあってもいいんじゃないかと思うんです。人生において、古い井戸にとっての砂利やセメントのように、効果的なものがない場合もありますから。

「すぐに効果のあるものを」と求め続けていては疲れますし、見つからないとがっかりします。疲れたときや難しいときは「雪で井戸を埋めていく」くらいの方向転換、つまり「長い時間をかけて埋めていこう」という考え方に、シフトできたほうがいいと思うんですね。

「一生をかけて努力していこう」とか、「永遠の目標に向かって、永遠に努力していこう」という、じっくりと長いスパンで、答えを探していくことも、とても大切なことですから。

タイパ重視の詰め込み型人生は、かえってつかみづらいものになる

臨済宗龍雲寺住職・細川晋輔さん 境内 禅ワード 禅語 担雪填古井

細川さん:「タイパ」という言葉が流行り始めてから、私はこの言葉をよりいっそう好きになりました。コスパやタイパを気にするのに疲れたときに、「担雪填古井」という禅語を思い出すと、一息つけるのではないか、と思います。

物事は直ぐに効果が出るものばかりではないし、「これって無駄なのかもしれない」と思うようなことでも、やり続けることで未来につながることもたくさんあります。

更に私は、「無駄かもしれない」と感じる時間こそ、より人生を豊かにしてくれるとも考えています。「意味のない時間」を人生に置いていくことは、意外と大切だと思うんですよ。

私はそれをよく、句読点に例えます。「、」「。」は100個並べたところで何ひとつ伝えられない記号です。けれど、意味のないものではない。文章に句読点があることで、読みやすくなったり、整理されたり、テンポがよくなったりしますよね。逆に「句読点には意味がないから」とすべて削除してしまうと、きっと読みにくくなってしまう。

僕らの人生が文章だとしたら、「一見意味のないと思われる時間」は句読点なんです。それがあることによって、自分の生き方はより際立っていく。

タイパやコスパを優先して詰まった人生は、句読点のない文章のように、つかみづらく味気ないものになるかもしれません。

時間に追われてギスギスしてしまいそうなときこそ、「担雪填古井」です。AIだったら間違いなくコンクリートでやることを、「私は雪を選ぶ」ということの、豊かさ。美しさ。純粋さ。この禅語を知って、そんなことに思いを馳せてもらえるとうれしいですね。

撮影/干田哲平 画像デザイン/前原悠花 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)