日々の忙しさに追われ、ついつい食事をおろそかにしていませんか? 食べる瞑想「Zen Eating」は、そんな現代人にぴったりの健康法。「Zen Eating」のワークショップはアメリカ、イギリス、シンガポールをはじめとしたグローバル企業や、国内外の大学などからも実施依頼があり、幅広い支持を得ています。今回は、「Zen Eating」代表・Momoeさんに、食事と向き合う大切さについて、伺いました。
Zen Eating代表・中央大学客員研究員
1991年生まれ。中央大学で鈴木大拙を中心に比較思想を学んだ後、株式会社星野リゾートでウェルネス事業に携わる。退職後、2年間のインド留学を経て帰国し、瞑想を土台にした「心がととのう幸せな食べ方(Zen Eating)」を編み出して起業。2023年に著書『食べる瞑想Zen Eatingのすすめ:世界が認めた幸せな食べ方』(笠間書院)を出版。法人を中心にウェルビーイング顧問やアドバイザリーとしての業務提供や、G20およびG7に民間人として初めてウェルビーイングを提案するなど、精力的に活動している。
食べる瞑想Zen Eatingのすすめ:世界が認めた幸せな食べ方(ももえ)/笠間書院
食べる瞑想「Zen Eating」とは? 世界が認めた幸せな食べ方
—食べること=瞑想と気づいたきっかけはどんなことでしたか?
Momoeさん 社会人になってから忙しさから心に負担がかかり、毎食お弁当を2つ食べても満足できない…という状況が1年ほど続き、8キロ太ってしまったんです。
そのときは、毎日のようにコンビニ弁当をパソコンの前で食べる生活。今思うと「食べる行為」が目的になっていて、食べても食べても満足せず、どんな味だったかも思い出せません。
そんなある日、坐禅指導をしているお坊さんが運営するカフェでお粥をゆっくり食べながら話を聞いていたところ、「こういう時間を求めて生きていたんだ」と感じました。それまで休息の取り方がわからなかった自分にとって、この経験が心に変化をもたらしてくれたんです。2016年9月に退職を決意し、翌月にはインドに渡ってアーユルヴェーダや瞑想を2年ほど学びました。
そしてサプリメントなどの栄養素の機能に頼るのではなく地球の恵みを感じることで、心をチューニングする必要があると気づきました。いまは、食べものを健康のツールとして見るのではなく、感謝して食べられるようになりました。
食べる瞑想「Zen Eating」は、「何を食べるか」よりも「どう食べるか」を大切にした食事方法。「どう食べるか」を大切にするためには、食べる場所を整えたり、五感やお腹など体の感覚に意識を向けたり、食べながら命の循環を感じたりして、食べることへ意識を集中させていきます。
厳しく食事制限しなくても実践できるもので、「自分に感謝して食べよう」と思いながら食事をすることなので、日々の生活に取り入れられると思います。
ランチタイムに「食べる瞑想」を実践してみよう
ー毎日の食事で、実際に食べる瞑想を取り入れる方法を教えてください。
Momoeさん まず、ランチタイムに実践してみるのはいかがでしょうか。食事を終えたあとも、「やる気が起きない」と感じることがあったら、それは食事が単なる栄養補給の時間になってしまっているサインかもしれません。これからお伝えする4つのことを実践するだけで食べる瞑想ができるので、ぜひ実践してみてください。
また、「Zen Eating」ではお腹が食べたいもの、体が求めているものを食べることを大切にしています。その感覚は、「自分は自然の一部」という気持ちを持つことで開きます。ランチタイムの前に思い描いた食べたいものは、頭が食べたいものなのか、お腹が食べたいものなのかを考えてみるのもおすすめです。
①食事の場を整える
まず、食事を始める前に、スマホの電源を切り、机を拭いてみましょう。たったそれだけで、机の上が作業台から食卓に変わります。
②「調うモード」へ切り替える
ゆっくり食べなきゃと気負っていませんか? それは、「忙しいモード」で食事をしているからかも。「忙しいモード」だと“空腹を満たす”という目的になってしまいますが、食事の場を整えている間に「調うモード」へと切り替わります。このモードでは「丁寧に食べる」ことが自然と目的になります。
③食事を全身で味わう
「調うモード」で食事をすると、情報に振り回されることなく、考え事を休める時間になります。呼吸、舌の刺激、飲み込んだときの喉の動き、食道を通る感触などを感じ、生きていることを実感できます。
例えば水を飲むときには、その水がどこから来たのかを考えてみてください。コップの中の水に大自然を思い浮かべるんです。水は、山の湧き水がじわじわと広がり、山の土がそれを濾過し、川や海、雲となり、最終的には再び海へと巡っていく。
今飲んでいるコップの水は、この循環の中で生まれるもの。自分もその中で生かされていることを感じるのです。この感覚が洗練されてくると「うれしいな、奇跡だな」と思える瞬間に変わるはず。
④食後の合言葉を忘れずに!
この感覚を自然と身につけるためには、まずにおいを感じ、ひと口ごとに箸を置き、食事の前後に『いただきます』『ごちそうさま』と言うことが大切。たったそれだけです。
食べ終わったあと、いつもより少し心を込めて『ごちそうさま』と言ってみてください。食事前よりも心も頭も軽くなり、緊張が解けて、リラックスした状態で前向きな午後を始めることができるはずです。
このように、ランチの時間を見直すことで、仕事の疲れを癒し、リフレッシュすることができます。
「食べる瞑想」を続けると、舌の好みが変わってくる
ー「食べる瞑想」は、どれくらい続けると変化を感じますか?
Momoeさん 食事をきちんと味わうことで、体が本当に求めているものか、そうでないものかがわかるようになります。
「これでいいや」と選んでいる食べなじみのある食べものの味って、詳細に思い出せますか? 「Zen Eating」をする前のわたしはスナック菓子の味をぜんぜん感じていなかったんです。覚えているのはパッケージに書いてある味のタイプだけ。「Zen Eating」を心得てから食べると、塩辛さや後味の油っぽさを感じ、あんなに好きだったスナック菓子があまり好きではなくなってしまいました。
このような経験を通じて、私たちの味覚は変わっていきます。初めは濃い味つけを好んでいたかもしれませんが、次第に自然な味を求めるようになるんです。これは、前提としていた味覚の思い込みが変わり、体が本当に必要としているものを感じ取るようになるから。
味の好みが自然と変わると、健康的な食事を自然と楽しむことができるようになりますよ。ぜひ、食事の際は「ながら食べ」をやめて、ひと口ずつ、丁寧に味わうことを心がけてみてください。
イラスト/Moriharu 撮影・構成・取材・文/高浦彩加