「これまで築いてきたキャリアは間違いだった気がする」「大きな不満はないけれど、今の会社でスキルアップしていけるか不安」…。20代後半から30代半ばで感じる人生への漠然とした不安は、「クオーターライフクライシス」と呼ばれ、キャリアにおいてもこの壁にぶつかる方は少なくないようです。

どのようなアプローチをとればいいか、女性の働き方やキャリアに精通する『doda』副編集長の川嶋由美子さんに伺いました。さらに著書やSNSを通して「クオーターライフクライシス」について発信している、コラムニストのジェラシーくるみさんにもインタビュー、お話を伺いました。

「クオーターライフクライシス」とは…?
20代後半から30代中盤にかけて多くの人が感じるといわれている、漠然とした不安や人生に対するモヤモヤのこと

アラサーが仕事とキャリアで悩んだらどうすればいい? 専門家がアドバイス!

お話を伺ったのは…
川嶋 由美子

doda副編集長

川嶋 由美子

2002年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。派遣・アウトソーシング事業の法人営業として、派遣先の新規開拓・スタッフフォロー業務に従事。その後、キャリアアドバイザーとして12年間、転職希望者のキャリア支援に携わり、2007年にマネジャー着任。2019年には組織開発統括部 エグゼクティブマネジャーに就任し、人材育成と組織開発を牽引。2023年4月、転職サイト『doda』副編集長 兼 プロジェクトエージェント統括部 エグゼクティブマネジャーに就任。2023年10月からは、ハンティングエージェント統括部 エグゼクティブマネジャーも兼務。プライベートでは2児の母。女性のはたらき方やキャリアにも精通している。

20代後半は、「仕事のリアル」が見えてくる時期。悩んでいない人はほぼいない

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──20代後半のyoi読者からは、「自分が思い描いていたキャリアとは違う方向に進んでいる気がする」「これまでやってきた仕事は間違いだったのではないかと思う」といった声を聞くことがよくあります。キャリアアドバイザー歴が長い川嶋さんのもとにも、そのような声が届くことはありますか? 

川嶋さん 私の体感では、その世代の方の90%はキャリアに悩んでいるように思いますね。20代後半の方が感じるモヤモヤは「クオーターライフクライシス」とも呼ばれていますが、私たちキャリアアドバイザーから見ればむしろ、悩んでいるのが当たり前じゃないかなと。

──悩んでいるのが当たり前! 心強い言葉です。20代後半で仕事に対してそういった感情を抱いてしまう人が多いのは、なぜなのでしょうか?

川嶋さん 新卒の頃には見えていなかった、さまざまな“リアル”が見えてくるタイミングだからだと思います。新卒で入った会社にずっと勤めている方であれば、30代の先輩たちの姿から給与の上がり幅や昇進の条件などが見えてくる頃でしょうし、転勤を経験した方であれば、勤務地が変わることの大変さも実感されているでしょう。他社に勤めている友人と久しぶりに会ってみたら、結婚していたり家を購入した人がいたりして、自分との差を感じたという声も非常によく耳にします。

20代前半の頃は漠然としていた「10年後の自分」像にリアルな手ざわりを感じるようになり、このままでいいのだろうか…と悩む方が多いのだろうと思いますね。

好きなもの・やりたい仕事は、「名詞」でとらえるのではなく「動詞」にして棚卸しする

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──「思い描いていたキャリアパスと違うかも」と感じたら、まずはどのような手順で問題にアプローチしていくのがよいのでしょうか。

川嶋さん まずはぜひ、現状の悩みや不満を棚卸ししてみてほしいです。「私はそもそもどうしてこの会社に入ったのだろう?」「意思決定の軸になったのはどんな出来事だったのだろう?」と、働き始めたときのことを振り返ってみて、当時の価値観といまの自分の価値観とでは何が変化したのかを客観的にとらえることが大切です。働き始めたばかりの頃に抱いていた夢や目標が変わりつつあることに気づいても、その変化を否定しないでほしいですね。人は変化するのが当たり前なので。

例えば、音楽に携わりたいという夢を抱いてアルバイトから音楽業界に入った方がいたとします。20代の頃は楽しかったけれど、30代が近づいてくるにつれ、徐々にそのハードワークさに耐えられなくなってきた…という場合、「仕事で音楽とかかわるのではなく、趣味の一環としてかかわろう」と考えが変わることもありますよね。

その際に、夢を諦めてしまったと自分のことを否定するのではなく、「優先順位を整理して、大事な音楽とのかかわり方が変わっただけ」とポジティブにとらえてほしいと思うんです。

──確かに、実際に働く中で業界や仕事のリアルが見えてきて、自分にとっての優先順位が変わることもありますよね。

川嶋さん はい。過去の自分の価値観や意思決定を客観的に振り返ったうえで、「じゃあ、今の自分はどんなことをつらいと感じていて、どんなことにワクワクするのだろう?」と改めて考えてみてください。

ポイントは、「音楽業界」「美容業界」などと目指したいものを名詞で捉えるのではなく、「一人で音楽を聴いている時間が好き」「美容は好きだけど、大勢の人とかかわるのは嫌だ」のように、“状態”や“動詞”でとらえること。自分にとってどんな状態が心地よく、どんな状態が苦手かを洗い出してみてほしいです。

振り返りの際は、信頼できる先輩や友人と対話しながら考えを整理するのもおすすめですし、もう少し詳しい立場から客観的な意見が欲しい場合は、キャリアアドバイザーなどを活用することもぜひ検討してみてください。

衝動的な行動はNG。転職すべきかどうかはどう判断する?

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──現状の悩みを洗い出したあとにとれる選択肢としては、どのようなものが挙げられるでしょうか? 「転職をする」「今の会社に残って自分ができることを探す」など、考えられる選択肢を教えてください。

川嶋さん 転職するか、今の会社に留まるかどうかは皆さんとても迷われるところですよね。前提として、取り返しのつかない急な辞め方をしたり、しっかりと計画を立てずにワーキングホリデーに行こうとしたりなど、衝動的に行動するのは避けた方が賢明です。

そのうえで、私が迷わず転職をおすすめするのは、その環境においてご自身の成長がもう見込めないケースや、労働環境が苦しく、改善の見込みがないケース。上司からハラスメントを受けているのに会社が対応してくれなかったり、まったく休めない環境にいたりする場合は、絶対にその会社から出たほうがいいと思います。


──そこまで悪い環境ではないものの、今の会社で働くモチベーションが薄れ、気持ちがなんとなく転職に傾いている…というときはどう考えればよいのでしょうか?

川嶋さん その場合はまず、今の会社に残ってできることは本当にないかどうかを見つめ直してほしいです。例えば、事務職として入社したけれど、交渉すれば総合職への異動も見込めるとか、資格取得を支援する制度を使えば新たなスキルが身につけられる、といったケースも少なくありません。本気になって手を伸ばせば、まだまだスキルアップやキャリアの幅を広げられるチャンスがあるという環境なら、ぜひ積極的にその環境を利用してみてください。

もちろん、今の会社にそういったチャンスがなく、キャリアに行き詰まりを感じるのであれば、転職活動もおすすめします。

──最近は、本業とは別に副業を始める方も多いですよね。副業という選択肢についてはどう思いますか?

川嶋さん 例えば「ずっとチャレンジしてみたかったハンドメイドのショップを始めてみる」など、副業を自己実現の場としてとらえることはすばらしいと思います。やりたかったことを副業として実現することで、相乗効果で本業へのモチベーションが上がったり、副業の単価自体も徐々に上がっていったりするのが、理想的な副業のあり方ではないかと思います。

ただし、長期的に給与を増やしたい、市場価値を上げたいなどの狙いがあるならば、スキルや経験を必要としない副業に取り組むよりも、本業で自分の市場価値を上げることを優先したほうがいいと思います。仮にお小遣い程度のお金が稼げたとしても、副業で疲れてしまって本業に影響が出るのであれば、本末転倒ですから。

ロールモデルは特定の人ではなく、複数の人のパーツを組み合わせて考える

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──フリーランスや研究職、多数の転職をしている方など、独自のキャリアを歩んでいる方は、ロールモデルが見つけづらいという声も聞きます。その場合、どのようにキャリアの目標を定めればいいのでしょうか?

川嶋さん これは会社員の方の場合も同じだと思うのですが、私は特定の人をロールモデルとして設定する考え方とは少し違ったアプローチを推奨しています。誰かを「素敵だな」と感じてその人のようになりたいと思ったとしても、相手は人ですから、当然ネガティブな部分もあれば不合理な選択をすることもあるし、今の仕事を辞めてキャリアチェンジしてしまう可能性もある。ですから、誰か一人をロールモデルとして固定するのは、変化の大きいこの時代にはあまりおすすめできません。

そうではなく、世の中にいるさまざまな人たちのよい部分を、すこしずつパズルのピースのように集めながら、自分が目指したいビジネスマンの像を描いていく。それがいちばん強固なロールモデルのつくり方だと思います。その像も、1年に一度、あるいは3年に一度などと期間を決めて振り返ることで、ピースを入れ替えながら更新していけるのが理想的ですね。

──今現在、仕事においてクオーターライフクライシスに陥ってしまっている人に対してアドバイスをするなら、川嶋さんはどのような言葉をかけますか?

川嶋さん 今20代後半の人たちは、将来への不安がすごく強い世代だと思います。先が見えないからこそ、周囲の人たちと自分を比べるたびにどんどん不安が募っていくと思うのですが、どうか自分のキャリアを諦めないでほしいです。

最初にお話ししたように、不安は誰しも持っているものだと思いますが、行動していると不安ってすこしずつ見えなくなっていくものですよね。今があなたのキャリアの中でいちばん若いわけですから、諦めてしまうのはとてももったいないことだと思います。不安があるけど具体的に行動できていなかったという方は、人に相談してみたり、インプットを増やしてみたり、新たなコミュニティに足を延ばしてみたり、ぜひ身近なことから行動にうつしてみてください。

学生時代の友達と話が合わなくなった。新たな友達をつくるには?【ジェラシーくるみさんインタビュー・前編】

ジェラシーくるみ

コラムニスト

ジェラシーくるみ

会社員として働く傍ら、X(旧Twitter)やnote、Webメディアを中心にコラムを執筆中。著書に、『恋愛の方程式って東大入試よりムズい』(主婦の友社)、『そろそろいい歳というけれど』(主婦の友社)、『私たちのままならない幸せ』(主婦の友社)がある。

「クオーターライフクライシス」は一度じゃない。何度も形を変えてやってくる

「クオーターライフクライシス」は一度じゃない。何度も形を変えてやってくる

──クオーターライフクライシスは、「20代後半から30代の人が経験する、漠然とした低迷期」などと定義されています。くるみさんも20代後半でクオーターライフクライシスを経験されたそうですが、何かきっかけはあったのでしょうか?

ジェラシーくるみさん 私は今30歳ですが、2〜3年前から、まわりで結婚や出産をする友人がぐっと増えてきたんです。25歳ぐらいまでは友達同士で「〇〇、もう結婚するんだって! 早いね〜」なんて言い合っていたんですが、そこから数年たつと、SNSで友達の結婚式の写真などを見かけるたびに、不安にも焦りにも似たモヤモヤを感じるようになりました。

最初、「これは妬みなのかな…?」とも思ったのですが、当時の自分は特に結婚願望が強いわけでもなかったんです。この気持ちはもう少し解像度を上げて覗き込む必要があるぞと思い、周囲の同世代の友人にも聞いてみることにしました。そうしたら私以外にも、同じような体験をした人が多く、なかには友人の投稿をミュートした・自分のSNSアカウントを作り直した、という人もいました。

もしかしてこの現象、名前がついているんじゃないかなと調べ始めたら、「クオーターライフクライシス」という言葉があることを知りました。

──まわりのお友達の中にも、同じようにクオーターライフクライシスに悩んでいる方はいましたか?

ジェラシーくるみさん 個人によって波はあるものの、おおよそ20代なかばくらいからモヤモヤを感じている人が多かった印象ですね。

なかにはそういったモヤモヤとは無縁そうに見える友人もいましたが、彼女たちは、“20代前半の悩みや迷いにいったんケリをつけた人”という印象でした。モヤモヤのフェーズをすでに乗り越えた感じというか。ただ、そういう人たちからも、「30歳を過ぎてまた悩み始めた」という話を聞いたりするので、クオーターライフクライシスは、何回か形を変えてやってくるんだろうなと感じています。

悩みはiPhoneのメモに書き出して、#タグで整理。気づかなかった悩みのパターンが見えてくる

──クオーターライフクライシスを感じたときに、くるみさんはそれを打開すべく、何かアクションを起こしましたか?

ジェラシーくるみさん 「自分の気持ちに名前をつけて整理したい!」と思い、自分の思考をメモに書き出すようにしました。元々メモの習慣はあったのですが、20代後半からはその癖が加速しています。漠然とした負の感情を言語化することで、今の状況や気持ちを客観視できるようになり、負の感情から適切な距離を保ちながら自分を分析できるんです。

一度書いて終わりじゃなくて、「なんかモヤモヤするな」「今日、調子よくないな」という日があったら継続的に書いてみて、自分で自分を定点観測することが大事。ちょっと面倒なんですけど、本当に苦しんでいるなら、これは絶対にやったほうがいい。

メモをする際は、手帳なんて大げさなものをわざわざ使わなくても、スマホのメモ機能で十分だと思います。私の場合はiPhoneのメモ機能を使っていて、「#友達」「#家族」「#結婚」「#趣味」といったカテゴリーごとに、考えたことをハッシュタグ化してまとめています。

そのタグをあとから見返すことで、「私は自分で大きな決断ができないことにコンプレックスを抱えているんだな」「でも、この悩みに関してはちょっと前進したな」といったことがわかります。綺麗な文章にまとめなくていいので、ある程度システマティックにメモして習慣にしてしまうのがおすすめです。今、スマホを見返したら、2012年からのメモが4629件ありました(笑)。

──すごい数ですね…! いったん、メモに書き出して悩みを整理したあとは、どのようなステップを踏んで行動するといいと思いますか?

ジェラシーくるみさん 考えを整理してみると、単に気分や体調に波があるせいで生まれていたモヤモヤと、自分がずっと縛られている悩みが両方見えてくると思うんです。後者に関しては一度きちんと向き合ったほうがいいので、情報収集をしたり、まわりに相談してみたほうがいい気がします。

有効なのは、信頼できる友達に「あなたのまわりに、私みたいなことで悩んでいる人いないかな?」と聞いてみること。友人だけでなく、「友人の友人」の体験までキャッチアップすることができれば、悩みの粒度が一気に細かくなり、理解も深まりますよね。インタビュアーになったつもりで周囲の話を聞いて、自分の中に事例をどんどん集めていくイメージでいるといいと思います。そうすると、自分の中にあった偏見や思い込みに気づいたり、具体的なヒントが得られたりすることも多いはずです。

「友達の友達」は意外と気が合う可能性が高い

「友達の友達」は意外と気が合う可能性が高い

──クオーターライフクライシスに陥っている人が特に悩みがちなのが、「友人」と「恋愛」の問題ではないかと思います。前編では友人関係にフォーカスしてお話を伺いたいのですが、周囲からもよく聞くのが、「アラサーになって新しい友達をつくるのが難しくなった」という悩み。くるみさんは、新しい友達をつくりたいと感じたとき、どうしますか?

ジェラシーくるみさん まずは「友達」をつくろうとするのではなく、「知り合い」を増やそうとしてみるのはどうでしょうか。習い事に通ってみたり、近所の居酒屋やバーで、普段は話さないような人と話してみたり。私はキックボクシングとピラティスを習っているんですが、学生時代にはなかなか知り合えなかったような人たちと顔を合わせる機会にもなるので、知り合いを増やす目的で通ってみてもいいんじゃないかなと。

──「友達をつくろう」と急に構えてしまうと、一気にハードルが上がってしまう気もしますね。

ジェラシーくるみさん 学生時代の友達と同じくらい親密な友達を今からつくろうとしても、かなり時間がかかりますよね。でも友人関係に対する漠然としたモヤモヤは、単に知り合いが増えて自分のコミュニティが少し広がるだけで、解決できる可能性があると思います。だから、「友人」というものに対する価値観のハードルを、少し下げてみてもいいかもしれないですね。

あるいは、もう少しだけアグレッシブな方法を挙げるとしたら、友人にほかの友人を紹介してもらうのもアリだと思います。仲良しの友達の話の中にいつも出てくる子っているじゃないですか。もしその子と気が合いそうだなと感じたら、「もしよかったら、今度三人でお茶してみたいんだけど、どうかな?」と思い切って聞いてみる。

会わせてもらって仮に気が合わなかったとしても、それはそれでいいんです。元の友人との関係は問題なく続いていくと思うので。友人から話を聞いて気になる人がいるなら、一度お願いしてみるのはひとつの手だと思います。

友人関係には濃淡があっていい。緩いつながりも悪くない

──友人関係に関しては、「今まで仲良くしてきた友達と、アラサーになって価値観が合わなくなってきた」という悩みもよく聞きます。「少し距離を置きたいけれど、どうすればいいんだろう…」とモヤモヤしている人も多そうですが、くるみさんはそんなとき、どうしますか?

ジェラシーくるみさん 冗談でひどいことを言う友達に対して、「今までは冗談として受け流せたけど、この歳になってしんどく感じるようになった」という話はよく聞きますね。もちろん、人の尊厳を傷つけるような発言をした人や、メンタルの上下が激しく、まわりをトラブルに巻き込んでくるような人がいる場合は、迷わず関係を切ってしまってもいいと思います。

ただ、そこまでではないけど、頻繁に会うのはちょっとしんどいな…という人がコミュニティの中にいるのなら、その人との距離は保ちながら、ほかのメンバーとは関係を続けることを検討してみてもいいと思います。毎回全員で会う必要はないし、一緒にいると心が荒むような人とは、極力距離を置いたほうがヘルシーですよね。

──関係を完全に切るのではなく、緩くつながり続けておくということですね。

ジェラシーくるみさん そうですね。つき合いに濃淡をつけるというイメージです。Instagramの投稿に反応したり、誕生日にメッセージを送ったりするくらいは続けてもいいんじゃないかなと。

人はどんどん変化していくので、一時期「嫌だな」と感じていた人も、人生経験を重ねる中で変わっていく可能性がある。自分もそうです。お互いの価値観がまた近づいてくることがあれば友達に戻ればいいし、そうでなかったら「縁がなかった」と考えるのもひとつの方法だと思います。

「縁」という考え方を、私も最近ようやくのみ込めるようになってきたんです。人間関係において自分がコントロールできる部分って、せいぜい半分くらいな気がするんですよ。価値観がどうしても合わない人や相性の悪い人を「縁がなかった」と捉えるのは、決して責任放棄や思考停止ではない。諦めのよさや潔さを身につけるのもひとつ大事なポイントなのかなと思います。

友人の結婚や出産にモヤモヤするのはなぜ?【ジェラシーくるみさんインタビュー・後編】

ケース① 同世代が次々と結婚や出産をして、自分だけ取り残されているように感じる

──インタビューの後編では、「恋愛や結婚・出産」についてお話を伺えればと思います。読者からは「同世代の友人が次々と結婚・出産していくなかで、自分だけが停滞しているように感じてしまう」という悩みが上がることもありますが、くるみさんのもとにもそのような声が届くことはありますか?

ジェラシーくるみさん 私のフォロワーにも、同じ悩みを抱えている人はすごく多いです。でも私は、「人って本当に必要なものがあればおのずとその方向に進んでいくし、逆に本当に無理なことからは抜け出そうとする性質がある」と思っているんです。だから、今パートナーがいなくて特に探す気にもなれないけれど、その状態でヘルシーに過ごせているのなら、今のあなたに恋愛は必要ないのでは?と感じます。

これって、明らかに“ダメ”なパートナーの沼にハマっている人にも同じことが言える気がしていて。私自身、20歳くらいのときにその沼にハマってしまったことがあり、半年くらいダラダラと悩んでいたんです。そのことを当時出会った人生の先輩に相談したら、「それは、実はくるみさん自身が今居心地がいいと感じているからだと思うよ。本当に抜け出したくなったらあなたは自分から動くから大丈夫」と言われたのをよく覚えています。

その先輩のアドバイスは衝撃的でした。「あいつだけはやめな」と周りから猛烈に止められていたので…。結局、時が経ち半年後くらいにふっと冷静になり、毒素が抜けるみたいに相手から離れられることになりました。あの言葉は正しかったなと思います。

──なるほど。本当に抜け出したくなったら自分から動くはず、というのはその通りかもしれませんね。

ジェラシーくるみさん 恋愛に限らずキャリアなどに関しても同じな気がして、「理想の自分」の姿っていくらでも大きく考えられるんです。でもその「理想」は、無知だった過去の自分が生み出した単なる張りぼてであることも多い。だったら、「実際に自分の身体や心がどんな状態を居心地よく感じるか」のほうがずっと大事じゃないですか。

その上で「やっぱりパートナーが欲しい」「もっといい人とつき合いたい」と身体の髄で感じるときがきたら、自然と自発的に行動してしまうと思うんです。まずはじっくり悩んでみて、自分をよく知る人や尊敬する人に思い切って悩みや劣等感をさらけ出してみること。そして、もらったアドバイスへの自分の素直な感想や反応を感じ取ること。それを繰り返すうちに、“今の自分”が本当に欲しているものがクリアになってくると思います。

友人の結婚や出産にモヤモヤするのははぜ?【ジェラシーくるみさんインタビュー・後編】

ケース② 今のパートナーと家族になりたいが、相手の考えがわからない。別れるべきか、関係を続けるべきか

──また別のケースとして、「長くつき合っているパートナーといずれ家族になりたいけれど、相手が次のステップに進みたいかわからない。思い切って別れるか、現状の関係を続けるかで迷う」という悩みも聞かれます。このモヤモヤに、くるみさんならどのような言葉をかけますか?

ジェラシーくるみさん 前提として、まずはその気持ちを率直にパートナーに伝えたほうがいいのではないでしょうか。顔色をうかがう必要がある相手なのであれば、そこには上下関係が生まれていて、やや不健全な関係かも…と私は思います。

パートナーの結婚願望や家庭観がかまだわからない、という段階であれば、まわりの友人のエピソードや芸能人の結婚のニュースなどを小出しにして、「そういう選択肢も考えたりする?」と軽く聞いてみるのがいいと思います。

仮に、自分の気持ちをはっきりと伝えてもパートナーがまともに取り合ってくれない場合は、思い切って次の人を探すほうがいい場合もあるかもしれません。もし将来的に妊娠や出産を考えるなら、女性の肉体にはある程度のタイムリミットがあるので…。後悔しないように、私なら「◯月◯日までに、この人とのつき合いを続けるかの決断を下そう」と期限を設定するかもしれません。

──具体的な期限を設けて決断を下してみる、というのはユニークな方法ですね。

ジェラシーくるみさん どちらを選んだとしても、手放した選択肢を思い出して後悔する瞬間が、何度か訪れるかもしれません。でも、期限を設けて強制的に決断することで、「あの瞬間に自分の心はこっちを選んだから仕方ない。私は私のためにきちんと決断をしたのだ」と“納得ポイント”をつくることができる。その経験が大事なのかなと思います。

ケース③ 自分もパートナーも結婚願望がなく、ライフイベントがないことにモヤモヤ

──クオーターライフクライシスでよく聞かれるまた別のケースとして、「パートナーはいるけれど、自分にも相手にも特に結婚願望がなく、子どもが欲しいとも感じていない。ライフイベントがないために、なんとなく停滞感がある」という悩みもありますよね。

ジェラシーくるみさん その気持ちは、私も以前感じていたことがあるんですよ。これはあくまでも自分のケースなのですが、少し前に忙しい日が続いて、ふと「このまま消えてなくなりたい」と感じてしまったことがありました。でも、日々の仕事や生活が自分にとっての「確固たる生きる理由」にならないんだとしたら、自分と世界をつなぐ楔(くさび)のようなものが私には必要なのかもしれない、と思った。そのひとつが家族なのだとしたら、私の場合は子どもがいる人生を考えてみてもいいのかもしれない、と感じたんです。

自分の声や予感に耳を傾けてみると、現状のままでも心地いいのか、それとも思い切って違うライフステージに進むことを選びたいかのヒントが見えてくるんじゃないかと思います。

ケース④ 結婚してみたら、人生の選択肢が狭まったと感じるようになった

──最後は、「結婚して幸せを感じてはいるものの、人生の選択肢が狭まってしまったような気持ちになるときがある」というパターンのお悩みです。

ジェラシーくるみさん 私も少し前に結婚したのですが、この気持ちもすごくわかります。以前よく一緒に合コンをしていたグループがあって、その友達から楽しそうな連絡がくると、やっぱりいいな、楽しそうだなと思いますね。

でも、その子たちと話していると、彼女たちは彼女たちで違う人生を羨ましく思っていたりもして。だから、どちらの分岐点を選んだとしても、「選ばなかったほう」の選択肢に目を向けてしまうタイプの人っているんですよ。私自身がまさにそうです。自分はもう、そういう性質を持って生まれてきちゃったから仕方ない、と割り切っていますね。

それから、人生において激動のタイミングが訪れる時期というものは、本当に人によってバラバラだと感じています。人生には無数の季節があって、季節が巡るタイミングや回数も人によって違うなと。

中には、このお悩みとは逆に、新婚の時期をずーっと幸せそうに過ごしている人もいますよね。その場合、その人にとって結婚は“夏”だった、というだけ。自分にとっての結婚が、そこまでテンションの上がらない“冬”のタイミングだったなら、仕事や家族の変化によってまた季節が変わるかもしれない。だから一旦は季節が巡ることを信じて、次の季節の訪れを待てばいいんじゃないかなと思います。

──人生を季節でとらえる、というのは面白い考え方ですね。その考え方を覚えておくと、クオーターライフクライシスの波が仮にまたやってくることがあっても、少し冷静に対処できる気がします。

ジェラシーくるみさん そうですね。人生において悩みやモヤモヤは何度でもやってくる台風みたいなものだと思うので、私たちにできるのは、それに備えて自分の屋根を強固にしておくことだけだと思います。

クオーターライフクライシス ジェラシーくるみさんインタビュー