今回の連載で人気エディターの東原妙子さんが訪れたのは、新潟・南魚沼の人気宿「里山十帖」が手掛ける古民家再生プロジェクト「里山十帖 THE HOUSE」。そこは、日本の原風景を臨む絶景露天温泉とサウナを楽しめる一棟貸切りのプライベートな空間! 故郷の懐かしさと優雅なステイが融合した、他にはない“ととのい”体験をレポートします。
こんにちは。
東京に生まれてこの方一度も引っ越さず、永遠に同じ住所に住み続けている、地縛霊レベルに腰の重い東原妙子です。
そんなわけで、子どもの頃から“故郷”というものに強い憧れがありまして。「ないなら自分で作ろう!」とむやみなポジティブさで理想の故郷を勝手にイメージして、定期的に訪れているのが「里山十帖」です。
「里山十帖」は、2014年に南魚沼郡の大沢山温泉に古民家を移築して誕生した温泉宿。四季折々の豊かな自然に囲まれ、“日本一”と称される絶景の露天風呂に、デザイナーズ家具を配したモダンな内装、地の食材を生かした里山料理で、国内外で数々の賞を受賞する人気の高い宿です。運営が雑誌『自遊人』の発行元ということもあり、“体験と発見こそが真の贅沢”というコンセプトのもと、「里山十帖」=“体感するメディア”としてスタートしました。
そんな心の故郷「里山十帖」が、新たな試みをスタートしているというから見逃せない。
魚沼地域に残る貴重な古民家を一日一組のプライベートヴィラとして再生するプロジェクト「里山十帖 THE HOUSE」。現在4棟が完成しているうち、今回は、2021年最初にオープンした〈IZUMI〉に宿泊してきました。
度々訪れている本館「里山十帖」。(上)デザイナーズ家具を配したロビー、(下)数々のメディアで“日本一”に選ばれた露天風呂
築150年の古民家に名作家具と現代アートが調和
田園風景にぽつんと建つ、今回の滞在先「里山十帖 THE HOUSE〈IZUMI〉」
本館の「里山十帖」から車で10分ほど行ったところに、今回の滞在先「里山十帖 THE HOUSE〈IZUMI〉」はあります。
辺り一面に棚田が広がる丘に堂々と建つのは、築150年の庄屋をフルリノベーションした宿。中に入ると、立派な梁や柱がそのままの風情で残されていて、雪国での長い年月の暮らしぶりを彷彿とさせます。そして、住んだこともないのに、なぜか“懐かしい”という感情がわいてくるのが不思議です。
1階は、囲炉裏のある広々とした吹き抜けのリビングと畳敷きの和室が2間。角部屋の大きな窓からは、雄大な山々の景色が目に飛び込んできます。2階のベッドルームは、屋根裏風のつくりが巣ごもりのような感覚で妙に落ち着く……。占有面積182㎡、最大定員5名と、2家族で借りても十分な広さです。
リビングに悠々と置かれたル・コルビジェのソファLC3
ウェグナーのサークルチェアに身をゆだねながら景色を眺める贅沢
そして、そこかしこに置かれている美術館クラスの名作家具たち。あまりの何気なさに「え、これ本物デスヨネ…?」となります(笑)。さらに、随所に現代アートの作品が飾られているのも見どころのひとつ。
ヴィンテージ風に作られたものではない“本物”の趣深さがある古民家と、それら“本物”のアートが調和することで、他にはない唯一無二の空間に。
2階のベッドルーム。1階の吹き抜けにつながる窓と天窓から光が差し込む
(上)床の間に飾られた福田泰崇氏の3Dプリンター作品、(下)玄関や階段に点在する清水玲氏の作品
絶景! 百名山の大パノラマを臨む露天温泉
今月の「#由美たえこ」① 百名山をバックに
他の「THE HOUSE」にはない〈IZUMI〉の魅力。それは、温泉の露天風呂。
眼前は、日本百名山の巻機山を正面に、標高2000ⅿの雄大な山々が見渡す限り続く大パノラマ! まるで『まんが日本昔ばなし』に出てくるようなのどかな田園風景のなかでぼんやりと温泉につかっていると、心から癒されて、日本人でよかった~♡と思える至福の時間です。
本館とは少し違う塩分を感じる温泉は、すぐ近くに湧き出る「越後ゆきぐに温泉」から引いていて、実はこの源泉、宿泊施設として入浴できるのはこの〈IZUMI〉だけだそう。
プライベートサウナで開放感満点な“ととのい”
いつでも自由にサウナを楽しめるのは、一棟貸切りならではの贅沢。
4~5人でもゆったりできる広々としたサウナには、外の景色を一望できる大きな窓があり開放感満点。自分でコントローラーを操作して室内の温度を自由に設定できるし、複数のアロマオイルから好みの香りを選んでセルフロウリュウも可能です。
水風呂は深めの信楽焼壺風呂。天然の井戸水かけ流しで、水温は14〜15℃前後と冷たくても体感はとてもまろやか。
頭までドボン!と水につかったら、すぐ横のリクライニングチェアにど~ん!と寝そべり外気浴を。昼は山並みの風景、夜は星空を眺めながら、誰の目も気にせず空中に浮かぶような感覚を味わうスペシャルな“ととのい”を体験できるはず。
今月の「#由美たえこ」② ㏌ 信楽焼壺風呂
外気浴は開放感満点!
伝統的な食文化を体感。ミシュラン星付きの夕食も
〈IZUMI〉の宿泊者は、本館「里山十帖」のメインダイニング「早苗饗−SANABURI−」での夕食を選ぶことができ、本館までは専用車での送迎サービスもあり。
「早苗饗」は、南魚沼の風土・文化・歴史を料理で表現する“ローカル・ガストロノミー”を目指した、自然派日本料理レストラン。『ミシュランガイド』で星を持つ旅館は日本でもわずかですが、こちらは1つ星に輝いており、他にも数々の受賞歴を誇る世界的にも評価が高い名店です。
こちらでいただくのは、天然の山菜や伝統野菜を中心にしたコース料理。化学調味料を一切使わず、敷地内の“発酵部屋”で作られた発酵食品や調味料で素材の味を引き出しながら、現代の味覚にアレンジしています。
メインディッシュは、土鍋で炊き上げる南魚沼産コシヒカリ! 途中でアルデンテの状態のお米“煮えばな”をひと口いただくのですが、これがまた毎回の楽しみなんです。
いわゆるラグジュアリーな高級食材は出てこないし、最初は味が薄いと思うかもしれませんが、じんわりと体に沁みわたる滋味深い料理は、その季節にそこでしか味わえない贅沢ですよね。
ちなみに「早苗饗」以外の選択肢として、〈IZUMI〉の周辺には『ミシュランガイド新潟』に掲載されたレストランが他にも多数あるので、連泊して美食巡りを楽しむもよし。道の駅などで新鮮な食材を購入し、備え付けのIHキッチンや調理器具を使って自分で料理をするのもいいかもしれません。
お米からご飯に変わる瞬間の“煮えばな”をひと口
朝食は、「里山十帖」からスタッフの方が〈IZUMI〉まで来てくださり、キッチンで土鍋で白米を炊くところから始まります。
炊き立てご飯に、素朴な味わいのおかずと温かい味噌汁。いわゆる“おふくろの味”をいただき、お腹がほんわか幸せ♡
里山の古民家ながら快適に過ごせる設備が充実
“暮らすように旅する”を楽しむ「THE HOUSE」。とはいえ、旅館スタッフが常駐せず、棚田のど真ん中にあって当然近くにコンビニなどもない場所で、不便なこともあるのでは?と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
いえいえ、そんな心配は不要です。冷蔵庫には、ご当地の日本酒やオリジナル発酵ドリンク、新潟米のおかきなど、一泊で余りあるドリンクやおやつが多種多様に用意されていて、すべてオールインクルーシブ。懐かしの冷凍みかんもあったりして、ほっこり♡
館内着やタオル類はすべて肌触りのよいオーガニック。バスローブやサウナポンチョもあり、アメニティ類はホテル同様のラインナップがそろいます。一方で、虫よけスプレーやガムテープ、ランプなど、田舎暮らしのちょっとした困りごとに対応できるアイテムも常備。
自宅で過ごすようなプライベート感がありながら、それ以上に心地よくリラックスして過ごすことができるはず。
懐かしくて新しい。他にない価値を体感する古民家ステイ
翌朝、目覚めて窓の外を見ると、そこには息をのむほどの絶景! 平野部を埋め尽くす真っ白な雲海は、秋から春にかけて晴れた日の朝にほぼ必ずと言っていいほど出現するそうで、時間とともにその姿を変えていく光景は神々しさを感じるほど。
そんな中、朝サウナに露天温泉、風呂上がりには発酵ドリンクをぐいっと一杯。昨夜のヘルシーな食事もあってか、朝からいつになく体も軽い。
私にとっては非日常でも、これが日常の暮らしもあると思うと、地縛霊ばりに東京暮らし一択だった私が、今後新しい土地での生活の可能性を少しだけお試しさせてもらった感覚でした。
100年以上前に建てられた貴重な民家を、さらに100年この地に残し、つなぐことを目的にしたプロジェクト「里山十帖 THE HOUSE」。“古の暮らしを体感する”一般的な古民家宿と違うところは、昔から変わらない暮らしと自然を感じながらも、古民家ならではの不便さは感じさせず、さらに創造的な付加価値をつけ、他にはない「家」としての魅力を再発見できるところ。2021年にこの〈IZUMI〉からスタートして、2023年には〈SEN〉、2024年には〈KIROKU〉が完成し、今後展開する予定の宿も同様に一棟貸しだそう。
心の故郷「里山十帖」にまた新たな故郷が増え続けていくようなので、今後も度々季節を変えながら、仮想の“帰省”を楽しみたいと思います。
画像デザイン/齋藤春香 イラスト/木村美紀 写真提供・構成・取材・文/東原妙子