比叡山の麓、京都・八瀬に立つ「moksa」は、“再生”がコンセプトのホテル。日本の窯風呂発祥の地で、「サウナ」「お茶」「薪火料理」で生まれ変わる“ととのい”体験を、人気エディターの東原妙子さんがレポートします。

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東原妙子

ファッションエディター、クリエイティブディレクター

東原妙子

東京生まれ。高校時代は読者モデルとして活躍し、大学卒業後は銀行OLを経て出版社に転職。現在はフリーのファッションエディターとして、女性誌を中心にブランドの広告やウェブコンテンツ製作などで幅広く活躍。アパレルブランドとのコラボ商品の開発や、ECブランドのクリエイティブディレクターも務める。ファッション以外にも、趣味はサウナ、温泉、旅行、漫画、グルメ(主に鮨)など多岐にわたり、飾らないキャラクターが人気のInstagramはフォロワー6.5万人超え。

こんにちは。
以前、前世が見えるという方に、「あなたは、あんみつ姫の生まれ変わりです」と言われた東原妙子です。
それを聞いて「へぇ~、あんみつ姫って実在したんだぁ」と思いましたよね…。

今回訪れたのは、そんな(?)“生まれ変わり”がテーマの宿。20223月、京都・八瀬に開業した「moksa Rebirth Hotel(以下、moksa)」です。
moksa」とは、サンスクリット語で「解脱」や「解放」を意味し、現代の暮らしに疲れた心と体を癒やし、生まれ変わるような体験をしてほしいという思いが込められているそう。

八瀬は、山域すべてが境内という比叡山延暦寺の麓にあり、その昔、壬申の乱で背中に矢傷を負った大海人皇子が八瀬の窯風呂で傷を癒やしたとの言い伝えから、日本の古式サウナ(窯風呂)発祥の地として知られる場所。
また、八瀬には、古くは薪や炭を頭にのせて京都の町へ行商に出ていた「小原女(おはらめ)」と呼ばれる女性の風習もあります。

そんな土地の歴史や文化にちなんだコンセプトホテルで“再生”を味わう、一泊二日の滞在をレポートします。

自然とアートが融合する空間でお茶を嗜む

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京都駅から車で約40分。「moksa」は、豊かな自然に囲まれた比叡山の麓にあります。

館内に入ってまず目に飛び込んでくるのは、チェックインカウンター越しに見える庭園の緑! 

私がお伺いした時期は紅葉がまだ残っていたので、真っ赤に染まった情緒あふれる風情を眺めることができました。庭の中に高野川を引き込んだ池があるというのも贅沢。この日本庭園は「moksa」ができる前からあったものだそう。

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チェックインカウンター

館内には、八瀬の独自性をテーマにした現代アートがあちこちに飾られていて、まるで小さなギャラリーのような趣です。

宿の守り神的な存在である「moksa jin」と名付けられた土像が、庭や館内のあちこちに点在しているので、散策しながら探してみるのも楽しい時間。なんだかとぼけた顔をしていて、見つけるとほっこりしますよね♡

京都・鷹峯にあるギャラリーtonotoが空間コーディネートを手がけていて、草や土、木工など多種多様な自然素材を用いた作品がそれぞれの場所になじみ、民族的でモダンな空間になっています。

ととのう 東原妙子 京都 moksa モクサ サウナ アート 新地大地郎 廣谷ゆかり 清水志郎

左の書は、新城大地郎さん《気》、右の草を使ったサークル状の作品は、廣谷ゆかりさん。両作品の下に置かれた陶板は、清水志郎さんの作品。

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沓澤佐知子さん《moksa jin》。「jin」は「神」とも「人」とも読める発音なのが面白い

高野川 日本庭園 ととのう 東原妙子 京都 moksa モクサ サウナ

高野川の流れを引き込んだ日本庭園

そして、カウンターのすぐ横にある「Lounge帰去来」では、この美しい庭園を眺めながら、ドリンクをいただけるサービスも。

薬膳をテーマにした「hahahaus」の養生茶や、京都産のクラフトビール、一保堂茶舗のお茶を使ったオリジナルカクテル「煎り番茶ジントニック」など、ゲストの体質や体調、季節に合わせて提供してくれます。

また、カウンターに並ぶ茶器や茶道具も現代作家の作品だそうで、お茶とあわせて楽しむことができます。

東京カレンダー ととのう 東原妙子 京都 moksa モクサ サウナ

「Lounge帰去来」。珍しく、某カレンダー的なしっぽり感でお送りしております

趣向の違う3つのプライベートサウナ「蒸庵」

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“炭化した薪”をイメージした「炭蒸tanjo」

「moksa」には、八瀬の蒸湯文化にちなんだ3つの蒸湯=サウナがあります。「蒸庵」と名付けられた3種類のプライベートサウナは、それぞれ90分の完全予約制(別途料金)。
サウナの聖地と呼ばれる「サウナしきじ」の娘・笹野美紀恵さんがプロデュースしていて、実は彼女は私のお友達。その並々ならぬこだわりを知っているだけに、入る前から期待値が上がります♡

最もコンセプチュアルなのが、八瀬の小原女文化を象徴する“炭化した薪”をイメージした、黒基調の「炭蒸tanjo」。サウナ室内の壁や座面には炭が練り込まれていて、オリジナルで型から作ったという水風呂にも炭を入れることで、浄水効果とミネラルが溶け出したまろやかな肌触りの蒸気と水を体験できるそう。地下でもともと庭がなかった場所に外気浴スペースを作ったのも、こだわりのひとつだとか。

また、美紀恵さんが「女性には絶対入ってほしい!」と激推しの「美蒸bijo」は、コラーゲンライトを用いたミストサウナ。ピンクの光線が真皮層まで届き、コラーゲンの生成を促して、美肌効果が期待できるそう。熟女が入った瞬間、それはもう何だかすごく怪しげな空間ですが(笑)、サウナ室の温度も45度と低め設定なので、熱いサウナが苦手な方にも◎。

最後に、「檜蒸hijo」。比叡山に多く自生し、仏教や神道でも神聖な木材とされる檜をテーマにした空間は、清涼な香りの中、森林浴をしているような雰囲気を味わえます。サウナ室の温度は95~100度と高めで、ととのいガチ勢にはこちらが人気。

水風呂は、すべて地下⽔を使⽤していて、一組入るごとに入れ替えているというのもうれしいポイント。室内には、炭酸水、ミネラルウォーター、レモンジュースも用意されています。

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一見怪しげなピンク色のライトが美肌を促す、ミストサウナ「美蒸bijo」

今月の「#由美たえこ」は、ほぼ滝行(笑)。頭から水シャワーを浴びられる「美蒸bijo」の水風呂にて

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木の香りの中でととのう「檜蒸hijo」

ととのう 東原妙子 京都 moksa モクサ サウナ ノンアルコールシャンパン 炭酸水 プライベートサウナ

プライベートサウナ内には冷たいドリンクも充実

ライブ感満点の薪火料理で、土地の豊かさを味わう

ととのう 東原妙子 京都 moksa モクサ サウナ 薪火料理 記念日レストラン

食事はオールインクルーシブスタイル(一部のアルコールは有料)。

夕食は宿泊者限定のレストラン「MALA」で、薪火料理をいただきます。薪火を囲むカウンター席は、五感を刺激しながら食事を楽しめてライブ感満点! そのほか、庭園に面したテーブル席や個室もあります。

朝食は、おかゆに湯葉とゆずの餡をかけた胃腸に優しい養生朝食のほか、和食、洋食の3種類からチョイス。

ととのう 東原妙子 京都 moksa モクサ サウナ 眺めのいいレストラン 日本庭園

宿泊者限定のレストラン「MALA」のテーブル席

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ほっこり体が温まる養生朝食

豊かな自然を感じる客室でくつろぎの時間を

ととのう 東原妙子 京都 moksa モクサ サウナ 客室 デラックスリバーツイン

高野川に面した「デラックスリバーツイン」

客室は全31室。私は今回、高野川に面した52㎡の「デラックスリバーツイン」に宿泊しました。

中は、アースカラーで統一された和モダンなしつらえ。部屋に入って秒でゴロゴロしたくなる広いソファや、シモンズ製のベッドが2台、窓を開けると川のせせらぎが聞こえてきます。


シャンプー&コンディショナーやアメニティは、植物療法士である森田敦子さんが監修した、植物バイオメソドロジーのコスメブランド「Waphyto」。植物が持つ機能性成分によって体のバランスを整えてケアしてくれるそう。

また、冷蔵庫の中には、京都の酒造メーカー黄桜が手がけるクラフトビール「京都麦酒」やジュース類などドリンクが充実。こちらももちろんオールインクルーシブです。
創業1689年の老舗「聖護院八ッ橋」と軽食としていただいたおいなりさんをつまみながら、部屋での~んびりくつろぐのもよき時間でした。

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「Waphyto」のバスアイテム

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歴史ある京都・八瀬の魅力を感じられる「moksa」

ととのう 東原妙子 京都 moksa サウナ 盆栽

ここ数年、とびきり多くの観光客で賑わう京都駅中心部。その喧騒を抜けて少し離れただけで、こんなにも自然豊かで心穏やかに過ごせる場所があるというのはうれしい発見でした。
「moksa」は地元の人からも注目されていて、週末トリップやサウナの日帰り利用などを楽しむ京都人が多いというのもうなずけます。

高野川の水を用いた趣向を凝らしたサウナや、“気”を巡らせる作法でいただくお茶に、地の食材を用いた薪火レストラン——。
京都・八瀬という土地の持つ力を取り込み、身も心もすっきりととのう。そんなゆる~く味わう“生まれ変わり”をぜひ体験してみて。

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画像デザイン/齋藤春香 イラスト/木村美紀 写真提供・構成・取材・文/東原妙子