uka監修のスパに癒され、有形文化財の建物でモダンチャイニーズを堪能し、邸宅のような名建築に泊まる。都心から約1.5時間でたどり着く大人の隠れ宿「沼津倶楽部」での“おこもり”リトリート旅を、おなじみエディター東原妙子さんがご紹介します。

こんにちは。
五月病でやる気が出ない……四季折々のイベントに忠実にのっていくタイプの東原妙子です。
今月は、そんな人生に疲れた大人の女性にうってつけの宿。
静岡県・沼津市。富士山と海沿いの松林を望む浮世絵のような景勝地として知られる千本松原、その一画にひっそりと佇む「沼津倶楽部」へお伺いしました。
こちらは、2024年ミシュランガイドのホテルセレクション「ミシュランキー」に選出され、芸能関係のお友達からもお忍びで訪れた話を聞いていたので、以前から気になっていたのです。
美しい日本庭園に佇む、価値あるふたつの名建築

登録有形文化財に指定されている「長屋門」
東京駅から新幹線とタクシーを乗り継ぎ1時間半であっという間に到着。
まず入口で、立派な茅葺屋根の門がお出迎え。
「え、江戸?」いったんツッコミを入れておきます。
約3000坪という広大な敷地を有する「沼津倶楽部」。
門からレセプションまで、松林とコケむした美しい日本庭園の石畳を進んでいくのですが、まるでタイムスリップしたような、一歩ごとに非日常へと誘われる感覚に。
視界が開けた先には、風情のある数寄屋造りの「茶亭」と、モダンな建築美を称える「別邸」、テイストの違うふたつの建物が見えてきます。

築110年を越える登録有形文化財「茶亭」

「別邸」にあるレセプション
「別邸」は、2006年に建築家・渡辺明氏が手がけたもので、遺作としても知られています。こだわりの意匠はそのままに、ほんの一部を改修して、2023年6月「沼津倶楽部」としてリニューアルオープンしました。
まず「別邸」のレセプションへ案内され中に入ると、2階まで吹き抜けになった開放感のある空間と、大きな窓から切り取られた水盤の景色に圧倒されます。
特徴的な壁は富士川の砂と土を積層させて作られていて、コンクリートとは違う温もりがあり、モダンながら自然の風景の中にそっと溶け込む佇まい。
そして、建物に囲まれるように配置された中央の水盤。富士の湧水がこんこんと注がれていて、空や建物の陰影が水面に映り込む様子が美しく、思わず時を忘れて見入ってしまいます。

「別邸」宿泊棟と、富士の湧水が注がれた水盤
邸宅のようにくつろげる全8室のスモールラグジュアリー

水盤に沿うように建てられた2階建ての宿泊棟に、客室はわずか8室。
畳敷きの和室や、露天風呂付き、メゾネットなど個性豊かなタイプがそろう中で、今回は比較的スタンダードなデラックスツインルームに宿泊しました。
入口すぐには日本家屋特有の“土間”的なダイニングスペースがあり、そこで靴を脱いで入ると、中にはセミダブルのベッド2台とソファ。広々としたバスルームにはヒノキ造りの内風呂があります。
シンプルに洗練されたしつらえの客室で、太陽の傾きとともに表情を変える水盤と松林の景色を眺めながら、静岡茶の香りを楽しんだり、書棚に並んだ本を眺めてみたり、ただひたすらにゆったり贅沢な時間を過ごしました。

“土間”になったダイニングスペース

ヒノキ造りの内風呂

女性に優しい 「uka」監修のスパ&トリートメントが大充実
「沼津倶楽部」を“おこもり宿”として推す理由のひとつとして、スパ施設が充実していること。
「uka」が監修しているとのことで、おなじみのブランド名に絶大なる信頼感!
お風呂の水はすべて富士山の伏流水を使用

今月の「#由美たえこ」㏌光明石の露天風呂
スパ内には、光明石を使用した人工温泉の露天風呂、内風呂、そして水風呂がありますが、使われている水はすべて敷地内の井戸から汲み上げられていて、日本3大清流のひとつ、柿田川湧水群と同じ水源の富士山伏流水。
長い年月をかけ幾層もの地層で濾過された富士山の雪解け水は、バナジウムやカリウム、マグネシウム等の豊富なミネラルを含み、優れた浄化作用があるとか。
なるほど、肌当たりのまろやかな湯や水につかっていると、体の汚れとともに日々のストレスまで洗い流されていくようです……(疲れてる)。

今月の「#由美たえこ」㏌内風呂 ※撮影のため水着を着用しています。
高温ドライ&低温、2種類のサウナをお好みで

サウナはセルフロウリュウも可
スパ内には温度の異なるサウナが2種類あり、ひとつはセルフロウリュウができる高温ドライサウナ、もうひとつはブルーライトに包まれた低温サウナ。しっかり温度を上げてバチバチにととのいたい派も、瞑想しながらじっくり汗をかきたい派もどちらも楽しめる布陣。私はガツンとととのって、現実を忘れたい派です……(結構疲れてる)。
岩盤浴は希少な天然鉱石の遠赤外線効果で巡りUP

オーストリアの希少な天然鉱石を敷き詰めた岩盤浴
さらには、岩盤浴まであるという充実ぶり!
サウナより岩盤浴が好きという女性にもうれしいですよね。
一見何の変哲もないタイル張りかと思いきや、こちらはオーストリアで採掘された希少なバドガシュタイン鉱石なる天然石が四方八方に敷き詰められており、この鉱石の放つ遠赤外線を浴びることで、体が温まり巡りをよくしてくれるのだそう。
オーストリアからはるばるやってきて、おばさんの体を温めてくれて本当ありがとね……(相当疲れてる)。

たびたび五月病(?)で情緒不安定になりながらも、心身ともに深く癒された時間でした。
ちなみにこちらのスパは、1階が男性専用、2階が女性専用なのですが、女性フロアの方が圧倒的に広い! 悠々としたリラクゼーションスペースもあるし、男性はサウナが1種類なのに対して、女性は2種類。
サウナ界では男性専用が多かったりで憂き目を見ることの多い女性サウナーですが、こちらは女性が優遇されているという珍しい施設なのです。
文化財の建物で「イチリン ハナレ」の絶品中華に舌鼓

食事は、2015年に国の有形文化財に登録された数寄屋造りの「茶亭」にて。
歴史ある貴重なロケーションでいただくのは、和食かと思いきや、モダンチャイニーズという意外性!
監修は、鎌倉で人気の創作四川料理「イチリン ハナレ」の店主・齋藤宏文氏で、静岡県出身というご縁からコラボが実現したそう。「分解と再構築」をテーマに掲げ、なじみ深い中華に新たな要素を加えて創り出されるコースメニューは、駿河湾や伊豆近海で採れる魚介をはじめ、四季折々の地元の食材が使われています。

名物、よだれ鶏の三段活用
「イチリン ハナレ」名物、よだれ鶏の三段活用が、ここ沼津でもいただけると聞いて歓喜!
①柔らかい静岡県産の美味鶏に、黒酢と自家製ラー油を合わせたタレを絡めて。②残ったタレに、皮から手作りした自家製餃子をつけて。③最後はオリジナルの山椒麺のつけダレとして。3度おいしい♡
メインは、香ばしく焼かれた最高品質のふかひれに、国産鶏の骨を6〜7時間煮込んだ濃厚な白湯スープを目の前で回しかけて仕上げるスタイル。
料理に合わせてワインや地元の日本酒、紹興酒などのアルコールペアリングもあるので、お酒好きの方は是非。

メインのふかひれ。テーブルで熱々の白湯スープを注いで
メインダイニングのほか、個室や茶室、ラウンジとして使われている「昭和の間」「バーラウンジ」、かつて将棋の棋聖戦が行われた「清水の間」などもあり、食事の利用だけでなく、歴史を伺いながら見学することもできます。

「茶亭」内の一室
洗練空間で癒しとパワーを享受する大人の“おこもり宿”

かつて生粋の趣味人であったミツワ石鹸二代目社長の三輪善兵衛が、「千人茶会を開きたい!」と、この自然に恵まれた別荘地に大きな数寄屋造りの建物(今の「茶亭」)を建てたのが「沼津倶楽部」のはじまり。
それゆえの、こだわり抜いた贅沢すぎる造りは、今見ても瀟洒で見所が満載です。
そして、2006年に増築された宿泊棟「別邸」も素晴らしく。同じく渡辺氏が手がけたことで知られる「二期倶楽部」は、当時私も大好きで何度も訪れた宿でしたが、残念ながら2017年に閉館してしまい……。ここ「沼津倶楽部」も確かにそのテイストを想わせる、ラグジュアリーながらも大人が心穏やかにくつろげる静謐な空間になっていて、何だかうれし懐かしい気持ちになりました。

宿泊棟2階から望む雄大な富士山
さらには、女性に寄り添った上質なスパ&トリートメントで癒され、身体に優しいだけじゃなく元気になれる絶品中華料理でエネルギーをチャージ!
富士山を望み、歴史と文化を紡ぐ非日常でありながら、同時に都会的に洗練された場所で、頭を空っぽにして、全方位から癒しとパワーを享受する1泊2日。
それが都心からたった1.5時間の場所でかなうという気楽さもとても魅力的。
疲れたらまたすぐリセットしに訪れたくなる、「沼津倶楽部」はそんな大人の女性のオアシスでした。

お見送りくださった支配人の今井氏。滞在中は館内の貴重なお話も伺え楽しい時間でした
画像デザイン/齋藤春香 イラスト/木村美紀 写真提供・構成・取材・文/東原妙子