きっかけは、思いがけない登山と、防災意識から生まれたアウトドアグッズの購入。今回は、ひとり登山歴10年以上の月山ももさんに、初心者でも安心して山を楽しむための、初めての一人登山持ちものリストと、登山にハマるまでのストーリーを伺いました。

「ひとリート」とは…
半日~日帰り・1泊2日程度の「一人で楽しむリトリート体験や旅」を表す造語。yoi発の、心と体のセルフケアに役立つ時間の使い方です。

月山もも

一人旅ブロガー

月山もも

山形県生まれ。温泉宿に泊まるのが好きで、山麓の温泉宿をめぐるうちに「歩いてしか行けない温泉宿」に憧れを抱き、2011年から登山をはじめる。2020年には、初めての著書『ひとり酒、ひとり温泉、ひとり山』(KADOKAWA)を出版。

婚活と震災がひとり登山デビューのきっかけ

——まず、月山さんが登山をはじめたきっかけを教えてください。

月山 登山に興味があったというより、最初は「温泉宿に一人で泊まるのが好き」という気持ちのほうがずっと大きかったんです。

よく調べてみると、いい温泉ってたいてい山の近くにあるんですよね。なかには、「山道を少し歩かないとたどり着けません」というような秘湯もあって、「いつか行ってみたいな」という憧れを抱いていました。

そんなとき、友人に「高尾山のビアガーデンに行こう」と誘われました。高尾山のビアガーデンは、ロープウェイでアクセスできて、登山をしなくてもたどり着ける場所。手軽に山の雰囲気を味わえるならいいかも、と思って出かけたんです。

ところが、ビアガーデンはなんと2時間待ち。「せっかくここまで来たのだから…」と半ば仕方なく登山をしたことがあったんです。でも歩き出してみると、思ったより悪くないと徐々に楽しい気持ちになってきました。

途中、一人で登っている人を見かけたとき、「高尾山なら一人でも登れるかも」と思ったことは、心に強く残っています。 

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——最初は乗り気ではなかったというのは意外でした! そこからひとりで登山をしてみたいと思ったのですか?

月山 本格的に登山をはじめるきっかけになったのは、2011年の東日本大震災でした。東京でも計画停電があり、備えのない自分に愕然としたんです。

「今後どんな災害があるかわからないから、きちんと備えなくては」と思い、防災セットを自作することにしました。

そして、アウトドアショップへ行き、そこでカラフルな登山用リュックにひと目惚れ。防災バッグにぴったりだし、可愛いし、と思って勢いで購入しました。

でも家に帰って冷静になったら、「2万円以上するリュックを、防災用だけに使うのはもったいないな」と思って。「せっかくなら、このリュックで山に行こう」と思ったのが、本格的な登山の始まりでした。 

——防災セットにアウトドアグッズはぴったりですね。それを持って最初に登った山はどこですか?

月山 まず初めは、一回登ったことがあった高尾山に登りました。そして達成感を味わううちに、「もっといろんな山に挑戦してみたい」と思うようになりましたが、やはり高山や難易度の高い山に「一人で登って大丈夫なのか?」という不安がありました。

そこで、最初の1年ほどは山岳会を見学したり、登山イベントに参加したりして、気の合う仲間を探してみることに。その中で、「たまになら一緒に歩いてもいいな」と思える仲間ができたのですが、やはり一人でマイペースに登る方が自分には合っていると思ったんです。

とはいえ、雪山など難易度の高い山や、登山口までタクシーを利用したいときには、仲間と一緒に出かけることも。基本的には一人で登山を楽しみながら、必要に応じて仲間の力を借りています。

一人で山に登るときは、自分とじっくり向き合える

——グループでの登山と一人の登山、それぞれどんな楽しみがあると思いますか?

月山 グループ登山は、その人との会話や時間を楽しむもの。でも、一人だと違います。歩きながら、自分の内側と自然に向き合えるんです。

「仕事がうまくいかないなぁ〜」とか、「ブログどうしようかな」とか、最初は山に関係ないことばかり考えているんですけど、だんだんどうでもよくなってくる。

ふとアイディアが浮かんだり、気持ちが前向きに整理されたりする。 普段なら見て見ぬふりしているモヤモヤも、山を歩きながらなら、静かに向き合えるんですよね。

——一人で登山したときは、山ではどんなふうにすごすのが好きですか?

月山 わたしは、ただ歩くのが好きなので、特別なアクティビティをするわけじゃないんです。高山植物を眺めながら、のんびりと一歩一歩進む時間が、本当に心地よく感じます。

山頂に着いたら、持ってきた好きなパンと、家で淹れてきた紅茶でひと息。景色を写真におさめたら、あまり長居はせず、すぐに下山します。

山頂は混雑していたり、トイレが不十分なこともあるので、「山頂の滞在は短め」がわたしのひとリートスタイルです。 

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——下山後は、どんなひとリート時間をすごしていますか?

月山 日帰り登山のあとは、まず温泉へ。山道を歩ききったあとの温泉は、まるでごほうびのようで、湯気の向こうに広がる山並みを眺めながら、ゆっくりと体を癒します。汗も疲れも、湯に溶けるようにじんわりとほどけていくこの瞬間が、たまらなく好きです。

そのあとは、群馬なら高崎駅、栃木なら宇都宮駅といったターミナル駅に立ち寄って、帰り道に軽く一杯。山でがんばった自分を、「お疲れさま」と労う時間もまた特別です。

もし一泊できる余裕があるなら、ぜひ温泉宿に泊まる計画を。夕暮れどき、露天風呂から茜色に染まる山の稜線を眺めながら、静かに一日を振り返る。そんなひとときに、心から「今日もいい一日だったな」と、思えるのでおすすめです。 

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「日帰り登山ひとリート」に必要な持ちものベスト7

—一人で登山をはじめたとき、装備はどうしていましたか?

月山 最初から結構しっかり装備をそろえたんです。一緒に歩く仲間もいなかったので、「頼れるのは自分と装備だけだ!」という思いが強かったんですよね。

でも、初期投資を大きくしすぎると、かえって登山をはじめるハードルが高くなってしまうこともあると思います。

なので今回は、初心者の方でも軽めの山や観光地的な山なら、「まずは最低限、これだけそろえれば大丈夫」というものを厳選しておすすめしたいです!

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1. レインウェア

一人で山へ登るのに欠かせない必須アイテム。雨を防ぐだけでなく、防寒着や非常時の保温代わりにもなる、まさに“万能の一着”です。

選ぶなら、防水透湿性の高い素材のレインウェアがおすすめ。防水性と通気性のバランスがいいほうが、長時間の山歩きでも快適にすごせます。 

わたしが愛用しているのは、『ザ・ノース・フェイス』の「クライムライトジャケット&パンツ」。とても軽くて丈夫、カラーも落ち着いていて、登山中も街中でも違和感なく着られるのが気に入っています。

もう少しコスパを重視したいなら、『MIZUNO』も優秀。上下セットで手に入れやすい価格帯ながら、しっかり防水透湿性の高い素材を使っていて、安心感がありますよ。

2. メリノウールのトップス

わたしが愛用しているのが、メリノウール素材のTシャツやインナー。 『スマートウール』、『アイスブレーカー』、『Ibex』などのメリノウール専門ブランドのアイテムは、肌触りがまるでシルクのように滑らか。

しかも、汗をかいてもにおいがほとんど気にならないので、夏でも快適です。

3. 防水機能つきシューズ

軽めの山や観光地的な山なら、本格的な登山靴にこだわる必要はないと思います。それよりも大事なのは「防水機能があるシューズ」を選ぶこと。

初心者向けの山でも、沢やぬかるみを越える場面は意外と多くて、靴の中まで濡れてしまう。それだけで気分も体力も一気に消耗してしまいます。

コスパを重視するなら、『MIZUNO』の防水モデルなら8千円台から手に入るので、登山デビューにもおすすめ。

わたし自身は、『メレル』の「モアブシリーズ」のローカットシューズを愛用しています。街歩きにもなじむデザインで、登山の日だけでなく普段使いできるからお気に入りです。

4. LEDヘッドランプ

初心者向けの山でも、下山が遅れると暗くなってしまうことがあるので、両手を空けたまま道を照らせるヘッドランプは必携。

わたしは『ペツル』の「アクティック コア」を使っていますが、1000〜2000円くらいのものでもまずはOKです。

5. 登山用の地図アプリ

地図は登山の必需品。日帰り登山であれば、登山用の地図アプリがあれば十分対応できます!

登山用の地図アプリはいくつかありますが、初心者の方におすすめなのは「山と高原地図」。

このアプリに載っているのは、基本的に多くの人が登っているメジャーな山ばかりなので、初心者のうちは「山と高原地図に載っていない山には行かない」というルールを決めておくと、安全基準にもなりますよ。

6. モバイルバッテリー

地図アプリを使ったり写真を撮ったりすると、スマホの電池がどんどん減ります。

わたしは、スマホを2回フル充電できるくらい大容量のバッテリーを持ち歩いています。スマホが使えないと、一人だと特に心細いですし、下山後のバスや電車なども調べられないので、できれば2回以上フル充電できるものがおすすめです。

7. ショルダーストラップつきスマホケース

登山中は、写真を撮ったり、地図アプリを確認したりと、スマホを手に取る機会が意外と多いものです。

手袋をしていることもありますし、リフトに乗っているときなど、「もしここで手を滑らせてスマホを落としたら……」とヒヤッとする場面も少なくありません。

そんなとき、スマホケースに取りつけたストラップを首からかけておけば、うっかり手を滑らせても、スマホが落ちる心配はなくなります。小さな工夫ですが、安心感がぐっと違いますよ。

日常では味わえない時間が流れるのが山の魅力

月山 一人で山に登ると、日常ではなかなか味わえない特別な時間を感じられます。 最初の一歩を踏み出すのはちょっと勇気がいるけれど、最低限の装備をそろえれば、きっと山は優しく迎えてくれるはず。

小さな達成感を積み重ねながら、自分自身と静かに向き合う。そんな登山の魅力を、「ひとリート」の選択肢としてぜひ体験してみてください。

イラスト/SAKIPON 構成・取材・文/高浦彩加