「yoi」ではSDGsの17の目標のうち「3. すべての人に健康と福祉を」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の実現を目指しています。そこで、yoi編集長の高井が、同じくその実現を目指す企業に突撃取材! 第21回となる今回は、“ほがらかなあした”をつくるライフスタイル提案ブランド「Hogara」について、プロジェクトリーダーの大川侑穂さんにお話を伺いました。

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(左から)高井編集長、大川侑穂さん。

「Hogara(ホガラ)」とは?
繊維のスペシャリストとして原料から製品まで取り扱うライフスタイル提案商社・豊島の⼥性社員が、「働きながら抱えていた悩みを解決したい、もっと現場の声を反映したものづくりをしたい」と考え、⽴ち上げたブランド。ブランド名は「朗(ほが)らかに光り輝き広く晴れ渡る」という意味の⽇本古来の⾔葉に由来。実体験や、身近な女性からのリアルな声をもとに、⾃ら情報収集・企画し、「わたしたちが今ほしいもの」をリアルに商品化することを実現。 “女性の心地よい毎日のためのブランド”を目指し、「オーガニックコットン吸水ショーツ」など、繊維のプロ・豊島だからこそつくれる「こだわりの機能を持ったアイテム」を展開。

大川侑穂

「Hogara」プロジェクトリーダー

大川侑穂

2015年入社。違う部署の女性との何気ない会話から、「わたしたちが今ほしいものをつくろう」と、“ほがらかなあした”をつくるライフスタイル提案ブランド「Hogara」を立ち上げ。「国際⼥性デー表彰式|HAPPY WOMAN AWARD 2022 for SDGs」の女性応援ブランド賞、「Femtech Japan Award 2023」で銅賞を受賞するなど、受賞歴も多数。

高井佳子

yoi編集長

高井佳子

入社以来、『ノンノ』『バイラ』『マリソル』『エクラ』と、幅広い年代の女性誌媒体に編集者として携わる。2021年@BAILA編集長に就任、2023年6月より現職。認定フェムテックシニアエキスパート(日本フェムテック協会認定資格1級)。

今の私たちが本当に欲しいものを、自分たちでつくろう

 Hogara 吸水ショーツ 豊島-3

高井 「Hogara」の吸水ショーツはyoiの「フェムテックアワード」にもたびたび選出されていますが、まずはブランド立ち上げの経緯から伺えますか。

大川 ありがとうございます。2020年10月の残業中に、違う部署の女性との会話の中で、「今、こういうものをつくりたいと思っているんですよね」と吸水ショーツのアイディアを共有してもらったことが始まりです。

当時はまだ生理用品を買うと紙袋やグレーの袋で隠されることが当たり前でしたが、「アパレルショップで服の隣に並んでいてもいいよね」という話になって。

自分の体と向き合うきっかけになるような、今の私たちが本当に欲しいものを、自分たち主体でつくりたいという思いから、有志でブランドを立ち上げました。

ブランド名は「朗(ほが)らかに光り輝き広く晴れ渡る」という意味の⽇本古来の⾔葉からとっています。

高井 2020年というと、日本におけるフェムテック元年ですね。

大川 そうですね。当社は現在、新卒採用の6割が女性で、女性総合職も増えていますが、2020年当時は圧倒的に男性社員が多い状況でした。まだまだ「フェムテックって何?」という空気がありましたね。 

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(写真奥から)「オーガニックコットン吸水型ショーツフル」¥5390〜、「オーガニックコットン吸水型ショーツレギュラー」¥5115、「オーガニックコットン吸水型ショーツタンガ」¥4290。吸水ショーツを購入すると、おまもり型ポーチ(写真右下・数量限定)がもらえる。

生理用ナプキンを2枚重ねてのりきった海外出張

 Hogara 吸水ショーツ 豊島-5

高井 大きな会社の中で新規事業を立ち上げるのは簡単なことではないと思います。有志でブランドを立ち上げ、商品開発から発売に至るまでの大川さんを支えたものは何だったのでしょう?

大川 ひとつは当事者としての思いです。コロナ禍以前は海外出張が毎月あり、車移動が多い地域では8時間乗りっぱなし。生理のときは生理用ナプキンを2枚重ねてしのいでいました。

今まではそれが当たり前だと思っていたけれど、Hogaraの立ち上げメンバーと話すうちに「それって本当は我慢していたことだよね」「もっといいプロダクトがあったら快適に過ごせたんじゃない?」という議論ができるようになって。

高井 当たり前だと思っていたことが、仲間と話すことで解像度が上がり、自分ごとになったのですね。そのプロセスはとても大切だと思います。

大川 そうなんです。もうひとつは、当時の上司の存在です。所属していた部署では、「常に新しいことを考えなさい」という上司の方針から、毎月の会議で新規事業を提案する機会が与えられていました。

吸水ショーツは絶対に形にしたかったので、すぐに上司にプレゼンをし、いろいろな人に「今、こんなことを考えていて、こういうふうにやりたいです」と話してまわりを巻き込みながら走ってきたところはありますね。

高井 新規事業を毎月提案する作業は、どのぐらい続けてこられたのですか?

大川 3〜4年ぐらいでしょうか。もちろん毎月、上司が納得するレベルの提案ができたわけではありません。

ただ、そこでフィードバックを受けながら自分なりにアンテナを張って、「これはどうだろう?」「これとあれをつなげたら面白いかも」と試行錯誤する経験を培えたことが強みになったと感じます。 

「大川の働き方が全然“ほがらか”じゃない」

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高井 Hogaraはクラウドファンディングに挑戦されましたが、社内外からいろいろなご意見もあったのではないかと想像します。

大川 ありました。有志で立ち上げたプロジェクトなので会社の予算は1円もつかず、事業化するためにクラウドファンディングをしました。

「企業なのになぜクラウドファンディングをする必要があるんですか?」というご意見もいただきましたし、社内で「吸水ショーツって生地を何枚か重ねたアナログな仕組みだよね。それって何が新しいの?」と言われることもありました。

でもそれ以上に、「いいね、やってみなよ」と応援してくれる人のほうが多かったんです。

しかも幸運なことに、名古屋の部署の先輩が「これは社会的にも意義があることだから、全社でやっていこう」と声をあげてくれて、「豊島フェムテックラボ」というチームが立ち上がりました。

その先輩が、ある日「大川の働き方が全然“ほがらか”じゃない」と言い始めて。


高井 “ほがらか”とはほど遠い働き方をされていたということですか?

大川 今思えばそうでしたね。通常業務と並行していたので、土日はもちろん始業前や終業後も作業に充てていたんです。自分はすごく楽しかったし、「こんなに頑張っているのに、どうしてそんなことを言うんだろう」と衝撃を受けましたね

でも、「“ほがらかなあした”をつくる」と言っている自分たちの働き方がほがらかでないのはおかしい…と立ち止まるいいきっかけになりました。

そして皮肉なことに、そのタイミングで婦人科系の病気が見つかって…いろんな後悔がありました。後輩たちに同じ思いをしてほしくないし、私のように後悔や悩みを抱えている人が他にもたくさんいるのかもしれない。

そんな思いから、2023年にQOOLキャリアとの協業で、Hogaraブランドとしてライフステージに特化した福利厚生サービス「TUMUGU×HogaLife Support」を新たに立ち上げました。 

自分と同じ後悔やちいさな我慢、誰にも言えない不安をなくしていきたい

Q.結婚や出産、育児、病気、引っ越し、介護など、ライフステージの変化は、「働き続けるかどうか」の意思決定に影響を与えると思いますか?

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「TUMUGU×HogaLife Support」が実施した福利厚生にまつわるアンケート調査によると、約8割がライフステージの変化は働き続けるかどうかの意思決定に影響を「与えると思う」と回答。一方で、「ライフイベントが発生した際にキャリアを継続するための制度は整っていると思いますか?」という質問には、41.8%が「思わない」と答えた。アンケート結果はHogaraが運営するコミュニティラボ「HogaLabo」にて公開中。

高井 大川さんご自身の経験と強い思いから生まれたサービスだったのですね。サービス内容についてもぜひ教えてください。

大川 ありがとうございます。もともとQOOLキャリアが4年ほど前から提供していたライフステージ特化型福利厚生サービス「TUMUGU」に私たちが加わったのですが、サービスの柱は次の3つです。

よくある福利厚生ではなく、相互理解のツールになり得るサービスをご提供していて、2親等(自分と配偶者の兄弟姉妹・祖父母・孫)までご利用いただけます。


①セミナー配信やイベントの定期開催
キャリアとライフプラン、プレコンセプションケア(妊娠可能年齢の女性にとって大切な健康管理)、PMSや更年期障害など女性特有の健康問題、介護、男性の育児休暇、管理職支援など、多様なライフステージに合わせたセミナーを月3〜4本配信(アーカイブあり)。

②専門家相談
ライフプランナー、ファイナンシャルプランナー、マイホームアドバイザー、育休後アドバイザー、看護師、助産師、薬剤師、胚培養士、保育士、ケアマネージャーなど17人の専門家にLINEで相談できる。

③従業員向けギフト
宿泊施設やスポーツジムなどの利用割引のほか、AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査やHogaraのアイテムを特別価格で提供。

高井 性別やライフステージを限定せず、幅広い専門家に相談できるのが素晴らしいですね。社内では相談しづらいテーマも多いですし。

大川 おっしゃるとおりです。私自身の話でいうと、流産を経験したときに会社の誰にも相談できませんでした。これは私の勝手な思い込みですが、キャリアに影響するかも…という不安から話せなかったんです。

当時、
自分と近いキャリアの先輩はいなかったし、後輩に話すと変な圧力になってしまう気がしていました。そのときに活用したのがQOOLキャリアの専門家相談サービスだったんです。自分の今の状態や、不安に対する客観的な意見が欲しくて。


高井 私も流産を2度経験しています。原因は不明ですが、当時は多忙な業務のせいかもしれないと自分を責めていました。身近な人以外に、心身の不安や悩みを相談する選択肢はなかったです


でも、そういうときに第三者の専門家に相談できたり、アドバイスをもらえたりしたら、すごく安心できますよね。最近は、従業員の健康管理を「経営課題」ととらえて、健康の保持・増進に向けた「健康経営」の視点を持つ企業も増えていますし。


大川 本当にそう思います。私が経験した後悔やちいさな我慢、誰にも言えない不安をなくしていきたいですし、そのためには相談される側も含めてリテラシーを身につけることが大事だと思っています。

「TUMUGU×HogaLife Support」を通じて、よりよい社会をつくることに貢献していきたい。それが今の私のモチベーションになっています。 

取材を終えて…
吸水ショーツ誕生のストーリーもさることながら、BtoBで展開する福利厚生サービスで社会を変える、という新プロジェクトに感銘を受けました。“ありそうでなかった”ではなく、考えたこともありませんでした。

世の中を変えるプロダクトやサービスは、それを知ったときに初めて、“欲しかったのはこれだったんだ”と自らのインサイトに気づかされるものだと思います。

気軽に専門家に相談できるインフラは、多様な心と体の働き方を支えてくれる、まさに現代にフィットした福利厚生であると感じました。

大川さんとは、出身大学が同じです(もちろんお会いして初めて知りました)。こんなにも聡明で、情熱があり、常に周囲の人への感謝を忘れない大学の後輩がいるということも、うれしくなりました。(高井)

Kruhi 井浦新 グリーン・サロン認証

撮影/露木聡子 画像デザイン/齋藤春香 グラフ制作/前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀 企画/高井佳子(yoi)