「一般社団法人くまお」代表として、保護猫の存在や終生飼育などの発信を続ける鎌田里苗さん。15年一緒に暮らした愛猫の介護を経験し、深いペットロスの最中に出合ったのが「グリーフケア」でした。現在はSNSでも大人気のくまおくんをはじめ、3匹の猫と暮らす「くまお母」こと鎌田さんにご自身と家族の変化についてお話を聞かせてもらいました。

鎌田里苗さん

一般社団法人くまお 代表理事

鎌田里苗さん

「ヒトもネコもクマなくきもちをほどく研究所(クマ研)」所長。ネコのくまおと出会ったことがきっかけで、これまでの生き方や仕事について一から考え直す機会をもらう。ネコのためにできることはないかと模索している中で「動物医療グリーフケア®️」に出合い、多くの飼い主に届けたいと感じてネコの飼い主対象のセミナーなどさまざまなイベントを手がけている。

初めての介護で抱えた大きな悲しみと後悔

ペットロス グリーフケア 猫 くまお 鎌田里苗-1

鎌田さんが初めて一緒に暮らした猫のみうさん。

鎌田さんにとって、結婚後に迎えたロシアンブルーのみうさんは、初めて一緒に暮らした愛猫。ともに暮らして15年が過ぎた頃、みうさんは顔が徐々に壊死していく「扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)」を発症。3カ月ほどの闘病を経て、2013年11月に旅立ちました。

――最期の3カ月は、みうさんと1対1での介護を経験されたそうですね。

鎌田さん ちょうど発症と同じ頃に夫の転勤が決まったのですが、みうさんの体力や負担を考えて、単身赴任してもらうことにしました。扁平上皮癌は治療法がないので、病院からは安楽死も選択肢のひとつとして提案されましたが、あの3カ月はみうさんの命と向き合う尊い時間だったと思います。

――みうさんが旅立たれてからは、どんなふうに過ごされていたのですか。

鎌田さん じつは、あんまり記憶がないんです。ただ、彼女を荼毘に付してお別れした後、何かに取り憑かれたように、みうさんのものを一気に片付け、壁を拭き、彼女の痕跡を消すような行動を取ったことは覚えています。それまでは仕事が終わったらダッシュで帰宅して、食べてくれるものを模索したり、お世話したりというルーティンがあったので、家に帰ってもやることがないのがつらかったですね。家にいると現実を直視してしまうから、仕事の後に一人で外食をしたり、本屋さんで時間を潰したりしていました。

――それは本当につらい日々だったと思います。2014年に保護猫のくまおくんを新たな家族として迎えるまでには、どんな気持ちの変化があったのでしょうか。

鎌田さん 夫から「家がない猫は今もいっぱいいる。うちには猫が飼える環境があって、もし1匹でも助けられる猫がいるなら、そういう子を迎えることを考えてもいいんじゃない?」と言われて、少しずつ外に目を向けられるようになりました。でも、くまおと暮らし始めてからも、いつか必ず訪れる「別れ」は考えないようにしている自分がいて…そんなとき、グリーフケアに出合ったんです。

グリーフケアとの出合いがセルフケアにつながった

猫 ペットロス グリーフケア くまお 鎌田里苗-2

みうさんを見送った後、2014年に迎えた保護猫のくまおくん。

――グリーフケアとの出合いは何がきっかけだったのですか?

鎌田さん 保護猫に関する発信を続ける中で親しくなった熊本の動物看護師の方に「飼い主が知ることで役立つ学びって何かありませんか?」と聞いたら、「りーちゃん(里苗さん)、グリーフケアがよかよ」と教えてもらったんです。「グリーフケア」という言葉も知らないまま「動物医療グリーフケア®️」の第一人者である阿部美奈子先生のセミナーを受けてみたら、2時間ずっと衝撃を受け続けて。

――その中でも特に印象的だったことはありますか。

鎌田さん 「一緒に暮らす家は、ペットにとっての安全基地」っていう言葉がいちばん刺さりましたね。我が家は、みうさんにとって安全基地であれたかな…と。そして、「ペットロスで悲しみを抱くのは当たり前で、無理に忘れる必要はない」というお話に、とても気持ちが楽になったこともあり、そこからグリーフケアを学び始めました。

――学びを深める中で気づいたことや変化したことはありますか?

鎌田さん 目を背けてきた自分の気持ちと向き合うことで、みうさんが亡くなった後の行動を振り返って「あれは現実逃避をしていたんだ」と腑に落ちました。そして、「悲しみの感情を外に出しちゃいけない」という思い込みが、かえってペットロスを長引かせていたことに気づき、セルフケアにもつながっています。

――悲しみや不安、苦しみに蓋をしてきた分、回復までの時間も長引いてしまっていたのですね。

鎌田さん 自分では平気なつもりでも、闘病時のカメラロールは10年経った今もなかなか開けずにいます。グリーフケアを学んでからは、そんな自分を認めつつ、以前よりみうさんのことを考えたり、写真を見たりできるようになりました。ただ、グリーフケアを学んだからといって「見られるようにならなきゃいけない」ということではないので、無理はしていません。

「私たちに見送らせてほしい」と思えるように

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2017年に加わったこぐまさん。

――2014年にくまおさんを迎えた後、2017年にこぐまさん、2022年にはひぐまさんが家族に加わりました。いつか訪れる「別れ」への向き合い方に変化はありましたか?

鎌田さん 命と向き合い、一緒に過ごす“今”を大切に生きることが重要だと知ってからは、必要以上に怖がることがなくなりましたね。むしろ、「私たちに見送らせてほしい」と思えるようになりました。

――別れに限らず、日常にはさまざまなグリーフの要因がありますが、鎌田さんが実践されていることを教えてください。

鎌田さん 引っ越しや外出、通院などで環境を変えるときは、まず自分がリラックスした状態で猫たちに話しかけるようにしています。例えば、病院へ連れて行くときはソワソワせずに鼻歌を歌ってみたり(笑)、名前を優しく呼びかけたり、帰宅後に甘えられる時間をつくったり。他にも、気にかかっていることを検索するときは、猫たちが私の表情を見て不安にならないように外出中に調べたりして、安全基地づくりに努めています。

――猫たちとのコミュニケーションにも変化を感じますか?

鎌田さん 感じます。特にくまおは怖がりで、何か変化があるとすぐに隠れてしまうのですが、その回数が減りました。通院後も、これまではソファの下へ逃げ込んでいたけれど、最近はベッドに寝転がってゆったりと毛繕いをしています。

――2021年からは「ヒトもネコもクマなくきもちをほどく研究所(クマ研)」として、グリーフケアや防災などについて、オンラインで話せる場づくりをされていますね。

鎌田さん 私がみうさんの介護で感じた不安の大きな要因は「孤独」だと気づけたので、猫を愛する人同士が安心してつながったり、気持ちをこぼせたりする場をつくりたくて。グリーフケアはもちろん、防災や猫にまつわる法律なども知識として知っておくことで、万が一自分ごとになったときの力になりますから。グリーフケアに救われた一人として、これからも発信を続けたいと思っています。

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グリーフケアをはじめ、猫にまつわるさまざまなことを学び、話せる場として立ち上げた「ヒトもネコもクマなくきもちをほどく研究所(クマ研)」

写真提供/鎌田里苗  取材・文/国分美由紀 編集/高井佳子(yoi)