私たちの心と体にまつわる悩みや課題を解決してくれる「フェムテック」の基礎知識について、医療ライターで『365日機嫌のいいカラダでいたい。現代を生きる私たちのヘルスケア・アップデートブック』の著者でもある及川夕子さんに教えていただきました。
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Q1.「フェムテック」ってよく聞くようになったけれど、正しい意味がわからずにいます。どういうことを指すのでしょうか?
医療ライター
ライター/エディター。メノポーズカウンセラー。医療、健康、女性の社会課題をテーマに、雑誌、WEB、書籍などで幅広く活躍。著書に『365日機嫌のいいカラダでいたい。現代を生きる私たちのヘルスケア・アップデートブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『はたらく細胞LADY 10代女性が知っておきたい「性」の新知識』(講談社)など。
A1.「フェムテック」とは、女性特有の悩みや課題を解決する製品やサービスのこと
「フェムテック(Femtech)」とは、「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語です。もともとはドイツの月経管理アプリ「Clue」の創業者であるイダ・ティン氏が、投資家向けのビジネス用語として作った言葉でした。
「フェムテック」は、女性特有のさまざまな健康課題をテクノロジーの力で解決するための製品やサービスの総称として使われますが、女性の体や健康をケアする製品やサービスを「フェムケア」といったりもします。これらをまとめて、広い意味で「フェムテック」と呼ばれることもあるようです。
生理痛や、不妊、性交痛、セックスレスなどの悩みや更年期のモヤモヤは、これまでなかなか口に出しにくいものでした。ですが、SNSの普及によって、困っていることをみんなが口に出しやすくなり、「『しんどい』と声を上げることは、わがままじゃない」という空気がどんどん広がってきています。
フェムテックは価値観を変えるムーブメントでもある
女性の悩みや課題を解決する新しい選択肢であるということに加えて、フェムテックには女性の心身にまつわるタブーや価値観を変容するムーブメントの側面もあります。2020年頃から、次のような動きや女性たちの意識の変化が起きています。
●生理痛や更年期、不妊など、これまで人前でオープンに話せなかったことが話しやすくなった。
●「デリケートゾーン」や「セルフプレジャー」といった言葉が広がり、メディアでも隠すことなく取り上げられるようになった。
●生理の貧困や性教育の遅れ、ジェンダー格差(性的役割分担やジェンダーを背景にした賃金格差など)、女性に対する性暴力などの社会問題について、女性たちがSNSなどで積極的に声を上げるようになった。
●多くの女性たちが、女性特有の健康課題を“自分ごと”としてとらえるようになった。
こうした意識の変化が起きている背景には、世界に広がる「SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)」、つまり「性と生殖に関する健康と権利」という考え方があると思います。SRHRとは、性(セクシュアリティ)や生殖に関して、心身ともに満たされて幸せを感じられ、その状態を社会的にも認められていること。そして、これらを自分で決める権利を持っていることを表す言葉です。
具体的には、誰を愛するかということや性的なあり方、自分の性的な快楽(セックスをする・しない)、子どもを産む・産まない、いつ・何人子どもを持つかといったことを、自分で決められる権利のことです。つまり、人は皆、自分が自分であるために、身も心も、社会的な状況においても、尊厳を持って生きる権利があるということです。この考え方は、フェミニズム運動や#MeToo運動の精神とも重なってきます。
女性特有の症状について我慢したり諦めたりしなくてよい社会、そして積極的にケアをすることが当たり前になっていく未来が、ようやく見えてきました。これからますます、自分の性のあり方や健康に、一人一人が主体的に向き合う時代になっていくでしょう。いえ、そうでなければいけませんよね。
取材・文・構成/国分美由紀
出典/『365日機嫌のいいカラダでいたい。現代を生きる私たちのヘルスケア・アップデートブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)