生理前、PMS(月経前症候群)になるといつもより毛穴の開きを感じたり、肌が脂っぽくなったり、といった変化を感じると思います。その結果、ニキビもできやすくなり悩ましい時期ですね。PMS時期の肌トラブルは、女性ホルモンのゆらぎに影響されて起きています。ホルモンバランスを意識したスキンケアの方法について、皮膚科専門医の慶田朋子先生に伺いました。

慶田朋子(けいだともこ)先生

銀座ケイスキンクリニック院長

慶田朋子(けいだともこ)先生

医学博士。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本レーザー医学会認定レーザー専門医。ガルデルマ社認定ヒアルロン酸注入指導医。最新の医療機器と注入治療をオーダーメイドで組み合わせ、メスを使わないナチュラルな若返りを叶える美容皮膚科医として信頼が厚い。皮膚の働きや正しいスキンケア、生活習慣などの解説が人気で、テレビ、雑誌、ウェブなどで活躍中。著書『女医が教える、やってはいけない美容法33』(小学館)ほか多数。

プロゲステロンが肌の皮脂量を増やすけれど…

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増田美加(以下、増田):毎月の女性ホルモンの揺らぎによって、肌も影響されると言われていますが、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンによって、肌はどのような影響を受けるのですか?

慶田朋子先生(以下、慶田先生):女性ホルモンは、皮膚にさまざまな作用をもたらします。エストロゲンとプロゲステロンの総量というより、どちらが多くなるかというバランスが影響しています。

たとえば、エストロゲンの量がプロゲステロンに比べて最も多くなる(優位になる)時期は、生理後から排卵前後です。このころは肌の調子がよく、トラブルも少なく安定している時期です。

 一方、生理前は、エストロゲンよりプロゲステロンの量が多くなる時期で、バランスがプロゲステロン優位になります。すると、便秘になりやすく、ニキビができやすくなるのです。

プロゲステロンには、肌の皮脂量を増やす作用があるため、毛穴の開きを感じたり、肌表面の脂っぽさを感じたりします。ただし、プロゲステロンで肌の皮脂量が増えることは確かなのですが、ニキビとの直接な因果関係はわかっていません。

生理周期 女性ホルモン 変動 肌 

卵胞期、排卵期は、エストロゲンが優位になるため、肌は安定する。一方、月経前はプロゲステロンが優位になるため、肌トラブルが増える

PMS時期に便秘になりやすいことが原因!?

増田:そうなのですね! PMSの時期は、肌の皮脂量が増えるから、ニキビになりやすいのだと単純に思っていました。では、PMSでニキビが増えるのはどうしてなのですか?

慶田先生:PMSの時期にニキビが増える理由としては、プロゲステロンの作用として腸内の蠕動(ぜんどう)運動が抑制されて、便秘になりやすいことが原因のひとつと考えられます。

便秘になると腸内環境が悪化し、悪玉菌が増え、悪玉菌が腸内のアミノ酸から腐敗産物と呼ばれるフェノール類やパラクレゾール、インドールやスカトールといった有害物質が作られ、腸内に蓄積されます。これらは糞便の悪臭の原因でもあるのですが、驚くことに、その有害物質が腸壁の毛細血管から吸収されて、血液中に入って全身に巡ります。 その結果、皮膚も有害物質の影響で、乾燥、肌荒れ、ニキビが出やすくなったり、肌が黒ずんでツヤがなくなったりと、肌のトラブルにつながります。

もうひとつ、このPMSの便秘による肌の乾燥がニキビの原因になっていることもあります。便秘の人は、肌の乾燥が進むという研究結果が日本でも海外でも複数出ています。肌が乾燥すると、細胞が生まれ変わる肌のターンオーバーが乱れます。すると、正常に剥がれ落ちなかった角層が硬化することで肌荒れになり、毛穴をふさいで炎症を起こします。これがニキビの要因とも考えられるのです。

女性でも男性ホルモンの影響が!

増田:皮脂量の増加、便秘、肌乾燥、どちらにしても、女性ホルモンのプロゲステロンがニキビに影響するホルモンなのですね。

慶田先生:プロゲステロンだけでなく、ニキビのできやすさには男性ホルモンの影響が大きいと言われています。

女性の男性ホルモンは、男性に比べて少ないですが、女性でも副腎から分泌されています。男性ホルモンは、思春期の若いころから分泌され始めます。すると皮脂腺の活動が活発になり、皮脂が出過ぎて、つまることでニキビができやすくなるのです。

男性ホルモンの分泌量や皮脂腺の大きさは人ぞれぞれ。個人差が大きいです。思春期にニキビが重症化しやすい人は、男性ホルモン(テストステロン)が高活性型のジヒドロテストステロンに変換されやすく皮脂量が多いタイプ、遺伝的に皮脂腺が大きく分泌量が多いタイプ、その両方の素因を持つタイプだと思います。

ほかにもPMSの時期以外にできるニキビもあります。ストレス、睡眠不足、遺伝的素因、年齢、男性ホルモン、食事(脂肪分・糖分過多)、化粧品、環境因子(気温、湿度、紫外線)などもニキビの原因になります。ニキビの原因は本当にたくさんあるのです。

便秘改善と乾燥対策が大事。乾燥肌の人も要注意!

増田:PMSの時期のニキビの原因から考えると、便秘改善と乾燥対策がニキビ予防やニキビを悪化させないケアになりますか?


慶田先生:そうですね。便秘改善と乾燥対策は、大切です。便秘があってニキビに悩んでいる方は、酸化マグネシウム剤などで便秘を改善し、腸内を整えることでニキビがよくなることも少なくありません。また、ヨーグルトなどの発酵食品、水溶性食物繊維、雑穀などの穀類を食べることで腸内環境を少しずつ整えていくことも大切です。便秘改善には、食事の工夫、睡眠、運動習慣、ストレスコントロールも重要です。過剰なストレスは、腸内機能を低下させると言われています。

また、ニキビができる方は、脂性肌の方だけでなく、乾燥肌の方であることも珍しくありません。乾燥肌=肌のバリア機能が低い証拠ですので、肌荒れを起こしやすく、炎症をきっかけに毛穴の入り口(毛漏斗部:もうろうとぶ)の角層が厚くなり、毛穴が詰まってしまいます。すると、皮脂が溜まって常在菌のアクネ菌が増えることで、ニキビができやすい人もいます。皮脂腺が大きく皮脂量が多い人のニキビとは、メカニズムが違うのです。対策としては保湿が大事です。

肌の水分量が下がっていて、メイクのノリが悪い、くすむ、透明感がない、キメが粗くなるなどを感じたら、ニキビ予防のためにも保湿をしっかりしてください。PMSの生理前は、皮脂腺が活発になります。ニキビもできやすいですが、炎症のないニキビ(白ニキビ)が2~3個できるくらいであれば、皮膚科を受診する必要はないでしょう。

もし長引くニキビで悩んでいたら、皮膚科を受診してください。皮膚科でのニキビ治療の基本は、毛穴に皮脂が詰まりにくくする治療と、アクネ菌に対する治療です。

保険診療では、おもに塗り薬と飲み薬で治療を行いますが、専用の器具で毛穴に詰まった皮脂を押し出す処置もあります。または、保険適用外ですが、ケミカルピーリング(古い角質や毛穴に詰まった角栓を優しく溶かす治療)、IPL照射(フォトフェイシャル)などの治療が行われています。

洗顔の仕方はソーっと“泡フルフル”

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増田:スキンケアは、洗顔が基本と聞きます。PMS期の洗顔の方法を教えてください。

慶田先生
:PMSの時期のケアは、洗顔料で普段以上にやさしく洗うよう心がけます。洗わないスキンケアはNGです。朝の洗顔は、洗顔料の泡を肌にのせて、やさしくそっと手のひらで泡をフルフルっと動かすだけ。それで、すぐに流してください。

夜の洗顔は、メイク落としをしたあと、肌に洗顔料の泡をのせます。のせている時間を朝より少しだけ長くします。皮脂が多めの人は、先にTゾーンに泡をのせ、最後に乾燥しやすい目の周りにのせるようにして、時間差にします。そうすると皮脂の多い場所は、しっかり脂を落とせます。

洗顔料の泡をのせて、手のひらでやさしく動かすのは、界面活性剤が乳化して、毛穴の脂まで洗顔料の成分が行き渡る時間を待つ目的があります。毛穴が広がっている人は、肌表面が凸凹と立体的になっているので、より丁寧にしましょう。

大人のニキビの場合、さまざまな原因で厚くなった角層と皮脂が層状に固まった角栓ができていたり、真皮の構造の劣化により毛穴が開いてきたりするので、酸化した皮脂はしっかり落とし、不要な角層のターンオーバーを促すことが大事。

ただし、泡や洗顔ジェルなどで長時間マッサージをすると、汚れだけでなく大事な肌のバリア成分が流れ出す危険があります。洗い流したときに、肌にツッパリ感があったら、バリア成分が流れ出してしまった証拠です。 

洗い方ひとつとっても、その方の肌質、年齢、季節、生理のゆらぎの時期、メイクの濃さによってもアドバイスが異なります。夜、塗ったものの種類がオイルか、ジェルか、によっても朝の洗顔をどうするかが変わります。もし、トラブルに悩んでいるようでしたら、一度、美容皮膚科を受診して相談してみてください。

ニキビのときに保湿ケアが必要なわけ

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増田:ニキビのときに保湿するって意外な気がしますが、どのようにすればいいのですか?

慶田先生:ニキビのときも保湿は必ずしましょう。保湿の仕方も、皮脂量の多い時期か、少ない時期かによって変えていきます。

PMS期の皮脂量が比較的多い時期には、バームやクリームなどの重たいものではなく、軽めの乳液やジェルなどで保湿します。

季節によっても変えましょう。夏は、温熱刺激で皮脂腺が元気になってニキビが増えやすくなるので、さっぱり系の化粧品で保湿を。冬は皮脂量が減るだけでなく、大気が乾燥するので、クリームなど油分が多いもので保湿してもいいでしょう。

また、秋~冬は、季節的な乾燥がきっかけで、先ほど説明した乾燥肌のニキビになることもあります。そのときは、よりしっかり保湿をしてください。

増田:感染対策でマスクをすることもありますが、ニキビのときに気をつけることはありますか?

慶田先生:ニキビのときには、マスク時間を少し減らすように心がけましょう。感染対策は大事ですが、室内や車内などで密なときだけにして、外を歩くときには外すなど、場面に応じで臨機応変に。

冬の乾燥する季節でもマスク内は蒸れますし、こすれる刺激で毛穴が詰まりやすくなります。また、ニキビが擦れて炎症が悪化してしまうことも。長時間のマスク着用で皮脂量が増えたら、冬でも皮脂量が多いときの洗顔をしましょう。

ニキビを悪化させず目立たなくするメイク法

増田:ニキビがあるときにファンデーションをつけていいのか迷います。メイクはしてもいいのでしょうか?

慶田先生:メイクは軽めにしてください。ファンデーションは、ニキビの色味をカラーコントロールしつつ、紫外線やほこりなどの刺激から守ってくれる役割もあります。ニキビができているから、日焼け止めもファンデーションも塗らないと次のニキビにつながってしまいます。

また、ニキビは、心身的なQOLがとても下がることが調査研究でもわかっています。私たち皮膚科医が驚くほど、重症の皮膚の病気よりも、自己評価や意欲、気分が落ち、メンタルに影響することがわかっています。メイクの工夫で隠せるところは隠して、社会生活を少しでも快適に送れるようにしたいですね。

ニキビのときは、油分が多く含まれるコンシーラーやリキッドファンデーションは避けて、炎症を抑えつつ自然にニキビを隠せる、肌色のニキビ専用の軽めのものがおすすめ。その上にパウダーをポンポンと置くように重ねると、ナチュラルに仕上がります。パウダーは、ニキビのできているときやできやすい方の場合、パフで滑らせると刺激になるのでポンポンと軽く置くイメージで。

ニキビは、皮脂腺が無い目周りと唇にはできません。ベースメイクは、カラーコントロールで整えるくらいの意識にして、アイメイクやリップなどで、ニキビから視線を逸らすようにするのもコツです。

増田:スキンケアやメイクのときに、ついニキビを触ってつぶさないように気をつけないといけませんね。メイクでニキビを隠していいと思うと、気持ちが少し楽になります。次回は、今から知っておくべき40代以降の肌揺らぎの対策についいて、慶田先生に引き続き伺います。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

イラスト/大内郁美 構成・取材・文/増田美加 企画/福井小夜子(yoi)