台湾発の、アジアで初めて作られた吸水ショーツ「ムーンパンツ」共同創設者ユアンイーさん&フィオナさんのインタビュー後編は、フェムテックの発展が著しい台湾の現状にフォーカス。フェムテックの販売場所から、生理にまつわる知識&意識の変化、政府も力を入れる生理イベント、吸水ショーツをアレンジした新作アイテムについてまで、たっぷりと聞きました。

台湾の生理用品 ムーンパンツ 

(右)ユアンイーさん(左)フィオナさん

ユアンイー

ムーンパンツ共同創設者

ユアンイー

台湾初のタンポンブランド「KiraKira」創設者のヴァネッサが開催したグループインタビューに参加し、ヴァネッサと交流を深める。プロダクトデザイナーとしての経験を買われ、月経カップ「フルムーンガール」のデザインを担当。フィオナと生理用吸水ショーツブランド「GoMoond」を立ち上げ、「ムーンパンツ」のデザインを手掛ける。

フィオナ

ムーンパンツ共同創設者

フィオナ

タンポンをテーマに修士論文を執筆。広告会社を辞めて、月経カップ「フルムーンガール」(原名FormoonsaCup)のプロジェクトマネージャーに。デザイナーであるユアンイーと、生理用吸水ショーツブランド「GoMoond」を立ち上げる。台湾のオンラインコミュニティに執筆した7万字超の研究論文が『生理を、仕事にする。台湾の生理を変えた女性起業家たち』(アジュマブックス)出版のきっかけとなる。

ドラッグストアでもオンラインでも、手軽にフェムテックが買える仕組みづくりを

——2022年には「KiraKira」によるアジア初となる台湾産の月経ディスクが誕生。台湾では現在、「KiraKira」、「GoMoond」の他にも数多くのメーカーがユニークな商品を販売していますが、ナプキン以外の生理用品を利用する人は、増えていますか?


ユアンイーさん:最も新しい2022年の調査によると、ナプキン以外の生理用品を使っている人の割合は5%。5%というとまだまだ少なく感じますが、わずか約10年前、2003年の調査結果と比べると25倍です。著書『生理を、仕事にする。台湾の生理を変えた女性起業家たち』のまえがきにも書きましたが、私たちの目的は単なる市場の開拓ではなく、ユーザーのニーズを考慮し、女性が選択する権利を追究していくことなのです。


ちなみに吸水ショーツ「ムーンパンツ」の愛用者は、月経カップやタンポンを併用している人も多数。5%の中には、複数のアイテムを並行して使っている人が多い印象をあります。


——今はまだ大きな市場とは言えないかもしれませんが、選択肢を増やしていくことが、のちの市場の成長にも必ずつながっていくと思います! 現状、フェムテックは、どのような場所で購入できますか? また、商品のバリエーションやアクセスに地域差はあるのでしょうか?


フィオナさん:「KiraKira」と「GoMoond」のアイテムは、台湾全土に店舗がある大手ドラッグストアチェーンで販売しており、地域差はほとんどないと思います。今は、ネットで手軽に購入できますし。ちなみに月経カップを開発していた2016年までは、月経カップは医療機器と認定されていたため、オンラインで購入することができませんでした。私たちはオンラインで月経カップを購入するための法整備を求める署名運動を行い、翌年、オンラインでの販売許可を取得しました。台湾の女性が平等にフェムテックにアクセスするために、なくてはならない変化だったと感じています。


ユアンイーさん一方で、新しいアイテムへの興味関心や、挑戦することのハードルといった意識面では、台北市とその他の地域で差があると感じます。生理にまつわるイベントを各地で主催してきましたが、台北での集客を100とすると、高雄や台中では40ほど。都会では新しいものに触れる機会が多いですし、身近であればあるほど、挑戦するハードルは下がりますよね。

まずは知ってもらうことが大切! 店舗販売を拡大中

——日本ではフェムテックブームが始まって4年が経ちますが、ナプキンと比べて高価な吸水ショーツは手が出しにくいと感じる人はもちろん、吸水ショーツの存在を知らない人も多い印象を受けます。コアなファンだけではなく、商品をより多くの人に知ってもらうために、どのような取り組みを行なっていますか?

ユアンイーさん:「ムーンパンツ」の発売当初は拡散力のあるオンラインに焦点を置き、ネット広告を出していました。しかしネットを頻繁に使う人ばかりではないし、実際に触れてから買いたい人もいると考え、去年から小売店での販売に注力しています。陳列棚に商品説明のポップを添えてもらい、客足の多い休日には実演販売も依頼。子どもたちは身近な人に習って生理用品を選ぶため、親にアプローチすることを心がけています。
 
また、フェムテックに興味を持ってもらったり、抵抗感を少なくするためには、性教育が欠かせません。そのため、生理の仕組みや生理用品の使い方を解説した本も、いくつか出版しています。若い世代が読みやすいように、女性器などのイラストをキュートなテイストのものにして、マンガの割合を増やしたところ、とても好評で。図書館で貸し出し希望者が絶えないと学校から連絡をいただいたり、3度の増刷が決まったりと、予想を遥かに超える反響がありました。

台湾 生理の本

マンガでわかりやすく、性の知識を勉強できる書籍。

楽しめるイベントを通じて、生理に対する偏見を一掃したい

月経周期研究会

年に一度行われる「月経周期研究会」。(『生理を、仕事にする。台湾の生理を変えた女性起業家たち』より)

——生理にまつわるイベントも主催しているそうですが、イベントを行おうと思ったきっかけは? また、その内容も教えてください。
 
ユアンイーさん「GoMoond」を起業後、「月経周期研究会」という学術会議に参加したことがきっかけです。台湾の学会ではあまり馴染みのない国から参加した研究者たちと出会い、それぞれの研究内容について話し合う中で、新しい発見がたくさんありました。実際に顔を合わせて、生理について素直に話し、議論し、情報交換をすることの価値を再認識しました。
 
フィオナさん:私たちは開発を行ううえで、オンラインコミュニティで密に意見交換してきました。しかしオンラインで積極的に意見している女性の多くは、個人のSNSでは、生理についてまったく投稿していない。ネット上の空間は参加しやすいというメリットもありますが、実際に顔を合わせて話すことの素晴らしさを広めたいという想いから、生理について心置きなく話せるオフラインイベント「月月会」を企画しました。
 
「生理ゴミの減量」「漢方医学からみた生理」など、さまざまなテーマでイベントを重ねるうちに、参加者の誰もが女性同士の連帯を強く求めていたのだと実感。そして2022年、規模を拡大して「生理カーニバル」を開催しました。目的は、生理への偏見をなくすこと。アーティストによるパフォーマンスや、ヨガの無料体験レッスン、生理用品を模したクッキーの配布など、楽しみながら生理について学べる工夫を盛り込みました。

ユアンイーさん
私たちのイベントのほかにも、政府やNGOが主催するものもあります。以前はほとんどが台北のみの開催でしたが、最近は地方でのイベントも増えているんですよ。生理教育にとても力を入れている、台湾の政府をとても誇りに思います。

台湾 生理グッズ

台湾で販売されている、生理をモチーフにしたかわいいグッズたち。さまざまな取り組みを通して、生理をタブー視しない文化が広まっていく。

コソコソ話す時代は終わった! 自由参加のレクチャーに参加する男子生徒も

生理用品 パッケージ

同じ商品でも、台湾と日本ではパッケージを変えて販売(右が日本、左が台湾)。抽象的なデザインが好まれる日本に対し、わかりやすく「月経」などど書いてあるデザインがウケる台湾。

——台湾では2004年に、性教育と恋愛教育、同性愛教育の3つのカリキュラムを含む「ジェンダー平等教育法」が成立。幼稚園から高校卒業まで、性について学ぶ機会がたくさん設けられているそうですね。(参考記事)以前と比べて、人々の生理に対する意識は変化していると感じますか?
 
フィオナさん:すごく変わったと思います。私が月経カップの開発に携わり始めた頃は、まだ「生理」を「あれ」と表現する人が多かったけれど、ほとんどの人が躊躇なく言うようになった。女子同士でコソコソ生理について話していた私の学生時代とは、まったく違う時代を生きていると感じます。
 
ユアンイーさん小学校を訪れて生理用品の使い方をレクチャーする活動を行なっているのですが、あるとき、生理について積極的に質問する男子生徒がいたんです。生理のレクチャー会に招待したらとても喜んで、熱心に学んでいました。彼のような若者が増えていると知り、とてもポジティブな気持ちになった!

尿もれは生理と一緒。誰もが通る道なのに対処法はほとんどない

——これから力を入れていきたい活動や、新たに開発を予定している商品はありますか?
 
フィオナさん去年から販売している、尿もれ専用吸水ショーツの改良です。ムーンパンツを尿もれ対策に使っているという声が多数届き、尿もれについてリサーチしたところ、台湾では35歳以上の女性の25%が尿もれを経験していました。主な原因は妊娠と加齢。多くの人が人生で通る道でありながら、対策するための商品がほとんどない状況に、ナプキン一択だったかつての生理用品の状況が重なりました。私たちの商品で不便を取り除くことができれば、人々の人生をより豊かになるはず。そう感じて、尿もれ専用吸水ショーツを開発しました。
 
ユアンイーさん:経血と尿はともに液体ですが、質がまったく違う。経血量は多い日で平均18ccであるのに対して尿もれは1度に30〜300ccと、量にも大きな差があるため、高い吸水力と速乾性を兼ね備えた新しい生地を開発しました。現在は改良を図りながら、男性用吸水ショーツの開発も視野に入れています。
 
——他社の製品で、注目しているものがあれば教えてください。
 
ユアンイーさん:高雄市の医師が開発した、生理痛を軽減する機械が気になっています。クラウドファンディングで予約販売が始まって間もなく、500万元(現在のレートで約2390万円)を突破していました。実際に効果が感じられるのか、購入者のレビューを読むのが楽しみです。私たちにとって同業他社は、すべて仲間。生理を快適に過ごすための、さまざまな選択肢を提供することが私たちのモチベーションであり、企業理念なので!

撮影/細谷悠美 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)