私たちが人生でそれぞれに向き合う「妊娠・出産」「家族」や「パートナーシップ」にまつわる選択に迷ったとき、必要なのは専門家の的確なアドバイス。連載【Stories of A to Z】の今回は、激務による卵子への影響や、女性特有のつらさに対して周囲の理解が得られないことに悩むGさんのストーリー。

Story8 30歳を過ぎて卵子の状態が気になるGさん

ハードワーク&たび重なる転勤をサバイブしてきた私の体、大丈夫...?

激務の日々で卵子の状態が気になる…30代の妊よう性に不安を抱くGさんのストーリー【前編】_1

行政機関に勤務するGさんは現在33歳。赴任地は2年たらずで変わることが多く、そのつど新たな環境でハードな業務をこなしながら、10年以上働いてきました。

「職場の上司や同僚はほぼ男性。数少ない同性の先輩には新人の頃から『女だからって甘えていてはやっていけない』と指導されてきました。トイレに行く暇がないほど対応に追われる日も少なくないので、生理中も朝にタンポンを入れたまま取り替えられないこともしばしば。それでも『責任の重い職種だから我慢するしかない』とやり過ごしてきました。20代の頃はむしろ我慢するのが美学だと思い込んでいましたが、30歳を過ぎて長い目でライフプランを考えたときに、“このままでいいのかな”と不安になったんです…」

長年ハードワークを続けた結果、慢性的な膀胱炎に。また、転勤が多いため婦人科のかかりつけ医はおらず、ここ2年は一度も受診していない状態だそう。

「今パートナーはいませんが、いつかは家族を持ちたいと思っています。ただ、激務でずっと体を酷使してきたので自分の卵子の状態が気になって…。これまで先輩たちが妊活や不妊治療のために退職する姿も見てきましたが、私は仕事を続けたいので職場での女性の身体的・心理的つらさも軽減していきたい。持続可能な働き方を模索したいけれど、ロールモデルもおらず理解者も少ない現状で、いったいどうしたらいいのかわかりません」

そんなモヤモヤした思いと不安を、女性ライフクリニックの大山香先生に相談してみることに。



Gさんが気になっていること


1. 自分の卵子の状態が気になる。卵子凍結も考えるべき?


2. 転勤が多い場合、かかりつけ医を持つのはあきらめるしかない?


3. 女性特有のつらさに対して、職場の理解を深めるヒントが知りたい




今月の相談相手は……
大山 香先生

産婦人科医

大山 香先生

対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座にて産婦人科を担当。女性ヘルスケア専門医でもある。「婦人科は敷居が高いと思われることがあるかもしれませんが、まずはお話しだけでも構いません。気になる症状があれば、いつでもご相談くださいね」

自分の卵子の状態が気になる…卵子凍結も考えるべき?

激務の日々で卵子の状態が気になる…30代の妊よう性に不安を抱くGさんのストーリー【前編】_2

Gさん 先生、慢性的な膀胱炎って性機能に影響するものでしょうか。それから、生理中もタンポンを取り替えられないことが多いのですが、それも何か悪い影響がある気がして。

大山先生 もちろん慢性的な炎症はいいことではありませんが、膀胱炎による性機能への影響はあまり考えられないので、心配しすぎなくていいと思います。ただ、タンポンは最長でも8時間が交換の目安。入れたままにしていると、膣内で黄色ブドウ球菌が増殖して「トキシックショック症候群(TSS)」による発熱や発疹、嘔吐などが起きる可能性があります。せめて勤務中に1回でも替えられるといいのですが…。あるいは、ピルで生理をコントロールして経血量を減らすのもいいと思います。

Gさん 実は社会人になった頃に3カ月ほどピルを試したことがあるんです。でも、定期的に通院するのが難しいこともあって、当時はあきらめてしまいました。

大山先生 確かにピルは処方するのに3〜6カ月ごとの経過観察が必要なので、継続した通院ができないとなると難しいかもしれないですね。Gさんのライフプランにもよりますが、月経痛や経血量を減らす選択肢としては子宮内に挿入するミレーナも選択肢のひとつ。かなり経血量が減りますよ。挿入から1年は頻回にチェックが必要ですが、それ以降は年1回の検診ですし、効果は5年間持続します。

Gさん ピル以外の選択肢があるなんて知りませんでした。まだ具体的なライフプランはありませんが、30代のうちに妊娠できたらいいなという気持ちもあって…。でも、10年以上ハードな環境で働いてきたので妊よう性に不安があります。最近、性欲もなくなっている気がして。今の卵子の状態を知る方法はありますか?

大山先生 卵子の状態を知る方法は、おもに次の3つがあります。
①AMH検査で卵胞から分泌される抗ミュラー管ホルモン(AMH)濃度を測定し、年齢ごとの平均値と比較して卵胞の残数を予測する。
②毎朝基礎体温を測ってホルモンバランスや排卵の有無を確認する。
③年1回の婦人科検診でエコー検査をして、卵胞の発育をチェックする。
病院へ行く時間が取れればAMH検査でもいいですし、生活リズムが不規則でなければ、通院しなくても基礎体温を測ることで排卵の有無がわかります。

Gさん 自分でできることもあるんですね。実は来年、キャリアアップのための地方転勤を考えているのですが、その前に婦人科でチェックしておくべきことはありますか?

大山先生 まずは婦人科検診がいいと思います。その際、エコーで子宮と卵巣の状態もチェックしましょう。可能であれば、HPVワクチンや風疹ワクチンを打つことを検討したり、AMH検査や不妊の原因となるクラミジア検査をオプションで付けたりするといいと思います。

Gさん なるほど、検診なら一度にチェックできますね。ちなみに、卵子凍結も視野に入れるべきでしょうか?

大山先生
 卵子凍結は、出産に対するご自身の意思はもちろん、メリット・デメリットを知ったうえで考える必要があると思います。例えば、費用についていうと1回の採卵だけで20〜30万円、冷凍保存には年間3〜5万円ほどかかります。また、卵子凍結できたとしても、解凍して使用する際の卵子の妊娠率はさほど高くありません。そして、採卵までに何回か通院する必要があります。

Gさん ニュースでもよく耳にするので、もっと簡単にできると思っていました…。でも、もし凍結するとしたら早いほうがいいですよね?

大山先生 もちろん早いほうが卵子の状態はいいと思いますが、ご自身の人生を考えたうえでどうしたいのかを判断することがいちばん大切です。Gさんはまだ33歳ですし、生理が順調でAMHも正常値ならこのまま様子を見て、エストロゲンの量が低下していく35歳から40歳までの間に決めるという考え方もあります。

Gさん 自分がどんな人生を送りたいか…これを機にじっくり考えてみます。

▶︎後編では、かかりつけ医が持てない不安や、職場の意識変革について大山先生に相談すると、次々に具体的なアイデアが!

イラスト/naohiga 取材・文/国分美由紀 企画・編集/高戸映里奈(yoi)