これまで避妊薬のイメージが強かった「低用量ピル」ですが、最近では、生理痛や、PMS(月経前困難症)緩和の目的で服用する女性も増えています。特にここ数年は、コロナ禍で、オンライン処方やピル処方に特化したアプリも登場し、以前よりも多様なアクセスが可能になっています。そこで、改めて低用量ピルとはどんな薬なのか、そのメリットや、使用する前に知っておきたい注意点について、よしの女性診療所院長・産婦人科医の吉野一枝先生に聞きました!

吉野一枝先生

産婦人科医

吉野一枝先生

産婦人科医・臨床心理士。よしの女性診療所院長。CM制作会社を経て、32歳で帝京大学医学部入学。卒業後、東京大学医学部附属病院産婦人科学教室に入局。愛育病院や長野赤十字病院などを経て、2003年によしの女性診療所を開院。女性の健康啓発に注力するほか、LGBT当事者に性知識を伝える勉強会や講演会も行なっている。『40歳からの女性のからだと気持ちの不安をなくす本』(永岡書店)『母と娘のホルモンLesson』(メディカルトリビューン)などがある。

ピルを持つ女性

知っていますか? 日本と世界のピル事情

低用量ピルを上手に活用するために、まずは現在の低用量ピルに至るまでの歴史や世界と日本国内での利用状況について吉野先生に聞きました。

吉野先生ピルは、避妊のための薬として1950年代アメリカで開発が始まり、1960年代にアメリカ国内で販売がスタートしました。ただ、当時は含まれるホルモン量が多く、それによって副作用が出やすいことが問題でした。その後、ホルモン量を抑えた、副作用の少ない低用量ピルが開発されました。日本では、1957年から高用量のピルが使われていましたが、避妊薬として認可はされていない状況でした。

世界に遅れること40年、1999年にようやく日本で低用量ピルが認可され、発売が開始されましたが、当初は、高用量ピルの副作用のイメージが根強く残っていたため、なかなか普及しませんでした。その後、2008年に保険適用のピルが発売されたことから、徐々に使用者は増えていますが、それでも海外と比べて普及率はかなり低く、2019年のデータでは、フランスの30%以上に対して、日本は2.9%となっています(※)。しかし最近では、IUD(子宮内避妊具)や避妊用インプラントなど、低用量ピル以外の避妊法がどんどん出てきていることもあり、アメリカなどでは、逆に低用量ピルの使用率は下がっているようです。

現在のところ、避妊に関して世界で大幅に遅れをとっている日本。それは、なぜなのでしょうか?

吉野先生日本は、欧米諸国に比べて、性や女性の健康に関しての意識が低く、性教育も積極的に行われているとは言えません。さらに、「わからないものは怖い」という考えも根強くあると感じます。ですが、低用量ピルは、避妊薬としてはもちろん、ほかにも女性にうれしいメリットがたくさんある薬です。まずは、正しく知識を身につけることが大切だと思います。

※国連の発行している『避妊法2019(Contraceptive Use by Method 2019)』のデータ による

低用量ピルを服用すると、体ではどんなことが起こる?

低用量ピルは、実際、どのような仕組みで避妊が可能になるのでしょう? 

吉野先生低用量ピルは、女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン (プロゲステロン)が配合されている薬です。この2種類のホルモンを外から取り入れると、体内ではすでに必要なホルモンが分泌されていると判断し、卵巣にホルモン分泌の指令を出さなくなります。これによって体内の女性ホルモン量を低め一定に保ち、女性ホルモンの変動によって誘発される排卵を休ませることができるのです。1日1錠、決まった時間に正しく服用すれば、99.7%という高い避妊効果が期待できます。

ピル服用時のホルモンバランスを表した図表

【低用量ピルのもたらす作用】

1.卵子を発育させない

女性ホルモン量を低め一定に保つことで、卵巣へ排卵を命令する卵巣刺激ホルモンが放出されなくなるため、卵子は発育せず、排卵も起こらなくなります。

2.子宮内膜を薄くし、着床しづらくする

通常は排卵後、子宮内膜は1〜2cmほどに厚くなり、受精卵が着床(妊娠)しやすい状態を作ります。妊娠に至らなければ内膜は剥がれ落ち、経血として排出されます。これが生理です。低用量ピルを服用すると卵胞ホルモンの分泌が抑えられるので、子宮内膜は1〜5㎜程度にとどまり厚くならず、そのぶん出血量や月経に伴う痛みも軽減します。

3.粘液を変化させて、子宮への精子の挿入を阻止する

排卵の頃になると、水っぽいおりものが増えますが、これは精子を引き込みやすくするため。低用量ピルを服用すると、このおりものの粘度が高くなって、子宮の入り口部分を塞ぐような役目をし、精子の侵入を防ぎます。

生理前のつらさも解消? 避妊だけじゃない低用量ピルのメリット

吉野先生女性ホルモン量の変動を抑える作用のある低用量ピルには、避妊だけではなく、さまざまなメリットがあります。

低用量ピルのメリットを表したイラスト

【低用量ピルによる避妊以外のメリット】

●月経をコントロールできる

低用量ピルを内服する日を調整することで、月経時期を自分でコントロールすることが可能です。月経周期が不安定な人や、スポーツをやっている人、イベントや旅行などの予定がある人にはメリットが大きいでしょう。

●PMS(月経前症候群)の緩和

体内の女性ホルモン量を低め一定に保つことで、月経前のホルモンの変動によって引き起こされていた、落ち込みやイライラ、頭痛や吐き気といったさまざまな不調が出にくくなります。

●月経痛(生理痛)の緩和

子宮内膜が薄くなることで、内膜に含まれる発痛物質(プロスタグランジン)が減り、月経痛が緩和されます。また、月経痛の原因ともなる、子宮内膜症や子宮筋腫などの症状緩和にも効果的です。

●肌あれの改善

月経前や月経中にニキビなど肌あれが起こりやすいのは、黄体ホルモンの急激な分泌によるものです。低用量ピルによって女性ホルモン量を低め一定に保つことで、肌あれを改善します。

●卵巣がん、子宮体がんの予防

通常の月経では、卵巣の皮を破って排卵したあと、厚くなった子宮内膜がはがれ、それを子宮が収縮して押し出す、ということを繰り返します。それは女性の体にとって大きな負担であり、卵巣がんや子宮体がんのリスクにもつながっています。低用量ピルによって排卵を止めることで、同時に卵巣や子宮を休ませることができ、いずれのがんの発生率も抑えられることがわかっています。

●不妊症を防ぐ

不妊の原因には、卵子の数や質が大きくかかわっています。卵子は、持って生まれた数を使いつづけるだけで、新たに作られることはありません。また、質のいい卵子から排出されていくため、年齢とともに排卵・月経の回数を重ねていくと、卵子の数は減り、質のいい卵子もだんだん減っていきます。若い頃から低用量ピルで不必要な排卵を抑えることは、ゆくゆく不妊を防ぐことにつながります。

いろいろあるけど、どう違う? 低用量ピルの種類

低用量ピルが体に合わずにやめてしまったというケースも耳にします。でも実は、低用量ピルにもいろんな種類があるので、最初に試したものが合わなくてもあきらめないで、と吉野先生。

吉野先生低用量ピルにはさまざまな種類がありますが、大きな違いは卵胞ホルモン(エストロゲン)の配合量にあります。また、薬に含まれる黄体ホルモン(プロゲステロン)の量や種類の違いによって「世代」が分かれ、「第一世代」から「第四世代」までがあります。薬の作用に関しては大きな違いはありませんが、月経困難症の治療に向いているものや、ニキビや肌あれに有効なものなど、それぞれ特徴があります。ただし、効果の感じ方には個人差がありますので、自分に合っているかどうか、まずは医師と相談しながら試してみることが大切です。

●超低用量ピル

薬に含まれる卵胞ホルモンが30μg(マイクログラム)以下のもので、低用量ピルに比べ、副作用が出にくいといわれています。おもに、月経困難症や子宮内膜症の治療を目的に使用されます。

●低用量ピル

薬に含まれる卵胞ホルモンが50μg(マイクログラム)以下のもの。おもに避妊目的で使用されます。

よく聞く「OC」と「LEP」って何? その違いは?

日本では、低用量ピルを「OC」(Oral Contraceptives)と「LEP」(Low dose Estrogen Progestin)に分けています。「OC」は、避妊を目的とする実費のピルで、一般的に金額は1カ月分が2,000〜3,000円程度のものが一般的です。一方、「LEP」は、月経困難症や子宮内膜症などの治療目的で使用され、保険が適用されます。そのため金額は、1カ月分1,000円程度からと手頃です。

気になる副作用。飲みはじめに起こりやすいマイナートラブルとは?

吉野先生中高用量ピルに比べて、ホルモン量の少ない低用量ピルですが、人によって飲みはじめはマイナートラブルが起こることもあります。例えば、よく見受けられるのは、頭痛やむくみ、吐き気、不正出血、一過性のニキビなど。ただ、そうした副作用は2、3カ月のあいだに収まる場合がほとんどです。まずは3シート続けてみることをおすすめします。

一方で、重篤な副作用としては、血栓症のリスクが挙げられます。血栓症とは血管の中で血液が固まってしまい、その塊が血流を詰まらせてしまう症状。場所によっては心筋梗塞や、脳梗塞を引き起こすこともあるため、注意が必要です。血栓は体の末端の血管にできやすいため、ふくらはぎや腕などが腫れて、痛みをともなったり、しびれがあったりするときは速やかにピルの服用を中止し、医師に相談してください。

ただし、通常の生活のなかでも起こる血栓症の相対リスクを1とすると、低用量ピルを服用した場合は4程度です。喫煙は11、妊娠は13、産後12週目は30〜40とさらに血栓症のリスクは高くなります。体を動かすことを意識したり、水分を多くとったりすれば、そのリスクも下げることができますので、おびえすぎる必要はないかと思います。

使用には要注意! 低用量ピルを避けたほうがいい人

さまざまなメリットがある低用量ピルですが、もともと持病があったり、体質的な問題があったりして、低用量ピルを処方できない場合もあるのだとか。

吉野先生:例えば、目がチカチカするなど前兆のある頭痛がある人や、高血圧の人、喫煙者(ガイドラインの目安としては、35歳以上で、1日15本以上喫煙する人)などは、血栓症のリスクが高くなるため処方できません。

また、低用量ピルは基本的に初潮から閉経まで使用することができるとされています。しかし、閉経には個人差があり、人によっては避妊が必要な人もいますので、私のクリニックでは、50歳以上の方でもホルモンの検査をしたうえで処方する場合があります。

最近はオンライン処方を利用される方も増えているようですが、その際はこうした注意事項についてしっかり説明してくれるクリニックを選ぶことが大切です。また、服用にあたり不安に感じるようなことがあれば、些細なことであっても医師に相談するようにしてくださいね。

低用量ピルは、女性が自由に心地よく生きるためのツール。自分に合ったものを見つけて

数年前と比較して、低用量ピルもどんどん進化しています。種類もさまざまあるなかで、自分に合うものを見つけるためには、まずは試してみるのが大事だと吉野先生は言います。

吉野先生大切なのは、無理なく長く飲みつづけていくこと。自分の体調やライフスタイル、お財布事情と相談して、選ぶことをおすすめします。また、自分に合った低用量ピルを選ぶことと同時に、クリニック選びも重要です。残念ながら、産婦人科医でも正しくピルを扱える医師は、まだまだ少ないのが現状。初経を迎えているのに、「中学生に低用量ピルは処方できない」という先生もいます。事前にクリニックの特徴を調べ、正しく扱えるところにかかるようにしましょう。

ピルを持つ女性のイラスト

吉野先生女性は、一生のなかで初経から閉経まで、そして毎月の生理周期のなかでも、女性ホルモンの量やバランスが大きく変化します。いわば、二重の変動にさらされている状態です。それが健康上のハンディになってしまうこともあるでしょう。低用量ピルは、女性が健康を維持しながら、自由に心地よく生きるためのツールです。痛みや不安を抱えて生活する必要はありませんし、自分の人生を自分自身でコントロールするためにも、低用量ピルをうまく活用していただきたいですね。そして、産婦人科医は、低用量ピルの処方だけでなく、今後、年齢を重ねていくなかで必要な支えとなってくれるはずです。ぜひ若いうちから、産婦人科をかかりつけ医にしてほしいなと思います。

低用量ピルとはどんな薬なのか、基礎知識を正しくおさえることで、低用量ピルに対する不安や誤解も解消できたのではないでしょうか。使用を検討していた方は、自分に合ったものを見つける参考にしてみてくださいね。次回は、低用量ピルにまつわるさまざまなギモンに、吉野先生がお答えします!

取材・文/秦レンナ イラスト/itabamoe