虹クロ ロバート・キャンベル 下山田志帆 Eテレ

セクシュアリティーやジェンダーにまつわる悩みや疑問を抱える10代が、さまざまな分野で活躍するLGBTQ+のメンターたちと本音で語り合う、NHK Eテレの番組『虹クロ』。番組に出演するメンターのロバート キャンベルさんと下山田志帆さんが、yoi読者のお悩みに回答してくださいました。

『ハートネットTV 虹クロ』とは?
セクシュアリティーやジェンダーにまつわる悩みや疑問を抱える10代が、さまざまな分野で活躍するLGBTQ+のメンターたちと本音で語り合う、NHK Eテレの番組。

●放送:毎月第1火曜 午後8:00~8:29 (NHKプラスで同時配信、1週間の見逃し配信もしています)
●再放送:本放送の翌週水曜 午前0:30~0:59 ※火曜深夜 

公式HP:https://www.nhk.jp/p/ts/WYNW817V7Y/

お悩みに回答してくれたのは…

ロバート キャンベル

日本文学研究者

ロバート キャンベル

アメリカ・ニューヨーク出身。ハーバード大学東アジア言語文化学修士課程修了後、1985年、九州大学に研究生として来日。東京大学教授、国文学研究資料館館長を経て、2021年4月、早稲田大学特命教授に就任。テレビでMCやニュース・コメンテーター等をつとめる一方、新聞雑誌連載、書評、ラジオ番組企画・出演など、さまざまなメディアで活躍中。

下山田志帆

元サッカー選手

下山田志帆

1994年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学卒業後にドイツへ渡り、プロサッカー選手として2017年から2019年の2シーズンをプレー。ドイツ在住中に、同性のパートナーがいることを公表した。2019年の夏から、なでしこリーグ1部のスピーダ世田谷FCで活躍し、2023年にプロ選手を引退。現在は、女性やノンバイナリー、トランス男性のライフパフォーマンス向上をサポートする機能性ウェアブランドの代表を務める傍ら、アスリート視点でのプロダクト開発や教育などの事業を展開する。

ノンバイナリー読者のお悩み:異性愛前提の恋愛トークにモヤモヤ

私は戸籍上は女性ですが、性別はどちらでもないと思っています。 恋愛の指向としては、相手の性別に関係なく、恋愛感情を抱きます。しかし、友達同士で恋愛の話になったときに、「彼氏」を前提に話が進んでしまうので、そのことは言いづらいし、モヤモヤしてしまいます。「彼氏」前提で話が進んでいるときは、自分が男性を好きになるときを考えて話をしています。

そのときは話せていても、後々「好きになるの、男性だけじゃないんだけどな…」とモヤモヤしてしまいます。かといって、話を遮ったり、強制的に停止したりするわけにはいかないので悩んでいます。もし今後、友達同士や職場等で恋愛の話になったとき、できるだけストレスフリーになるには、どうしたらいいと思いますか? 私は、その場はその場でなんとなく過ごして、本当の気持ちを話せる数少ない友達にだけ話して発散するのがいいのかなと思っています。

ロバート キャンベルさんの回答

虹クロ ロバートキャンベル お悩み相談 LGBTQ+

相手に罪はない。周囲の人の世界観の中で、想定が及ばないだけ

無意識の偏見や差別意識が言葉や態度に表れて、意図せず誰かを傷つけてしまうことを、英語で“マイクロアグレッション”と呼びます。この方の体験は、マイクロアグレッションには当てはまりません。というのも、周囲の人の世界観では想定が及ばないというだけ。相手には罪がないと、僕は考えます。

自分が聞き流すことで、ある程度は話に関わっていられるのですから、それができているうちは大きな問題はないですよね。しかし、この方はモヤモヤを感じていて、できるだけストレスフリーになりたいと考えている。本当に聞きたいことは、自分の性的指向をまわりの人にオープンに伝えていいかどうか、ということなのではないでしょうか。

職場で伝える場合は、状況を見て慎重に

その場合、打ち明ける相手が友達と職場の人とでは、大きな隔たりがありますよ。職場で伝えた場合、うまくいけば、仕事に対してもっと前向きな気持ちになれるかもしれないし、職場の人たちとの信頼関係が深まるきっかけになることもあるでしょう。しかし一方では、自分の進む道を阻害される可能性もあります。やりたくない仕事の部署に回されたり、自分の出世に関わってくることもあり得るわけですから、きちんと計算する必要があります。僕も同じ理由で、職場で自分のセクシュアリティーをオープンにしていない時期がありました。

職場の中での力関係や、来年度の自分の査定など、全方位を見て、状況の棚卸しをして、シミュレーションすることが大事だと思います。職場に信用できる仲間や先輩、後輩がいれば、まずはその人と話をして、反応を見てみるのもよいでしょう。

一緒に過ごしてきた友達を信じてみて、少しずつ伝えてみては

仕事とは関係ない友達には、むしろ言うべきだと私は思います。セクシュアリティとは自分の素質であって、それを理解し合うことは、友情を育むうえでとても大切なことです。相手が受け入れられないならば、それまでのこと。どれほど深い記憶を共有する相手だったとしても、違う道を歩むときが来たのかもしれません。

この方は、友達と話して発散することを気持ちがいいと感じているのでしょうし、社交的で、友達との時間を大切にしているのだと想像します。友達を失うリスクはゼロではありませんが、それまで一緒に過ごしてきた友達を信じてみることも大事だと思う。理解してくれそうな人から、少しずつ伝えていくことを進めてほしいなと思います。 

下山田志帆さんの回答

虹クロ 下山田志帆 LGBTQ+ お悩み相談

モヤモヤするその気持ち、めちゃめちゃ共感します

まず、この方が置かれている状況にめちゃめちゃ共感します。私自身、学生時代に恋愛対象が男性前提で話を進められて、男性を好きじゃないことがバレないために必死に試行錯誤してきました。好きなタイプを聞かれたら「脚が速い人」と答えたりして、逃げていましたね。

そんな経験から思うのは、その場でなんとなくやり過ごし続けるのって結構ストレスフルなんですよね。「モヤモヤしてしまう」と書かれていますし、勝手ながら、すでにストレスを感じているんじゃないかと想像します。ただ、カミングアウトすることで友達との楽しい時間がなくなってしまうかもしれない、という怖さも理解できる。

まずは世間話として、話題にしてみるのも手

あくまでひとつの案としてお話ししますが、私だったら恋愛の話になったときに、「男性と女性どちらも好きになる人もいるんだって」と、あくまで世間話として話題に挙げます。「自分も今まで“彼氏いる?”って聞いちゃってたけど、男女どちらも好きな人が回答に困ると知って、やめたんだよね!」という感じに、困ったり悩んだりする人もいることを、遠回しに伝えるのはひとつの手だと思います。

私自身この方法を何度も使ったことがあり、「へ〜、そうなんだ!」と受け入れてくれる人がたくさんいたし、同じ発言をしないように気をつけてくれる人もいました。それに、こういった話題に対する反応は、カミングアウトして受け入れてくれるかどうかの判断材料にもなります。すんなり受け入れられる人は、カミングアウトのハードルが低い。逆に、否定的なことを言う人には、気をつけたほうがいいかもしれません。

実は、私のお母さんは後者。まだ私が自分のセクシュアリティーを公表していない時期に、テレビ番組でゲイいじりをしているのを観たお母さんが、「気持ち悪い!」と言ったんです。「そういうことを言われて傷つく人、いっぱいいると思うよ」と私が伝えると、「え〜! でも気持ち悪いものは気持ち悪いじゃん」と返ってきて、この人には絶対に言わないようにしようと心に決めました。

まだ整理がついていないなら、カミングアウトは焦らずに

LGBTQ+に対してネガティブな感情を抱いている人にカミングアウトするのは、私の経験上、かなりカロリーを要する作業。まだ自分の中で整理がついていなかったり、悩んでいる時期は、避けることをおすすめしたいです。 

撮影/TOWA 画像デザイン/齋藤春香 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)