セックスにまつわるモヤモヤについて、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさんと考える連載『SAY(性)HELLO!』。今回は「恋愛」をテーマに、パートナーシップや性に関して異なる考えを持つ方々と、それぞれの価値観について話します。Part1に引き続き、お話を伺ったのは、臨床心理士 ・ 公認心理師のみたらし加奈さんと、トランスジェンダー男性でありYouTuberとして活動している奏太さん。複雑で一人一人違う恋愛について、それぞれの価値観をさらに細分化していきます。
臨床心理士/公認心理師
総合病院の精神科で勤務したのち、ハワイへ留学。帰国後は、フリーランスとしての活動をメインに行いつつ、SNSを通してメンタルヘルスの情報を発信。現在は一般社団法人国際心理支援協会所属。NPO法人『mimosas(ミモザ)』の副理事も務める。著書に『マインドトーク あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)がある。
複数好きな人がいるのは、おかしいこと?
シオリーヌさん 前回(トーク前編)、恋愛観や恋愛感情は人それぞれ違うことが分かったけれど、「好き」という感情を認識するスピードも、その人自身や相手、状況によって全然違うよね。私自身は好きになるのが早くて惚れっぽい。高校生のときに、幼稚園の年中から高校1年生までに好きになった人を書き出してみたことがあるんだけど、15人くらいいたの(笑)。みんなはどう?
みたらしさん 私もそうだった! 学生のときは、「学校で気になる人」「登下校の電車の中で気になる人」「通っている塾で気になる人」…って感じで、自分が所属している各コミュニティにかならず一人は気になる人がいた記憶がある。
シオリーヌさん それって「つき合いたい」レベル? それとも「ときめく」みたいな感じ?
みたらしさん 「その人がいたらうれしくなってテンションが上がる」みたいな感じかな? でも、私が積極的だから、意外とすんなりうまくいくことが多くて、“つき合いはしないけれどイイ感じの人たち”が各コミュニティにいたかも。友達からは「気が多い」って批判されることもあったけれど、自分ではどうしようもできなかった…。
奏太さん それって、同時並行で同じ熱量、それぞれの人に思いがあるの?
みたらしさん 場所を移動したらもう相手のことは考えないんだよね。それぞれの場所で思考が完結する感じ。その空間の中では、その人しか見えていないんだよね。でも大人になった今はその感覚がないから、よくも悪くも当時の私の「処世術」だったのかもしれないな。
シオリーヌさん 複数ときめく相手がいるのはすごく理解できる。私の場合は、その人と“つき合う”関係にはなりたくないのよ。その場でテンションを高めてくれる、「推し」みたいな感じかな。学生の頃は恋愛をエナジーとして生きている状態だったから、好きな人がいると日常にやる気が出て、活気のある私になれたんだよね。
奏太さん 前編でも話したように、僕はいなかったな。「推し」みたいな人はいたけど、恋愛感情ではないし「ドキドキ」はしなかったから…。
みたらしさん 私も「ドキドキ」はしなかったかな。ちまたで言われる「きゅん」の感覚がよくわからなくて。相手がちょっと困っているときに胸がぎゅっとなるときはあるな。
シオリーヌさん 面白い。本当に人によって全然違うんだね。
年齢や経験を経て変わっていく、恋愛への価値観
シオリーヌさん 私は、恋愛に求めるものが年を経て変わった気がする。大人になると、恋愛をしていてもそれ以外にやるべきことがたくさんあるじゃない? 「自分の時間をすべてその人に捧げる」みたいな恋愛をしなくなったのは、大人になって変わったことだと思う。二人は恋愛やパートナーに求めることは変わった?
みたらしさん 私は「対話」できるようになったと思う。10代の頃は自分の心を守りたいがために「相手に踏み込まれたくない」って気持ちが強かったから、「理解し合う関係」というよりも、むしろ「理解されたくない!」って思いが強かったんだ。
その当時は異性のパートナーと長くつき合っていたんだけど、当時のカレは「振り回されて大変そうだね」ってまわりからよく言われてた。それでも「好き」って言ってくれて優しかったけど、やっぱり満足はできなくて。年を重ねるごとに、「これは私の心の問題だ」って思うようになったんだよね。だから、自分の心と向き合うことにしたし、それによって相手の気持ちにも向き合うことができるようになってきた。
相手を振り回して試すような行動って、おそらく「安心感」を求めてすることなんだけど、結局それをしたところで安心はできないんだよね。だから不安を抱えているなら、まずは自分の問題に向き合ったうえでコミュニケーションを取ることが大切なんだよね。心理学を学んでいくなかで、さらにそう感じるようになってきたよ。
奏太さん 僕も大人になって変わったんじゃないかな。10代や20代前半は、「女性から男性に戸籍を変えたい」という目標があって、そこだけにフォーカスが当たっていて、お金もかかるしハードルが高くて苦しかったから、誰かが入り込む余地もなかったんだよね。
その中で「自分は恋愛感情を持たないのかもしれない」と思ったこともあるくらいで、恋愛に夢中になるってことはなかったな。でも、その”ふり”はしてた。まわりから見たら恋愛しているように見えていたかもしれないけれど、むしろいちばん遠い感情だったな。
性別やジェンダーへの違和感と恋愛
みたらしさん 奏太くんの場合、割り当てられた性別に違和感を感じながらも、知識がなかったからこそ「自分はトランスジェンダーなのか、それともレズビアンなのか」って悩むフェーズがあったって話してくれたよね。カテゴライズできなかった時期が長いと、自分だけにフォーカスがあたるのは当たり前だよね。
奏太さん そうだね。「同性が好きな気がするけれどどうしてなんだろう?」と漠然と思ってた。それで、17歳のときにレズビアンコミュニティを覗いて初めて「自分とは違う」と思ってから、自分がトランスジェンダーだと分かった。そんな10代、20代前半を経て、今はやっと「この人のこと信用できるかも」と思える人に出会えたんだよね。
今のパートナー(ベティ)とは、家庭環境に悩んできたこととか、つらかったことを早い段階で自然とシェアできたんだ。だからベティちゃんへの恋愛感情は、今まで自分が恋愛感情だと思っていたものとは全然違うな。
「言語化」することで、恋愛への新しい向き合い方を切り開く
みたらしさん 奏太くんにとっての「恋愛感情」のなかには、信頼関係も大切だったんだね。
シオリーヌさん 相手に求める関係性も人によって違うし、一言で「つき合う」と言っても、その中身は人それぞれ。「連絡の頻度」とか「異性の友人と遊びに行くことはいいのか、悪いのか」などについて、パートナーとちゃんとすり合わせないとトラブル多い気がする。
みたらしさん 「こうしてほしいな〜」ってにおわせるんじゃなくて「自分はこう考えるからあなたにこうしてほしいです。無理なら言ってください」と相手に言うのは大事だよね。
でも、「コミュニケーションを取らないことが、自分にとっては信頼関係なんだ」と思っている人もいて、そのスタンスが噛み合わないとすれ違いになっちゃうんだよね。だから私は、“言語化するのが得意な人”がコミュニケーションを率先して、パートナーとすり合わせていくべきだと思う。まあ、なかなかうまくいかないんだけどね。
シオリーヌ まさに私は言語化が得意、というか趣味な人間で(笑)。 小学生のときから嫌なことがあったときだけ書くノートがあって、「友達にこんなこと言われて自分はどれだけ嫌な気持ちになったか」「なぜ嫌な気持ちになったのか」「あの友達に本当はどうしてほしかったのか」を分析して書き殴っていたくらい。でも世の中には「難しいことにあまり向き合いたくない」って考える人もいるじゃない?
みたらしさん だから”一般的な恋愛”に対するイメージが、ポジティブな要素ばかりになってしまうのかもしれないね。「難しいことやネガティブなことは表現してはいけない」みたいな。
やっぱり、恋愛に対する考え方や向き合い方とかパートナーとの信頼関係って、最初にみんなで書き出したような、社会の中で形成された価値観に押しつけられていることも多いんだろうな。
シオリーヌさん 「恋愛をするのか、しないのか」や「どのような恋愛を求めるのか」「パートナーとどのような関係を築くのか」も、”自分の場合”で考えやすい世の中にしていきたいよね。
撮影/倉島水生 取材・文/平井莉生(FIUME. Inc)構成/種谷美波(yoi)