Z世代的価値観でアメリカの「今」について語るライターの竹田ダニエルさん。ずっと会ってみたかったという、同世代の作家、大田ステファニー歓人さんを迎えてスペシャル対談が実現しました。対談の後編では、お二人にとってアクティビズムとは何か、また、セルフケアや自分を大切にするとはどういう意味を持つのかについて話します。

大田ステファニー歓人

作家

大田ステファニー歓人

1995年東京都生まれ、東京都在住の作家。『みどりいせき』で2023年第47回すばる文学賞、2024年5月には第37回三島由紀夫賞を受賞。2024年5月に第一子が誕生したばかり。最近では、SNSなどでパレスチナ問題についても積極的に発信している。

竹田ダニエル

ライター

竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌「群像」での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほか、現在も多くのメディアで執筆中。

「管理しやすい羊として飼い慣らされてる」という危機感

竹田ダニエル 大田ステファニー歓人 対談 社会問題 パレスチナ

ダニエルさん ステファニーさんの話を聞いていると、ネガティブな感情を受け止めて、傷つくことを恐れない姿勢を感じます。でも、多くの人にとって自分の非を認めるってすごく難しいことだと思う。たとえば間違いを指摘されて、逆ギレする人っているじゃないですか。傷つくのが怖いのか、恥をかくことに対して異常に恐れているのか。

ステファニーさん 日本は失敗を許さないし、子どもの頃から「協調性を持って生きろ」って教えられるから、間違いを認めることに恐怖心がある。でも、間違ったり傷つくことを避けようとしたら、何の情報も入ってこない。

自分はガザ侵攻が始まってからパレスチナの歴史を調べ、無関心だった罪悪感に苦しんだ。でも、のうのうと暮らすよりマシ。けど何かが起きたとき、辛いの覚悟で自分から学ぼうとする人って少ないのかも。自分から学ぼうとしないから、今持ってる情報でしか世界を見ないし、自分と違う意見や見方を持った人が来たときに、受け入れる姿勢がない。

ダニエルさん そうですね。あと「善意を周囲に認められたい」、「悪者になりたくない」という意識も強く感じる。

ステファニーさん 何か声を上げるにしても、「みんながやってるから自分もやる。みんながやらないから自分もやらない」だと何も変わらないとは思うっすね。なぜ、こういうことが起きてるのか自分で学ばないと、他責思考になる。この社会が間違っているのは誰かのせいで、自分が働きかけてもどうにかなるわけじゃない。だから、声も上げないし、行動もしない。社会の中で、管理しやすい羊としてめっちゃ飼い慣らされてるなって思う。

ダニエルさん 権力者に対して、自分の権利をもっと主張していいのに。

ステファニーさん それでいうと日本では人権教育を学校ではほとんど受けられない気がする。集団行動だけを叩きこまれて、個人の違いが悪目立ちしてしまうような環境の中にいたというか。

ダニエルさん それだと自分の人権が蔑ろにされていてもなかなか気づきにくいですよね。日本はセラピーを受ける文化がまだあまり浸透していないから、自分の気持ちを言語化して相手に伝えるとか、行動原理を解説できる人が少ないと思う。そもそもそういう言語化や内省を練習する機会がないと、閉じこもってしまうのも自然ですよね。でも、これってセルフラブを実践するうえですごく大事なことだと思うんです。

ステファニーさん わかります。最近自分は「これ、受け入れていいの?」とか「これは自分の気持ちに誠実な発言?」みたいな問いかけをしょっちゅうしてて。だから、一つずつの反応が鈍ったり時間がかかったりするんだけど、そういう葛藤がない人は多いっすよね。それが別にいい悪いとかじゃなくて、自分の中で言葉を反芻しなくてもすぐに発信できる人って、自分のことが見えてないまま喋ってるんじゃないかなって思うんすよ。昔の自分がそうでした。

思い通りに人をコントロールしたいという欲望は、めちゃくちゃグロテスク

竹田ダニエル 大田ステファニー歓人 対談

ダニエルさん 日本では教えられた正解の範囲内であればすぐに言葉が出てくる人は多いと思います。小学校の道徳の授業で、正解っぽい発言や行動を教えられてきたから。私も日本の中学校に一時期通っていましたが、そのことに強い違和感を覚えました。

一方アメリカ人は本心で「正しい人権意識」に同意しているかどうかは別として、たとえ差別意識がある人でさえも、自分をよく見せることを意識している人が多いかな。もちろん差別意識が剥き出しの人もいるけど、気軽に人を褒めたり、フレンドリーに接することも、純粋な優しさというよりは自分をよく見せたいっていう気持ちがベースにある気がします。

ステファニーさん なるほど。自分の場合は、いい人に見せようとか好かれようとは考えないけど、それよりも本音をぶっちゃけると傷つけたくない人まで傷つける可能性があるから、言い方には気をつけるかも。それは演じてることなのかもしれないけど。

ダニエルさん 日本で人気のある、影響力のあるコメンテーターや言論者、ないしは起業家やインフルエンサーって、断言というか「言い切り」が得意な人が多いですよね。自分で考えたり勉強するのは面倒だし、かといって間違えて誰かに非難されるのも怖いから、人に正解を教えてほしい。だからこそ、ズバッと言ってくれる人に自己投影することによって“強者”になれた気になってしまう。

ステファニーさん 声を上げることを知らずに受身のまま過ごしたら、社会に対しても関心も責任も持てるはずなんてないですよね。それなのに、責任持たないくせに、誰かミスったら全部「自己責任」って批判する。そのズレはヤバい。

ダニエルさん すごくわかります。ちなみにステファニーさんは5月にお子さんが産まれたばかりですが、そんな社会の中で子どもを育てるにあたって、こうしようと決めていることなどはありますか?

ステファニーさん まずは、自分の気持ちを自分の言葉で話せるようになってほしいと思ってますね。まずは親の感情を伝えることで、どうしてこういう気持ちになるのか考えるだろうし、他者もいろんなことを感じているんだということを知ってほしい。そうやって相互理解が深まると、人との繋がりも強くなると思う。

だから、相手が子どもだからといって、上から一方的に教えるのは違うなと思う。「これしろ」「あれはするな」じゃなくて、「こういうことをされたらこんなに悲しい気持ちになる」とちゃんと伝える。それでどう感じるのかは本人次第なのかなって。ただ、それは大人に対してもそうだと思いますね。自分の思い通りに人をコントロールしたいという欲望は俺にとってはめちゃくちゃグロテスクっす。

流されず自分の気持ちを保つには、まわりに感謝すること

竹田ダニエル 大田ステファニー歓人 セルフケア メンタルケア メンタルヘルス

ステファニーさん 生まれたばかりの赤(子ども)って自分で何もできないじゃないですか。100パー、人の手を借りないと生きていけないし、お礼も言わないし生意気。でも妻と一緒に疲れ果てながら赤の欲求に応える営みに支えられてるんですよね。妻とはいえ他人で、まさか自分がこんなに他人と信頼し合って許し合って協力し合えるなんて、その感動で疲れ消えます。子育て以外でも、相手のリアクションに関係なく「何かしてあげたい」と思うことはありますよね。例えば自分の機嫌がすごくよくて、無条件に人に優しくできちゃうみたいな、そういうポジティブなエネルギーってあるよなって。

ダニエルさん 私も信頼している人から頼りにされると、無条件で頑張れるから、すごくわかる。きちんと結果を出して、それが人に認めてもらえなくても、いや本当は認めてほしいんだけど(笑)、でも見返りを求めずそういうことができるのは、純粋に相手に喜んでほしいからかも。

ステファニーさん そういう話を聞くと、感謝を伝えるってマジ必要だと思うんすよね。自分の場合、まわりに感謝するようになってから調子よくなったんすよ。

ダニエルさん 日本ではレストランで食事をしても「ごちそうさまでした」とかコンビニで買い物しても店員さんに「ありがとう」とか言わない人が多い気がします。逆にアメリカはさっき言ったような「自分をよく見せたい」というカルチャーもあって、必ず感謝の言葉を伝える人が多い。

本心で思ってるかどうかは別ですが、例えばレジの人が雑に喋りかけてきたり、あんまり考えないで言葉を発していることが日常会話では多いかも。日本はその点、「本音と建前」とはいえども、言葉を選んで会話する文化は強いと思います。

ステファニーさん 日本では、人との繋がりを避けようとして、「ありがとう」も「こんにちは」も言わない人が多いですよね。自分は逆に、挨拶さえしておけばいいみたいのがあって、近所の人に挨拶してびっくりされたりします。

そう考えると、対面で挨拶もできないのに、相手の顔が見えないネット空間で冷静にやりとりできるわけがない。まわりの人に流されずに自分を保つには、感謝が大事なのかもとも思うっすね。

ダニエルさん 感謝ってマインドフルネスと繋がってる気がします。アメリカの若者の間で一時期「Gratitude notebook=感謝ノート」というのが流行ったんですよ。今日感謝していることを書くというジャーナルで、不安やストレスに押し潰されずにコンディションを整える効果があると言われています。仏教でも「報恩感謝」という言葉があるように、心を感謝の気持ちに向けることは意味があることなのかも。

ステファニーさん そうっすね。自分は子どもに「生きててくれるだけで嬉しいよ、ありがとう」っていっぱい感謝を伝えていれば、本人が喜びを感じて、自然と人にも感謝しするようになるんじゃないかなって思うっすね。

振り返ると、言葉にしなくても察して空気読むとか、自分の話をあまりしない方が奥ゆかしいと言われる価値観は、集団から弾かれないためだけのものだった気がするんすよ。

ダニエルさん 確かに…。すごくわかります。

コミュニティの形成が孤独を救う

竹田ダニエル 大田ステファニー歓人 対談 コミュニティ 

ダニエルさん アメリカで暮らしているとコミュニティの大切さを強く痛感します。個人主義だし若者の雇用は不安定。物価も家賃も上がり続けているので、一人で生きるのはハードルが高すぎる。東京のようにすぐ会える距離に友達がいるわけではないから、孤立が深まりやすく、鬱の問題も深刻です。そんな中でZ世代の女性の中には、早く彼氏をつくって同棲したいとか、結婚したいという人が増えているんです。でも、それは家父長制を助長することにもなりますよね。

だからこそ、男性に依存しながら生きていくのではなくて、ヘテロノーマティブ(人はみな異性を愛するのだという考え)ではなく家父長制的でもないコミュニティを考える必要があると思います。

ステファニーさん 日本も少子高齢化が深刻だし、核家族化が進んでいる。社会の支援も少ない中では子育ても介護も不安しかないですよね。受け皿になるコミュニティもないなら、誰にも気を使わずに一人で生きていく方が楽だし、人とのつながりを億劫に感じる人も少なくないかもしれない。

でも、子どもが産まれて育児してると、コミュニティ面倒臭いとかそんなのぶっ飛ぶっすね。孤立が深まっていく人に、救いの手を差し伸べる社会じゃないと思うから。だるくてもこっちから助け求めないと無視されちゃう。

ダニエルさん それを聞いて私が唯一貢献できたかなと思うのは、いろんな友達をつなげてきたことかも。作家やミュージシャン、教員、研究者、フォトグラファー、モデル、会社員、大学生…いろんな友達がいて、業界や職種関係なく一緒に遊ぶんですよ。みんなといると、仕事と関係のないコミュニティがあるってやっぱりいいなと思います。

例えば、社会に出ると自分が働いている業界以外のことってあんまりわからないですよね。でも、違う業界の人と話してると「自分がいる世界は地獄だと思ってたけど、そっちの世界もやばいね(笑)」みたいに笑い合うこともできます。新しい言葉を知って新しい世界を知るような、別の世界を知ることで、新たな視点を得られることもコミュニティのよさだと思う。

ステファニーさん そうっすね。

ダニエルさん 私の本を読んでくださった方の中には、「社会問題の話を会社の人や友達にできない」と感想を送ってくれる人もいるけど、これだけいっぱい人がいるんだったら、共通の話題で話せる人は絶対いるはず。例えば読書会とかデモに行ってみるのもいいと思う。会社や学校、家族だけじゃないコミュニティを育むことも大事。そうだ、今度友達と遊ぶとき、ステファニーさんも誘っていいですか。

ステファニーさん え、自分もいいんすか。ぜひ。

構成・取材・文/浦本真梨子 企画/種谷美波・木村美紀(yoi)