2025年1月17日より公開中の映画『サンセット・サンライズ』で、忘れられない悲しみと痛みを抱えながら町役場で働く百香を演じた井上真央さん。プロデューサーの佐藤順子さんと一緒に、作品のラストや心がけているセルフケア、いま思う“幸せのかたち”について語っていただきました。
※記事の中で、物語の結末に触れています。まだ知りたくない方は、ぜひ映画をご覧になってからお読みください。
俳優
神奈川県出身。映画『八日目の蝉』(2011)で第35回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。主な出演作は『謝罪の王様』(2013)、『白ゆき姫殺人事件』(2014)、『焼肉ドラゴン』(2018)、『カツベン』(2019)、『一度も撃ってません』(2020)、『大コメ騒動』(2021)、『わたしのお母さん』(2022)など。
プロデューサー
東京都出身。劇場支配人を経て配給会社スターサンズに入社。初プロデュース作品『かぞくのくに』(2012)が米アカデミー賞日本代表作品に選出。主な担当作品は映画『宮本から君へ』(2019)、『MOTHER マザー』(2020)、『ヤクザと家族 The Family』『空白』(ともに2021)、『新聞記者/The Journalist』(Netflix)など。現在は、映像企画プロデュースLabel murmurで『1122 いいふうふ』(Prime Video)などを手がける。
『サンセット・サンライズ』STORY
新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、4LDK・家賃6万円の神物件に一目惚れ。何より海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごすが、東京から来た〈よそ者〉の晋作に、町の人たちは気が気でない。一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流にとまどいながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの人生が待っていた──⁈
空を見上げてぼーっとする時間がセルフケアに
──百香はとても大きな痛みと喪失感を心の奥にしまい込んでいますが、お二人は疲れたときや悲しいときなどに、セルフケアとして実践されていることはありますか?
井上さん 空を見上げますね。ぼーっとする時間をつくることも大事だし、空を見ていると、「ああ、きれいだな」「風が気持ちいいな」「今日は空気が冷たいな」って、いろいろなことを全身で感じられるので。
佐藤さん 私も井上さんに近いかも。ずっと頭が忙しく回っている仕事なので、思考を止める癖をつけるようにしていて。とにかく頭の中の考え事をいったん全部リセットしつつ、木を眺めます。
井上さん 佐藤さんは「木」派なんですね。私は「空」派。
佐藤さん そう、「木」派(笑)。木を眺めながら遠くの景色に目を向けて、何も考えない時間をつくることで考えを整理している感じ。情報を入れすぎるのは、心や体にとってもあまりよくないなと感じます。
「私たちはこういうことがやりたかったんだ」と思えた
──『サンセット・サンライズ』のラストで、百香と菅田将暉さん演じる晋作は“夫婦でもきょうだいでもない二人”という関係を選びます。わかりやすいハッピーエンドではない一方で、とても優しい余白のある選択だと感じました。二人の選択をどんなふうに受け止められましたか?
井上さん いろいろとお節介な(笑)人たちがいる狭いコミュニティの中で、あんなふうに新しい形を選ぶのは、なかなか勇気のいる選択だなと思ったんですけど、やっぱり幸せって人それぞれなんですよね。誰かにとっての「普通」や「幸せそうに見える」ということよりも、「自分がいちばん大事にしたいものを大切にする」っていう彼女の選択が自然と形になったのかなと。もちろんその背景には、晋作との出会いや空き家問題に取り組む中での変化もあったと思います。
佐藤さん 以前、同じ業界のすごく信頼している先輩と話をしていたときに、「映画って持ち帰るものだよね」とおっしゃっていたことがあって。まさに『サンセット・サンライズ』では、観た方が、その後の百香と晋作の生活に想像をめぐらせるような映画を作りたいと思っていたので、あのラストは個人的にもすごく好きですね。日常ってそれぞれの生活や経験、歴史でもあるので、「正解」みたいなものはないけれど、「そうか、私たちはこういうことがやりたかったんだ」と思えたというか。観ていてすごく気持ちがよかったです。
大事なものほど、定義なんてないのかもしれない
──百香と、中村雅俊さん演じる父の章男さんとの関係も含めて、この作品には「幸せ」についてたびたび考えさせられる場面があります。いま、お二人が考える“幸せのかたち”とは、どんなものでしょうか。
佐藤さん 最近の実感として思うのは、「明日の幸せのためにちょっとだけ努力しよう」ということ。すごく先を見越して考えたり、「こうありたい」と理想を強く想い描いたりする感覚はだいぶ薄れましたね。それこそ「今日は空を見て気持ちよかったな、おいしいもの食べよう」みたいな日々を積み重ねていきたいなって。すごくシンプルになりました。
井上さん 確かに、幸せって日々の積み重ねですよね。
佐藤さん コミュニケーションにおいても相手を尊重したり、敬意を持って接したりすることが大切だと改めて思うようになりましたね。それから、自分より下の世代の人たちに対して「何かできることはないかな」と考え始めたり。井上さんは?
井上さん 大事なものほど「幸せとは」「愛とは」みたいな定義なんてないのかなと思います。人は、大事なものをそんなにたくさんは抱えられない気がしていて。「これだけは大切にしたい」と思うものを自分で知ることが必要なのかなって。
例えば「女性の幸せ」というテーマになると、まず「結婚」や「子育て」みたいなトピックが挙げられることが多いけれど、「本当にそうなのかな…」って感じる人もいますよね。相対的にではなく、「自分の本音は?」と考えたうえで、小さなことでも、仕事でも、大事にしたい気持ちをしっかり握りしめていくことが、自分らしい幸せにつながっていくのかなと思います。
『サンセット・サンライズ』
2025年1月17日(金)より全国ロードショー
出演:菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか
脚本:宮藤官九郎
監督:岸善幸
原作:楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫)
配給:ワーナー・ブラザース映画
Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
撮影/垂水佳菜 ヘア&メイク/秋鹿裕子(W) スタイリスト/皆川bon美絵 画像デザイン/前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀