第74回ベルリン国際映画祭【フォーラム部門】 に正式出品が決定し、世界から注目を集めている、映画『夜明けのすべて』(原作:瀬尾まいこ、2月9日公開)。本作で、原作の大ファンだったという上白石萌音さんは、PMSに苦しむ主人公、“藤沢さん”を演じます。心や体の揺らぎに苦しむ人々と彼らに対する社会の反応、そして助け合いが持つ可能性について、お話を伺いました。
※PMS(月経前症候群)とは:月経前の3~10日間に始まり、月経が始まると治まる心身の不調。月経のある女性の約70~80%が経験しているといわれていますが、その症状の現れ方や重さは個人差が大きい。特に精神症状がより重いタイプは「PMDD(月経前不快気分障害)」の可能性もあります。

上白石萌音さん

俳優

上白石萌音

1998年1月27日生まれ、鹿児島県出身。2011年、NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』でデビュー。2014年に映画『舞妓はレディ』で主役に抜擢され、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。代表作に、映画『ちはやふる』シリーズ、ドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、舞台『千と千尋の神隠し』などがある。

映画『夜明けのすべて』STORY
上白石さんが演じる藤沢さんは、重いPMSの症状に悩む女性。仕事中もイライラや眠気が抑えられず、会社に迷惑をかけ続けることに耐え切れなくなり転職。しかし新しい職場でも、やる気のない態度の新人・山添くんに怒りをぶつけてしまう。


後日、山添くんがパニック障害を抱えていることを知り、世話を焼こうとする藤沢さん。最初は迷惑がっていた山添くんも次第に心を開いていく。「自分ではコントロールできない感情の起伏」を共通点に、同志のような気持ちが芽生える二人。友達でも恋人でもない、特別な信頼関係のもとで支え合いながら、それぞれの生き方を見つけていく。

生理前に心が揺らいでしまうことは、彼女の個性を作る一つの要素

——もともと原作の大ファンだったという上白石さん。主役の藤沢さんを演じて、改めて感じたことや、発見したことはありましたか?

上白石さん:「藤沢さんって変な人だな〜」と思いました(笑)。演じているときには思わなかったけど、完成した映画を客観的に見たときにビックリして。それほど仲良くない同僚の家を急に訪れて髪を切ったり、初めて出会った人にお守りをあげたり。側から見たらすごく変なことを、ごく普通のことのようにするんですよ。そんな藤沢さんがとても愛しく思えて、こういう感覚の違いが人間の面白さだな!と改めて感じました。

——山添くんの家で、ポテトチップを袋から口に流し込むシーンには特に衝撃を受けました(笑)。

上白石さん:あははは。それ、実は台本にないんです! うれしいな、監督に報告しよう。

映画『夜明けのすべて』劇中カット

——PMSによる不調で怒りを我慢できず、上司や友達に対しても大声で問い詰めてしまうという壮絶な体験を繰り返しながら、人生に対してまったく悲観的にならない藤沢さん。そんな彼女の強さを、どのように捉えて演じましたか?

上白石さん:藤沢さんは本来、すごく明るくて楽観的な人なんだと思います。周りの目を意識しすぎてしまう繊細さは後天的なもので、PMSで人に迷惑をかけてきたことが心の負担になっているのかなって。それでも、PMSが終われば素直に謝り、日常を楽しもうとする彼女を演じながら、いい意味であっけらかんとしているな、と感じたんです。

PMSがなければ、もっとハツラツとしていて、会社でもムードメーカーのような存在になっていたかもしれません。でも、人の目を気にしてしまうからこそ、人の変化に気づいて手を差し伸べられる、今の彼女の優しさがあるんですよね。生理前に心が揺らいでしまうことは、彼女の個性を作る一つの要素なんだと思います。

私も生理前は心が揺らぎがち。でも、コントロールできない状態の自分を責めないように

上白石萌音さん 笑顔

——yoiの読者にも、藤沢さんのように、PMSや生理によるイライラや心の浮き沈みに悩んでいる人は多いです。上白石さんは、体や心の揺らぎを感じることはありますか? そのとき、どのように向き合っていますか?

上白石さん
:私も、生理前は心が揺らぎがちです。普段は気にならないことが気になったり、イライラしたり、キツい言葉を発してしまったり……「今の私、心が狭いな」と感じることが増えてしまう。そういうときは、潔く責任転嫁しちゃいます。「ホルモンバランスのせいだ!」とか、「私じゃなくて気圧が悪い!」とか(笑)。

コントロールできない状態の自分を責めても落ちていく一方なので、元気になってから反省しています。冷静な状態で振り返ると、心が揺らぐタイミングや傷つきがちな言葉など、傾向がわかってきて、少しずつですが対策を取れるようになってきました。

もともとは、悩んでいても相談できない性格でした。相談できないんじゃなくて、言語化できていなかった

上白石萌音さん 正面

——藤沢さんも、山添くんのサポートによって、PMSとの付き合い方が徐々に改善されましたね。二人がお互いの苦しみを知り、受け入れ、寄り添うことで、それぞれが変化していく姿を通じて描かれた「助け合うことの大切さ」は、本作の大きなテーマのひとつだと感じました。yoi読者からは、「自分から助けを求められない」という悩みも聞きますが、上白石さんはいかがですか?

上白石さん頼れる人には頼っています! 少ないですけど……その人たちがいれば大丈夫、と思わせてくれる存在です。もともと私は、悩んでいても相談できない性格で。抱え込むことに慣れてしまい、他人から指摘されて、初めて自分が参っていることに気づくほどでした。

——どんなキッカケで、頼れるようになったのでしょうか。

上白石さん:去年、お仕事のスケジュールが少しゆったりしていて、自分と向き合う時間が持てたんです。忙しく働いていると、良くも悪くも、色んなことを忘れて突っ走れちゃうじゃないですか? 休みができて立ち止まった瞬間、心が疲弊していることに気づいて。しっかり休息したら、「ここが私の真ん中だ!」という感覚とともに、心が正常に戻ったのを実感しました。

心の正常モードを知ったら、気持ちの変化を敏感に察知できるようになって。「こう感じるのは、どうしてだろう?」と考えたときに、「よくわからないけどつらい」というモヤモヤが、スッと溶けていく感覚がありました。それと同時に気づいたんです。相談できないんじゃなくて、言語化できなかったんだな、と。

私に助けを求めてくれる人は、私が助けを求める人でもある

上白石萌音さん 横顔

——自分が悩んでいる原因を知ることで、人にも伝えられるようになったんですね。

上白石さん:そうですね。今も人にSOSを出す前に、いったん、自分の中で整理しています。自分は何に悩んでいるのか、どう変えたいのか、どう助けて欲しいのか。ダラダラ話してしまうと、相談相手の時間を無駄にしてしまいますし。

——相談相手に対する配慮も大切ですよね。藤沢さんは、なかなか自分から助けを求められないのに、助ける側としてはとにかく積極的というギャップが印象的でした。山添くんの自宅へ様子を見に行ったり、自転車をあげたり…“勝手に助けたら迷惑かも”と感じて、なかなか手を差し伸ばせない、という意見もよく聞くので。

上白石さん:藤沢さんの行動力、すごいですよね(笑)。彼女ほど大胆ではありませんが、実は、私もお節介を焼くタイプ。昔から、いつも人の様子が気になっています。遠慮しちゃう気持ち、すっごくわかるんですけど…逆の立場になって考えたときに、私は気にかけてもらって嫌な気持ちになったことはないし、むしろうれしいので! こまめに連絡するなど、自分がされてうれしいことをするようにしています。

話していて気づきましたが、私に助けを求めてくれる人は、私が助けを求める人でもある。一方的に話を聞いてもらうのは申し訳ないから、お互いに相談できる関係のほうが、安心して話せるんです。“私が相手を信頼しているように、私も相手にとって信頼できる存在なんだ”、と実感できて素直にうれしいし、さらに絆が深まる感覚があります。深く考えてしまいがちな助け合いも、どちらかが心を開いてみると、意外とすんなり成立するのかもしれませんね。

上白石萌音さん 横顔の笑顔

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夜明けのすべて 映画 ポスター 上白石萌音 松村北斗

映画『夜明けのすべて』


出演:松村北斗 上白石萌音
渋川清彦 芋生悠 藤間爽子 久保田磨希 足立智充
りょう 光石研
原作:瀬尾まいこ『夜明けのすべて』(水鈴社/文春文庫 刊)

監督:三宅唱
脚本:和田清人 三宅唱

公式サイト:
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©瀬尾まいこ/2024 「夜明けのすべて」製作委員会

撮影/森川英里 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)