10代、20代はアーティストとしてハードな日々を駆け抜け、現在はともに仕事を続けながら子育てをしている持田香織さんと伊藤千晃さん。プライベートでも親交がある先輩・後輩コンビが、キャリアの中で直面した、女性としての体と心の変化について語ってくれました。3月8日の国際女性デーを記念したスペシャル対談としてお届けします。

2017年、男女混合のパフォーマンスグループ「AAA」を卒業。2018年よりソロ活動を開始し、現在はアーティスト、モデル、タレントとして多方面で活躍。2022年3月に「フェムテック協会認定資格2級(認定フェムテックエキスパート)」を取得し、フェムテックに関する情報を積極的に発信している。2016年に結婚、2017年に出産。
20代の頃は立ち止まるという思考すらなかった

──今回の企画は、伊藤さんが対談相手に持田さんのお名前を挙げてくださったことで実現しました。まずはお二人の関係から教えてください。
伊藤さん:持田さんは私が昔からずっと憧れ続けている大好きなアーティストの先輩。そのことを雑誌のインタビューで語ったら、その記事を目にした持田さんが、スタッフを通じてお礼を伝えてくださったことがありました。直接面識がなかったので「え、読んでくれたんですか?」とびっくりしたし、うれしすぎて感動しました!
持田さん:私も「こんなに好きでいてくれたんだ」と思って、すごくうれしかったんです。いつか一緒にごはんに行こうねと話していたけど、そうこうしている間に千晃ちゃんが妊娠して。
伊藤さん:結局、初めてご飯に行ったのがコロナ禍明けでしたよね。そこから仲良くしていただいて、子育てのことや仕事のことなど、色々お話を聞いてもらっています。
──お二人とも10代でデビューをし、アーティストとして多忙な20代を駆け抜けてこられたと思います。振り返ると、当時はどんな日々でしたか?
伊藤さん:20代中盤までが忙しさのピークでした。休みが欲しいと思うこと自体が甘えだと思っていたし、熱があっても仕事に行くのが当たり前だった記憶があります。
持田さん:私も当時のスケジュールはめちゃくちゃ(笑)。MVの撮影を夜通しして、いったんシャワーを浴びるために帰宅、30分後にまた撮影に向かうみたいなこともありました。
それでも現場に行くとやっぱり楽しいんですよ。みんなで一緒にものを作ったり話したりするのが好きだったんです。かかわっている人も多かったので、立ち止まるという思考すらなかったです。
伊藤さん:当時は多少無理なスケジュールでも「大丈夫、大丈夫!」みたいな、根性論で突っ走る業界のムードがありましたよね。
持田さん:そう、みんなすごく前向きなんだよね(笑)。何の根拠もないのに「いや、いける!」みたいな。体育会系のノリでした。

女性としての不調を説明できる言葉を知らなかった
──10〜20代前半は体力でカバーできても、30歳前後になると無理がきかなくなることもあったのでは?
持田さん:そうなんですよ。28歳くらいからはライブ1本やるのもきつくなってきましたし、その頃から発声の仕方にも悩みました。楽曲によって歌い方を変えてしまったり、喉を痛めているのに無理をし続けてしまいました。
声は精神とすごくつながっているから、一度失敗すると負のループにハマってしまって。ますます悪循環に陥ってしまいました。
伊藤さん:私の場合は男子メンバーの歩幅に合わせた振り付けが多かったので、ヒールをはきながら無理して爪先立ちで踊り続けたことで膝を痛めたことがありました。ずっと目の下のクマがなくならなくて、撮影のときもすごく気になってしまいました。
持田さん:だって、当時は食事もちゃんととれていなかったじゃない?
伊藤さん:コンビニのごはんや冷えたお弁当もしょっちゅうでしたね。栄養不足や睡眠不足、ストレスがいろんな不調に表れていました。
ちょうどその頃SNSが出てきて、ネガティブなコメントを目にする機会も。そこに生理がかぶったりすると、精神的にかなり弱ってしまうこともありました。心と体の変化に追いつけなかったです。
持田さん:私が若かった頃は女性ならではの不調について明確に説明できる言葉を知らなかったし、我慢するものだと思っていました。なぜなら男の人たちは変わらずに働いていたから。今の若い人たちだったら、もっと対処できる方法を知っているのかもしれないですね。
伊藤さん:圧倒的に情報が足りなかったですよね。今はSNSを通じていろんな情報を入手したり、いろんな人と知り合うことができるけど、当時は情報を得る手段も少なすぎて。ロールモデルや相談できる人も少なかったです。
過去の自分に「一度立ち止まっても大丈夫」と伝えたい

──お二人は活動を続けながら妊娠・出産を経験していますが、キャリアか子育てかで悩んだり、引退を考えたりはしましたか?
伊藤さん:私は考えました。まだ未熟な自分が子どもを育てられるかという不安もありましたし、器用なタイプではないから、子どもを抱えながら表現をしていくことができるのかという不安も。
どちらかを選んだほうが潔い終わり方なのかなと思うこともありました。当時はすごく焦っていたし、今思えば冷静じゃなかったと思います。
それでも表現することをやめなかったのは、ファンの方たちが「これからも応援します」という声を届けてくださったから。
持田さん:私は(伊藤)一朗さんもいるので辞めるという選択肢はなかったかな。ただ、忙しくても休めなかった過去の自分に声をかけるとしたら、「一度立ち止まっても大丈夫だ」と言いたい。
結婚を機に仕事のペースをかなり減らしたんです。そうしたらものすごくラクになったんですよ。「わ、サイコー!」って(笑)。やっと呼吸ができた気がしました。
伊藤さん:ずっと突っ走ってきたんですもんね。
持田さん:もちろん頑張っている姿を見て「私も頑張ろう」と思ってくれた方がいたとしたら、それは意味があったことかもしれません。でも今はもっと余裕を持って表現していきたいと思っているから、これでよかったと思えています。

──yoi読者には、結婚や出産のタイミングに悩む人も多くいます。
持田さん:30歳前後はやっと仕事を任せられて楽しくなっていくタイミングですもんね。ただ、仕事はいくらでもやり直せるし、いくつになっても新しく始められると思うんです。
もしも出産でキャリアを中断したり、ポジションから離れたりしなければならなくなったとしても、それはまったく違う道が始まるきっかけかもしれない。新しいことが始まると考えると、意外と楽しいですよ。
私も新しいことを始めるとき、一歩踏み出すまでは凄く時間がかかるタイプなんです。でも勇気を振り絞って挑戦したことは、振り返ってみてもすべて「最高だった」と思えています。自分で選んだことはプラスにしかならない。「これだ!」と思う自分の気持ちを信じて進んでほしいと思っています。
<持田香織さん>ブラウス¥102300、スカート¥146300/アーデム(メゾン・ディセット03-3470-2100) ブーツ/スタイリスト私物
<伊藤千晃さん>トップス¥25300/リツコ カリタ(ritsukokarita@gmail.com) パンツ¥49000/ムカサ(スタジオムカサ 080-4368-6158) イヤーカフ¥13200、シルバーリング(5点すべて)1点あたり¥7700、シルバーバングル¥14800/すべてエミコ アマノ(https://www.emikoamano.com) ゴールドリング¥308000、ゴールドバングル¥896500/ともにテッド・ミューリング(カジツ 03-6810-0187) シューズ¥27500/アルム(https://almofficial.com) その他/スタイリスト私物
撮影/松岡一哲 ヘアメイク/岡田知子(持田さん)、松永奈巳(伊藤さん) スタイリスト/宇都宮千明(持田さん)、藥澤真澄(伊藤さん) 取材・文/松山梢 構成・編集/渋谷香菜子