2018年にリリースされたデビューアルバムで脚光を浴びた、多国籍バンドのSuperorganism(スーパーオーガニズム)。サイケデリックで自由な雰囲気に満ちあふれた音楽で世界中を魅了するバンドが、7月15日に2ndアルバム『World Wide Pop』をリリースしました。そして今回、メンバーのうち日本出身のOrono(オロノさん)とロンドン出身のHarry(ハリーさん)が来日&yoiに初登場!
都内で行われた撮影では、差し入れのさくらんぼとゼリーを片手に二人でぶらぶらと街歩き。インタビューでは、オンライン時代の音楽シーンの申し子ともいわれるバンドのコミュニケーションスタイルや、二人が実践しているメンタルヘルスケア、そしてバンドが持つ自由な精神の源について語ってくれました。
Orono(左)&Harry(右)
日本出身のOrono(オロノ)、イギリス出身のHarry(ハリー)、ニュージーランド出身のTucan(トゥーカン)とB(ビー)、韓国出身のSoul(ソウル)を中心に活動する多国籍バンド。2017年から活動をスタートし、2018年に1stアルバム『Superorganism』をリリースすると、たちまちその斬新なスタイルとサイケデリックな魅力で世界から熱視線を集める存在に。今年の7月15日に2ndアルバム『World Wide Pop』をリリース。星野源やCHAIをはじめ、多様なアーティストを客演に迎えた楽曲も収録されている。
■公式サイト https://www.wearesuperorganism.com
遊び心と自由な精神の源は、「嘘のない」コミュニケーション
——新作『World Wide Pop』は、遊び心や実験的な魅力が詰まった作品だと思います。現代では失敗や炎上のリスク回避や、オーディエンスが求めるものを反映したもの作品制作が重視されがちですが、“意表をつく”Superorganismらしさはどのように作られるのでしょうか?
Harry 面白い質問だね! 今はどんなジャンルにおいてもSNSが重視される時代。そのために、他人からのいいリアクションを求めてあらゆる事柄を完璧に見せようとする傾向があるけど、Superorganismは“楽しくてちょっと変な感じ”の音楽が面白いと思ってる。でも、そうした音は意図的に作るのではなく、その時々に自分たちから湧き上がるものを形にしているだけ。あらかじめテーマを決めてそれを目指して制作したり、わざとエッジィにしたりはしないんです。
——ということは、Superorganismの使命を宣言したといわれる『World Wide Pop』も、制作しながらテーマが固まっていったんでしょうか?
Orono そうです。テーマが決まったのは終盤で、それまでは自由に作っていました。
——「自由に作る」ためには、自分のマインドを解放することが必要なのかなと思います。お二人の“心を解放するコツ”を教えてください。
Harry 一緒にいて居心地がいい人たちに囲まれることかな。信頼できる相手にはおかしなことも言ったりできるし、それを聞いて彼らも笑ってくれたりして。構えずになんでも言い合える人たちと一緒にいる時間が大切だと思います。でも、時にそれが難しいこともあって。例えば学生時代は、なんの共通点も持たないのに同じ区域に住んでいるという理由だけで、同じ学校に通って仲間にならないといけないよね? そういうのは、もうたくさん! 今は、自分で自分にとって居心地のいい人を選んでつき合っていきたいです。
Orono 本当にそう! 私の場合は、そういった面で友達や家族にすごく感謝しています。私が幼い頃からずっと、「自分らしくいなさい」「自分の人生を生きなさい」と教えてくれた両親がいたからこそ、自由でいられたと思う。すごく自分はラッキーだったなと思います。
——そうした自分にとっての大切な人たちと、良好な関係を築くうえで大事にしていることはありますか?
Orono コミュニケーション。
Harry そうだね。そのコミュニケーションを取るときに、自分の気持ちにも相手に対しても嘘をつかないこと。お互いの「透明性」がすごく大切だと思う。相手の間違いを指摘したり、異なる意見を伝えるのは怖いし、難しいことだと思う。相手を否定することと、自分の意見を伝えることの区別がつかなかったりするしね。そういう難しさはあっても、自分の気持ちを正直に伝えて、互いにとって建設的なフィードバックができたら、きっとわかり合えるはず。相手にもそうあってほしいと思っているし、そういう姿勢でいてくれる友人たちには感謝しています。
Orono 私もほかのメンバーも、Harryに対して伝えたいことを正直に言ってるよね。そうしたほうが結果的に気分がいいし。
Harry そう。もしあとで考えが変わったとしても、そのときに正直であればいいんだよね!
二度と取り戻せない“その瞬間”は、大きな力を持っている
——前作は全楽曲がオンラインで制作されたのに対して、今作『World Wide Pop』には、ジャムセッションから誕生した曲も収録されているとのこと。オンラインでのつながりが加速しているこの時代に、“対面でジャムする”ことの魅力はなんだと思いますか?
Harry 僕たちは、オンラインでの制作も対面でのジャムセッションもどちらの手法もとっていて、どちらもすごく好き。いずれにせよ僕が思うのは、「曲作りは写真を撮ることに似ている」ということ。“その瞬間をキャプチャーする”ことを大切にしています。例えば収録曲の『Oh Come On』という曲は、ギター演奏を自分のスマホで録音したもの。それは決してパーフェクトなサウンドとはいえないかもしれないけど、そのときのその瞬間を切り取った音だから、パワフルな力を持ってるんです。
僕は、その場の空気感とか、環境音を音楽に取り入れたい。ロンドンの自宅は窓を開けると鉄道やバスの音がして、引っ越したばかりのときは「ここは音楽を作るにはちょっとうるさいな」と思っていました。でも、この場所に存在するその瞬間の音は、もう二度と戻ってこないものだと気づいてからは、そうした音もすべてインスピレーションを与えてくれるものになりました。
——CHAIさんとピ・ジャ・マさんを迎えた『Teenager (feat. CHAI & Pi Ja Ma)』は、対面でジャムして作られたと聞きました。
Orono CHAIの皆がロンドンにいたときに一緒に録りました。ノリで「やる?」ってメッセージしたら、「いいよ!」って言ってくれたから、彼らが泊まるホテルの部屋に行ったんだよね。
Harry そう。まさにさっき言ったように、その瞬間をキャプチャーした経験だったね。ホテルの部屋の真ん中にマイクを立てて録音したんだけど、ちょうどそのときCHAIのユウキは体調が悪くて隣の部屋で寝ていたんだよね。それなのに、僕たちが歌ったり叫んだりしていたから申し訳なかったなと思う(笑)。
——この曲は、シニシズムを否定し、心を解放することを歌っています。お二人は今の世の中に窮屈さを感じることはありますか?
Orono 私は、数年前までは、社会のいろんなことに怒って、イライラしていたんです。でも最近はそういうものからは距離を置くようにしています。怒っていることや絶望しているネガティブなムードの一部に、自らなる必要はないと思って。だから今は、閉塞感にとらわれているってことはないかな。
Harry 僕も時々悲観的な気持ちを抱くことがある。気候変動の問題とかね。そのうえ、生まれつき楽観的なタイプでもないので閉塞感を感じやすい。だから、そこから抜け出す考え方をするようになったんです。それは「自分の人生は自分の選択でできている」ということ。どんなに世の中を窮屈に思っても、僕は自分が選んだ人たちと過ごすことができるし、自分の選択によっていろんな経験ができる。こう考えるとすごく平穏な気分になるんです。あと、やっぱり友達! 業種の異なる友達と一緒に過ごしたり、散歩をしたりすると、ストレスが吹き飛びます。
——オロノさんが言う、ネガティブなものから「距離を置く」方法は?
Orono ヨガや瞑想。森の中の小屋で過ごすとかね。デジタルデトックスする方法もあるけど、世の中の流れは敏感に把握していたいから、完全に情報をシャットダウンすることはないかな。ヨガは6年前くらいから始めて、忙しくてできない時期もあるんだけど、最近は毎日30分くらいストレッチをしています。スプリッツ(前後開脚)ができるようになりたくて。
——これからワールドツアーが始まります。ツアーは体にも心にも負荷がかかると思うのですが、どのようにケアしていますか?
Orono 前回のワールドツアーでは、いったい自分の身に何が起きているのかわからなくなるくらい、精神的に混乱して大変だったんです。それがきっかけでメンタルヘルスの大切さに気づいたんだけど、なかなか自分にぴったり合うセラピストが見つからなくて…。いろいろ試してみた結果、今は信頼できる人を見つけることができました。日本在住のアメリカ人の方で、毎週1時間ほどセラピーを受けています。
今回のワールドツアーは前回の反省を生かして、どんなに忙しくても2週に1回はセラピーを受ける時間をつくるとか、運動するとか、水をたくさん飲むとか、ちゃんとルーティンを作って心身をケアできたらいいなとは思っています。ちゃんとできるかどうかはわからないけど…。
——最後に、ポップで楽しい今作にちなんで、お二人が最近、エキサイトしたことを教えてください!
Harry 僕は行ったことのない国や街に行って、その土地ならではの食を楽しんだり、そこでしかできないことに挑戦したりするのが好きなんだけど、この数年間はロックダウンでロンドンから出ることができませんでした。だから、こうして日本に来られたことや、ベルリン、マドリード、パリ、アムステルダムと世界を回ることができたのがうれしかった! もちろん故郷のロンドンも好きだし、海外に出ることでロンドンの魅力も再確認できました。
Orono 私の場合はちょっと特殊かも。ここ数年、「バンライフ(車中泊や、車を生活空間として取り入れる過ごし方)」にすごく興味があって、関連動画をたくさん見ているんです。でも、車を自分らしい空間に改造するには時間も労力もかかるから、面倒くさがりの私はなかなかチャレンジできていませんでした。でも最近、「ホンダ エレメントEX 2008」という車種を改造してバンライフを送るカップルのYouTubeチャンネルを偶然見つけて、その様子が超クールで! 比較的簡単そうだったから「これなら自分にもできるかも」と、最近はアメリカにある「ホンダ エレメントEX 2008」を調べあさっていて、今年中か来年には買おうと思ってる!
全国5都市のジャパン・ツアーを2023年1月に開催!
【来日公演情報】
東京 2023/1/13 (Fri) ZEPP DiverCity Tokyo
大阪 2023/1/15 (Sun) Namba HATCH
名古屋 2023/1/16 (Mon) ダイアモンドホール
広島 2023/1/17 (Tue) Hiroshima CLUB QUATTRO
福岡 2023/1/18 (Wed) Fukuoka DRUM LOGOS
info:https://smash-jpn.com/live/?id=3754
2ndアルバム『World Wide Pop』
撮影/峠雄三 取材・文/海渡理恵 企画・構成/高戸映里奈(yoi)