ミュージシャンであり文筆家としても世界から大きな注目を集め、米『Time』誌の「2022年 世界で最も影響力のある100人」の一人にも選ばれた、Japanese Breakfast(ジャパニーズ・ブレックファスト)のミシェル・ザウナーのインタビュー後編。7月末に出演した「FUJI ROCK FESTIVAL '22」のステージについてや、アジアをルーツに持つ彼女から見たアジアカルチャーの今について聞いた前編に続き、後編では、創作活動において切っても切り離せない、“ミシェル・ザウナーという一人の人”としてのアイデンティティやバックグラウンドについて迫ります。
ソロプロジェクト、Japanese Breakfast(ジャパニーズ・ブレックファスト)の名でミュージシャンや文筆家として活動。韓国人の母親とアメリカ人の父親のもと、アメリカのオレゴン州で育つ。2021年にリリースしたアルバム「Jubilee」は第64回グラミー賞で主要4部門も含む2部門でノミネート。母親の死を経て自身のアイデンティティを見つめ執筆した回顧録「Crying in H Mart」を出版し、同作は『New York Times』のベスト・セラー・リストに51週にわたってランクインし、映画化も決定。米『Time』誌の2022年「最も影響力のある100人」に選出。https://linktr.ee/JapaneseBreakfast
ルーツは大事だけれどとらわれない。人とつながる共通点は“音楽”
——最近、韓国のインディーバンド・Se So Neonのフロントマンであり、ソロでも活動しているSo!YoON!さんを迎えて、「Be Sweet」(すでに英語でリリースされているJapanese Breakfastの楽曲)の韓国語ver.をリリースされました。どういう想いから制作に至ったのでしょうか。
あの曲は、韓国で開催される「仁川ペンタポート・ロック・フェスティバル2022」(8月5日〜7日開催)という音楽フェスに出演するにあたって、なにか特別なことをしたくて考えました。「韓国のアーティストと一緒にステージができたら素敵!」と思ったんです。韓国は母親の故郷であり自分のルーツでもある国。よく訪れている場所だからこそ、もっと深くファンとつながるためにこの韓国語バージョンを制作しました。
——アメリカで育ったミシェルさんですが、今回、So!YoON!さんとタッグを組んだように、アジア系のコミュニティとの交流はあったのでしょうか。
私が幼少期を過ごしたオレゴン州のユージーンは、当時は約95%が白人で、アジア系の人は5%以下しかいないようなところでした。でも、そこにいる数少ないアジア系の人と、「同じルーツを持つから」という理由だけで仲良くなることはなかったかな。やっぱり人は、同じ音楽が好きだったり、性格の相性がいいからこそ仲良くなるものだから。私が親しくなった人たちも音楽をやっている人が多くて、その中でアジア系の女性が自然と集まってコミュニティのようになっていた、ということはありました。今はインターネットやSNSの力で、住んでいる場所を問わずコミュニティをつくることができるようになりましたよね。
セルフラブのために、「NO」と言う勇気を持つのが目標
——これまでの音楽制作や、回顧録「Crying in H Mart」の執筆など、ミシェルさんはさまざまな困難や喪失を乗り越えてきた経験を創作活動で表現しています。昨年リリースしたアルバム「Jubilee」では、あらゆる形の喜びを描き、グラミー賞ノミネートという快挙を達成。著書もベストセラーを記録という成功を収めた今、ミシェルさんの課題や目標はなんでしょうか。
去年、アルバムと本を出したけれど、そのふたつを同時期に世の中に出すことになるとは考えていなかったし、まして両方うまくいくとは思っていませんでした。でも、ありがたいことにどちらも成功したことで、フルタイムで休みなく働かなくてはならないほどに忙しくなりました。さらに、せっかく得られたミュージシャンとしての成功も、文筆家としての成功も、どちらも失わないように努力しなくてはいけないというプレッシャーものしかかってきたんです。
そうなった今感じているのは、「NO」と言う勇気を持つことの大切さ。これまでは、どんなことでも断ることは誰かを傷つけてしまう気がして、なかなかできなかったんです。もちろん仕事を頑張ることは大事だけど、自分を大切にするためにも、これからは自分の意見をきちんと伝える勇気を持ちたいなと思っています。
——NOをはっきり伝えるのが苦手、という悩みは多くの人が共感すると思います。
実は今日も、yoiのインタビューのあとに別の仕事を入れていいかという打診があったけれど、もう少し早く切り上げたいと伝えました。日本にいられる限られた時間を満喫したかったし、友人とゆっくり過ごす時間も確保したかったから。まだまだ「NO」と言うのが難しいと感じる瞬間もあるけど、ちょっとずつ改善していきたいし、今回はできるだけ日本滞在を楽しみたいと思います!
撮影/木村敦 取材・文/海渡理恵 企画・構成/高戸映里奈(yoi)