「僕は、愛がなんなのかよくわかんないです」。そんな慟哭で終わる予告映像が強い印象を残し、本編への期待をかき立てられるのが、2月10日より全国公開される映画『エゴイスト』。原作は数々の名コラムを世に送り出してきた高山真氏の自伝的小説で、性別や血のつながりといったあらゆるボーダーの意味を問い、愛するがゆえに生まれる葛藤を繊細に描いています。

本作の主人公・「斉藤浩輔」は、同性愛者であることを隠して過ごした故郷を去り、東京でファッション誌の編集者をしながら自由な日々を送る30代の男性。やがて中村龍太という青年に出会い、人を愛する喜びを知り、献身的に愛を与えることで自身も満たされていく──。

そんな浩輔を演じるのは、原作を読んだ際に著者の人間性に強くひかれ、一面識もない人とは思えないほどの親近感を抱いたという、鈴木亮平さん。作品への想いや、浩輔を演じるうえで心がけたこと、作品の大きなテーマである“愛”や“エゴ”について、また自身の経験を通して思い至ったことなどについて語ってくれました。

著者の高山さんも浩輔も、繊細さと強さを兼ね備えたギャップが魅力的です

鈴木亮平さん

――映画化のオファーを受けてすぐに、原作の『エゴイスト』など高山真氏の著書を何冊も読んだそうですね。自身の役についてどう感じましたか?

主人公の斉藤浩輔は自分に似ていると感じたし、著者の高山真さんについても共通点がいくつかありました。同じ大学で外国語を学んでいたこと、自分を客観的にとらえる考え方、東京に出てきて「よし、都会に負けず戦うぞ!」と気を引き締めるところも共感できて。高山さんについて知り、浩輔を演じるなかで、どちらも感受性豊かな繊細さと、自分らしく生きる強さを持ち合わせている、そのギャップが魅力的だと思いました。

浩輔は、作品の中では身に降りかかる出来事のためにもろくて繊細な一面が目立ちますが、本来は、揺るぎない自分の意志を持って人生を切り拓いてきた人物だと思う。だから、浩輔の内面的な弱さが表に出てしまうシーンでも、打ちひしがれるだけでなく、きちんと前を向ける芯の強さを持つ人物に見せないと、高山さんに失礼だと思いながら演じていました。

母の命日に里帰りする浩輔

ブランド物の衣服は、浩輔が自身を奮い立たせるための戦闘服のようなもの。

――恋人となる「中村龍太」(演:宮沢氷魚さん)についてはどのような印象でしたか?

原作の龍太は、高山さんの愛情にあふれた目線を通しているので、いい面がより色濃く描かれているのかもしれませんが、「こんなにピュアでいい子が本当にいるのだろうか」とやや懐疑的でした。その印象を抱えたまま宮沢氷魚くんに会ったとき、「龍太がいる!」と驚いたのを覚えています。ピュアでまっすぐな彼の人間性に龍太を感じられて、演じていくなかで自然にひかれていくことができました。龍太役が氷魚くんで本当によかったなと思います。

浩輔と龍太

ピュアな龍太とつき合うなかで、浩輔の表情もしだいにやわらかくなっていく。

――浩輔には繊細さと強さの両側面がありますが、龍太といるときの浩輔は、どちらの面が大きな割合を占めていたと思いますか?

どちらの面も同じくらい龍太には見えていたはずですが、それでも浩輔は自分のすべてを見せることはしないでしょうね。でも、人間は誰しもそうだと思うんですよ。どんなに長いつき合いの老夫婦でも、相手に見せてない部分がどこかにあるはず。僕は、“すべてをさらけ出さない二人”がそれでもお互いを必要とし合って、ともに生きていくのが人間の美徳であるような気がするんです。

浩輔は龍太のことを愛しているし、気持ちをストレートに伝えもするけど、思っていることや抱えている過去をすべて話しているわけではありません。「相手の何もかもを知りたい」という人の気持ちもわかりますが、全部をさらけ出すだけが愛じゃないと僕は思うんです。すべてを理解し合っているわけじゃないからこそ、一緒に過ごす時間が輝いていくんじゃないかな。

ゲイの方々に対する偏見や差別を助長しないバランスを心がけて演じました

鈴木亮平さん

――浩輔を演じるにあたり、どのようなことを特に意識しましたか?

浩輔のセクシュアリティへの理解を深めるために、ゲイの方々にお話を聞く機会を何度かいただきました。もちろん、どんな思いで生きてきたかは人それぞれなのですが、彼らが今までに体験してきたことや、浩輔のような状況に置かれたらどうするか、といった具体的なこともお聞きしました。とはいえ、決してそのなかにただひとつの“正解”があるわけでもないんです。人間は十人十色ですから、彼らから教わったこと、得たものをベースにして、僕が「浩輔ならこうするだろう」と自分なりに混ぜ合わせたうえで演じました。

ゲイの友人と気ままな時間を過ごす浩輔

ゲイの仲間との会話内容も、リアリティを追求。

――ゲイのリアリティをどう描くかは、この作品においてとても重要なポイントだったんですね。

そうですね。ですが同時に、僕が想像したリアルは、当事者から見てもリアルだろうか、という問題がありました。さらには、当事者にとってリアルであっても、映画として描くとゲイに対するステレオタイプを強化してしまわないだろうか、あるいは逆に、異性愛者の感覚に寄せすぎていないだろうか、という問題もあります。一歩間違えると、意図せず社会の偏見や差別を助長してしまうことになりかねません。2020年代に日本で作るクィア映画として、「どの程度のバランスが現代の観客に適切に届くんだろう?」と、LGBTQ+inclusive director(監修)のミヤタ廉さんと話し合い、よりよいラインを探っていきました。

父親と対面するシーンではセクシャリティを隠している

浩輔は、父親には自身のセクシュアリティを隠している。

――本作では、LGBTQ+inclusive director(監修)のミヤタ廉さんが作品づくりに大きくかかわっているんですよね。撮影中、ミヤタさんとはほかにどんなお話をされましたか?

撮影中はずっと一緒にいて色んなことを話しましたが、役の感情の面でも深く関わってくださっています。例えば、浩輔はゲイであることを父親にカミングアウトしてないのですが、彼のなかには父親に自分のセクシュアリティにまだ気づいてほしくないような、いい加減そろそろ気づいてくれというような…そんな相反する気持ちがあるんじゃないか、といったアドバイスをいただいたり。それによって、父親に会ったときの座り方や口調ひとつとっても変わってきますよね。こうした心情はふとした挙動に出てくるものなので、ほぼすべてのシーンで、ミヤタさんと密に話し合いながら作り上げていきました。

「浩輔」として過ごすのは、集中力も必要だったけれど、幸せな時間でした

鈴木亮平さん

――浩輔を演じていて、苦戦したシーンはありますか?

撮影中は浩輔=自分であることが自然だったし、特に苦戦したということは思い出せません。事前に原作者を知る友人や家族にインタビューをして自分の中に“浩輔像”ができていたことと、監督がクランクイン前にキャストが自然と役に溶け込むための期間を設けてくれたおかげです。

その期間は、実際にカメラを回しながら、台本のセリフを言っても言わなくてもいいという、エチュード形式のリハーサルを行なっていました。クランクイン後の本番時も同様で、セリフや言い回しは意味合いがざっくり合っていればOK。微調整しながらいろいろと試し、その時々で効果的に映ったものを採用していく。ほぼ全シーンを長回しで撮って、よかった部分を抜粋するという、台本があるようでないような撮影現場でしたね。

浩輔が龍太と母親と一緒に写真を撮るシーン

まるで役のキャラクターがその場に生きているかのような、自然な空気感ができ上がった。

――セリフを自分の言葉に変換するやり方にも、リアリティを追求する姿勢が感じられますね。そのような撮影はよくあることですか?

いえ、松永監督をはじめとするスタッフの方々のこだわりです。本作は「その場で生きている人間をたまたまカメラで撮っていた」というようなドキュメンタリータッチの撮影法だったので、生々しい人間らしさを求められていました。やることは前提として決まっていても、「自分が浩輔として生きていたら、この場面ではどうするか?」という発想でアドリブ的に動くんです。どんどん新しいものが引き出されていく感じだったので、セリフを覚えて現場に行った記憶がないくらい。

あとは監督が役者の力を信じてくれて、毎カットほめてくれるのも励みになりました。「素晴らしい!」と毎回言ってくれて、それを10回くらいやり直すこともあるんですけど(笑)。撮影中はある程度浩輔のままでいることが求められるので、集中力も必要だったけど、幸せな時間でした。

人間というエゴ(自我)の塊の中に、愛があるんじゃないかな

鈴木亮平さん

――映画を拝見して、与えることはエゴなのか、愛とはなんなのか、といったこの作品のテーマについて、改めて考えさせられました。鈴木さん自身は本作で浩輔を演じてみて、愛やエゴについての新たな気づきはありましたか?

僕は、愛もエゴのひとつかなと思っています。相手に愛を伝えることも、幸せになってほしいと願うことも、逆にそれらを与えてほしいと思うこともある。人を愛するうえで生まれる“ほしい=want”の感情は、自分のワガママを現すエゴなんですよね。そんなワガママさは悪いものだと思われがちだけど、相手のことを想うことは美しい感情じゃないですか? だから「エゴ=悪、愛=善」と切り分けられているのではなく、人間というエゴ(自我)の塊の中に愛があるんじゃないかなと思うんです。エゴはエゴでも、愛はエゴの美しい一部分。

浩輔と龍太

――愛もエゴのひとつというのは、本作に出合ってから感じたことでしょうか?

本作に出合う前からそんなふうに考えていて、だからこそ原作の『エゴイスト』にも強くひかれたのかもしれません。20歳くらいの頃に、自分の在り方や愛について考えた時期があったんです。人間が起こす行動のすべては自分のためなんじゃないかと、そんな考えを繰り返して。でも、それはダメなところじゃなくて「だからこそ美しいのかもしれない、人間は」と思い至ったんです。

僕にとっては、誰かを愛する感情はそもそも一方的でワガママなことで。自分の愛を、相手がたまたま受け入れてくれるから、関係が成立しているに過ぎなくて。例えば、片方が嫌いになって別れたけれど、もう一方は今でも好きな場合もありますよね。恋人同士でいた時はあんなに美しい感情だったのに、気持ちが離れた途端に相手からの想いさえ面倒なものに変わったり。一方で、遠くから勝手のことを想っているだけで見返りを求めないとすれば、それは「美しい愛」と呼べるかもしれないけれど、「ならば見返りを求めないことが愛なのか? 見返りを求めたら愛じゃないのか?」と問われたら、さらに深い沼に…。結論を出すのは難しいけれど、つまりは、人によって愛の正解は違うということなのかもしれないですね。

浩輔と龍太

お互いに想い合うことの幸福感に包まれる二人。

――愛情表現の一環としての“与える”行為が本作のテーマにもなっているなかで、見返りなしに与える側も、受け取る側も、「ごめんなさい」と口にするシーンが印象的でした。どちらの側にも、感謝と罪悪感の両側面があるように感じました。

日本語ならではの文化かもと思うんですが、何かしてもらったらつい謝ってしまいせん? 僕も、例えば何かを拾ってもらったら「ありがとう」よりも先に、「すみません」が出てしまう。謝罪というか、恐縮の意を込めた言葉になるのかな。作中でも、浩輔が龍太の母親とお金のやりとりをするときに、浩輔は「ごめんなさい、受け取ってください」と言うし、龍太の母親は「ごめんなさい、受け取れません」って言う(笑)。このシーンは日本特有のやりとりだなと思って演じていました。おそれいりますが…っていう文化はとても素敵ですけどね。

僕としては、与えてもらったことに対する感謝の気持ちを大切にしたいので、普段からなるべく「ありがとう」の言葉を連発していきたいなと思っています。

映画を観て感じたことを、僕に教えてください!

鈴木亮平さん

――試写会で配られたパンフレットには、「映画に込められているテーマについて誰かと話したり考えたりしてもらえたらうれしい」という監督のメッセージがありました。鈴木さんはこの映画がどのように届いたらいいなと思いますか?

すでに映画を観た方々から、長文の感想メールをたくさんいただいてます。セリフに頼ったわかりやすい説明を挟まず、観客に感じ取ってもらう領域が大きい作品なので、心に響くポイントやシーンごとの解釈がみんなそれぞれ違っているんですよね。なので、こういうふうに届いてほしいというより、皆さんがこの映画を観てどういうことを感じたか知りたいなと思いました。ぜひ「#映画エゴイスト」をつけて、SNSを通じて、映画の感想を僕に教えてください!

俳優

鈴木亮平

1983年3月29日生まれ。兵庫県出身。2006年俳優デビュー。2007年『椿三十郎』にて映画初出演。その後『HK/変態仮面』(13)などに出演。2014年にはNHK連続テレビ小説「花子とアン」にてヒロインの夫役を演じ、2015年に公開された映画『俺物語!!』では、型破りな高校生の主人公役を演じた。その後も『忍びの国』(17)、『羊と鋼の森』(18)、『ひとよ』(19)などに出演。2018年NHK大河ドラマ「西郷どん」で主人公の西郷隆盛を演じる。以降テレビドラマ「テセウスの船」(20)、「レンアイ漫画家」(21)、「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(21)などに出演。映画『孤狼の血 LEVEL2』(21)では第45回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ、多くの賞を受賞する。同年、『燃えよ剣』(21)、『土竜の唄FINAL』(21)が公開。2022年10月クールのテレビドラマ「エルピスー希望、あるいは災いー」に出演、2023年4月、映画『TOKYO MER~走る緊急救命室~』が公開予定。

映画『エゴイスト』キービジュアル

映画『エゴイスト』
14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分を隠し、鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、自由な日々を送っている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである母を支えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の母も交えながら満ち足りた時間を重ねていく。亡き母への想いを抱えた浩輔にとって、母に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし2人でドライブに出かける約束をしていたある日、何故か龍太は姿を現さなかった。

2023年2月10日(金)より全国ロードショー
R15+ 120分
配給:東京テアトル
制作:ROBOT

出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明、阿川佐和子
原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子
音楽:世武裕子
LGBTQ+inclusive director:ミヤタ廉
公式HP:https://egoist-movie.com

公式Twitter:https://twitter.com/egoist_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/egoist_movie/

© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

取材・文/井上ハナエ 撮影/川谷昌平 企画・編集/木村美紀(yoi)