【映画】ただ、“わたし”として生きたい。少女と家族の、ゆずれない闘いの記録_1

できるかぎりサシャと同じ目線で撮影したという映像に重なるのは、ドビュッシーの美しい旋律。© AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real - 2020

フランス北部のエーヌ県に暮らす7歳のサシャ。彼女がこの世に生を受けたとき、割り当てられた性別は「男性」。けれど、サシャは2歳を過ぎた頃から「自分は女の子」だと訴え続けて…。現在、全国公開中の『リトル・ガール』は、そんなサシャと彼女を支え守ろうと奔走する家族の姿を追ったドキュメンタリー作品。


スカートやピンク色の服を着て、髪を結びたい。自分のことを「私」と言い、「彼女」と呼ばれたい。それは、サシャにとって「ありのままの自分でいたい」というごく当たり前の自然な願い。けれど、学校では女性としての登録が認められず、通っているバレエ教室では男の子用の衣装を着せられてしまう。彼女が自分らしく幸せな子ども時代を過ごせるよう、母カリーヌは小児精神科医とともに学校や周囲に働きかけていくことを決意するーー。

【映画】ただ、“わたし”として生きたい。少女と家族の、ゆずれない闘いの記録_2

言葉少なに佇むサシャ。その瞳には時折、張り裂けそうな胸の内が姿を見せる。

新型コロナウイルス感染症の拡大により劇場が封鎖されたフランスでは、2020年12月に本作がテレビ放映されると137万5000人が視聴し、2020年のドキュメンタリーとしては最高視聴率を獲得。オンライン配信では28万回以上の再生数を記録し、大きな反響を呼びました。日本での公開を目前に控えた11月17日には、本屋B&B(東京・下北沢)での公開記念トークイベントが配信され、モデル・俳優のイシヅカユウさん、ライターの鈴木みのりさん、編集者でありHUG代表のharu.さんが登場しました。

イシヅカさんが「性別に違和感を持ちはじめた年齢が近かったり、私も学校と話し合った経験があったりして、他人事ではないというか。自分も当事者なので思い返すことも多くて、まだ直視できない部分もありました」と正直な感想を語ると、haru.さんもうなずきながら言葉を継ぎました。
「私は見終えたあとに震えてしまって。一人では抱えきれない作品だからこそ、たくさんの人に見てほしいという思いが生まれました。一方で、作品を通じてカムアウトすることになったサシャ本人が、10年後にこの作品を見たらどう感じるのだろうとも考えました」

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会場の本屋B&Bにはharu.さん(中央)とイシヅカユウさん(右)が登場。鈴木みのりさん(左)はオンラインで参加。

「サシャの人生を教材にしてしまうことへの葛藤はありますが、幼少期の自分がどんな風に世界を見ていたかを想起させる作品だと思います」と語った鈴木さんは、本作の宣伝やパンフレットの編集にも協力。

アイデンティティが揺らぎやすい10代の頃に支えにしていたことや、他人の体やあり方についての配慮、教育やメディアの役割、社会とのかかわり方など、『リトル・ガール』を軸にさまざまなテーマについて言葉が交わされました。そして、イベント後にイシヅカさんから「yoi」へのスペシャルメッセージが!

「今、私は(トランスジェンダー/マイノリティとしての)当事者の自分を発信しています。それを“社会のため”と言うこともできますが、何より自分がもっと生活しやすくなったり、大切な人がより生きやすくなったりするための発信だと考えています。当事者として、この作品のすべてを肯定はできないけれど、すごく救われる部分もありました。作品を通じて考えられることがあると思うし、自分の気持ちを大切にするきっかけになったらうれしいなと思います」

誰もが“ありのまま”に生きられる社会に必要なことと、それを阻むもの。耳をすまさなければ気づけないほどかすかな声。これは、小さな少女の「物語」ではなく、今も紡がれている人生のごく一部を映した85分。映画を通じて心に浮かび上がる思いと丁寧に向き合うことが、社会を変える一歩につながるのかもしれません。

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母のカリーヌをはじめ家族全員がそのままのサシャを愛し、彼女の人生を守るために支え合う。

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映画『リトル・ガール』の劇場用パンフレット。写真家の長島有里枝さんやミュージシャン・作家のイ・ランさんなどによるコラムや、岩川ありささん&野中モモさんによるブックガイドなど充実の内容で、イシヅカさんたちも「作品の解像度が上がる!」と大絶賛。各劇場やオンラインで販売中。

リトル・ガール
11月19日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。