話題の性教育ドラマ『17.3 about a sex』を手掛けた
作家・演出家・俳優の山田由梨さんと「体・心・性」を考える
全3回のエッセイ連載。第2回は「心」について。
健やかな心を保つのは、とてもむずかしい。
理由はわからないけど、落ち込む日が続く……
そんなときに山田さんが試してみたこととは。
去年の夏頃、なんか元気が出ない、落ち込む、という日が続いていた。
一時的に落ち込む、みたいなことは今までもよくあることだったけど、
長く続いたことはなくて結構しんどかった。
コロナ鬱、みたいなことが言われ始めていたときで、
今考えるとそういうやつだったのかもしれないなぁ、と思う。
病院とか、カウンセリングに行った方がいいのかもしれない、
と思いながら2〜3週間経っていた。
そんなときでも作家脳みたいなものは働いて、
カウンセリングのシーンがうまく書けるようになるかもしれないから行ってみようと思いたって予約した。
家から歩いて行けるクリニックに行って、
まず臨床心理士の人と話して、それから精神科医の人と話した。
友達でもない、家族でもない、全くの他人に自分の状況を話す経験って考えてみればあんまりしたことがなかったけど、ここでは自分がどこの誰で、とかは関係なくて、何も気負わなくていいんだなと思えるのはちょっと良かった。
今思い返すと何がそんなに不安だったのかも、落ち込んでいたのかも、よく思い出せない。
ただ、やっぱり普通の状態とは違っていたなと思う。
お医者さんは「2週間以上落ち込む状態が続いていたらそれは鬱という認識なんですよー」みたいなことを言って、想像していたよりもあっさり薬を出してくれた。
なんか、風邪みたいだなと思った。
わたしはすんごく疲れると胃にくるタイプで、そうなると病院に行くのだけど、
「胃酸が出すぎてるから、胃を保護する薬出すね」みたいな、
「脳のある物質が出すぎてるから、この薬出すね」みたいな、
そういうイメージなのかもと思ったらだいぶ気が楽になった。
すぐに薬を出すのはどうなのか、とか人それぞれ意見はあると思うけど、
わたしが処方してもらったのはかなり弱めの薬で、プラシーボ効果狙ってる??くらいのものだったみたいだけど、
それでも、1日1回半錠の薬を手にして、「わたしはこの落ち込みを治すためにこれを飲んでいるんだ、大丈夫だ」と思えることで前向きになれた。
実はそのクリニックに行った日の前日が、大きな仕事が始まる前の日だったんだよね。もっと早く行けばよかったのにと思うんだけど、
でもそのときにならないと行けなかったのだし、まあ仕方ない。
その半錠の薬を飲みながらなんとかかんとか乗り越えて、無事復活した。
鬱状態、みたいな時期を経験したことある人はわかると思うけど、
ずっと水の底にしずんでいて浮かび上がれない、みたいなしんどさがある。
もう一生このままつらい気持ちだって思い込んでしまうけど、ちゃんと元気になれた。
みんなはメンタルケア、どうしているだろう。
クリニックに行ったのは去年が初めてだったけど、
わたしは今までも作品をつくっているとき、気持ちの浮き沈みに振り回されることがあった。
作品を作るときには苦しみはつきもの、苦悩しながら書く作家かっこいい、 みたいなイメージってちょっとあるけど(太宰治みたいな)
なるべくなら苦しみたくないし、
そもそも毎回苦しかったら続かなくなってしまうから、
どうしたら苦しくなく作品を作れるか、最近は真剣に考えている。
例えばスケジュールがつまりすぎてないかとか、
悩んだらすぐ人に相談するとか、
疲れすぎたら長めに休めるよう周りの人に言っておくとか、
あ、この「周りの人に言っておく」というの、大事かもしれない。
切羽詰まってきたら、誰かに甘える余力も持ち合わせてなかったりするから。
そんな感じで、苦しくならないための対処を考えて、少しずつ実践している。
クリニックやカウンセリングも、あれからもっと気軽に利用しようと思えるようになった。
苦しまずにいい作品ができるなら、いい仕事ができるなら、もちろんそっちのほうがいい。
人生、健康な心と体があってこそだから。
わたしは、楽な気持ちを保つために、今日も真剣です。
1992年生まれ。劇団「贅沢貧乏」主宰。作家、演出家、俳優。『フィクション・シティー』(2017)と『ミクスチュア』(2019)で岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。AbemaTVのオリジナルドラマ『17.3 about a sex』では脚本を担当。俳優として、舞台・映画・CMに出演する傍ら、小説執筆・エッセイの寄稿など多方面に活動の幅を広げている。
撮影/花村克彦 嶌村吉祥丸(サイトトップ) 編集/小島睦美(小説すばる)