俳優、モデル、エッセイスト、そして小説家として活躍し、最近ではヴィム・ヴェンダース監督作の映画『PERFECT DAYS』に出演し、幅広い年代から注目を集めている長井短さん。そんな長井さんも“モテ”という他者からの評価に悩み、疎外感を感じていた時期があったそう。「他人に評価されることよりも、自分らしくいられることが大切」と気がついた、きっかけをお伺いしました。

長井短
長井短

1993年生まれ。東京都出身。演劇活動と平行して、モデルとしても活躍。執筆業も行う。初の小説集となる『私は元気がありません』を上梓。7月26日公開予定の映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』に聖徳太子役で出演。

モテないって、自分が評価されてないってこと?

長井短 小説 エッセイ

——2020年、当時27歳の長井さんが上梓されたエッセイ集『内緒にしといて』では、「モテたいのになぜモテない?」という気持ちが赤裸々に綴られています。「モテ」について真っ正面から向き合ってみようと思ったのはなぜですか?


長井さん:だいたい私のモチベーションは「イラつき」なんです。モテないってやっぱり腹がたつ。自分自身のことを、自分ではけっこう気に入っているのに、なぜ人は評価してくれないんだろうって。普通にムカつくじゃないですか。それでなぜ私がモテないのか、納得いく理由を考えはじめたのがきっかけですね。


「モテ」について思いを巡らせているうちに、他人に対してリアルではない自分を見せてモテることと、自分のありのままの状態でいるのはどちらがいいのかという問いが生まれてきたんです。その結果、私はリアルな自分でいるほうが大切だと気づきました。無理にいろんな人に好かれても意味がないよなって。


昔、恋愛感情は持っていなかったけれど仲がよかった男性とノリで付き合ったことがあったんです。みんなで飲んでいるときに話すのはとても楽しかったのに、いざ二人になってみるとまったく気持ちが盛り上がらない。それですぐに別れてしまいました。


なぜこうなってしまったんだろうって考えたときに、自分の気持ちを大切にしないと、思ってもない結果になってしまったり、今まで築きあげてきたものが台なしになってしまったりするんだってわかったんです。世間的に、仲のいい男女は「まぁ、付き合うよね〜」という雰囲気もあって、私も疑いもせずにその空気感にのっかってしまったけれど、自分の人生に関わることは流れに委ねてしまってはいけないですよね。


そういった経験を経て、「自己肯定感の手綱は人に握らせてはいけない」という考えを持つようになりました。

“自分”を伝えることに集中したら、人が自分を好きか嫌いかに関心がなくなっていった

長井短 エッセイ 内緒にしといて

——自身の大切さに気づけたことで、人とのコミュニケーションのとりかたに変化はありましたか?


長井さん:恋愛に限らず、まわりの人に好かれたいって感情は、皆さん持ったことがあると思います。でもやっぱり無理が生じるから、疲れてしまう。なので、自分の情報をちゃんと伝える努力をしたんです。

「私はこういう人間です。こういうところを変だと感じるかもしれませんが、こういうところは素敵だと思ってもらいたい」みたいに。自分の情報を齟齬がなく伝えることに集中した結果、その人が私を好きになるか嫌いになるかには関心がなくなっていきました。

自分のことを正確に伝えるって難しいことだと感じるかもしれませんが、意外とそんなことはない。自分に嘘をつかなければいいんです。

以前は、映画の話になると、本当は『ハリー・ポッター』シリーズのようなメジャーな映画も好きなのに、映画好きな文化系の方と話すときはあえて「単館系の映画が好き」ってアピールしていました。アート系の人の前では、美術館が好きだと言ったことも。今はどんな人の前でも「『ハリー・ポッター』も『スター・ウォーズ』も好きです」って隠さず言ってます(笑)。「やっぱりゴダールってよくわからないかも! ハリーポッター最高!」って正直に言える自分のほうが好きなので。難しく考えなくて大丈夫です。

「好き」という感情は、“たいしたことない手つき”で触りたい

長井短 インタビュー 笑顔

——2019年、長井さんが25歳のときに俳優の亀島一徳さんとご結婚されました。結婚後も亀島さんへの「好き」という気持ちを、隠すことなくさまざまなところで発信されていますね。


長井さん:私にとって好きという気持ちを伝えるのは、おいしいものを食べたときに「おいしかった」と伝えるのに近いような気がしています。昔は恋人とうまくいっていると言うと、それを自慢にとられてしまったらどうしようと心配するあまり、実際はうまくいっているのに幸せじゃないふりをしていたこともありましたが、それはそれで恥ずかしいことですよね。人を好きになるって、ありふれたことでもあるので、「好き」という感情をたいしたことない手つきで触りたいと思っています。


芸能界では、絶対あるはずのプライベートをないものとして扱わなければいけない、みたいな風潮もありますよね。そういった空気感には合わせたくなかったんです。亀島くん(夫)のことについて発言するようにしているのは、その風潮への反抗心もあります。

長井短 モデル

——結婚してみて、楽しいですか?


長井さん:今年で5年目。幸せですが、特別楽しいわけではないかな。以前と変わらない日常が続いています。でも、結婚していると恋愛絡みの面倒なことにも巻き込まれないし、働きやすいです。いい意味で、さまざまな人間関係から降りられる。


一人の相手と向き合い続けていると、どうしたって自分とも向き合わなければいけないタイミングがきますよね。向き合うことで傷つくこともあるけれど、絶対に譲れないと思っていたものを譲れるようになったり、許せるようになったりして、二人の関係に変化がうまれることは楽しいし、その関係性に魅力を感じています。

ジャケット¥66000/soduk(soduk customer support  customer@soduk.co) ニット ¥49500/ピリングス(ピリングス info@pillings.jp) シャツ¥64000/Simone Rocha (SSENSE) スカート¥94600/doublet(ENKEL 03-6812-9897)シューズ¥182000/Palm Angels (EASTLAND 03-6231-2970) イヤリング¥21780/KNOWHOW jewelry 03-6892-0178 リング¥61600/flake 03-5833-0013

撮影/松岡一哲 ヘア&メイク/小園ゆかり スタイリスト/TAKASHI 取材・文/高田真莉絵 企画・構成/渋谷香菜子