俳優、モデル、エッセイスト、小説家と多方面で活躍する長井短さん。前編では、モテたかった時期の葛藤とそこからの脱却、そして結婚生活などについてお伺いしました。後編では、小さな頃からの夢であった俳優になるまでのキャリア、そして作家デビューについて伺います。

長井短
長井短

1993年生まれ。東京都出身。演劇活動と平行して、モデルとしても活躍。執筆業も行う。初の小説集となる『私は元気がありません』を上梓。7月26日公開予定の映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』に聖徳太子役で出演。

“女優”の仕事で感じた「なんで女だけ笑ってないといけないんだろう」という思い

長井短 モデル

——高校卒業後から演劇活動をスタートさせ、当時から俳優活動と平行して、モデル活動もされていたんですよね。


長井さん:本当にちっちゃな頃から、俳優になりたかったんです。なので、必ず人前に出ることになるとは思っていて、かなり強気でした(笑)。モデルになることには興味がなかったんですが、ただ自分の身体的に向いているとは感じていたので「それならやるか」みたいな、軽い気持ちでキャリアをスタートさせました。

私が19歳でモデルをはじめた当時は、モデルというと赤文字系雑誌が大流行していたこともあり、笑っているのが正義みたいな空気感でした。でも私が所属していた事務所はそういった赤文字系の媒体で活躍している人がいなかったこともあり、笑顔を強要されることがほとんどなかったのはラッキーでした。笑顔が当たり前じゃないって認識で仕事をスタートできたので。

でも映像でのお仕事が増えるにつれ、笑顔の呪いから逃げきれなくなってきて(笑)。宣材写真を見たときに、女性だけ笑顔のものが多いじゃないですか。そういった風潮にはかなり抵抗がありましたね。「なんで女だけ笑ってないといけないんだろう」と。なので、笑顔の指示をされても役としての理由がなければ笑わないと決めていたんです。

楽しかったら笑うし、つまらなかったら笑わないって当たり前のこと。今でもたまに笑ってと指示されることはありますが、納得できる理由がなければ、変な顔して逃げます。

長井短 俳優 小説

——モデルというお仕事は、ルックスで判断されてしまうこともありますよね。そういったある種過酷な業種に飛び込むことに不安はありませんでしたか?


長井さん:不安はなかったですね。「俳優になりたい。演劇をやりたいんだ」と強く思うことが支えになっていました。それに、モデルの仕事をしていた当時、オーディションはすべて落ちていたので、仕事をするのは私を指名していただいたときだけだったんです。逆に指名してくれる人がいるんだと感じられたことで、自尊心を高められていたのは幸せでした。

“ネガティブモデル”と呼ばれたことは、経験として面白かった

長井短 インタビュー

——強くて素晴らしい信念を持っているのに、なぜ2016年頃から、バラエティ番組で“ネガティブモデル”なんて言われていたんでしょうか。


長井さん:言われはじめたときから、さまざまなことを深く考えているだけなのにそれがなぜ「ネガティブ」と称されるんだろうと疑問に感じました。テレビで発信したことにネガティブな要素があったとしても、それが私のすべてではないじゃないですか。めちゃくちゃ明るいときももちろんありますし。でもネガティブなところだけが拾われて、わかりやすくパッケージされてしまう。テレビのバラエティ番組ってそういうものなんでしょうね。


ただ“ネガティブモデル”と呼ばれることで、知名度も上がりましたし、私自身利用した側面もあったと思います。モデルの仕事を始めたときと同じで「演劇をやりたい」という強い思いがあったから、何を言われても興味が持てなくて受け入れてしまっていました。当時の自分は浅はかだったかもしれませんが、あれはあれで経験できて面白かったかも。

——人前に立つ仕事をしていると、SNSでひどい言葉をかけられるときもあるかと思います。SNSとヘルシーに付き合うために心がけていることはありますか?


長井さん:言葉って強いパワーを持っているし、本気で額面通りに受け取ってしまうときもあるんですが、SNSでのアンチコメントって、『ちびまる子ちゃん』のまるちゃんがテレビを見ながらぼやいていたり「ヒデキ、かっこいい!」って独り言を言ったりするのと同じだなって思ってるんです。


どんなコメントも、お茶の間でぼそっとつぶやいたことなんだと頭の中で変換すれば、そこまで傷つくことはなくなります。読んだら悲しくなるようなことをわざわざ本人に届くように発信するなよ、とはもちろん思いますが。


演技や文章について褒めてもらえたら、めちゃくちゃうれしいですけど、「かわいい」って言葉はよくわからない。もちろん本気で言ってもらえたらうれしいですけど「女の子って、かわいいって言われたいんでしょう?」って、向こうの感情が少しでも透けてみえたら、こちらの心は「凪」状態になります。かわいいなんて言われることよりも、自分らしくいることのほうがずっと尊いですから。

小説の執筆をきっかけに、自分の意識の深さ10mまで潜れるように

長井短 小説家 エッセイ

——最近ではエッセイだけでなく、小説にも挑戦されています。長井さんにとって小説を書くことはどのような体験ですか?


長井さん:小説を書いていると、ひとつの問題に対し、深く深く潜って自問自答ができます。なので、自分の変化を受け入れられるようになっていました。深さ5mぐらいのところでもがいていたけれど、小説の執筆をきっかけに10mまで潜れるようになった感覚です。普段はあまり深く考えなかったことも、小説のために思考することで、新しい自分と向き合える。結果的に、自分の変化を受け入れられるんです。


深いところまで潜って言葉の解像度を高められるようになると、お芝居のセリフにも、より思いを寄せられるようになりました。「何でこんな言い方なんだ?」と感じるセリフも、そのセリフを言うための理由をどんどん作れるようになったので助かっています。同時に、現場で「こういう言い方はどうですか?」と提案することも増えました。


——今後は、どんな小説を書いていきたいですか?


社会的に意義があることをしたいと思っているんですが、本当に心から考えられるテーマでないと書けないですよね、そうでないと書いてはいけないとも思っているので。自分がどうしても納得いかないことは何なのかを探りながら、執筆のテーマを決めていきたいです。

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撮影/松岡一哲 ヘア&メイク/小園ゆかり スタイリスト/TAKASHI 取材・文/高田真莉絵 企画・構成/渋谷香菜子