等身大の女性のリアルをつむぐ映画シリーズ「(not)HEROINE movies」の映画最新作『チャチャ』で、「人目を気にせず、好きなように生きる」をモットーにする女性を演じた伊藤万理華さん。後編では「自由に自由を謳歌する」主人公チャチャに共感したという伊藤さんに、好きを突き詰めることについて伺います。
映画『チャチャ』あらすじ
“人目を気にせず、好きなように生きる”をモットーに自由気ままな日々を送るイラストレーターのチャチャ(伊藤万理華)。ある時、屋上で偶然出会った樂(中川大志)に興味を持ち、「お互いに好きなものは正反対だけど、二人いたら丁度いい」とチャチャは次第に惹かれていくが…。野良猫系女子の予測不能な恋の顛末を描く。
ファッションを通じて自分を知っていく
——今回演じた主人公は自分に合う洋服を自由に身にまとっています。ファッション好きの伊藤さんと重なる部分はありますか?
伊藤さん:自分を表現する媒体として、ファッションというのはとても大きいですよね。ファッションデザイナーである母の影響で、家にたくさん服があったのでいろんな服を着ていました。
小学生の頃から「今私が着ている服は、たぶんまわりの子のものとは違うんだろうな」という認識はありました。学校に母の服を着ていくと「なにそれ?」と友人から言われることも。でもそれが冷やかされているのか、褒められているのかもよくわからないくらい、まだおしゃれが何かわかっていないときから服のことは意識していたと思います。
まわりの子が着ている流行の服も気になって、試しに着てみたこともあるんですが、実際に着てみると「母の服のほうがよかったかも」って感じることも多くて。こういった経験を積み重ねながら、ファッションを通して自己を認識していった感覚があります。
今回チャチャの衣装を考えるプロセスに私も参加させてもらいました。演技だけではなく衣装からも、チャチャという人間が、人目を気にせずに生きているけれど、人との交流を避けているわけではない。強いのではなく、人並みに繊細でまっすぐな子であることが伝わるといいなと思います。
今を生きる人を演じることで社会の問題に気づく
——アセクシャルの主人公を描いた映画『そばかす』や、女性の貧困と搾取を代理母を通して描いた『燕は戻ってこない』、障がいのある俳優たちとともに作りあげた『パーセント』など、現代の問題に向き合った作品に多く出演されていますね。
伊藤さん:巡り合わせでいただいた役ばかりなのですが、ようやく最近になって、作品をよりよく育てていくためにはどうすればいいかと、自分の意見を伝えたり、相談したりできるようになってきました。
実際に演じてみて、社会の問題に改めて気づくことは多々あります。ドラマって、今だからできるテーマを採用していることが多いので、そこに生きている人たちを演じることで社会をより理解できる気がします。
この仕事をしていない自分や、今の自分にできていることができない世界を想像するようになりました。その世界で私は何を頼りにして、この現代社会にしがみついて生きているのかなって、深いところまで思考を巡らせられるようになったのは大きいですね。『燕は戻ってこない』や『パーセント』に出演して、世界もぐんと広がっていきました。
自分を認めてあげられるのは自分だけ
——過去に演じた役から、勇気をもらうことはありますか?
伊藤さん:たくさんあります。一番は『サマーフィルムにのって』で演じた、時代劇オタクの女子高生ハダシかもしれません。自分が性別とか属性にとらわれずに好きなことをただ追いかけてきたことは間違っていなかったんだって、この役を演じたことで認められた気がしたんですよね。誰かに評価されたいとかではなく「ただ純粋に好奇心と熱意で続けてきたことは、将来につながっていく」と伝えてくれる役に出会えたのは、私の糧になっています。
——ただ追いかけてきた、好きなこととは?
伊藤さん:ゼロから何かを生み出すアーティストの方々のそばにいたいという思いです。話を聞いたり、自分も作品を作ってみたりすることで、アーティストの方々の考えを知れるのが嬉しいんです。それを少しでも理解したうえで、私は何に心が魅了されて、何に心が動かないんだろうと頭の中で整理する習慣がつくと、より自分を理解してあげられます。
好きなものを追求していくと自然に自分とも向き合うことになっていくのですが、それは全然苦に感じないんです。ただ、あまりにも作品づくりに熱中するとまわりが見えなくなってしまうので、いざ制作が終わってまわりを俯瞰してみたときに「あれ、こんなものを作っても誰も受け止めてくれないかもしれない」って不安に襲われることも。誰かに評価されたくてやっているわけじゃないのに、急に心配になっちゃうんですよね。
心が落ち着かないときは、まわりの人に「今、情緒が不安定なんです」って相談して、アドバイスをもらうんです。そこでやっと我に返る、みたいなことをよくやっています(笑)。
——まわりの人に話すことで思考が整理されるような感覚ですか?
伊藤さん:コミュニケーションを重ねていく中で、頭がクリアになっていくし、自分の存在意義みたいなものが見つかっていくから、ポジティブにもなれます。話を聞いてくれる方がまわりにたくさんいるので、幸せですね。
最初からなんでも人に話せていたわけではないんですよ。以前は「私って、いろんなことに片足を突っ込んでいるだけの中途半端な存在だ」って思ってしまっていて、なかなか心を開けなかったし、ネガティブになっちゃうことも多かったんです。
でも、アーティストの方々と一緒に作品を作り上げて「自分で何かを生み出した!」と実感を持てるようになったことで、自分の居場所は自分で作ればいいんだと気づけたんですよね。自分のことを認める作業は、結局は自分にしかできないですから。
映画『チャチャ』10月11日(金)より新宿ピカデリー他全国公開
ジャケット¥82500、スカート¥51700、ブーツ¥74800/すべてヨウヘイ オオノ 03-5760-6039 チョーカー¥23100/フミエタナカ(ドール 03-4361-8240)
撮影/SAKAI DE JUN スタイリング/和田ミリ ヘア&メイクアップ/外山友香(mod’shair) 取材・文/高田真莉絵 企画・構成/渋谷香菜子