ピアニストとして世界を舞台に活躍する小林愛実さん。9歳で国際デビューして以来、国内外で数多くのオーケストラと共演し、2021年のショパン国際ピアノコンクールでは4位に入賞。2023年1月、同じくピアニストで幼なじみの反田恭平さんと結婚を発表し、同年夏に第一子を出産しました。音楽家として第一線で活躍する中で、小林さんが結婚・出産を決断した理由とは? 当時の感情を振り返りながら語ってくれました。

小林愛実 ピアニスト

小林愛実
小林愛実

1995年生まれ、山口県出身。3歳からピアノを始めて、9歳で国際デビュー以降、国内外で多数のオーケストラと共演。幼少期より多くのメディアから注目を集め、『情熱大陸』やNHK『クローズアップ現代⁺』など、さまざまなメディアに登場。2010年、『デビュー!』でCDメジャーデビュー。最新CDは、2024年11月発売の『シューベルト:4つの即興曲 作品142、ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調、ロンド イ長調 他』。2021年10月の「第18回ショパン国際ピアノコンクール」で第4位に入賞。同コンクールで第2位に輝いたピアニストの反田恭平さんと、2023年1月に結婚を発表。同年、第一子を出産。

第一線で活躍する人が隣にいるからこそ頑張れる

小林愛実 インタビュー ピアニスト

——2023年1月に、同じくピアニストとして活動する反田恭平さんとの結婚を発表した小林さん。反田さんとは、幼なじみだったそうですね。


小林さん:そうなんです。私は小学5年生のときに山口県から東京に引っ越してきて、東京で通い始めた音楽教室で出会いました。年齢は夫がひとつ上で、近所のお兄ちゃんという感じで。家も近かったので、家族ぐるみで仲良くしていました。


——同じピアニストである反田さんとはコンクールで競い合った経験もありますが、同業者と結婚することに不安はなかったですか?


小林さん:私にとって夫は、ピアニストである以前に、幼なじみとしての存在感が強くて。仲の良い近所のお兄ちゃんが、たまたま同業者になったという感覚なので、不安はなかったですね。2021年のショパンコンクールにそろって出場したときも、彼の順位が上という結果には納得できなかったけれど(笑)、ライバル視したことは一度もありません。


むしろ、彼には音楽家としてもっと高く羽ばたいてほしいし、彼も私に対して同じように感じているはず。同じ夢を掲げて第一線で活躍する人が隣にいるからこそ、私も頑張ろうと思える。彼の存在は、刺激にも励みにもなっています。


——結婚については、昔から考えていましたか?


小林さん:結婚というより子どもが欲しかったので、30歳までには結婚して子どもを産むことを目標にして、周囲の人たちにも宣言していました。目標を定めておかないと、どんどん遅くなってしまう気がしたから。


ちょうど将来のことや結婚を考えていたタイミングで、彼(反田さん)との未来を想像してみたら、すごくしっくりきたんです。彼ならば、何があったとしても絶対に私を守ってくれる!と確信が持てたし、彼と私の子どもを見てみたいとも思えた。子育てはきっと楽しいことばかりじゃないけれど、彼とならば乗り越えられると感じて、心が決まりました。

小林愛実 反田恭平 ピアニスト

“どうにかなる精神”で生きてきたから不安はなかった

——出産・子育てを考える中で、ロールモデルとなる女性の存在はありましたか?


小林さん:特定の人はいませんでした。私が学生の頃は、音楽家として第一線で活躍しながら子育てをしている女性は、とても少なかった印象があります。今は音楽業界もだいぶ変化して、以前よりは子育てとキャリアを両立しやすい環境にはなってきていると思いますが。


——そういった環境で、子どもを持つことに不安はありましたか?


小林さん:“どうにかなる精神”で生きてきたから、その状況になってから考えよう!という感じでした。それよりも、妊娠できるかどうかの不安が大きかった。というのも母が、5年間の不妊治療の末に私を授かったという苦労話を聞いていたので、子どもを授かれない可能性もあると覚悟していました。


そんな背景から、数年はかかるだろうと思っていたら妊娠が判明。もちろんうれしかったけれど、正直焦りもありました。仕事のスケジュールも、精神的にも、まったく準備ができていなかったので……。


——妊娠するタイミングは自分で管理できないことですし、難しい問題ですね。


小林さん:そうですね。「職場で妊娠を言い出しづらい」という女性の意見を聞くたび、私も同じような不安を抱いた身として、心が痛みます。みんなで喜び合い、協力し合えるような社会になることを願っています。

小林愛実 ポートレート ピアニスト

つわりがひどい時期は心もつねに不安定な日々

——妊娠後に体調は変化しましたか? 


小林さん:2カ月目あたりから胃がムカムカするようになり、日に日につわりがひどくなっていきました。みかんをひと粒食べては吐いてしまい、何も食べられない日が続いた時期がいちばんしんどかったです。心もつねに不安定で、夫が演奏会の帰りに焼肉を食べて帰ってきただけでイライラしたり。そういう自分が嫌だったけど、“今はしょうがない!”と言い聞かせていました。夫も気を遣って、私が食べられないものはなるべく食べに行かないようにしてくれていました。


安定期に入り、しっかり食べられるようになってからは、心身ともにピンピンしていましたね。コンサートツアーも行なったのですが、演奏に支障はなく、お腹が重いな…という程度。コンサートホールは階段が多いから、皆さんが心配して声をかけてくださって。ありがたかったです。


——精神面での変化もありましたか?


小林さん:つわりがひどい時期は体調不良が精神面にも響いて、キャリアのこととか、あらゆることが不安でした。でも安定期に入ってからは、“お腹の子が元気に育って、早く会えますように!”と、ポジティブな気持ちになって。その頃から友達には、性格が丸くなったと言われるようになりました。「すごく優しくなったね!」って。自覚はなかったけれど、内面の変化があった時期かもしれません。


——幼い頃からピアニストとして第一線で活躍し続けてきた小林さんですが、生活の変化に戸惑うことはありましたか?


小林さん:出産に関するYouTube動画を観てイメトレしたり、ベビー服などを準備したり。家で家事をして過ごすことも、ご飯を作って夫を待つことも、すべてが新鮮で満喫していました。今しかできない!という気持ちがあったから、すごく楽しかったです。


——何事もプラスの側面をとらえて、ポジティブに取り組む姿勢が素敵です。


小林さん:もちろん、ネガティブになることもあります。例えば私の演奏に対して批判的なコメントを読むたびに悲しい気持ちになるけど、“他人には理解できない!”と思うようにしています。


どうしたら今よりも上に行けるんだろうか、もっと素晴らしい音楽家に成長するためにはどうしたらいいんだろう、とか……悩みを挙げればキリがないけれど、考えても仕方がないことばかり。どうしても考えてしまうときは、とりあえず寝ることにしています(笑)。おいしいものを食べて、ぐっすり眠れば、大体のことは忘れてしまいますから。

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撮影/森川英里 ヘア&メイク/中村了太 スタイリスト/藥澤真澄 取材・文/中西彩乃 構成/渋谷香菜子