お笑いコンビ・かが屋の加賀さんは、数多くの芸人のステージや芸能人のポートレートなどを撮影してきたことでも知られる大の写真好きです。写真集を発表するなど、カメラマンとしての腕も評価されている加賀さんに、写真を撮ることの魅力や、写真がメンタルヘルスに与えるいい影響について、独自の考えを伺いました。

 加賀翔

お笑い芸人

加賀翔

お笑い芸人。1993年生まれ、岡山県出身。賀屋壮也とともにお笑いコンビ・かが屋を結成。写真が好きで、タイムマシーン3号・関太と空気階段・鈴木もぐらを撮影した『まあるいふたり』や、さまざまな芸人の姿を収めた『芸人地図』など、写真集も発表している。

写真好きになったきっかけは、バイト先の店長と行った競馬場

かが屋 加賀翔 インタビュー カメラ ポートレート

──加賀さんがカメラを始めるきっかけを作ったのは、かつてのバイト先の店長だったと伺っています。

加賀さん
 バイト先の店長が競馬好きな人で、僕を競馬に誘おうとあの手この手で気を引いてきてたんですよね。店長はカメラ好きでもあったので、僕の気を引くアイテムのうちのひとつにカメラがあって、「馬の写真撮るのおもしろいよ、お前も来てみたら?」と誘ってくれたんです。言われるがままに競馬場についていって、店長からカメラを借りて馬を撮ってみたらすごく面白くて。そこからはひとりでも競馬場に通うようになって、思ったよりカメラにのめり込んじゃったというか。

──馬を撮るようになって、ご自分でもカメラを買ったんですか?

加賀さん はい。すぐに自分でもカメラが欲しくなって、10万円くらい握りしめて吉祥寺のカメラのキタムラに行ったら、「その値段で買ったカメラじゃたぶんすぐに満足できなくなるから、背伸びしてでも高いやつを買ったほうがいいよ」と店長さんに強く説得されまして。結果的にパソコンとか周辺機器も含めて50万円くらいになっちゃって、半べそをかきながらローンの契約書にサインすることになりました(笑)。

でも、これだけ払ったなら元をとらないと、という気持ちが芽生えたおかげで熱心に写真の勉強をしたところはあったので、今思えばあのとき、店長さんの言う通りにしてよかったなと。そのカメラ、結局8年も使ったんですよ。

誰にも見せないつもりで撮った写真がコントのきっかけになることも

かが屋 加賀翔 インタビュー 写真

──当時、写真のどんなところに魅力を感じたのでしょうか?

加賀さん たぶん、性に合ってるなと思ったんですよね。ピースの又吉さんと作家のせきしろさんの共著に『カキフライが無いなら来なかった』という自由律俳句の本があるんです。個人的にとても大きな影響を受けた1冊なんですけど、その本の中にも写真が多用されていて。日常のなんでもないシーンを写した写真ばっかりなのが面白くて、自分でもこういう写真を撮ってみたいなと。

──加賀さんはご自分でも自由律俳句を詠まれていますが、自由律俳句と写真に共通点を感じることはありますか?

加賀さん そうですね。俳句ってそもそも、写真というものがなかった時代に、旅行やお参りに行った人が景色を記憶に残しておくために詠むものでもあったと思うんです。自由律俳句には特に当時の文化が色濃く残っているので、「そんなところわざわざ見る必要ある?」みたいなシーンにこそ注目するというか。だからたしかに写真と自由律俳句って意外と似てるし、いま思えば、そういう部分に惹かれて僕も写真を好きになったのかもしれないです。

──加賀さん自身が写真を撮るときも、一見なんでもないシーンこそ残しておきたい、という気持ちが強いんでしょうか?

加賀さん そうかもしれません。誰にも見せないつもりで撮った写真が、あとからコントのきっかけになることもたまにあるんですよ。

たとえば前に、コンビニの駐車場に停まってるスクーターの前でカップルが立ち話をしているシーンを見たことがあるんです。スクーターの持ち主はおそらくそのカップルではないんですけど、カップルの話が盛り上がっちゃってるものだから、本当の持ち主はスクーターに乗れずに立ち往生するしかない。

そんなシーンを撮影していたことがあって、その写真をもとに「自転車」というコントを作ったんです。だから、一見なんでもないシーンのようでいて、実は人の気持ちがそこに写り込んでる……みたいな写真が好きなんですよね。

M-1の写真が撮りたすぎて漫才を始めるかもしれない

かが屋 加賀翔 インタビュー 写真 カメラ 

──最近では芸人さんや芸能人の方の写真も多く撮影されている加賀さんですが、「いい写真が撮れた」と加賀さんが思うのはどんなときですか?

加賀さん プロのカメラマンさんじゃなく、僕にしか撮れないような距離感の写真を撮れたときですね。客席にいるお客さんには見えていないような漫才中の一瞬のシーンとか、誰よりも芸人の近くにいるからこそ撮れるものがあるというのが僕の強みかなとは思います。

──たしかに、芸人さんの素顔や舞台裏の写真を見られるのは、お笑いファンにとっても嬉しいことだと思います。

加賀さん 僕、オタク心みたいなものが強いので、自分がいま置かれている状況って、一般の方からしたら特殊な環境だって自覚があるんですよ。たとえば芸人の後輩と食事に行くのも僕にとっては日常だけど、その芸人のファンの人から見れば垂涎ものじゃないですか。僕ももともとバナナマンさんが大好きで、初めてお二人を撮らせてもらうことになったときに泣くほど感動したのを覚えてるので、ファンの代わりに写真を撮っているみたいな感覚はいまだに強いです。

信じられないことに、いまって僕らに憧れてうちの事務所に入ってくる後輩とかもいたりするんですよ。だから、賀屋の写真とかも「こう撮ったらファンの人は喜ぶだろうな」って思いながら撮ったりします。……自分たちの写真が喜ばれるだろうって感覚があるのはちょっとヤバいですけど(笑)。でも、悔しいんですよ。M-1の写真とか、どうしても僕には撮れない写真もあるので。

──かが屋はコント師ですもんね。

加賀さん そう、自分たちが出てない大会の現場ってどうしても撮れないから。本当はM-1の決勝の裏側とかもめちゃくちゃ撮りたいんですよ。もはや、写真が撮りたすぎて漫才始めるかもしれない(笑)。そのくらいの気持ちはありますね。

撮った写真を見返して爆笑する時間は純粋に楽しい

──写真を撮る時間が、加賀さんにとって一種のリラックスタイムや、自分と向き合う時間になっている感覚はありますか?

加賀さん ありますね。自分が写真好きだからわかるんですけど、僕には、カメラだけで飯を食っていけるほどのうまさはないんです。でも、だからこそ現場で写真を撮って、家に帰ってからそれを見返す時間が純粋に楽しいというか、遊びに近い感覚なんですよね。自分で撮った写真をパソコンに取り込んでいて、ひとりで爆笑しちゃうときもわりとあるんですよ(笑)。

やっぱり自分で撮ってるからこそ、写真を見返すだけでその芸人のネタやエピソードトークの細部を思い出したりできる。写真を撮ることで楽しい記憶が増えているような気がして、それがすごくメンタルにもいい感じはします。 

「リラックスの点数」をつけるより、好きなことをしたほうがストレスは減ると気づいた

かが屋 加賀翔 ストレス インタビュー 写真

──多忙ななか、加賀さんが日常生活において心や体をリラックスさせるために意識している習慣やルールなどはありますか?

加賀さん 1年くらい前までは、YouTubeで焚き火の映像を連続再生しながらBluetoothのスピーカーで音を流しつつ、本物の蝋燭にも火をつけて部屋を真っ暗にしてぼんやりするみたいなことをよくしてました。……客観的に見たらかなり心配になる光景だと思うのでやめたんですけどね。

あとは、滝の流水音がすごく好きなので、部屋の中を滝がずっと流れていてくれたらいいなと思って、チョコレートフォンデュの流水版みたいな機械を買ってみたこともあります。落ちていく小さい滝を延々眺められるみたいな。ただ、実際に作動させてみたら水の音よりもモーター音のほうがよっぽどうるさくて、全然リラックスできなくて(笑)。それもやめちゃったので、最近は特に何もしてないですね。無理にリラックスしようとしなくてもよくなったというか。

──多忙でも気分を切り替えるのが上手になった、ということでしょうか?

加賀さん ひとりの時間を過ごすのが昔よりうまくなったような気はしますね。メンタルヘルスのためにリラックスの時間をわざわざ設けようとすると、どれくらい自分がリラックスできたかの点数をつけたくなってしまうというか。理想的なリラックスタイムを求めすぎて、むしろ自分が追い込まれていくような気がして。

体のことに関しても、不健康を改めようと一時期はサプリを飲んだり運動をしたり野菜を食べたりといろいろ心がけてたんですけど、その習慣が守れないとかえってストレスがたまっちゃって。

好きなものを食べて好きなことをやったほうがよっぽどストレスが少ない
なと気づいてからは、もっと健康的なものを食べなきゃとかもっと質のいい睡眠をとらなきゃってあんまり思わなくなりましたね。最近は朝昼晩3食揚げ物とか食べちゃう日もあるんですけど、昔より遥かに元気です(笑)。 

撮影/酒井優衣 ヘア&メイク/Kaco(ADDICT CASE) 構成・取材・文/生湯葉シホ 企画/福井小夜子(yoi)