これまでに多くの芸人や芸能人、ライブなどのステージを撮影し、カメラマンとしての腕も評価されているかが屋の加賀さん。インタビューの後編では、加賀さんと街中を散歩しながら、カメラ初心者の方に向けたカメラの選び方や撮影のポイントを教えてもらいました。
散歩中、Y字路があるとついつい写真を撮ってしまう
──普段、カメラを持って散歩に出かけるとき、加賀さんは街のどんなところに注目することが多いですか?
加賀さん お店の看板とかもよく見てますし、坂道とか、Y字路や丁字路があると気になってついつい撮っちゃいますね。Y字路の付け根の部分っていうんですかね、道が分岐し始めるところが好きで。おもしろい形だなと思って、なんとなく目が行くことが多いです。
散歩といえばこの前、公園を歩いてて鳥の鳴き声がしたので写真を撮ろうと思って上を見たら、木の枝に信じられないくらいカラフルなオウムがとまってたんですよ(笑)。
──え、野良のオウムですか……!?
加賀さん そうなんですよ。ペットとして飼われていたオウムが逃げちゃったんでしょうね。でも、そういうシーンもカメラを持っていなかったらたぶん見逃してしまってたと思います。ちょっとした自然の風景にもいちいち目を向けようと思えるのは、写真を趣味にしていてよかったことかもしれないですね。
カメラ初心者におすすめしたいのは、単焦点モデルのコンデジ
──ここからは、これから写真を始めたいyoiの読者やカメラ初心者に向けた、加賀さん流の写真にまつわるアドバイスをお聞きできればと思います。まず、初心者におすすめのカメラの選び方や試し方はありますか?
加賀さん これからカメラを始めたいという人から僕が相談を受けたときは、「ズームレンズじゃなく単焦点レンズを試してみたら?」といつも伝えてます。
ズームレンズは被写体との距離を保ったままズームで写真が撮れるので、自分は動かずに撮影することができるんですね。でも単焦点レンズだとそれができないので、自分の足を使って被写体との距離を詰めるしかない。単焦点のほうが不便なんです。
でも結局、人って便利じゃないもののほうに思い入れが湧きやすいと思うんです。デジタルよりフィルムカメラのほうがエモいと感じるのも、撮ったその場では写真を確認できなくて、わざわざ現像に出さなきゃいけない不便さとか、ちょっとした手間にグッときてるんだと思うんですよね。
レンズに関しても同じで、手元でなんとなく撮れちゃったものよりも、自分が必死に動いて撮った写真のほうに思い入れを感じる人は多いと思います。その不便さを楽しめる人は写真にハマれる素質があると思うので、まずは単焦点レンズを試してみてほしいなと。
──自分が動いて撮るからこその感動があるんですね。カメラのメーカーにもさまざまあると思いますが、加賀さんが初心者の方におすすめするのはどんなカメラですか?
加賀さん 「こんな写真が撮りたい」というイメージが明確な人だとおすすめしやすいんですけど、たぶん多くの人は「なんとなく雰囲気のいい写真が撮りたい」って感じだと思うんですよね。
その場合は、最近流行っているコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)が手軽でいいんじゃないかなと思います。コンデジの中だと、僕が一番おすすめしたいのはGRというRICOHのカメラ。これは軽いけれど単焦点なので、自分の足で被写体と距離を詰める必要もあるから、便利さと不便さのバランスがすごくいいなと思って。
個人的には、僕がNikonを愛用していることもあって、本気で機材を揃えたい人にはNikonを勧めたい気持ちも強いんですけど……めっちゃ重いカメラなので、担いでるだけで体がバキバキになるんですよ。
50枚入りのフェイタス®とか買って毎日貼ってますからね、僕(笑)。でも、最初から本格的な機材でカメラを始めたい人にはNikonはすごくおすすめです。
常にカメラを構え続ける「カメラキャラ」になってからが勝負
──恋人や友人など、親しい人の素顔を写真で引き出したいと思ったら、どのような撮り方がおすすめですか?
加賀さん 「この人はカメラを構えるもんなんだ」といかに早く相手に思ってもらえるかが勝負ですね。カメラを始めたての人って“カメラキャラ”じゃないから、周りからしたら、その人がカメラを構えてるだけでちょっと相手を緊張させちゃうんですよ。
だから相手に慣れてもらうために、鬱陶しいくらいカメラを構え続けることが一番のコツではあると思います。
カメラを向けられるのが日常くらいの感覚にならないと、素顔ってなかなか引き出せないので。友達同士で旅行に行ったりすることがあるなら、最初からカメラをぶら下げておくのがいいと想います。それでもう、ずーっと撮り続ける。
──撮り続けることでまずは慣れてもらうのが大事なんですね。加賀さんも、プライベートでも普段からカメラは持ち歩いていますか?
加賀さん そうですね。カメラを持っていけばそれだけ思い出も増えるので、いついかなるときも持ち歩いてます。後輩とごはんに行くときも友達と遊ぶときもそうだし、たとえば恋人とどこかに出かけるようなことがあったらもう、死ぬほど撮りますし(笑)。
集合写真のコツは、大袈裟なくらい密になってもらうこと
──大勢の人を撮る機会に慣れていない人も多いと思うのですが、飲み会やパーティーなどで大人数を撮る際に意識したほうがよいことはありますか?
加賀さん 集合写真って本当に難しいんですよね……。コツはいろいろあると思うんですけど、最低限意識してほしいのは、普段より多めに撮ること。人数が多ければ多いほど瞬きのタイミングが合わなくて半目になっちゃう人が必ず出てくるので、枚数を稼いでおくのは基本ですね。
あとは、集合写真って並び始めた時点から隣の人同士でちょっとした会話が生まれるので、その前後の時間も撮っておくといい写真になったりしますね。「並んでください」とか「はい、行きますよ~」とか言いながらこっそり撮り始めちゃうといいと思います。
──集合写真って、どこかよそよそしい感じに写ってしまうことも多いと思います。和やかな雰囲気を写真に残すにはどうすればいいのでしょうか?
加賀さん 大袈裟なくらい密になってもらうのがポイントかなと思います。カメラマンが「端の人が入らないのでもうちょっと詰めてください! すみません、もっと寄らないと全然入らないです!」とか言いまくってギュッと寄ってもらうと、一気に仲がよさそうな和やかな雰囲気になることが多いです。
カメラマンに羞恥心は不要。写真を撮ることは「支配的」だとまず自覚して
──被写体になることに慣れていない人の中には、カメラを向けられるとつい緊張してしまう人も多いと思います。写真を撮る際の声かけや、コミュニケーションのコツはありますか?
加賀さん カメラマンが誰よりもうるさくして、「ナイスナイス~!」「かわいい!」「格好いい!」とか声を出しまくるっていうのはやっぱり大事ですよね。
僕はプロカメラマンじゃないので、自分ができることならとにかく全部やろうっていう感覚があるんです。あんまりうるさく相手を褒めまくっているとたぶん相手から呆れられると思うんですけど、呆れられてからが本番なので。
──では、カメラマンはまず羞恥心を捨てることが大切なんでしょうか?
加賀さん そう思います。そもそも、相手の表情とかちょっとした仕草とか、コントロールできないはずのものを写真に残したいという欲求って、かなり支配的だし暴力的なんですよ。言ってしまえば、写真を撮るって行為自体、ある意味変態的というか決して格好つけるようなことじゃない。
その自覚は持っておいたほうがいいと思います。だから、写真を撮るときの声かけが恥ずかしいって人は、「そもそもこうやって撮ってること自体がキモいんだから!」って折に触れて思い出すといいと思います(笑)。
インタビュー中に仲良しのヘアメイクのKacoさんを加賀さんが撮影した1枚。「カメラマンが誰よりもうるさくする」という言葉通り、「いいねいいね!」「ますますキレイになったんじゃない!?」と盛り上げながらスナップを撮っていた。
撮影/酒井優衣 ヘア&メイク/Kaco(ADDICT CASE) 構成・取材・文/生湯葉シホ 企画/福井小夜子(yoi)